世界のブナの森
自然写真家 永幡嘉之の公式ブログ

山形を拠点に、世界のブナの森と、極東ロシアを巡る博物誌




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アメリカのオオミズアオ

明日には帰らねばならない日。2日前にオオミズアオが目の前で轢かれ、翌日は灯火に何も飛来せず、うつむきながらそれでも森のなかを歩き続けていた。
グレートスモーキーでは2016年も今回も毎日、どこかにオオミズアオがとまっていないか目を凝らして歩き続けている。そもそも日本ではオオミズアオは灯火では無数に見ているけれども、昼間に探したことなんてないし、普段の日本でも森を歩いていてオオミズアオが偶然目の前にとまっていたことなんてまずない。羽化した個体が目の前にいたことなんて、これまでの人生で3回しかない。「今日、いま、眼の前でオオミズアオが羽化して翅を伸ばしている」ことを期待して歩き続けたとしても、そんなことはまず起こり得ない。
それでもオオミズアオ、オオミズアオと思いながら朝から歩き続け、通り雨も上がった14時、時差で眠気も抱えていたが、目の前のユリノキの幹を見て足が止まった。

 

とりあえずストロボを併用して、この蛾の魅力を引きたてる。

 

雨上がりの過湿で、ストロボがすぐに発光しなくなった。斜め60度で何度叩いても、日向で乾かしても、ザックのなかで大切にするふりをしても、発光しなかった。とりあえず、光を味方につけようと思った。

 


翳ったときの見たまま。

 

木漏れ日が味方になってくれた場面。風は止まなかった。

 

19時、宿で冷やして再び光るようになった2個のストロボを手に、アメリカオオミズアオActias lunaが羽化していた林に戻る。鳥にも見つからず、まだ同じ場所に静止していた。20時頃に、慎重に撮り直す。欲をいえば翅を開いて角ばった後翅を見せてほしいのだが、羽化直後の個体にはそれがまた難しいのだった。

 

ストロボが発光しなかったときに、落ちていた3本の枝にヘッドライトを結えて角度を調節し、そっと翅を開かせてみた。この個体は右の翅が十分に開かない癖を持っていた。

薄暗くなった20時過ぎ、翅を震わせていたこの個体は飛び立ち、樹冠へと消えていった。
USA,Tennessee, The Great Smokies, 2024.6.6

ホタル

グレートスモーキーではホタルの最盛期。最も見事な場所では抽選で立ち入り可能な人数制限をしており、極めて高倍率になって通常はムリなのだという。いつから規制を始めたのか国立公園のボランティアに尋ねたが、「そんなものずっと前から厳しく規制してる」という話だったのが、私が2015年と2016年に何度も来ていると口にしたところ「規制は4年前から」と変わった。客観的事実の聞き取りの難しさは、日本でも国外でも同じ。
規制されている谷とは別の場所で、とりあえず2016年に撮影した場面よりもずっと数の多い状態をみて撮影もできたが、オーバーツーリズムでどこもかしこも人と車にあふれており、これからさらなる規制が進んでいくだろうと思った。
USA,Tennessee, The Great Smokies, 2024.6.6

The Great Smokies

グレートスモーキー山脈の名前の由来は、常に煙っているからだという。今回は快晴だったのは帰る日のみで、他は晴れ間のなかで断続的に雨が来た。激しい雨が短時間で通り過ぎると、5分も経たないうちに霧が立ち込め、30分後にはまた日が射す。ブナ属はそれぞれの大陸のなかでも、こうした雨の多い地域にのみ分布している。

 

初夏のグレートスモーキー。帰国の途につく日にようやく晴れた。稜線ではナラ類Quercusが優占し、針葉樹ではAbiesとTsugaが混じる(Piceaもある)。谷間ではユリノキに混じってサトウカエデをはじめとした数種のAcer、Aesculus、Magnolia、Tiliaなどが林をつくる。アメリカブナFagus grandifoliaはその両方に散在している。

