無議決権株と支配権確保 | 謎の金融日誌

無議決権株と支配権確保

「無議決権株を追う㊤ 透ける「支配権確保」の思惑 導入計画に反発強く」 2008年7月18日 日経

 議決権がない「無議決権株」の 発行を検討する企業が、じわり増えてきた。伊藤園が昨年九月、無議決権株の一種で、普通株より配当が多く普通株への転換を前提としないタイプの「無議決権 優先株」を国内で初めて上場。今年六月にはワタミやゼンリンも同種の株式を発行できるよう定款を変更した。東京証券取引所も市場の育成に乗り出したが、無 議決権株に対する投資家の評価はまだ低く、定着に向けた課題は多そうだ。
 六月二十一日、ワタミの株主総会が国技館(東京・墨田)で開かれた。約六千五百人が詰めかける“大入り”ぶりだったが、総会前、渡辺美樹社長には心配のタネがあった。無議決権優先株の定款変更議案のことだ。
  話は三日前にさかのぼる。安定株主である取引先金融機関の担当者がワタミ本社を訪ね、応対した中川直洋執行役員に、同議案の「議決権行使を棄権する」と通 告した。同じ企業が発行する株は権利も同じであるのが望ましい、という理由のようだ。報告を受けた渡辺社長は「普段友好的な株主に初めて渋い顔をされた」 とショックを隠せなかった。 
 総会では、今度は複数の個人株主が、増資で一株当たり利益が希薄化する懸念を訴えた。渡辺社長は「(定款変更しても株は)すぐには発行しません」と念を押し、議案は可決された。
  似た光景はゼンリンでもあった。五月八日にワタミと同様の定款変更議案を発表後、機関投資家を訪問すると、予想外の反発に遭った。ゼンリンの筆頭株主は創 業家の資産管理会社。企業にとって無議決権優先株は、議決権のある株主の構成を変えずに、株式市場で資金調達できるのが一つのメリット。だが、投資家の目 には「創業家の支配権を希薄化させないための単なる便法ではないか」と映ったのだ。
 「経営と保有は分離している」(柏木順取締役)とはいえ、買収防衛策の導入とセットだったこともあり好意的な受け止め方は少なかった。総会では数%の反対票が出たが、「株主は選択肢が増える」と強調し議案の可決にこぎつけた。
  ソフトバンクも五月八日に「資金調達手段をできるだけ多様化しておこう」(後藤芳光財務部長)と、無議決権優先株の発行に向け定款を変更する考えを表明し た。既存の普通株を持つ株主に無議決権優先株を無償で割り当てる考えだったが、株価が急落し一転、総会への提案を断念した。
 株価急落の背景に は、同社が将来、無議決権優先株で増資するのではないかという懸念と、「流通性の低い株を割り当てられる」ことへの反発があった。無議決権優先株は議決権 がなく流動性が低い分、普通株より価格が割安になるため、株主は普通株を割り当てられるのに比べ、保有する同社株全体の時価が目減りする可能性がある。
 無議決権優先株を使い、株主還元を拡大して「ファン株主」を増やしたいとの思いは各社に共通している。だが、ここまで導入を表明した企業がすべてオーナー系企業である点に、投資家は、支配権を拡散させたくないという企業の秘めた思いを敏感に感じとっているようでもある。