まず先週の反省から。
実家への帰省と慣れない野良仕事で疲れていたとはいえ、何とか頑張って検討する時間は作れたはずだと。
金融市場にお盆はない・・・。
それでも東京に帰って気づいたので15日に買い行動を起こし、今のところプラスです。
でもブログでのアナウンスは遅れてしまいました。ブログを書くのはやはりパワーが必要なのです。
<図1 銘柄1321 2024.8.23>
日銀の植田総裁が8月23日の国会で
「7月の利上げは適切だった。株価下落はアメリカの景気減速懸念が背景にあったから」
との発言を行い、自分のせいではない、としたいようです。
植田総裁のせいだと皆が考えるので、記事の枕詞に「植田ショック」と入るのですがねえ・・。
ともあれ、
植田ショックには従来の金融ショックとは異なった特性が見えますので、それを分析してみます。
ブラックマンデーを上回る下落幅、という表現が一般的に使われてセンセーショナルに煽っています。
絶対金額の【差額】では無く、その時の株価に対する【変動率】で議論すべきというのが私の持論です。額の方が分かりやすいですが、人間は率に反応するからです。
買い物で、安価な日用品の10円差には敏感に反応しますが、家電製品の10円差には殆ど反応しませんね。
私のブログは頑なに【変動率】で通します。
さて、
図2は日経平均株価の日次変動率((終値)の長期推移です。
<図2 日経平均株価日次変動率の推移>
植田ショックによる株価下落(率です)は過去最大です。これだけ見ると大きな金融ショックに思えますが、過去の例と比較すると異なった結論になります。
小規模な金融ショックでした。
まあ、これは今のチャートを見れば一目瞭然なので、今さら何を、と言われそうですが、途中経過がどのように見えたか、という観点で説明します。
まず、
金融ショックはどのように推移するのか? です。
原因や起こした犯人捜しはともかく、見える現象としてどうなるのか?ということです。
あくまでも私のソフトでの動きですが、例えばコロナショックのような典型的な金融ショックの場合、時系列的に以下の4点セットになります。
<ステップー1>
ショック発生の予兆として、銘柄1321の売り信号と同時あるいは前後して、インバース銘柄(銘柄1357等)に買い信号が出る。 的中確率は約5割です。
<図3 銘柄1357に買い信号発生>
<ステップー2>
ショックが発生すると株価変動率分布が異常になった旨を示す各種の信号が出る。
・正規分布からの逸脱:変動率尖度(kurt)、K指数
・ボラティリティの拡大:株価変動率標準偏差、S指数
<ステップー3>
ショックの規模を予想する信号が出る。
・正規分布からの逸脱度合いで推定:K値
・ボラティリティの拡大度合いで推定:S値
<ステップー4>
株価暴落後、底値付近を拾う買い信号が出る。
・【急落3W】という信号
<図4 ショック後の現象>
では、今回の植田ショックでは?
なんと、想定外の事態です!!
<ステップー0>
株価が上昇しているのに、<ステップー3>に相当する、株価変動率分布異常を示す信号が出たのです(図5)。
<図5 尖度異常>
罫線番号7です。左から2番目にある列(売買信号)の番号が罫線番号で、新しいデータから遡ってナンバリングされます。
右から2番目の列にある尖度(kurt)の値が10.6となっており、コれは、株価変動率が正規分布を逸脱してべき分布に変化したことを示します。データを見ると徐々に値が大きくなって急に10.6となっていることが分かりますね。
この10.6という値は、実は過去最大なのです。これは後で説明します。
このような大きな変化は金融ショック以外には考えられないのですが、株価はむしろ上昇しています。
「え、なにこれ?」と思いましたが、理由が分からずにいました。
しかし全く新しい現象で、過去にこのようなことはなかったので注視していました。
すると、なんと、なんと、ステップ-0の翌週(罫線番号6)に、銘柄1357の買い信号が出たではありませんか!
<ステップー1>
銘柄1357に買い信号発生。
<図6 植田ショックの予兆 銘柄1357に買い信号>
スワ!金融ショックか?
と身構えます。確率5割なので半身の構えですが。
この買い信号は私のルールでは銘柄1321(1570)の見做し売り信号になる(前回ブログ参照)ので、運用中の銘柄1570は売却しました。
<図7 見做し売り信号>
その3週間後にあのブラックマンデーを超える株価下落があり、
ついに大規模ショックか?
と思いましたが、既に売却して利益も出ているので冷静に眺めていられました。
その翌週
<ステップー2>
株価の分布変動を示すS指数に変化が出ました(罫線番号2)。
<図8 植田ショック S指数変化>
でも大人しい変化です。値でいえば
ショック前 -0.12
ショック後 +0.15
と弱めの変化なので、どうも
大規模ショックではなさそう
です。
大規模ショックなら、赤の帯になるはずです。
<ステップー3>
ショック規模を予想する信号は出ませんでした。
<図9 植田ショック 規模予想信号出ず>
従って
ショック規模は小さい
と予測できます。
<ステップー4>
当初は底値を拾う買い信号【急落3W】は出ませんでしたが、検討の結果、下落設定値を15%→12%に変更し、信号が出ることになりました(前回ブログ参照)。
しかし、ありゃ??
買い信号は<ステップ2>より前の罫線番号3で出ることになり、順序が入れ替わってしまいました。
でもこの順序入れ替わりはありうることです。
<図10 急落3W信号>
図11は、3週間連続の変動率を2004年から調べたものです。
<図11 3週間変動率>
急落3Wという信号はもともと、リーマンやコロナ級の大規模ショックでの底値を拾うという粗い設定で調整していましたが、もっと幅広いショックに対応するようにしたのです。
歴代の金融ショックの中で植田ショックの3週間下落率は第5位でした。
小規模の上に属します。
というわけで、当初は大きく見えたショックが観察するにつれて矮小化していったのです。
そして急速なリバウンド。
さて最後に、
ショック前に出た不思議な尖度異常、というデータの扱いにつて考えてみました。
<図12 尖度の推移>
ショック前に出た過去最大の変化ということの理解がまだ出来ていない、というのが正直なところです。
AIが作りだした新手のトレード手法か?とも思ってしまいます。
なので、この扱いは今後の検討課題とし、尖度>8という信号を仮設して追跡することにしました。銘柄1321には売り信号として、銘柄1357には買い信号として。
従来と違い、今回の場合はショックに先行して出た売り信号になりますので利益率が向上しますが、疑問は残ります。
<図13 新しい信号を仮設>
ともあれ、植田ショックは
1)日次変動幅は最大だがトータル的には小規模というアンバランス
2)ショック前に株価変動率の分布異常発生という新しいパターン
という、珍しい金融ショックでした。
今まで、金融市場の特性は変わっていないと考えていましたが、もしAIの影響だとしたら、ひょっとしてAIは金融市場の特性も変える力があるのでしょうか?
興味深いですね。