USA,Tennessee/North Carolina, The Great Smokies, 2024.6.4-7

ノカンゾウ

グレートスモーキーの森林の数ヶ所で、ノカンゾウに似た花を見かけた。どうみても自生ではない雰囲気があり、調べてみたところ学名はHemerocallis fulvaつまりノカンゾウと同種、園芸からの逸出で広がったもので、北米のいくつかの州では侵略的外来種に指定されている。つまり、キリやスイカズラと同じく日本あるいは東アジアの植物が制御不能なまでに広がった例のようだ。

 

国立公園の外では、牧草地に大きく広がっている場所もあった。もっとも、街中の花壇でも稀ならず見かけたし、これはノカンゾウというよりも、園芸ヘメロカリスDay-lilyのなかで「原種」とされているもののひとつだと思う。

 

街中の荒地のコンクリートの隙間に繁茂していたネムノキ。見るからに外来種という生え方をしている。山間部まで著しく広がっている。
USA,Tennessee, The Great Smokies~Knoxville, 2024.6.7

オオトラフアゲハなど

オオトラフアゲハPapilio glaucus

 

獲物のクサカゲロウをぶら下げて飛んでいたガガンボモドキ。非常に敏感で、急斜面をかなり追い回す羽目になった。

 

アメリカらしいコガネムシの仲間

 

アメリカトチノキ

 

白い花をつけるマンネングサ

 

Hepatica(ミスミソウ)の花は遠からず撮りに行かねばならないが、早春のこの時期にはこれとBlood rootの2種しか咲いていないようだ。ヨーロッパ・日本・中国四川省・鬱陵島のブナ林で撮影しているので、あとは北米のみ。

 

クジャクシダのように日本で見慣れたものを思いがけず見かけると嬉しくなる。

 

ユリノキの折れた大木。倒木が発生するような嵐は、3月(湿った雪を伴う)と9月(ハリケーン)に集中するとのことだったが、国立公園のボランティアガイドのなかには話が大きくなる人も少なからずいて、事実を見極めるには注意が必要だった(常に早口なのでこちらの理解もついていかないし)。何度も尋ねているうちに、だんだん話のスケールが小さくなってくる。
林内には多くのギャップがあり、朝にはキベレギンボシヒョウモンSpeyeria cybeleが翅を乾かしていた。今ごろはダイアナヒョウモンS.dianaも発生の盛りを迎えているだろう。
USA,Tennessee, The Great Smokies, 2024.6.3-7

 

メダマヤママユなど

アメリカブナの林で倒木に来ていたClytus ruricola。日本やヨーロッパのブナ林と共通する属。虫の数はあまりに少なく、半日森を歩いても甲虫を数頭を見かけるかどうかという次元だった。これは早朝にシカゴを出て、昼にはGreat Smokiesに着いていた午後に見かけた唯一のカミキリムシ。

 

ツガに生えたマンネンタケの仲間をカタボシエグリオオキノコMegalodacneの仲間が盛んに食べていた。日本でもマンネンタケ類に集まるという。

 

激しい雨が通り過ぎる直前、ブラックベリーの仲間の花にはPidonia ruficollisがいくつも集まっていた。

 

ブラックベリーの花に集まっていたPidonia aurata。日本のブナ林と共通する要素のひとつ。

 

メダマヤママユ。オオミズアオが轢かれて打ちひしがれた雨のなかで、今回はオスも撮れた。

 

ゴミムシの一種

 

こんな日本のカナブンによく似た種がアメリカブナの林にいるとは知らなかった。

 

朽木に残された(・)の記号

 

アカハネムシの仲間Neopyrochroa femoralis

 

マドボタルの仲間。一面の深い森のなかで、日が射し込む場所も限られるため、虫の姿は本当に少なく、半日歩いてもこうした虫たちを延べ5頭ぐらい見かけるかどうかだった。

USA, Tennessee/North Carolina, The Great Smokies, 2024.6.3-5

 

グレートスモーキーへ

セミだらけで喧騒のシカゴを後に、ブナ林を求めてアパラチア山脈のグレートスモーキーにやってきた。ここは4度目、初夏の撮影にも2016年に来ているので目新しさはほとんどない。目的は、前回どうしても会えなかった1つの蛾のみ。
川原を歩きながら、すでに発生が始まっていることを確かめた。

 

目的の蛾の発生は間違いなく始まっている。ただ、灯火のない国立公園のなかでは、いったいどうやって会えばよいのか見当がつかない。

 

