前回までのお話はこちら↓↓
“大人になってから、クラシックバレエを習う”ということも、最近ではすっかり定着してきているようですね。
女性向け雑誌の習い事特集などでも、ヨガやピラティスなどと同じように、「自分を磨く習い事」「女子力アップのお洒落な習い事」として人気が高いようです。
クラシックバレエは優雅で華やかで上品なイメージが高いことから、「女子力を上げたくて」と言った理由や、「どうせ運動するなら、バレエが姿勢も良くなるし、良いかなと思って」と言った理由ではじめられる方も多いようです。
最近ではフィットネスやカルチャースクールで、大人バレエのクラスが増えていることも、やはりそういった目的でバレエを始める方を対象にしているのだと思います。
以前、私がフィットネスでバレエクラスを担当させてもらっていた時も、同じような理由を聞きましたし、サクラバレエでも初期の頃は結構こういった理由で入会される方が多かったように思います。
バレエを習えば、姿勢が良くなる
バレエを習えば、スタイルが良くなる
バレエを習えば、身体が柔らかくなる
バレエを習えば、上品なしぐさが身につく
バレエを習えば、他のダンスが上手になる
バレエを習えば、アンチエイジングになる
バレエを習えば、インナーマッスルが鍛えられる
これ、よく耳にする言葉だと思います。
バレエ教室のホームページでも、大人向けクラスは特にこういった言葉がズラッと並んでいますし、私自身もよく聞かれます。
「バレエを習えば、姿勢が良くなりますか?」
「バレエを習えば、スタイルが良くなりますか?」
「バレエを習えば、身体が柔らかくなりますか?」
「バレエを習えば、インナーマッスルが鍛えられますか?」と。
答えは、もちろん、「はい。」です。ただし、この言葉には続きがあります。
「・・・本気でバレエを習った場合は。」
◇
バレエといえば、バレリーナ。女子の憧れの的ですよね。
バレリーナといえば、トゥシューズやチュチュ、レースにフリルにピンクといった、女の子らしいイメージを連想させ、それゆえにバレエ=女子力が高いという風に思われていることが多いようです。
そのため、女子力をアップしたくてバレエを習いはじめる人は多いのですが、残念なことに、こういった理由でバレエをはじめた場合は、長続きしないか、長く続けているのにほとんど上手になっていないケースがとても多いのです。
バレエは一見華やかなようですが、実はとても地道な努力が必要です
モデルの世界などと同じで、人の目に触れるところは華やかですが、その世界にい続けられるのは、自分と向き合い、日々の努力を出来る人だけ。
ものすごく上を目指すから、色々おまけでついてくるのです。
バレエが上手になりたければ、姿勢の良さや体の柔らかさ、筋力、優雅な身のこなしは身につける必要がありますから、気がついたらそうなっているのです。
また、上に行けば行くほど競走があります。
つまり、『女の子のメンタル』ではバレエは無理なのです。
バレエには『アスリートのメンタル』が必要なのです。
とはいえ、最初からアスリートになるつもりでバレエをはじめる人はあまりいないと思いますが、『女の子のメンタル』というのは、受け身なんですね。
守って欲しい、助けて欲しい、甘えさせて欲しい、可愛くいたい。
そういった女子のメンタリティでバレエのレッスンを受けても、残念ながら、なかなか上達しない。
むしろ、努力や根性といった、男前なメンタリティがバレエには必要なのです。
女性らしく美しくしなやかに踊るプロのバレリーナの多くは、惚れ惚れするほど、中身が男前です
◇
女子力をアップしたくて、可愛いレオタードにヒラヒラの巻スカートつけて、お洒落なTシャツにレッグウォーマーでバッチリ決めて、週に1回、お友達と楽しくレッスンに通っているような場合は、う~ん、どうでしょう。多少は効果があるかな~?と思います。
でも、正直、そんな感じです。
この場合の一番の効果はバレエが「ストレス解消」になっている、ということではないでしょうか。
「憧れだったバレエを習えて幸せ」
「素敵な先生のお手本を見ているだけで優雅な気分になれる」
などの、心の満足度が高いのではないでしょうか。
バレエを習っていることを、日々の生活の張りにしたり、バレエを人生の楽しみとしたり、お友達をつくったり。
周囲からも「素敵な習い事ね~」「セレブね~」なんて言われて褒められて。
HAPPYな時期が、おそらく2~3年は続くでしょうか。
その頃から、ようやく現実に気がつくのです。
(あれ、私、ちっとも、上手になってない・・・)
(もう3年もやってるのに、動きがちっともバレエらしくない・・・)と。
けれど、
(まぁ、大人からはじめたし、バレエはむずかしいから、そういうものよね。)と自分で自分に言い訳しはじめるのです。
やがて5年、6年。
(いつまでたってもピルエットやピケターンが回れないなぁ。私にはセンスがないのかしら。それに、ちっとも痩せないし。)と。
そんな方に私は突っ込みを入れたいのです。
「まずは、そのヒラヒラの格好をやめてみせんか?と。」
それじゃ、いつまでたっても、上手になりませんよ、と。
