誰かの妄想 -17ページ目

産経症・どうしてここまでタミフルを擁護するのか

また、なんだか矛盾しているような論説を展開してますな、産経。

タミフルの問題って、やたらと適用範囲を広げて、大量に予防投与したことだと思うのだが。最初からタミフル擁護の方針である産経は、どうにかしてタミフルがインフルエンザ対策の決め手であることにしておきたいらしい。

「過度の注意喚起は、薬の安全性に疑問符を投げかけることになる。」
基本的に薬は安全なものじゃありませんから。

薬を投与するときは、それが患者に悪影響を及ぼさないかどうかをちゃんと把握しつつ行うべきで、だからこそほとんどの薬は医師の処方が必要なわけですよ。医師の診察を通して、個々の患者にこの薬を投与して大丈夫かどうか判断しながら、必要なら経過を見ながら、処方すると。

安全性に何の疑問も持たずに投薬したら、はっきり言って怖すぎます。


「薬には副作用が付きものだ。効き目の高い薬ほど副作用が強くなる傾向もある。」
統計的にはそういう傾向もあるでしょうが、個々の患者にとっては別。体質や様態によって、副作用しか出ない場合も少なくないです。逆に副作用が全く出ずに効果だけ出る場合もあります。投薬した集団全体での有効率・副作用発現率といった”数字”だけを見れば間違いではないですがね。


「効き目をとるか、それとも副作用を重視するのか。薬は状況に応じて使い分ける必要がある。」
そういうことです。体力のある10代の人にわざわざ予防投与する必要はないのではないかと。副作用の恐れがあるなら、発病して、他の治療手段と比較して投薬すればよいでしょう。


「問題は、世界で最大7400万人、国内で最悪64万人が感染死するといわれる新型インフルエンザが出現したときである。タミフルは「新型」対策の重要な柱だ。そのときこそ、タミフルを有効に活用したい。」
結局、国策的に大量にタミフルを蓄積してしまった結果、今さら「使えない」とは言えない、という政治判断である印象をぬぐえませんね。


産経は3/27の主張で
「 睡眠薬「サリドマイド」、腎臓病「クロロキン」、エイズウイルスに感染した「薬害エイズ」など一連の薬害は、どれもC型肝炎と同じような過程を経て、被害を拡大した。 国、製薬会社は兆候が見られれば、情報を公表し、効果的な対応策をとる必要がある。
 これを怠っては、いつまでも薬害はなくならない。」

と述べているが、タミフルについてはやたら甘いらしい。それこそ中外製薬から資金提供されているとの邪推も生じかねないだろう。ま、おそらくタミフルの蓄積を推進した政府を擁護したいだけなんだろうが。


「“悪魔の薬”とまで呼ばれた睡眠薬の「サリドマイド」は、その使い方を改めた結果、特定のがんに対する特効薬となっている。」
そういえば、サリドマイドの時も、政府は副作用であることをなかなか認めようとはしなかったよな。奇形児の発生率とサリドマイドの服薬状況との間に統計的な因果関係はない、とか言って。後に統計専門家の吉村教授などに、因果関係があることを示されて、ようやく認めることになったけど。




【主張】タミフル 改めて冷静な対応求める
 10代の患者については原則として中止する-。厚生労働省は21日未明、緊急の記者会見で、インフ
ルエンザ治療薬「タミフル」の服用についてこんな方針を発表した。

 「安全性に問題はない」という姿勢からの事実上の方針転換である。否定的だった服用と異常行動の因果関係にも、「今後変わる可能性がある」との認識を示した。

 服用した子供たちが高いところから飛び降りるといった異常行動を起こす恐れに対し、注意喚起することは大いに賛成できる。しかし、その半面、過度の注意喚起は、薬の安全性に疑問符を投げかけることになる。

 最悪の場合、医療現場を混乱させ、患者とその家族の不安をあおる結果につながりかねない。厚労省はこのことを忘れずに、冷静かつ慎重に対応してほしい。

 今回の方針が過度の注意喚起に当たるかどうかは、今後の調査結果を待ちたい。厚労省は、1万人を対象とする調査を進めている。因果関係の有無を見極めるためにも、正確で早急な調査結果の公表を期待する。

 薬には副作用が付きものだ。効き目の高い薬ほど副作用が強くなる傾向もある。効き目をとるか、それとも副作用を重視するのか。薬は状況に応じて使い分ける必要がある。

 “悪魔の薬”とまで呼ばれた睡眠薬の「サリドマイド」は、その使い方を改めた結果、特定のがんに対する特効薬となっている。

 薬の服用には、正確な情報が求められる。死亡していない事例のチェックが不十分で、厚労省は今回、異常行動の発生件数を追加公表した。これでは対応が後手後手に回っていると批判されても仕方あるまい

 問題は、世界で最大7400万人、国内で最悪64万人が感染死するといわれる新型インフルエンザが出現したときである。タミフルは「新型」対策の重要な柱だ。そのときこそ、タミフルを有効に活用したい。 

 通常のインフルエンザは、タミフルを使わなくとも十分な栄養と睡眠をとって1週間も安静にしていれば治る。ただ、受験などで早く治したい場合や、持病や高齢で体力が弱っているケースもある。そんなときは服用について冷静に主治医と相談すべきだ。

(2007/03/23 05:08)


