歌謡サスペンス劇場 / ベル | 安眠妨害水族館

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歌謡サスペンス劇場 (歌謡盤)/ベル

¥3,240
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1. 歌謡サスペンス劇場
2. さようなら僕だけの人
3. シャボン玉
4. 家出少女
5. ノンフィクション
6. もう一度
7. ビードロ
8. RED
9. アモーレ
10. 午前3時の環状線
11. マリオネット
12. あなたまぼろし
13. ゼンマイピエロ
14. やってない
15. 華

ベルの1stフルアルバム。
結成1年の集大成として、彼らのコンセプトである"歌謡サスペンス"を象徴する作品に仕上がりました。

DVDが付属する"サスペンス盤"と、ボーナストラックが収録された"歌謡盤"の2種類の同時発売。
ジャケットデザインは、The Benjamin、THE BEETHOVENのミネムラアキノリさんが担当しています。

コンセプトやアートワークが示す通り、昭和歌謡をベースにした歌モノを中心とした音楽性。
全15曲というボリュームの中で一辺倒にならないように色々なアプローチを試してはいるのだけれど、その軸がしっかり据えてあるので、統一感がありますね。
アルバムになっても、やりたいことがはっきりしているというか、意思統一が完璧というか。
Gt.夢人さんと、Ba.明弥さんのツインコンポーザー体制なのだが、それぞれの楽曲について、どちらの作曲かがわからないほど方向感が統制されているから、驚いてしまうのである。

昭和歌謡をベースにした音楽、というと、ムックなどがその道を切り開いた路線。
そんな成り立ちがあって、V系シーンに限って言えば、重低音を響かせる分厚いサウンドとセットになっているケースが多いのかと。
しかしながら、彼らの場合は、純粋にメロディを活かすことに注力していて、ギターにしても、ベースにしても、歌うようなフレーズを奏でている。
レトロでお洒落。
そこに少しロマンティックな雰囲気とスリリングな緊張感を落とし込んで、Vo.ハロさんの歌唱力を最大限に発揮できる土台を構築しているのですよ。

そういう意味では、シドが2005年に作り上げた「星の都」に近い聴き心地でしょうか。
歌謡曲を繊細なタッチで昇華し、聴きやすさを重視。
そう考えると、切なく疾走する中に哀愁が漂う「ビードロ」は「林檎飴」に、異国情緒を持たせてダンサブルに仕上げた「アモーレ」は「Sweet?」に似たフレーズが登場するのも、オマージュだったりするのかもしれません。

シドのフォロワーと切り捨ててしまうと、なんだか流行に乗ったイメージを持たれてしまいそうですが、10年以上前の作品であり、現代シーンで主流でもないサウンドであるということはお忘れなく。
シーンがコテコテ系に回帰していく中、彼らがフォロワーがいそうでいないニッチなラインを突いて、再び盛り上げていこうとしていることは、決して無価値ではないでしょう。

シリアスな空気感を、ファルセットを多用したボーカリゼーションで切り裂くリードトラック「さようなら僕だけの人」、アナログ感のある遊び心が効いた「ゼンマイピエロ」、和メロを使って優美に仕上げたミディアムバラード「華」あたりが、楽曲としては好みですな。
他も粒ぞろいで、哀愁系サウンドにグッとくるリスナーであれば、必ずハマるナンバーが見つかるはず。
会場限定販売だったミニアルバムからの収録曲がないのはもったいない気もするが、それだけ作曲ペースが速いということでもあるわけで、今後のリリース活動にも期待が高まる1枚です。

<過去のベルに関するレビュー>
続・鐘が鳴ったら事件が起きる
午前3時の環状線
ノンフィクション