謎の金融日誌 -15ページ目

株式価値評価方法(10)相続税「財産評価基本通達」による評価

・今日は「財産評価基本通達」による株価評価について説明します。

・株式に限らず、財産を取得したり譲渡したりすると必ず税金の問題が絡 んできます。株を売買すれば譲渡益課税、相続すれば相続税、贈与すれば贈与税といった具合です。その際に課税額を算定するにはまず元の財産の分類と評価方 法が明らかになっている必要があります。「財産評価基本通達」とはそうしたあらゆる資産の税務上の評価方法について国が詳細に定めた通達なのです。詳細は 国税庁のホームページに条文が載っています↓

国税庁「財産評価基本通達」

この中でも、株式に関係あるのは「第8章その他の財産 第1節 株式及び出資」の節になります。
しかし見かけの複雑さとは裏腹に、実際の評価手法そのものは税務上独自のものではなく、既存のインカム・アプローチ、コスト・アプローチ、マーケット・アプローチの考え方を踏襲しています。ごく簡単に整理すると以下のとおりです。

(1)取引相場のある株式の場合
・当該評価対象会社の株価を参照する

(2)取引相場のない株式の場合
<原則的方法>
・同族会社の大株主や同族会社でなくても大株主に該当するなどの場合
① 類似業種比準方式
② 純資産額方式
③ ①+②の併用

<例外的方法>
・同族会社の非同族株主や、同族会社でない会社の少数株主などの場合
① 配当還元方式

・ 上記の区分の背景は、同族会社大株主や非同族会社大株主であれば会社資産の処分に際して大きな影響力を持っていると考えられるためです。したがって類似業 種の会社の規模や利益と同様の便益を享受できていると評価されるわけです。一方、少数株主はそのような影響力は行使できません。したがって単に配当を受け 取る以外に株式の金銭的価値がほとんど無いはずなので、配当還元方式での評価になっているのです。

具体的な計算方法などは以下をご参照ください(通達の改正により変更となる可能性があります)。

財産評価基本通達による株価評価

株式価値評価方法(9)マーケット・アプローチ②類似会業種比準法

・類似会社比準方式と似た方法に、類似業種比準方式による株価評価があります。
この方法の一般的な根拠も、類似会社比準方式同様ユニバーサルに決まっているわけでは
ないのですが、以下ではジャスダック取扱規則による方法を参考としてあげておきます。

(参考)
ジャスダックの株価評価に関する規則

・計算式は以下のとおりです。

①:類似業種株価
②:類似業種1株当り配当金額
③:類似業種1株当り利益金額
④:類似業種1株当り純資産額
②':上場申請会社1株当り配当金額
③':上場申請会社1株当り利益金額
④':上場申請会社1株当り純資産額

株価=①×斟酌率×(②'/②+③'/③+④'/④)÷3

・上記のように、計算式そのものは類似会社比準方式とほぼ同一です。したがって、評価対象
会社と非常に似ている会社は上場会社の中にはないが、属する業種くらいは決められる場合
に使うことになります。
・ しかし、マーケットアプローチという名称はやはりちょっと違和感がありますね。市場株価という客観的なものに依拠するようにみえながら、調整係数や斟酌率 の影響が大きいということもありますが、配当・利益・純資産の3つの指標を使っていることの背景は不確かです。しかも配当と利益と純資産はそれぞれ独立し ていません。通常は利益の中から配当を払い、剰余が純資産として蓄積されていくからです。ファイナンス論的には3つの指標は一次独立ではない(複製可能) なので、株価指標としてかなり恣意的な印象を受けてしまうわけです(まあ、これは余談です。実務上は使いものになる合理的手段であれば特に否定することも ありません)。

株式価値評価方法(8)マーケット・アプローチ①類似会社比準法

・今回は、類似会社比準法による株価評価法についてです。
・この方法はインカムアプローチとかコストアプローチのように方法論としての理屈が一通りに
決まっているわけではありません。誤解を恐れずにいえば「似たような会社を選んできて、何らか
の合理的な方法で株価を出せればよい」という趣旨だからです。

・ とはいえ、一般的に使われている基準がないわけではありません。ここでは、証券取引所(東京証券取引所、ジャスダック証券取引所等)が定める「上場前の公 募又は売出し等に関する規則の取扱い」を例として示しておきます。しかしこの方法が絶対ということではなく、別の合理的方法であって当事者間で合意できる ものであれば、(上場審査でも想定しないかぎり)問題ないと思われます。

①:類似会社平均株価
②:類似会社平均1株当り配当金額
③:類似会社平均1株当り利益金額
④:類似会社平均1株当り純資産額
②':上場申請会社1株当り配当金額
③':上場申請会社1株当り利益金額
④':上場申請会社1株当り純資産額
⑤:類似安定度を加味する項目(自己資本、総資産、取引金額、自己資本比率、企業利潤率等
  について、上場申請会社と類似会社を比較考慮して算出する)