悪魔の証明

なんだか、
「ないことの証明はできない(ないし、困難である)」=「ないことが証明できた」
という悪魔の論理学に落ち込んでいる人が多い。


言うまでもなく、証明していないんだから、「ないこと」を証明できていないことは自明だろう。


悪魔の証明を巡る悪魔の論理学


(命題1)事象Aが事実であるという証拠はない。
(命題2)事象Aが事実でない証拠を示せ、ということは悪魔の証明を求めることと等価である。

上記、命題1、2より
(結論)事象Aは事実ではない。


これのどこが間違いかというと、割と最近証明されたフェルマーの定理のように証明されていない難問はいくつもあって、そのうちの一つ、リーマン予想を例にとって見てみよう。


(命題1)リーマン予想が事実である、という証拠はない。
(命題2)リーマン予想が事実でない、という証拠を示せ、ということは悪魔の証明を求めることと等価である。

上記、命題1、2より
(結論)リーマン予想は事実ではない。


どうだろうか?
これで証明できた、といえるのなら、私はクレイ研究所から100万ドルもらえることになるが、恥ずかしいので発表しない。

まあ、これが悪魔の論理学(一見正しそうな命題と論理展開から、明らかにおかしな結論を導くこと)の典型と言えよう。


では、歴史問題で見てみよう。

(命題1)日本軍中央の指示による組織的な従軍慰安婦の強制連行が事実である、という証拠はない
(命題2)日本軍中央の指示による組織的な従軍慰安婦の強制連行が事実でない、という証拠を示せ、ということは悪魔の証明を求めることと等価である。

上記、命題1、2より
(結論)日本軍中央の指示による組織的な従軍慰安婦の強制連行は事実ではない。


もう一つ
(命題1)南京大虐殺の犠牲者の数が30万人であることが事実である、という証拠はない
(命題2)南京大虐殺の犠牲者の数が30万人であることが事実でない、という証拠を示せ、ということは悪魔の証明を求めることと等価である。

上記、命題1、2より
(結論)南京大虐殺の犠牲者の数が30万人であることは事実ではない。


まあ、ある程度、論理的思考が可能であれば、いずれも論理学的におかしいことはわかるだろう。
正しい答えは、いずれも「事実かどうかわからない」である。


問題は何か、というと証拠がないにも関わらず「事実ではない」と断定している点。
言い方を変えると、事実である(黒)、事実でない(白)、事実かどうかわからない(グレー)、の3つの場合があるにもかかわらず、グレーの存在を無視しているということ。これが問題。

悪魔の証明については裁判の例に言及することが多いが、裁判では「推定無罪」の原則に従って、基本的にグレーは無罪(白)としているため、擬似的に白と黒しか存在しないように見えるにすぎない。
しかし、数学や歴史学をはじめ裁判以外の多くの場合はグレーを白とみなすようなことはしない。白でも黒でも断定するには、証拠を必要とする。証拠がない場合はグレーである。


・あった
・なかった
・あったともなかったとも言えない


まあ、何を考えるにせよ、このぐらいの思考の幅は持ったほうがいいだろう。

閑話休題・きっと騙されたんだ

松岡農相は、きっと詐欺商法で500万の浄水器を買ったんですよ。フィルタ交換も年1回で500万するとか。
今ごろ消費者センターに電話しているに違いない。


私には見える、狭いマンションの一室で、「欲しい人~」と聞かれて「はい!」と手を挙げてる松岡農相の姿が・・・(妄想)。

きっと自宅には定番の羽毛布団とか消防署の”方”からやってきた人に買わされた消火器とかがあるに違いない。
自民党だけど、気が付いたら創価学会に入ってたり・・・、あっ、統一協会のほうかも。ならきっと壷や多砲塔、もとい多宝塔も持ってるのだろう。

そんなかわいそうな松岡利勝氏のHPを見てみると、こんな文字が。


《信条》「真実一路」
    「お世話になった人を大切に」


・・・最近、目が悪くなったようで、真実一路・お世話になった人を大切に、とか書いてあるように見えるがきっと気のせいだろう。


塩崎長官、松岡農相を擁護「精いっぱい答弁してる」 (産経新聞)


 塩崎恭久官房長官は14日午後の記者会見で、松岡利勝農相の光熱水費をめぐる問題で説明が不十分との声が与党内からも出ていることについて「松岡氏は精いっぱい国会で答弁している。政治資金収支報告を適切にやっていることを理解している」と擁護し、説明は足りているとの認識を示した。

 記者団の再三の質問に対し、塩崎氏は「(松岡氏は)法律にのっとってやっている」「適切に報告している」と何度も繰り返し、木で鼻をくくった答弁に終始した。

(2007/03/14 19:13)


タミフルの問題

従軍慰安婦の宿題はちょっとかかりそうなので、お茶を濁してみる。


厚生労働省研究班の横田教授(の研究室)に中外製薬が寄付金。
うーん、6年間で1千万だと年間約200万円程度ですよ。他の製薬会社もこのぐらい出していると思うんだがなあ・・・。


タミフルについて問題なのは、ここだと思う。
http://www.mainichi-msn.co.jp/science/medical/news/20070228k0000m040149000c.html
「 厚労省安全対策課は「専門家の見解からみて、タミフルと異常行動の因果関係は否定的だと判断している」と話す。」


必ずしも間違ってはいないのだが、因果関係を否定するっていうのは実際かなり難しい話。
「同省研究班(班長・横田俊平横浜市大教授=小児科)は06年10月、「タミフルと異常言動との関連は確認できなかったが、さらに調査が必要だ」との報告書をまとめた。」

後に中外製薬からの寄付金で騒がれる横田教授の報告だが、「タミフルと異常言動との関連は確認できなかったが、さらに調査が必要だ」というのは、正確な表現であって、寄付金で手心を加えているような発言ではない。


