無議決権株と評価
「無議決権株を追う㊦ 普通株より割安に評価 日本市場の未熟さ反映?」 2008年7月19日 日経
「日本の株式市場のために、議決 権のない優先株は必要だ。我々が実験台になる」。伊藤園の本庄八郎社長は他社に先駆け、昨年九月に同株を上場させた意義をこう強調する。「議決権の拡散を 恐れ、資金調達に踏み切れない企業にとって成長の一助になる」と同社長。だが高い理想と裏腹に、伊藤園の無議決権優先株の株価は上場来、低空飛行が続いて いる。
配当が普通株に連動し二五%上乗せされるにもかかわらず、株価は上場来ずっと、普通株より三―四割安いまま。伊藤園に続く企業が出ないのは「今、上場させても市場で割安に評価される」(大手食品企業)との警戒感もある。
なぜ価格差がこれほど開くのか。理由の一つに、無議決権優先株が「東証株価指数(TOPIX)に採用されていないため、流動性が低い」との指摘がある。
野村証券金融工学研究センターの新谷理クオンツアナリストは、伊藤園の無議決権優先株がTOPIXに採用された場合、「指数連動型の投資信託などの買い で、一時的には株価を二百―三百円ほど押し上げる効果がある」とみる。もっとも時価総額が小さいため「保有しなくても、指数との連動性に影響はない」(ク オンツ運用担当者)とあって、継続的な売買注文で流動性が高まるかは不透明だ。
もう一つ、「普通株にあって優先株にない議決権の価値が大きいから、価格差が拡大している」との見方がある。
日本の無議決権優先株と仕組みが似ているイタリアでは、個人投資家の株式投資促進を目的に、同株が一九七〇年代に広まった。当初は普通株より株価が八割も安いケースもあったが、株主保護の法制度が見直された九〇年代後半以降は、価格差が縮小傾向にある。
とはいえ、普通株との価格差は依然二割前後。「イタリアと同様、少数株主保護の制度にまだ改善の余地が大きい」(商法学者)とされる韓国もサムスン電子が 三割安、LG電子が五割安など普通株との価格差が大きい。一方、株主のクラスアクション(集団訴訟)制度などが整備された米国では、普通株との価格差が 五%前後にとどまる。
国の法制度や市場のルールが未整備で、企業経営に対する規律付けが弱いと、株主は自ら議決権を握り、株主の利害に背かない よう経営を監視する必要が増す。その場合、議決権の価値は増大し、結果として無議決権株と普通株の価格差が広がる。普通株より割安に放置された伊藤園の無 議決権優先株が、日本の株式市場そのものの未成熟ぶりを反映しているなら、なんとも皮肉な話ではある。
無議決権優先株に対する日本の投資家の評 価はまだ定まっていない。だが例えば欧州では、欧州連合(EU)が昨年「無議決権株を発行している企業の業績や企業統治は、他の企業に比べても決して劣っ ていない」とする調査結果を公表。同株を発行する企業が、株主の目を逃れ低成長に甘んじているわけではないと断じた。日本の企業もそうした評価を得るに は、投資家との信頼関係を一つ一つ積み重ねていくしか解はなさそうだ。
「日本の株式市場のために、議決 権のない優先株は必要だ。我々が実験台になる」。伊藤園の本庄八郎社長は他社に先駆け、昨年九月に同株を上場させた意義をこう強調する。「議決権の拡散を 恐れ、資金調達に踏み切れない企業にとって成長の一助になる」と同社長。だが高い理想と裏腹に、伊藤園の無議決権優先株の株価は上場来、低空飛行が続いて いる。
配当が普通株に連動し二五%上乗せされるにもかかわらず、株価は上場来ずっと、普通株より三―四割安いまま。伊藤園に続く企業が出ないのは「今、上場させても市場で割安に評価される」(大手食品企業)との警戒感もある。
なぜ価格差がこれほど開くのか。理由の一つに、無議決権優先株が「東証株価指数(TOPIX)に採用されていないため、流動性が低い」との指摘がある。
野村証券金融工学研究センターの新谷理クオンツアナリストは、伊藤園の無議決権優先株がTOPIXに採用された場合、「指数連動型の投資信託などの買い で、一時的には株価を二百―三百円ほど押し上げる効果がある」とみる。もっとも時価総額が小さいため「保有しなくても、指数との連動性に影響はない」(ク オンツ運用担当者)とあって、継続的な売買注文で流動性が高まるかは不透明だ。
もう一つ、「普通株にあって優先株にない議決権の価値が大きいから、価格差が拡大している」との見方がある。
日本の無議決権優先株と仕組みが似ているイタリアでは、個人投資家の株式投資促進を目的に、同株が一九七〇年代に広まった。当初は普通株より株価が八割も安いケースもあったが、株主保護の法制度が見直された九〇年代後半以降は、価格差が縮小傾向にある。
とはいえ、普通株との価格差は依然二割前後。「イタリアと同様、少数株主保護の制度にまだ改善の余地が大きい」(商法学者)とされる韓国もサムスン電子が 三割安、LG電子が五割安など普通株との価格差が大きい。一方、株主のクラスアクション(集団訴訟)制度などが整備された米国では、普通株との価格差が 五%前後にとどまる。
国の法制度や市場のルールが未整備で、企業経営に対する規律付けが弱いと、株主は自ら議決権を握り、株主の利害に背かない よう経営を監視する必要が増す。その場合、議決権の価値は増大し、結果として無議決権株と普通株の価格差が広がる。普通株より割安に放置された伊藤園の無 議決権優先株が、日本の株式市場そのものの未成熟ぶりを反映しているなら、なんとも皮肉な話ではある。
無議決権優先株に対する日本の投資家の評 価はまだ定まっていない。だが例えば欧州では、欧州連合(EU)が昨年「無議決権株を発行している企業の業績や企業統治は、他の企業に比べても決して劣っ ていない」とする調査結果を公表。同株を発行する企業が、株主の目を逃れ低成長に甘んじているわけではないと断じた。日本の企業もそうした評価を得るに は、投資家との信頼関係を一つ一つ積み重ねていくしか解はなさそうだ。