ペッキング・オーダー:外部調達手段の優先順位
ペッキングオーダー仮説では、経営陣は資金調達手法としてまず内部留保を選び、それで足りないときに初めて外部調達を行うと書きました。しかし外部調達
手段といっても銀行借入・社債・株式などがあります。転換社債や優先株といった証券を組成することも可能です。これら外部調達手段の間の優先順位はどう考
えたらよいのでしょうか。
実は、理論・実証両面で優先順位は
銀行借入→社債→転換社債など→普通株式
といった順番になることが分かっています。理論モデルはやや複雑になるので、ここでは直感的な説明をしておきましょう。
まず社債と株式の関係を考えます。両方とも外部調達手段なので経営陣と投資家の間には内部情報について情報の非対称性があります。したがっていずれの価格 も市場では過大評価または過小評価されることになります。投資家は両者の間の期待値で評価することになります(「一括均衡」だから)。社債と株式とでは相 対的には社債の方が過小評価の度合いが小さいため、優良企業はまず社債を発行します。一方不良企業も株式を発行すると将来への悲観的シグナルを自ら明らか にしてしまうことになるので、これを避けるためやはり社債を発行します。結局、外部調達ではまず社債が選ばれ、社債でも資金が不足する場合に株式が発行さ れるのです。
※一括均衡・・・情報の非対称性の下で、商品・サービスの質について情報の非対称性があるため過大評価も過小評価も適切に価格に反映されず、それらの期待値として価格が一括して定まってしまう状態。
※分離均衡・・・商品・サービスの品質を各企業が正しく顧客に伝達でき、品質に応じて「分離した」価格をそれぞれ付けられる状態。
このことを数値例でみてみましょう。T=0、1の2期で0期に資金調達および投資を行い、1期に回収を計画しているN社を考えます。初期投資には100の 資金が必要で、その成果は高収益(H)=180、低収益(L)=120となるものとします。N社経営陣と外部投資家は投資の結果がHかLのいずれかである ことはわかっているものとします。ただしT=0において経営陣はHかLのどちらかであるか知っているのに対して投資家はどちらになるのかは分かりません (投資成果の予想について経営陣が情報優位にある)。経営陣は既存株主の価値の最大化を目標としているものとします。T=0におけるN社の事前の資本は 100(1株)でその他の負債や内部留保はないものとします。また投資成果はすべて配当として株主に配分されます。経営陣が投資成果をHまたはLと確信し ている状況で、それぞれ株式と債券による調達の効果は以下のとおりです。なお債券の信用リスクは考えないものとします。
<投資成果=Hのケース>
T=0で1株=100で株式を発行すると、T=1で投資成果は180、NPVは80(=180-100)となり、これを既存株主と新株主で分け合いますか ら80÷2株=40が1株当りの価値です。したがって発行株価は100+40=140で市場が均衡するはずです。しかし投資家はT=0では投資成果がHか Lか分かりませんから、HとLの期待値=150で評価します。すると1株当りのNPVは50÷2=25となり、発行株価は100+25=125になりま す。経営陣が本来考えている株価から15過小評価されてしまうということです。
一方、債券を発行した場合には株価の希薄化が起こりませんから、 金利を無視すれば既存株主の受け取るNPVは80÷2=40であり、株主価値は100+40=140となります。すなわち株式発行による過小評価の影響が 大きいので、この場合は債券発行が望ましいということになります。
<投資成果=Lのケース>
まず株式での調達の場合です。1 株=100で調達すると投資成果は120、NPV=20(1株当り10)となりますから、既存株主価値は100+10=110です。投資家はやはり投資成 果がHかLで区別できませんから株価=125と評価します。したがって125-110=15の過大評価となります。一方債券で調達した場合には株価評価に 影響がありませんから既存株主価値は110のままです。結局この場合には株式発行による調達が望ましくなります。
ところが、投資家が (HとLを区別できないにせよ)上記の帰結を理解していれば、N社が社債を発行すれば投資成果=H、株式を発行すればそれは投資成果=Lのシグナルである と受け取られるでしょう。投資成果=Lであれば株式市場はN社株式の評価が過大であるとして株価が下落してしまうため、15のプレミアムは享受できなくな ります。またN社が真の優良企業であれば過小評価を避けるために進んで社債を発行するでしょう。したがって外部資金調達ではまず社債が選好されます。N社 の業績見通しがそれほど良くない場合でも、株価の過大評価を維持するためには優良企業にならってまず社債を発行せざるを得ないことになります。そして株式 は社債で賄いきれない場合に発行されることになるのです。
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【追加】銀行借入と社債の優先順位
株式(エクイティ)と社債(デット)の利用の順番は以上のとおりですが、同じ負債同士の銀行借入と社債の順位はどう考えるのか補足:
これも情報の非対象性の大きさがカギです。
結論からいうと銀行借入の方が情報劣位の度合いが小さいと考えられるので借入から先に利用されると考えます。理由は以下のとおりです。
・銀行は少数の担当者・部署が発行会社と相対で交渉するのに対して、社債権者は直接交渉の窓口を持たない小口分散された投資家の場合が多いこと。
・銀行は企業金融の専門家として一般社債投資家より発行企業の経営情報に触れる機会があること。
・銀行は発行企業の資金繰りや決済状況、人事交流などから経営状況をモニターする機会があること。特に日本ではメインバンクと呼ばれる存在が発行企業の経営情報を知りうる場合がある(とされること)