基本的には、タミフルを服用した患者(服薬群)としなかった患者(比較群)での異常言動の発現率の統計的な有意差を判定した結果であろうけど、実際に差があっても偶然に差が出ない確率は結構ある(この場合、どうだったかわからないが、検定手法としては20%くらいと設定することは珍しくない)。
なので、現時点のデータを見る限り、差があるとはいえないけども、それが偶然検出できないだけなのかどうか、「さらに調査が必要」といっているわけだ。


「 研究班は05~06年に、主に小学生以下のインフルエンザ患者2800人余りを対象に、タミフル服用とおびえ、幻覚、理由なく怒るなど「異常言動」との関連を調べた。
 患者の9割がタミフルを服用しており、タミフルを飲んだ後に異常言動が出た率は11.9%。飲む前や全く飲まずに出た率の10.6%より高かったが、統計的には差がない範囲だとされた。」


この後にやるべき調査(記事に書いてないだけでやってるとは思うが)としては、まず年齢別・体重別・男女別での解析であろう。また、ひょっとしたら未知の要因が絡んでいるかもしれない(例えば、おたふくかぜをやったことがあるか否かで異常行動の発現率が異なるとか、ね)。実際、「服用からの経過時間」について今後調べるとのことだし、結果待ちというところでしょうか。


ただ、簡単に「否定的」と言ってしまうのはどうかと思う。
世の中には、「あったという証拠がないんだから、それはなかったんだ」という短絡的思考をする人がかなりいるようだし。

対策として、服薬後一定期間は患者の行動に注意することか、或いは、少なくとも一定年齢以下の患者への投薬には入院など条件付でしか行わない、などは行った方がよかろう。
どうにも予防投与という形で、やたらと適用範囲を広げていること自体が問題な気はする。


産経症・2005年に人身売買禁止議定書を承認した国

日本は2005年に刑法226条に追加条項を加え、人身売買禁止議定書を承認しました。

追加条項とは、人身売買禁止の条項です。

言い換えれば、2005年まで人身売買を直接裁く法律はなかったわけです。


もともと、刑法226条は、いわゆる「からゆきさん」(日本人女性の海外への人身売買)対策を外国から求められた結果として1907年に制定されたものです。しかし、このとき禁止されたのは、国外移送のみでした。


(所在国外移送目的略取及び誘拐)
第二百二十六条 所在国外に移送する目的で、人を略取し、又は誘拐した者は、二年以上の有期懲役に処する。

要するに国内での人身売買は野放しにされたのです。

一方で1900年の大審院判決により、娼妓契約が民法90条(公序良俗)に反するとして無効となりましたが、娼妓契約に伴う金銭貸借契約は有効であるとされたため、返済手段をもたない女性は娼妓にならざるを得ず、実質的に管理売春が続くことになります。


こういった人権感覚が、軍が従軍慰安婦を募集するといった事態を生み出したといえるでしょう。


「買春して何が悪い」という感覚は戦後も続き、高度経済成長を経て「じゃぱゆきさん」(外国人女性の日本への人身売買)が誕生します。これは国際的な批判を浴びて、日本の国会は2005年、ようやく人身売買禁止議定書を承認することになります。

言うまでもありませんが、この人身売買には、性奴隷としての女性の売買が含まれており、強制連行のような”いわゆる”狭義の強制以外に、詐欺や前借金契約などによる強制(じゃぱゆきさんなどはこれにあたる)も含んでいます。


よく金をもらっていたんだから、性奴隷ではなく商売だ、と主張する方がいますが、それはあまりにも労働問題について無知といわざるを得ません。報酬を得ている奴隷だって存在しますし、何より19世紀20世紀における低賃金労働者の悲惨な状況をしらなすぎです。

他に仕事がなく、収入を当てにできる家族のない状況で、それをいいことに時給200円で1日16時間1ヶ月30日勤務が嫌なら会社を辞めろ、と言われることを想像してほしいものです。これでも1ヶ月9万円程度にはなりますから地方なら何とか生きてはいけるでしょう。しかし、これを正当な労働報酬などと思う人がいるのでしょうか?

このような労働は人権を損なうとの考えから、最低賃金や就業時間などの労働法が出来て労働者が不当な搾取されないように法規制されているわけです。そして、これらは、ネトウヨや産経・自民党が毛嫌いする労働組合などが長い年月を経て獲得してきた権利です。


話を戻して、2005年の人身売買禁止議定書と刑法226条の追加条項によって強制連行のような”いわゆる”狭義の強制以外に、詐欺や前借金契約などによる広義の強制による売春が明確に禁止され、日本は「じゃぱゆきさん」の汚名を返上できるかに思われました。

ところが、2006年に下村官房長官が、2007年に安倍総理大臣が、第二次大戦における性的人身売買である従軍慰安婦問題について、「狭義の強制はなかった」などと発言します。当然ながら、わざわざそれに言及する以上、それを聞いた人は「狭義の強制がなければ問題ではない」という解釈します。


これをかつて「じゃぱゆきさん」問題で日本を非難していた諸外国が見たらどう受け止めるかは容易に想像できます。世界の認識では、強制連行であろうが、詐欺や借金であろうが人身売買であるのに、日本はいまだに半世紀前の倫理しか持ち合わせていない、と受け止めることでしょう。


小泉といい、安部といい、どれだけ日本の外交を損ねれば気がすむのか、日本を自分たちのおもちゃか何かと勘違いしているようにしか思えません。


では、産経新聞の正論(笑)を見てみましょう。


(引用)

【正論】現代史家・秦郁彦 米下院の慰安婦決議阻止の妙案 (2007/3/11)