グレートスモーキーで、早速アメリカブナの葉を撮る。シカゴでも自生していると思っていたのだが、今回歩いた範囲では見かけることがなかった。

 

アメリカブナの林に咲いていたホオノキの仲間Magnolia freseri。ホオノキの仲間は同じ場所に2種がある。これも北米と日本とのブナ林に共通する要素のひとつ。

 

林はすっかり初夏の色に包まれている。

 

シチメンチョウ。どうしても出てくるのは刈りこまれた路肩だし、メスばかり。日本のブナ林のヤマドリとエゾライチョウ、タイワンブナ林のミカドキジは撮っているので、あとはタイワンブナ林のサンケイと、テリハブナ・パサンブナ林のキンケイか。どちらも姿は何度か見ている。

 

アメリカのオオミズアオActias luna。日本のものに見慣れた眼には少し着飾って見えるし、月を冠した名前もよい。
世界各地のブナ林に共通する要素として、ルリボシカミキリやルリクワガタと同じように、この蛾はどうしても撮らねばならなかった。Great Smokiesには2015~2016年に足を運んでいたが、姿を見せてくれなかった。
今回はこの蛾を撮影するために、シカゴでのセミの撮影を4日で切り上げてGreat Smokiesに向かった。ただ、まともに灯火もない国立公園の保護区内で、いったいどうやって探せばよいのか分からない。国立公園を一歩出ればそこは繁華街、たくさんの明かりに囲まれ過ぎるうえに、銃社会のアメリカでは民家の街灯を見てまわるわけにもいかない。
ところが悪運強くというかなんというか公園内で道路工事をやっており、投光器があるではないか。車を停めて灯火を見せてほしいと頼むと、初日の現場監督は快く応じてくれた。そして、そこには1頭のビカビカのlunaが落ちていたのだ。

 

来てよかった・・・と月の女神に感謝しながら撮影しようとしたのだが、そこに突然驟雨が来て、枝や葉にとまらせようとしても滑ってしまい、ほどなく飛び立ったlunaは通りかかった車のライトにダイブして目の前で轢かれる・・・という安っぽい小説に出て来そうな結末に、ずぶ濡れになり打ちひしがれて宿に戻った。
翌日からは現場監督が替わり、この投光器も見せてもらえなくなった。

USA, North Carolina/Tennessee, The Great Smokies, 2024.6.3-5

ジュウシチネンゼミ

ずらっと並んで羽化する場面は撮れなかったけれども、ならば早朝に混沌とした場面を撮りたかった。雨の翌朝のジュウシチネンゼミ。

 

羽化の場面も、早朝に背景が抜けた場所を探して丁寧に撮った。羽化時の色彩は日本のエゾゼミ類とそっくりだ。体型はかなり違うが。

 

ジュウシチネンゼミの写真はこれで最後。前々夜に羽化した個体が雨の1日をヨウシュヤマゴボウの葉裏で過ごし、いよいよ活動を始めようかという場面。5月31日の夜に羽化の場面の押さえの1枚を撮ったのと同じ株。

USA, Illinois, nr.Chicago, 2024.6.2

シカゴのオニヤンマ

朝に下草のなかで休んでいたオニヤンマの一種。黄色と黒という基本は変わらないが、黄色が縞模様ではなく縦につらなっているだけでずいぶん異国情緒が漂う。

 

時折現れるトンボが面白そうだった。

 

ベッコウトンボにそっくりなもの(おそらく同属種)もいたが、敏捷すぎて近づかせてくれなかった。USA, Illinois, nr.Chicago, 2024.6.2

ジュウシチネンゼミ

シカゴ郊外で見かけた花。ナルコユリの仲間とセンノウの仲間。どこにもセミがいる。

 

セミに囲まれたなかで蛹になろうとするキベリタテハの幼虫

 

森のなかの空地におそらく自生しているヒメジョオンと2種のジュウシチネンゼミ。北米らしさを多少意識。

 

ジュウシチネンゼミの赤い複眼は、やはり警告色なのだろう。

 

青い眼のジュウシチネンゼミMagicicada cassini

 

ナラ類の自然林の陽だまりにも多数が見られた

USA, Illinois, nr.Chicago, 2024.6.2

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