今、党内では出先機関改革ということで、幾つかのテーマについて議論が進んでいます。その中で大きな議論が起こっているのが、「ハローワークの地方移管」です。


 これは色々な方面からの議論があります。地元で話を聞いてみると「生活保護、県営住宅、市営住宅の管理といった話とハローワークの業務は切っては話せない。地方移管して、地域毎の事情に合った雇用行政が行われるべき。」ということをよく言われます。逆に全国の統一的な労働行政の観点からは「地方移管した際に、首長の裁量で労働行政サービスが下がることは看過しがたい。」ということになります。まあ、厚生労働省職業安定局が自分の権限保持のために暗躍しているという噂も聞きます(が、実態は知りません。)。


 なお、私は「地方移管については出来るのであれば、どんどんやるべき。」という考えの人間です(地方移管に関する考えは後日必ず書きます。)。


 ところで、このハローワークの移管の議論の中で「職業安定の業務を地方に移管することはILO条約第88号に反する。」という論陣が張られています。私はボケーッと議論を聞いていたのですが、「条約」と言われてしまうと、元条約課課長補佐の血が騒がないわけではありません(現在、国会議員で条約局にいたことのある議員は私一人なので。)。ということで、調べてみました。


 そもそも、これは古い条約でして、現在性が本当にあるのかという議論すらある条約であるようです。識者によっては「時代が変わって、条約の中身にアクチュアリティがない部分がある。」と、存在意義に一部疑問符を付ける人すらいます。ただ、それを言い始めると議論が拡散するので私はその見方には与しません。


 他方、この条約の第二条に「職業安定組織は、国の機関の指揮監督の下にある職業安定機関の全国的体系で構成される。 」という規定がありますけども、これをもって、ハローワークの地方移管は国際条約によって一切認められないという議論があります。この条約は英語、仏語、西語が正文で日本語は単なる訳ですので英語を当たってみました。この条文の正文は「The employment service shall consist of a national system of employment offices under the direction of a national authority.」となります。


 よく読んでみると、「national system」という言葉に「全国的体系」という言葉が当てられています。まあ、間違っているとまでは言えませんが、かといって誤解を招く訳ではあります。「全国的体系」というと全国的にネットワークが隅々まで張り巡らせられなくてはならないようにも読めますが、「national system」にはそういう意味合いはないでしょう。「すべての人がハローワークに実際に足を運ぶことができる」ことまでをも条約が求めているとは言えないと思います(理念系としてはそれが望ましいでしょうが)。例えば理屈の上では、首都に一つだけハローワークがあって、すべての職業紹介業務がネット経由で行われているとしても、それは「national system」と呼びうるはずです。


 あと、気になったのが「direction」という言葉に「指揮監督」が当てられていることです。これも間違いではありませんが、一つ一つの業務に国が個別監督する意味は一切ありません。あくまでも国の機関が方向性を指示(し、その中で国でない機関がサービスを)する限りにおいて、条約の要求は満たしていると考えていいでしょう。日本語訳が「指揮監督」となっているから、「監督」の意味を広く取ることは許容されていません。


 まあ、そうやって考えていけば、この条項だけからは「ハローワークが国によって運営されなくてはならない」という結論は導けません(ただ、私はこの段階で地方移管すべきだと言っているわけでもありません。あくまでも条約の読み方の問題です。)。ある議員が「たしか、フランスではこのハローワーク的業務は地方移管されているはず。」というので、簡単にネット検索してみました。正確なところは分かりませんでしたが、たしかに「bureau de l'emploi(職業安定機関)」で検索すると地方自治体のサイトがたくさんヒットしたことは事実です。


 まあ、同条約第四条で「職業安定組織の構成及び運営並びに職業安定業務に関する政策の立案について使用者及び労働者の代表者の協力を得るため、審議会を通じて適当な取極が行われなければならない。」という条文がありますから、労使できちんと話し合いがつかなくてはこの話は動かないことになっているわけでして、徹底的な議論をしていくことが必要です。


 しつこいようですが、今日、私が書いているのは「国際法の読み方」だけです。