 ■日米両国を非難決議の対象にしては

 ≪噴火を再開した休火山≫

 平成3年の大爆発から数年、日本の内外をにぎわせた慰安婦騒動も、河野洋平官房長官談話(5年)やアジア女性基金による「償い金」の支給事業で沈静したかにみえた。しかし人々の関心が薄れかけると、この休火山は噴火を再開するくせがあるらしい。


★「強制ではなかった」とか「商売だった」とか言うからですよ。学習能力ないなあ。


 昭和天皇を慰安婦問題で有罪と宣告した女性国際戦犯法廷(12年)、その番組制作をめぐるNHK対朝日新聞の紛争(17年)につづいて、こんどは米国下院に上程された「慰安婦決議」案の行方が注目されている。すでに何度か提出され、そのつど廃案になったものだが、本年1月末マイク・ホンダ下院議員らが提出した新たな決議案は「日本帝国軍隊が第二次大戦期に若い女性たちを慰安婦として強制的に性奴隷化したことに対する歴史的責任を明確な形で公式に認め、謝罪する」(第1項)よう日本政府に求めたもの。

 しかも「謝罪は日本の首相が公的資格で声明」(第2項)せよとか、「現在と未来の世代にわたり、このようなおぞましい犯罪があったことを教育せよ」(第4項)とか、「性奴隷がいなかったと主張する言論を禁圧」(第3項)せよといった内政干渉がましい要求までだめ押ししている。


★うーん、それを言ったら、アメリカ国内でどんな決議をしようが、それにあれこれ注文つけるのは内政干渉じゃないの?


 およそ民主主義の総本家と自負するアメリカの議会人とは信じられぬほど品格に欠ける言い回しだが、その勧進元が戦時中に日系人(強制)収容所で暮らした日系3世と聞けば何ともむなしい。

 しかも決議案の背景となった事実認識は「20万人」の慰安婦たちを「20世紀最大の人身売買」(前文)の犠牲者と位置づけ、集団暴行、強制中絶、殺害、手足切断などのめにあわせたときめつける非常識さだから、つける薬は簡単には見つかりそうもない。


★当時人身売買は犯罪ではなかった、とでも言ってはいかが?
★逆に「つける薬は簡単には見つかりそうもない。」と言い返されるのが落ちだと思うけど。


 外務省はこの種の係争では事実関係を争わず、村山富市首相や橋本龍太郎首相のお詫(わ)び文の英訳を届けるたぐいの消極策しかとってこなかった。2月13日付で加藤良三駐米大使が下院にあてた「反論書簡」も、歴代首相が謝罪を重ねている、安倍首相も河野談話を受け継ぐと表明している、アジア女性基金が「償い金」を払った式の釈明に終始している。

 ≪鈍い決議阻止への動き≫

 さすがに自民党の中山泰秀議員らが、河野談話の修正に向け動きだしたが、3月5日の参議院での質疑で、首相があらためて「河野談話は基本的に継承していく」と表明したため腰砕け気味になってしまった。では4月末の安倍訪米をにらんで直前の本会議可決をめざしているとされる状況に即効の対応策はあるのか、数案を検討してみよう。

 (1)決議が可決されても法的効果はないので静観する(2)謝罪も償いもすんでいるとくり返し説得する外務省方式の継続(3)河野談話の修正(4)朝鮮戦争、ベトナム戦争でも米軍や韓国軍が類似の慰安所制度を利用していた事実を指摘し、「同罪」だったことを自覚してもらう-の4案である。


★過去の事実を認めたうえで謝罪と償いが行っていることの主張、閣僚や議員の失言に対する謝罪、の2点を行うという選択肢は、そもそもないのね・・・。
★ボク、間違ったことしてないもん!なんて良い年した大人が言っても誰もあやしてくれないですよ。いい加減ひとり立ちしてください。ニートじゃあるまいし。


 (1)と(2)は論外として、(3)河野談話の「慰安婦の募集については、軍の要請を受けた業者が主としてこれに当たったが、その場合も甘言、強圧など、官憲等が直接これに加担したこともあった」というくだりから、「軍の要請を受けた」を削除、「強圧」を「威迫」に、「直接これに加担した」を「直接間接に関与」か「取り締まる努力を怠った」へ修正するのが私案である。


「「軍の要請を受けた」を削除」は問題外。軍の要請があったことは事実でしょ。
「「慰安婦の募集については、軍の要請を受けた業者が主としてこれに当たったが、その場合も甘言、強圧など、官憲等が直接これに加担したこともあった」というくだり」勝手に改ざんしないで欲しい。河野談話は「慰安婦の募集については、軍の要請を受けた業者が主としてこれに当たったが、その場合も、甘言、強圧による等、本人たちの意思に反して集められた事例が数多くあり、更に、官憲等が直接これに加担したこともあったことが明らかになった。」とある。
★後者の原文の方では、「これに加担」が募集に加担したのか、甘言、強圧に加担したのか、曖昧であるが、前者の秦氏修正引用文では、「これに加担」は、甘言、強圧に加担したとしか取れなくなっている。せめて(中略)とでも書けば誠意を感じられるのだが、なんというか姑息だなあ・・・


 慰安婦募集の実態は拙著『慰安婦と戦場の性』に詳述したが、朝鮮人ブローカーが娘を身売りした親と業者を仲介する合法的な商行為だった。そして業者が戦地に慰安所を開き、軍が性病の検診や輸送の便宜をはかったもので、官憲が「強制連行」に乗り出す必要性はなかったし、裏付けのある証言もみつかっていない。

