哀愁ロマンチカ/ベル
1. わるいゆめ
2. 乙女劣等行進曲
3. 四面想歌
4. グリムドアンダーランド
5. 拡声決起ストライキ
6. キミシニタモウコトナカレ
7. さよならムービースター
8. 惰性を喰む
9. 残鐘
10. ラストノート
前作「JUKE BOX」から5年ぶりとなる、ベルの3rdフルアルバム。
2023年10月での解散を発表しているベルにとって、5人編成としては最初で最後のフルアルバムとなる本作。
当初は新曲を数曲含めたベストアルバムをリリースする予定だったようですが、誰から言い出すでもなく、曲出し時にフルアルバムサイズの新曲が集まったことからオリジナルアルバムに変更になったのだとか。
次のキャリアを考えれば出し惜しみしてもおかしくはないところ、解散まで最高到達点を目指そうとする姿勢には、ファンならずとも熱いものを感じるのではないでしょうか。
お約束的なパターンが決まっていることもあり、曲数を重ねるたびにアイディアの枯渇やマンネリとの戦いがある昭和歌謡系バンド。
多くのバンドが路線変更を余儀なくされる中で、9年間、それを貫き切ったことを示すのが「哀愁ロマンチカ」。
最後だからこそ、ど真ん中に回帰できるという部分もあれば、Gt.タイゾさんが新たにコンポーザーに加わったことで、従来にはなかったアプローチも哀愁の一部として組み込むことにも成功。
惰性でも、妥協でもない、ブラッシュアップされたベルのサウンドがここに完成していました。
これぞベル!という「わるいゆめ」でスタートを切り、現体制で最初のシングルとなった「乙女劣等行進曲」で勢いを加速。
大きな流れを生み出すと、金管楽器のフレーズを巧みに用いて歌謡色を強めた「四面想歌」、ヴィジュアル系特有のダークテイストを彼らの音楽に落とし込んだ「グリムドアンダーランド」と、王道の中にチャレンジを盛り込む意欲も見せていきます。
この「グリムドアンダーランド」と、先行シングル「さよならムービースター」には、昭和歌謡系らしからぬ本格的なラップパートが用意されているのが象徴的。
ただレトロな音楽を再現するだけでなく、V系リスナーにとっての新しいノスタルジーを作り出そうとしているのですよね。
そんな中、ラストスパートのタイミングで繰り出される「残鐘」がたまらない。
哀愁メロディを前面に押し出しながら、踊るようなリズムと疾走感も完備。
これを待っていた、とイントロのギターを耳にした時点でニヤついてしまうほど。
作曲のクレジットがVo.ハロさんと、Ba.明弥さんの共作となっているのもポイントで、フルアルバムといっても個々に作った楽曲を詰め込んだだけでしょ、と疑いたくなる気持ちを払拭してくれるのです。
MVが制作された「ラストノート」は、ここまで走り続けた彼らに相応しい歌謡バラード。
正直なところ、「哀愁ロマンチカ」というタイトルや、衣装を含めたヴィジュアルイメージとギャップがあるため、これがリード曲になるとライト層へのミスリードになってしまうかな、と思わないでもないのですが、同じぐらい納得感もあり。
願わくば、この曲の試聴だけでアルバムを聴くかどうかを判断するのではなく、アルバムを通して聴いて最後にこの曲に辿り着いてほしいな、と。
ハロさんの少し掠れた色気のある歌声が、ベルとして聴けなくなるのは残念で仕方ない。
しかし、最高傑作によって締めくくってくれたことには感謝しかありません。
執念とも言っていいであろう想いが詰まった1枚。
<過去のベルに関するレビュー>
歌謡サスペンス劇場
続・鐘が鳴ったら事件が起きる
午前3時の環状線
ノンフィクション