大人からバレエをはじめて、本気で習う!と覚悟を決めてレッスンする人は、そう多くはありません。だから、バレエの先生達はこのことをあえて、あまり言わないのです。
その代わり、「大人を上手にしますよ。」「本気で教えますよ。」とも言いません。
「楽しくバレエをしてみませんか?」
シャルウィダ~ンス?と誘うんですね。
嘘はついていません。楽しくバレエを出来ますから。
ただし、ちっとも上手になりませんけど
バレエというのは、着飾るんじゃないのです。
削ぎ落としていくのです。
いらないものや余分なものをそぎ落とした、ムダのない美しさを追求するのが、バレエなのです。
どんなに綺麗なウェアで着飾るよりも、人間の身体が一番美しい。
足し算じゃなくて、引き算の美学、なのです。
だから、可憐な少女や妖精さんから、男性を魅了する悪女や誇り高き女王まで、ありとあらゆる役を自分にプラスして演じられるのです。
だから、どんな役でも踊れて、何にでもなれるのです。
“女子力”が欲しくてバレエを習いはじめるということは、今の自分に何かをプラスしたい、ということなんですね。
つまり、真逆なんです。
ですから、こういう理由で入会を希望される方には、まずバレエと言うものがどういうものなのかを説明するところからはじまります。
◇
また、“バレエを習って女子力アップ”と思ってバレエを習いはじめてしまうと、困ることのうちの一つに“アタシが問題”というのがあります。(勝手に名前をつけてみました)
一般的に女子力をアップしたいと考えている人は、一体何のために、誰のために女子力をアップしようと思うのでしょうか。
お洒落な洋服を買ったり、メイクをしたり、美容院やネイルサロンに通ったり。
そのこと自体はとても素敵なことですよね。HAPPYになれるし、自分を高められます。自分を大切にすることは良いことですよね。
ただ、現代における“女子力アップ”という言葉の使われ方から推測すると、ほとんどの場合は自分のため、つまり“アタシ”のためであることが多いように思います。
お母さんのためや、ペットのために女子力をアップしたい人はあまりいないと思いますし、ほとんどの人が“アタシ”のために、女子力をアップして“アタシが”気持ちよく過ごしたい。素敵な“アタシ”でいたい訳です。
これがまた、バレエとは真逆なんです。
バレエの本質は、バレエを観て下さるお客様に喜んでもらうためのもの。
バレエは人を喜ばせるためにあるのです。
バレエのレッスンとは、そのために努力をすることなのです。
自分の満足のためにバレエを習っている人は、まず長続きしません。
もし、長く続けられたとしても、ひとりよがりな踊りになってしまい、美しくありません。そのため、その人がいると全体の踊りも揃いませんから、良い役も頂けません。コールドが踊れない人がソロをもらえるはずもありません。つまり、せっかく努力しても、自分のために、“アタシのために”踊る人は、一歩先へ行けないのです。
バレエは10年かかりますよ、と言っても
「え~、10年もかかったら、年とっちゃう~」となって、続かないのです。
バレエ教室でも、ネイルサロンやエステ、美容院に行くのとと同じような感覚で、
「お金払ってるんだから、ちゃんと教えなさいよ~。」というお姫様状態になりやすいのです。
レッスンも自分の都合で行ったり休んだり、発表会も面倒だから出ないよ、とか、知らない間に、困ったお姫様、その教室の困ったちゃんになってしまうことも多いです。
バレエ教室はエステや美容院ではないので、ピシャリと叱られるか、全く相手にされないかのどちらかです。
これでは、女子力アップとはほど遠くなってしまいますよね。
“アタシがアタシが”と言う状態は、女子力のアップにはならないのです。
スタイルが良くても、姿勢が良くても、お洒落がバッチリでも、“アタシがアタシが”では、素敵な女子とは言えません。
本当の女子力とは、
“相手を思いやれること”や“周囲にあわせられる柔軟性”や“優しさ”や“気配り”ですよね。
ですから、本当に女子力を上げたいのであれば、
謙虚になること
感謝の気持ちをもつこと
自分も他人も大切にすること
思いやる心を持つこと
我慢しないこと
余裕を持つこと
素直になること
誠実さを持つこと
バレエを大切にすること
楽しむこと
チャレンジすること
全体のことを考えること
バレエを通して、これらのことを学ぶこと。
それこそが、本当の女子力アップであり、魅力的で素敵な大人の女性になるためのステップではないのでしょうか。
女子力アップのために、バレエを習いたいと考えている方。
向上心があることは、とても良いことだし、自分のブラッシュアップを考えること自体は悪いことではありません。
ただ、一般的に言われる、女子力のアップにバレエが効果的だと思っているのなら、それは少し違いますよ、というお話でした。
バレエは女子力というよりも、人間力を上げてくれるものです。
自分がなぜ女子力を上げたいと思ったのか、まずはそこからはじめてみてはいかがでしょう。
そうやって自問自答してみて、やっぱりバレエを習いたい、と思ったのなら、ぜひバレエをはじめてみて下さい。
新しい世界が、そこにはきっと待っていますよ。
次回の記事はこちら↓↓