 ≪ペンタゴンも黙認して…≫

 ベトナム戦争中の米軍慰安所については、スーザン・ブラウンミラー(米人女性ジャーナリスト)の『Against Our Will』(1975年)に詳細なルポがある。一部を紹介すると「鉄条網で囲まれた公認の軍用売春宿では60人のベトナム女性が住み込み…1日に8人から10人をこなす。料金は500ピアストルで、女の手取りは200ピアストル、残りは経営者が取った。彼女たちを集めたのは地方のボスでペンタゴンも黙認、女たちは週ごとに軍医の検診を受け…」といったぐあい。日本軍の慰安所と瓜二つではないか。


★はい、「公認」と「公営」では意味が違うように、売春宿を開きたい、という業者に対し軍や政府が許可を与えるのと、軍が売春宿を開いて欲しい、と業者に要請するのは全く違いますよ。
★ペンタゴンの”黙認”と日本軍の”要請”では、意味が全然違うということを理解して欲しいものです。


 ホンダ議員たちへ対日非難の資格ありやと問うか、決議案の対象を日米両国政府に修正するようかけあってみたらどうだろう。(はた いくひこ)


★後者については、やってみれば良いんじゃない?と思いますけどね。
★前者についてはいただけない。「あいつもやっているじゃないか!」なんて、何の言い訳にもなりません。


(2007/03/11 05:04)

(引用ここまで)

従軍慰安婦問題そのものは結構難しく、民法90条の公序良俗違反以外には法的な根拠を今のところ見出せない。

日本軍による強制連行の有無が問題、という意見もあるが、強制連行自体は従軍慰安婦問題では主眼ではない。

もともと「慰安婦狩り」のようなことについて、出先の下部組織が独自に行うことはあったにしろ司令部レベルで計画を立てたりする可能性はきわめて低い。


戦時性暴力というものを考える場合、その形態は次の3種類ある。(この分類については、おさかなさんのエントリ を参考にしました)

1.強姦

2.拉致・監禁を伴う性暴力

3.管理売春


「2」が従軍慰安婦にあたるかどうかは、疑問の余地もあるが、白馬事件のように「3」の管理売春の形式をとることもあるので大きく従軍慰安婦問題といえば、通常は含んでいると考えてよかろう。

しかし、当時の日本軍・日本政府が組織として直接責任が問われるのは、「3」であろうと考えるのでこれについては別途エントリ立ち上げて述べることにしたい。「2」については、おさかなさんのエントリ で紹介されている他に、主体は日本軍ではなく、米軍になっているが、「2」の形態での戦時性暴力を上手く描写している以下の映画を薦めたい。


カジュアリティーズ アルティメット コレクション
¥3,420

マイケル・J・フォックス主演のベトナム戦争映画で、米兵がベトナム女性に対して行った性暴力をテーマとしている。

アメリカは自国のやったことについてちゃんと向き合えるだけまとも、って気がします。


(2007/3/15文字の色修正)


産経症・従軍慰安婦の問題と強制連行の問題は別だと何度言えば・・・

以前にも書いたが 、従軍慰安婦と強制連行は全く別の問題である。

強制連行されて慰安婦にされた被害者も存在するかもしれないが、少なくとも「河野談話 」ではそれを明示的に認めてはいない(否定してもいないが)。
「慰安婦の強制連行」をもって「狭義の強制性」とするなら、河野談話が認めているのは明らかに「広義の強制性」である。


南京事件否定論者にも当てはまるが、否定したい言説の指す範囲を故意に狭く解釈した上で、それを否定する、と言う手法が従軍慰安婦問題についても用いられていると言えよう。



【主張】慰安婦決議案 一時しのぎのツケがきた
 米下院に提出された旧日本軍によるいわゆる慰安婦非難決議案が波紋を広げている。参院予算委員会では、同決議案の根拠の一つともなった「河野洋平官房長官談話」(平成5年)をめぐって安倍晋三首相が追及され、韓国では盧武鉉大統領が、決議案をひきあいに「日本帝国主義の蛮行」と非難した。中国の李肇星外相も批判した。


★本来「河野談話」で決着の付いた話が、今回米下院で取り上げられた原因を完全無視ですね。
★下村官房副長官などが、統一協会安倍の代弁であることを匂わしつつ、河野談話を否定するような姑息な手段をとって国内的な歴史修正を謀るからこそ非難されているのでしょう。


 このままでは、決議案の成立、不成立にかかわらず、日本のイメージに傷がつく。旧日本軍、日本人の名誉が不当に損なわれかねない。


★日本のイメージに傷つけているのは、日本政府が事実を認めた上で出した公式見解を政府与党の議員が、否定する発言を繰り返すという行為です。そしてそれを助長する産経のような(自称)報道機関が、現代の日本人の名誉を不当に損なっています。


 河野談話は、慰安所の設置や慰安婦の移送などに「旧日本軍の関与」があり、慰安婦の募集は業者が主だが「官憲等の加担」「甘言、強圧による」などがあったとしていた。さらに、すべての元慰安婦に「心からのお詫びと反省」を表明し、補償に関する訴訟に「十分に関心」を払うとしている。

 だが、河野談話の作成にかかわった石原信雄官房副長官(当時)の証言によると、「関係各省庁が国の内外で徹底調査したが、政府や軍が女性の強制連行を指示したような文書や証拠は一切なかった」という。