ただしバブル期以降は上場大企業であれば借入比率が趨勢的に低下していますからメインバンクの影響力は低下しているでしょうし、社債投資家にも生命保険など機関投資家が入っていることも少なくないので、上記の特徴がそのままあてはまらない場合も増えているでしょう。
実は、理論・実証両面で優先順位は
銀行借入→社債→転換社債など→普通株式
といった順番になることが分かっています。理論モデルはやや複雑になるので、ここでは直感的な説明をしておきましょう。
まず社債と株式の関係を考えます。両方とも外部調達手段なので経営陣と投資家の間には内部情報について情報の非対称性があります。したがっていずれの価格 も市場では過大評価または過小評価されることになります。投資家は両者の間の期待値で評価することになります(「一括均衡」だから)。社債と株式とでは相 対的には社債の方が過小評価の度合いが小さいため、優良企業はまず社債を発行します。一方不良企業も株式を発行すると将来への悲観的シグナルを自ら明らか にしてしまうことになるので、これを避けるためやはり社債を発行します。結局、外部調達ではまず社債が選ばれ、社債でも資金が不足する場合に株式が発行さ れるのです。
※一括均衡・・・情報の非対称性の下で、商品・サービスの質について情報の非対称性があるため過大評価も過小評価も適切に価格に反映されず、それらの期待値として価格が一括して定まってしまう状態。
※分離均衡・・・商品・サービスの品質を各企業が正しく顧客に伝達でき、品質に応じて「分離した」価格をそれぞれ付けられる状態。
このことを数値例でみてみましょう。T=0、1の2期で0期に資金調達および投資を行い、1期に回収を計画しているN社を考えます。初期投資には100の 資金が必要で、その成果は高収益(H)=180、低収益(L)=120となるものとします。N社経営陣と外部投資家は投資の結果がHかLのいずれかである ことはわかっているものとします。ただしT=0において経営陣はHかLのどちらかであるか知っているのに対して投資家はどちらになるのかは分かりません (投資成果の予想について経営陣が情報優位にある)。経営陣は既存株主の価値の最大化を目標としているものとします。T=0におけるN社の事前の資本は 100(1株)でその他の負債や内部留保はないものとします。また投資成果はすべて配当として株主に配分されます。経営陣が投資成果をHまたはLと確信し ている状況で、それぞれ株式と債券による調達の効果は以下のとおりです。なお債券の信用リスクは考えないものとします。
<投資成果=Hのケース>
T=0で1株=100で株式を発行すると、T=1で投資成果は180、NPVは80(=180-100)となり、これを既存株主と新株主で分け合いますか ら80÷2株=40が1株当りの価値です。したがって発行株価は100+40=140で市場が均衡するはずです。しかし投資家はT=0では投資成果がHか Lか分かりませんから、HとLの期待値=150で評価します。すると1株当りのNPVは50÷2=25となり、発行株価は100+25=125になりま す。経営陣が本来考えている株価から15過小評価されてしまうということです。
一方、債券を発行した場合には株価の希薄化が起こりませんから、 金利を無視すれば既存株主の受け取るNPVは80÷2=40であり、株主価値は100+40=140となります。すなわち株式発行による過小評価の影響が 大きいので、この場合は債券発行が望ましいということになります。
<投資成果=Lのケース>
まず株式での調達の場合です。1 株=100で調達すると投資成果は120、NPV=20(1株当り10)となりますから、既存株主価値は100+10=110です。投資家はやはり投資成 果がHかLで区別できませんから株価=125と評価します。したがって125-110=15の過大評価となります。一方債券で調達した場合には株価評価に 影響がありませんから既存株主価値は110のままです。結局この場合には株式発行による調達が望ましくなります。
ところが、投資家が (HとLを区別できないにせよ)上記の帰結を理解していれば、N社が社債を発行すれば投資成果=H、株式を発行すればそれは投資成果=Lのシグナルである と受け取られるでしょう。投資成果=Lであれば株式市場はN社株式の評価が過大であるとして株価が下落してしまうため、15のプレミアムは享受できなくな ります。またN社が真の優良企業であれば過小評価を避けるために進んで社債を発行するでしょう。したがって外部資金調達ではまず社債が選好されます。N社 の業績見通しがそれほど良くない場合でも、株価の過大評価を維持するためには優良企業にならってまず社債を発行せざるを得ないことになります。そして株式 は社債で賄いきれない場合に発行されることになるのです。
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【追加】銀行借入と社債の優先順位
株式(エクイティ)と社債(デット)の利用の順番は以上のとおりですが、同じ負債同士の銀行借入と社債の順位はどう考えるのか補足:
これも情報の非対象性の大きさがカギです。
結論からいうと銀行借入の方が情報劣位の度合いが小さいと考えられるので借入から先に利用されると考えます。理由は以下のとおりです。
・銀行は少数の担当者・部署が発行会社と相対で交渉するのに対して、社債権者は直接交渉の窓口を持たない小口分散された投資家の場合が多いこと。
・銀行は企業金融の専門家として一般社債投資家より発行企業の経営情報に触れる機会があること。
・銀行は発行企業の資金繰りや決済状況、人事交流などから経営状況をモニターする機会があること。特に日本ではメインバンクと呼ばれる存在が発行企業の経営情報を知りうる場合がある(とされること)
ただしバブル期以降は上場大企業であれば借入比率が趨勢的に低下していますからメインバンクの影響力は低下しているでしょうし、社債投資家にも生命保険など機関投資家が入っていることも少なくないので、上記の特徴がそのままあてはまらない場合も増えているでしょう。