川口市安行ブランドの早咲き桜──安行桜に一足早い春の訪れを感じて | TABIBITO

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今年は暖冬で、東京では桜が、明日にも開花宣言されるのではないかと報道されている。

暖冬だけでなく、世間では、去年から「桜」「桜」と騒がれていることもあり、「出番がもう来たか」と桜が勘違いしたのかもしれない。

 

ただ、それは、桜の代表的な品種であるソメイヨシノの話だ。ソメイヨシノが咲く前に、すでに、早咲きの桜の河津桜などが各地で咲いている。

 

そんな早咲きの桜で、あまり一般的に知られていないもので、「安行桜」という桜がある。埼玉県川口市の安行で生まれた地域の地名が付いた、いわばブランド桜である。 

市内各地に安行桜の名所はあるようだが、代表的な二つの場所を訪ねてみた。

 

一つは、川口市安行原にある密蔵院。

「密蔵院」は全国各地にある寺院の総称だそうで、この密蔵院は「海壽山 萬福寺 密蔵院」というのが正式名称。京都にある醍醐寺無量寿院の末寺として、550年以上もの長い間、安行の地を見守ってきた古刹である。

 

 

 

 

 

安行桜は、毎年、3月のお彼岸ごろに満開になるそうだが、今年は10日ほど早まっていて、密蔵院では、すでに満開で、一部は散り始めていた。

 

 

 

 

 

 

安行桜とは、昭和20年代初めに、地元の園芸家・沖田雄司氏が、田中一郎邸にあった早咲きのソメイヨシノを研究改良して、沖田家の菩提寺であった密蔵院に植えたそうで、安行桜の発祥地となった。またの名を沖田桜と呼ぶという。また、安行緋寒桜とも呼ぶらしい。

 

 

ソメイヨシノなどの桜開花期よりも早く咲き出し、ピンクのやや濃い花色は艶やかで、近づいて花を見るとソメイヨシノよりフワッと柔らかい印象を受ける。

 

 

 

 

 

 

本堂の前に立つ、水掛け地蔵尊。

 

 

お地蔵様の掌に乗る子どもが、上の方の桜の花を見て、「ほら、綺麗だよ!」とお地蔵様によびかけているようだ。

 

 

今年は、新型コロナウイルスの影響で、恒例の「桜まつり」などの行事は中止になっているそうだが、それでも、平日にもかかわらず、安行桜を見に人が訪れていた。

 

 

 

しかも、小学生ぐらいの子どもを連れた親子が何組も来ていた。これも、新型コロナウイルス対策で学校が休校になっている影響だろうか。

 

 

 

 

蔵の白い壁にピンクの花が映える。

 

 

 

墓地にある阿弥陀三尊像。

 

 

 

 

山門から伸びる道を南に歩いていくと、下りの坂道があり、見事な桜並木となっている。

 

 

 

 

坂道の両隅には、散り落ちた花びらが吹き溜まっていた。

 

 

 

 

 

もう一つの場所は、埼玉高速鉄道線の川口元郷駅前通り。 

埼玉高速鉄道の川口元郷駅は、2001年3月28日に開業した比較的新しくできた駅である。

 

 

 

駅前通り沿いに安行桜の並木がある。歩道は桜のトンネルのようになっている。

 

 

通りの名称は「六間道路」と言い、JR川口駅と結んでいる。JR川口駅前にも安行桜が植えられているそうだ。

 

 

 

芝川にかかるさくら橋から。

 

 

 

向こうの川岸の草むらに、何羽もの鳥が出入りしていた。巣でもあるのだろうか。 

 

 

元郷について述べる前に、川口市について触れておきたい。川口市は、埼玉県の南東部に位置し、東京都に隣接するベッドタウンとして、人口は60万人を超えて、隣のさいたま市に次いで県内で2番目に多くなっている。しかも、1970年には29万人だった人口が、2011年に鳩ケ谷市と合併するなどもあり、50年で倍に増えている。川口市は、吉永小百合主演の映画『キューポラのある街』(1962公開)でも映し出されたが、“鋳物の街”としても有名だった。昭和初期までは町の大半が工場地帯であったが、産業構造が変化し、開発が進むにつれて、鋳物工場が減りマンションなどがどんどん増えて行ったことが人口増の要因となっている。

 

元郷と呼ばれる町は、そんな、川口市の南部にあり、元郷1丁目から6丁目までを合わせて、人口は19389人(3月1日現在)で、川口市で最も人口の多い町となっている。

 

この元郷には、総戸数650戸の「エルザタワー55」という、地下1階、地上55階建て、高さ185.8mの超高層マンションが立っている。1998年に、日本ピストンリング川口工場の広大な跡地に建設されたもので、2004年に東京都港区に汐留H街区超高層棟が建設されるまでは、住居用建造物としては日本で最高の高さであった。

 

 

私の知り合いが、高層階に住んでいて、一度おじゃまして景色を見させてもらったが、眼下には荒川が流れ、遠くは都心の高層ビル街、さらには富士山や関東の山々が見晴らすことができた。

セキュリティが厳しく、エレベーターなどもややこしくて、部屋にたどり着くのがたいへんだったのを覚えている。

 

隣には、2002年に建てられた、総戸数389戸、地下1階、地上32階建て、高さ111.95 mの「エルザタワー32」がある。2つのタワーマンションだけで1000戸を超える、一大都市になる。

 

 

鳥が、逆さになったりしながら、ひっきりなしに花びらをつついていた。 

 

 

 

 

この日は、天気も良く、安行桜で一足早い春の訪れを感じることができた。

 

だが、例年ならば、これから、ソメイヨシノが咲き始め、本格的なお花見シーズンとなるところだが、今年は、新型コロナウイルス感染症の影響で、東京都をはじめ各自治体が、「お花見の宴会自粛」を呼びかけている。

 

マスクをして、静かにお花見?といったところだろうか。

たまには、そんなお花見もいいかもしれない。