★当然です。従軍慰安婦と強制連行はそもそも別の話です。平成9年1997年3月12日参議院予算委員会で内閣外政審議室長の平林博氏はこう答弁している。
「今の強制連行につきましてでございますが、私の方で調査いたしましたのはいわゆる従軍慰安婦の関係でございますが従軍慰安婦に関する限りは強制連行を直接示すような政府資料というものは発見されませんでした。」つまり従軍慰安婦と強制連行は別の問題と言う認識ですな。
★したがって、「軍が女性の強制連行を指示したような文書や証拠は一切なかった」からと言って従軍慰安婦が「強制的な状況の下での痛ましい」生活を強いられたことを否定することにはなりません。


 根拠は韓国の元慰安婦という女性たち16人の話だけだった。強制性を認めたのは、韓国政府の強い要請で河野官房長官、宮沢喜一首相(当時)が政治判断した結果だったという。


★はい、ここですりかえです。強制連行」と「強制性」は別物です。
★河野談話で”強制”と言う文言が使われているのは、ただ一箇所、慰安所における生活は、強制的な状況の下での痛ましいものであった。」だけです。これが強制連行」を指すものでないことは明らかでしょう
★産経は、「強制連行」=「強制性」であるかのように印象操作した上で、「強制連行を指示したような文書や証拠は一切なかった」=「強制性はなかったが政治判断で認めた」とすりかえようとしています。



 一時的に譲歩し、謝罪すれば、その後の対日批判は収まると判断したのかもしれない。だが、実際は逆だった。日本政府への責任追及が逆に高まり、今回の下院決議案も「河野談話が根拠になった」(提出者の一人、マイク・ホンダ議員)。政治の一時しのぎのツケが回ってきたというべきだ。


★まず、河野談話はあまり「譲歩」してません。強制連行については認めていないからです。
★第2に河野談話によりこの件に関する対日批判は収まったにも関わらず、それを否定する発言が政府要人から頻繁に出るため、「日本政府への責任追及が逆に高ま」った、と言えるでしょう。
★むしろ、統一協会安倍・自民党が、国内向けのパフォーマンス発言を一時しのぎに行ったツケがまわってきたと言うべきでしょう。


 河野談話に関し、安倍首相は5日の参院予算委員会で、「(政府として)基本的に継承する」としたうえで、「狭義の強制性を裏付ける証言はなかった。官憲が家に押し入って人さらいのごとくつれていくという強制性はなかった」と答弁した。


★こういうのが、国内向けパフォーマンスです。
★そもそも河野談話には、”いわゆる”「狭義の強制性」は記載されていません。わざわざ言及する必要のない答弁をすれば、首相と言う立場上、その意図を憶測されるのが当然です。


 いま河野談話の全面見直しを言えば、逆に反日的な勢力に誇大解釈、反日宣伝の材料にされかねない-との判断もあるだろう。日本の名誉回復には時間と忍耐と並んで、歴史の事実に基づいて、きちんと慰安婦問題の真実を訴える勇気が必要なのではないか。


★統一協会安倍や産経・ネトウヨには、「慰安婦問題の真実」を直視する勇気が必要なのではないか。無理だろうけど。


(2007/03/07 05:25)

増加したのは不正受給なのか?


印象操作の典型ですな。
2001年の不正受給:46.7億に対し、2005年の不正受給:71.9億、というと不正受給が1.5倍に増え、まるで生活保護受給者が悪質化しているかのような印象を受けるのだが、では母数となる生活保護費総額を予算で見ると、2001年生活保護費予算:1兆3091億、2005年:1兆9230億でこちらもほぼ1.5倍。不正受給率について言えば、0.3~0.4%で推移しているに過ぎません。


素直にデータを読むなら、生活保護対象者が4年間で1.5倍に増えた、と解釈するべきところでしょう。

問題とすべきは、小泉政権下で生活保護費が1.5倍に増えたことであって、付随的に増えた不正受給額ではないでしょう。”お上から頂いた”情報をただ流すだけの作業をすると、こんな記事ができると言うわけですな。
この記事を参照したブログもいくつかあるけど、もう少し背景を見る努力をした方が良いと思いますよ。特にマスコミ批判をするのであればね。


生活保護そのものの制度にも問題はあるでしょうしね。(詳しくはないですが、最低生活費未満の収入ならあってもなくても生活レベルが変わらない、とか)



生活保護不正受給、4年で1・5倍に増加…厚労省
3月6日1時52分配信 読売新聞


 2005年度の生活保護費の不正受給額は、前年度を約10億円上回り、約71億9000万円だったことが5日、厚生労働省のまとめでわかった。

 01年度(約46億7000万円)と比べ、約1・5倍に増加している。

 厚労省によると、件数も1万2535件で、前年度比で1624件増加。内訳を見ると、働いて得た収入をまったく申告していなかったケースが53・4%と最も多く、働いて得た収入を過少申告していたケースも加えると、63・5%だった。「各種年金などの無申告」も15・5%あった。

最終更新:3月6日1時52分

南京事件1937・30万人は荒唐無稽か?

ま、「南京大虐殺はなかった」とか世迷言の人はどうでもいいとして。


「何らかの残虐行為はあったけど、中国の主張している30万人は多すぎるでしょ」とか考えている人が結構いる。というか、以前は自分もそう考えてました。これって私見だけど、詳しい史料を知らないけど割とリベラルな人が、そう言っているような印象を受ける。


だけど、30万人が多すぎるとか少なすぎるとか適正だとか、評価できるくらい詳しく調べた人ってどれくらいいるんだろうか?


ルワンダやカンボジアでは平気で100万の死者とか出てるけど、30万人って常識的に多いのか?なんとなく中国の主張だから多く言っているに違いない、とか思い込みがあるんじゃないかなあ?

30万人が多すぎる、と考えている人は冷静になって考えてみて欲しい。


・中国の主張している南京事件が、どの地域内で起こったことを指しているか知ってますか?