株価=①×⑤×(②'/②+③'/③+④'/④)÷3

・ この方法は配当・利益・純資産の3つの要素を3等分して考慮に入れ、かつ⑤の調整係数をかけているわけです。なぜ配当・利益・純資産なのか、3等分なの か、⑤の係数でいかようにも変わるのではないか、といった疑問は多々出てきてしまうのですが、取引所の規則というある意味で共通ルールなので、使う側とし ては「お墨付き」的な位置づけにはなるでしょう。

株式価値評価方法(7)コスト・アプローチ②時価純資産法

・株価評価のコストアプローチ2:時価純資産法です。

・簿価純資産法の最大の欠点は、「もととなる財務諸表が正しいのかどうか」に尽きます。
修 正のポイントは主なものを挙げれば以下の点です。これは価値評価というよりもデューディリジェンスという側面(粉飾や、粉飾までいかないまでも甘めとなっ ている計上金額の発見)も兼ねています。基本的な視点は、資産面では「資産計上されているものには実体としての価値はあるのか=今の換金価値はどうか」ま たは「換金価値が出ないものは、第三者評価による公正価値でみてどうか」という視点になります。また負債面では簿外債務や公租公課の発生による負担増など をチェックすることになります。なお、中心は貸借対照表ですが、損益計算書とも随所で連動していますから併せてみる必要があるでしょう。

(貸借対照表)
1.現預金残高
2.売掛金の回収可能性
3.短期保有有価証券の処分価値、売却可能性
4.貸付金、立替金、仮払金、長期前払費用などの資産性、回収可能性
5.棚卸資産の実在性、処分価値
6.販売用不動産の実在性、処分価値
7.建設仮勘定やソフトウェア開発勘定の資産性
8.繰延資産の計上の妥当性
9.引当金などの計上の妥当性
10.その他資産台帳のごまかし、償却不足等
11.未払費用、未払金などの除外(簿外債務)、保証の有無
12.役員借入金の実体

(損益計算書)
13.売上原価の過大計上(上記5と連動)
14.償却不足、引当不足(上記10等と連動)
15.人件費や外注費の過大計上

・ 特に未上場企業の場合は役員(社長)からの借入・社長への未払給与・社長への貸付や立替金など、同族との両建て取引が「根雪」のように存在する場合が少な くありません。これらは資産・負債の双方に固定化して循環し、資金繰りを支えていることになります。したがって単に財務諸表の数値を調整するだけでなく、 企業買収後に同族取引を清算したら会社が瓦解するといったことのないように「お金の流れ」を把握することも重要です。

株式価値評価方法(5)コスト・アプローチ①簿価純資産法

・コストアプローチによる株式評価手法:簿価純資産法についてです。

・これまで説明してきた評価手法の基本的な考え方は「将来生み出される(であろう)キャッシュフローを何らかの割引率で現在価値に直す」というものでした。将来生み出される収益が起点になるという意味で、インカムアプローチとよばれるわけです。

・ コストアプローチの考え方の基礎は「会社が過去積み上げてきた純資産はいくらなのか?」という点にあります。財務諸表の資産(借方)に計上されているの は、会社が稼得してきた財産の和です。一方負債(貸方)は財産を得るために外部から調達した資金です。したがって資産-負債=純資産が会社財産のうち株主 が負担したコストであり株主の持分だというわけです。

・純資産法を使うケースは以下のような場合です。
 イ.評価のメイン手法はインカムアプローチだが保守的な試算の参考とするために併用する場合
  → 債務超過かどうかを確認するなど
 ロ.会社の清算や解散など、会社財産自体の分配を主眼とする場合
  → 将来価値を算定してもしょうがないからインカムアプローチは使えない 
 ハ.税務評価や上場審査などの規制上の対応で求められる場合
 ニ.評価の基礎資料として修正財務諸表を作成する場合

・ この考え方のインカムアプローチと比べた利点は、将来の長期間にわたる不確実なキャッシュフローを予測する必要がない点です。また市場という直感的にはは 関係の薄そうな物差しを使った割引率などに影響されずに、会計的に価値を割り出せます。そもそも簿価ですから決算書と直近の試算表があれば比較的容易に概 算することができる点も利点です。これは評価者による違いが出にくいということでもあります。
・一方デメリットとしては、過去に積み上がってきた資産・負債を評価するだけなので、現時点の時価から乖離しやすい・将来の成長性やリスク・事業内容の考慮などを反映しにくい・キャッシュで評価しないので財務諸表の数字に左右される、といった点を挙げられます。