・同じく、南京事件が、いつからいつまでの期間のことを指しているか知ってますか?

・事件当時、その地域内に存在していた民間人の人数を知ってますか?

・同じく、その地域内に存在していた中国軍人の人数を知ってますか?

・同じく、その地域内に侵攻した日本軍の人数を知ってますか?

・中国の主張している犠牲者に中国軍人が含まれていることを知ってますか?

・それが戦闘による死者ではなく、捕虜になった後、殺された、という主張を含んでいることを知ってますか?



少なくとも、上記に関する概算を知らないと、30万人が多いのか少ないのかすら判断できないはずです。例えるなら、ただ単に「10万円は多すぎますか?」と聞くようなもので、夕飯買うためか、車を買うためかで答えが全然変わる内容です。

秦氏にしろ笠原氏にしろ、南京事件を研究し犠牲者数の推定を行っている人たちは、実際に日本軍や中国の史料などをあたった上で、地域・期間などを定義した上で、4万人とか10数万とか推定しています。

南京事件/笠原 十九司
南京事件―「虐殺」の構造/秦 郁彦

もちろん、定義の仕方によって人数は変わります。

犠牲者数を意図的に少なく見積もりたい人たちは、地域や期間・虐殺の定義を極めて限定的にとって、事件を否定します。


例えば、地域は南京城内安全区内、期間は1日、民間人の犠牲のみ虐殺されたとみなす、とか。

こうしてしまうと30万人になるわけがありません。なので「20万人しかいないのに30万人は殺せない」とか「原爆使わないと無理」とかいう妄言が出てくるわけです。(ちなみに20万人は安全区内の人数)


しかしながら、実際の30万人を主張する人たちの定義では、地域は南京城および城外の近郊県を含む広範な地域で、期間は南京陥落後6週間、民間人犠牲者のほか捕虜となった中国兵の殺害も虐殺とみなしています。


侵攻した日本軍の数は10万人程度。

南京は戦争直前は100万都市で、周辺の農村人口を含めると、200万程度にはなっていたでしょう。(当時の中国人口は5億といわれていました)

上海戦に参加した中国軍の人数は約70万、10万の損害を受け、南京・杭州に撤退したことを考えると、南京方面に30万程度が敗走していったとも推定できます。事件のあったとされる地域に軍民合わせて30万人を優に超える人数がいたことは想像に難くありません。

10万の日本軍が、30万人殺すのに6週間40日もあれば十分すぎるほどでしょう(1人が1日1人殺したとしても3日で十分)。原爆など全く不要です。中には全く虐殺行為を行わなかった部隊がいたとしても不思議ではありません。その分のノルマを他の兵が達成できるほどの余裕があります。


具体的に犠牲者が何人かを推定するには、さらに日本軍の戦闘詳報や個人の日記などを丹念に調べなければならないでしょうが、少なくとも30万人説を単純に否定できない、とだけはいえると思います。






南京事件1927・なんでもかんでも陰謀論


またも渡部昇一。
http://www8.ocn.ne.jp/~senden97/nankinjiken1.html


まあ、1937年の南京事件に関しては今回はおいといて、これについて。


(引用)
・1927(昭和2)年に起こった南京事件(シナの国民革命軍が日本など各国の領事館その他を襲撃し、略奪・暴行・殺人を働いた事件)でも、裏で糸を引いていたのはソ連から派遣されていたポロジンという革命家であった。国民党の政治顧問をしていたポロジンが、コミュンテルンからの指示にもとづいて南京事件をひきおこしたことは当時から周知の事実である。
(引用終わり)


この事件について、現在に至るも確定的なことは言われていません。当時、ソ連の陰謀である、という主張があったのは事実ですが、その主張が正しいかどうかについてはわかってません。主張した欧米日の外交団にとって、中国とソ連が離間するのは歓迎すべきことであって、そのような直接的な利害関係者の主張を検証なしに信じ込むのはどうか、と思いますよ、渡部君。


さて1927年の南京事件ですが、背景を少し。


前年の1926年、中国は大きく二つに分かれていました。北京政府と国民政府です。この年の3月、国民政府では中山艦事件により蒋介石が国民政府の主導権を握り、4月には北京政府の段祺瑞が失脚し、張作霖の支配権が確立します。
1926年6月、蒋介石は北伐を開始(宣言は7月)、江西省、湖南省、福建省などを制圧していきます。
この国民政府は、孫文が1923年に成立させた第3次広東軍政府から継続しています。この当時の孫文が容共的な立場を取っていることは良く知られていますが、それは1924年の第一次国共合作にも示されてます。
1926年の北伐開始時点では、蒋介石の国民政府は、国民党・共産党の連合政権だったわけです。当然ながらソ連とも関係が深いわけですが、当時ソ連は北京政府とも関係を持ってました。ただし、それは他の欧米日諸国も同様です。南北いずれにより援助するかの違いはあれ、双方と外交関係を維持していたことは変わりません。
で、蒋介石ですが、彼自身は孫文と違い容共的ではありませんでした。
北伐開始から半年後の1927年1月、国民政府は武漢に移ります。この武漢国民政府の中心は国民党左派・共産党でした。これに対し、蒋介石は主導権を奪われまいと南昌に留まり、武漢への遷都に否定的な見解を示します。つまり、この当時、蒋介石率いる国民党右派と武漢国民政府の対立構造が出来上がっていました。
北伐の激戦地である武漢攻略にあたっては左派の功績が大きく、戦果が振るわない蒋介石は福建省の制圧を優先し功績を挙げようとします。


こういった状況下で北伐軍による南京総攻撃は開始されました。1927年3月15日のことです。攻撃部隊は、程潜率いる江右軍(湖南系、第6軍)が長江南岸を、李宗仁率いる江左軍(広西系、第7軍)が長江北岸を下流に向かって進軍、さらに長江下流からは何応欽率いる東路軍が迫る。


この南京攻防戦中の3月23日、上海で労働者が決起し上海特別市臨時政府が樹立されます。もちろん共産党系の組織です。


南京陥落は3月24日。陥落させたのは江右軍で、これは武漢政府側の軍でした。当初、国民政府軍は整然と入城したにもかかわらず、暴動が起こります。実行者が国民党兵士か共産党員か北京政府軍か、もよくわかりません。当時の報道では、国民革命軍の制服を着た湖南省方言を話す兵士だったそうです(当時の湖南省は武漢政府の支持地域)。この時、列国公使館が襲われ外国人6名の死者が出ました。これに対して英米が艦砲射撃を行ってます。


この暴動ですが、説としては自然発生説、北京政府軍の陰謀説、共産党の陰謀説、反動派の陰謀説などがります。どれも決め手には欠けますが、渡部君やネトウヨ、WIKIも共産党陰謀説を信じてます。ですが、確たる根拠はありません。
WIKIでは「あえて外国の干渉をさそって蒋介石を倒す共産党側の陰謀といわれている。」と産経新聞や児島襄の小説をもとに書いてますが、そもそも南京を落としたのは、国民党左派・共産党の連合政権である武漢政府の軍であることを考慮してない様子。陰謀を謀るとすれば、その動機はむしろ蒋介石側にあったと言えるでしょう。
状況証拠ではあるが、共産党陰謀説の出所である武漢政府側第6軍第17師長の楊杰が、後に蒋介石に重用されている点は要注意。


さて、その後。

4月6日、欧米日の外交団は、南京事件をソ連の策謀として張作霖の北京政府に圧力をかけソ連大使館を強制捜査させます。その結果ソ連人23人を含む74人が逮捕されてます。これに対して、ソ連は4月9日中国と国交断絶します。

そして、直後の4月12日、蒋介石により上海クーデターが起こされ、都市の共産党勢力が駆逐されます。第一次国共合作は崩壊し、蒋介石の国民党政府は反共政権として再構築されます。蒋介石は改めて南京に国民政府を置きます(南京は蒋介石の国民党右派によって制圧)。

この後1927年7月、武漢政府から共産党が離脱し、残った国民党左派は9月、南京政府に合流。武漢政府は消滅します。
北伐はなお続きますが、国民政府は反共政権としての傾向が強くなります。
一方の共産党は表舞台から追い出され、農村などに支持基盤を求めるようになります。


1928年6月、蒋介石軍は北京に入城し、東北を除いた中国が南京国民政府によって統一されます。北京政府の張作霖は東北へ撤退途中に日本軍の謀略により爆殺され(これをソ連の陰謀という自慰史観が存在するが、お話にならない荒唐無稽さなので無視)、跡を継いだ張学良は1928年12月に国民政府への帰順を表明し、中国は完全に統一される(外蒙古を除く)。蒋介石の国民政府に対しては英米が大いに支援しますが、ソ連は介入できません。張学良が東北の鉄道回収を始めると、ソ連は東北に侵攻(1929中ソ紛争)までしています。ソ連と中国の国交が回復するのは、1932年12月12日、実質的には西安事件(1936)後になります。(2007/3/1誤字・事実誤認訂正)


こうして考えると、1927年の南京事件が果たしてソ連の仕業かどうかは非常に疑わしいと言えるでしょう。それまでは中ソ関係はまあ良好だったわけですから。
1927年の南京事件の真相は不明ですが、この事件の結果もっとも利益を得たのは、蒋介石であり、英米であったことは確かでしょう。


まあ、渡部君が基本的にトンデモだと知っていれば、「しょうがないやつだな」と笑って見てられるんですが。
WIKIの記事も、ちゃんとまともな史料を見て書いて欲しいものです。産経新聞と児島襄って・・・。

今回のネタ本。

中国国民革命―戦間期東アジアの地殻変動/栃木 利夫
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南京事件1937は、事件当時は世界に知られていなかった?

南京事件の否定論者の論拠の一つに、南京事件は東京裁判にあわせてでっち上げた捏造というものがあります。
その証拠として、南京事件(1937)は、事件当時は世界に知られていなかった、と。


ネットが普及して、海外メディアのアーカイブが簡単に利用できるようになっても、こう言ってるのは情けない限りですが・・・。


(TIME誌1938/1/17「In Nanking」より抜粋)
Before the Japanese encircled Nanking, the gunboat Panay—day before it was sunk—evacuated most foreigners from the doomed city and the Chinese defense commander, General Tang Sheng-chi, fled, leaving his officers and men to their fate. During the four terrible days between the departure of the Panay and the arrival of the Japanese fleet, Nanking was a flaming chaos without government, without telephones, electricity or water supply. Not many more than a score of white men, most of them Americans and most of the Americans missionaries, remained during the siege in which the Japanese slaughtered 33,000 Chinese soldiers (20,000 by execution), and wounded some 5,000, as well as thousands of civilians who, according to Timesman Durdin, "hobbled about, dragged themselves through alleyways, died by the hundreds on the main streets."


えーと、「日本軍は、3万3000人の中国兵(うち2万人は処刑による)、5000人の負傷者、数千の市民を虐殺した」と。
この記事の真偽をおくとしても、1938年1月17日時点で南京での日本軍の残虐行為が報道されていることは事実ですね。