
超結果重視型システム総括 ~結局この三年間何やってたの?的な話~
どうもこんばんは霧島です。
2018年から静かに取り組んでいた超結果重視型システムがそろそろ一区切りということで、この三年と少しのことを振り返ってみようと思います。超結果重視型システムについてはこちらに詳しく書いてあるのでご一読いただければと思います。
2018年…まず手始めに仕事を辞めましたね…まあこれは計画していたというよりはタイミング的なものがあっただけなのですが。
いや、計画自体はしていたけど超結果重視型システムとタイミングが重なったのはまあ…そういうタイミングだったのだろうなと思います。(何回タイミング言うんだ)
もとよりマンガを描いて生活していきたいという気持ちは強くあったので、この辺りでやっと腹をくくった感じですね。
経験はマンガ家にとって確かに糧になると思うけどそうじゃない…ここからは少なくとも直接マンガに関わることで生きていくぞ…!と。(それまでは普通に接客業をしていた)
そんな感じで2018年に入り、プロのマンガ家の先生の下で背景その他のお手伝いをしつつ自作を進める…という形で生きようと思ってたんですが、アシスタントの仕事以外この一年間はマジでずっとネームをひたすらやっていました。
しかも完成させてハイ次とネームの本数を量産するのではなく一本のネームをずっと直し続けていた…私は絵を描くことが好きなので作画が一番テンションが上がるタイプの人間です。もうこの期間は本当にネームというかプロットというかそもそも企画というかのゴールが見えずめちゃくちゃしんどかった記憶が残っています。
サークルメンバーはじめ周囲の方々にも目に見えてわかるほどの迷走っぷりだったのではないかなと思います。
しんどかったですが、「しっかりネームを作る」ということを課題にしていたのでひいひい言いながらもなんとか頑張りました。
結局そもそもプロットが…という新たな課題にぶつかりますがまぁそれも自分の肚に落とし込むために必要な期間だったのだろうと思います。いや…読み切り一作に一年はどう考えてもアウトですけどね…
自作については滅茶苦茶迷走しましたが、一つの転換期として複数人の先生の下でアシスタントの仕事をさせていただいたのは本当に重要だったなと思います。2018年はずっとネームだったので、すぐ自分の作品に活かすことはできませんでしたが、特に作画面での意識の変化が大きかったように思います。それまでいかに自分が細部を意識できていなかったかを強く実感しました。画面上でのメリハリのつけ方、人物に合わせた背景作画など本当に勉強になることが多かったです。(すぐ実践できるかは別としてまずそういう視点を持つことが大事だとも思いました)
また、実際にコミックスになる過程を拝見したり、環境を整えることがどう作品に影響するのかを体験したりと「商業としてのマンガ」にしっかり触れられた一年だったなと思います。(繰り返しますが私自身の制作はうんともすんともいってませんでしたが)
そんな2018年を経て、2019年は苦しみぬいたネームをやっと作品にすることができました。それが「すす竹のかぐや姫」です。2019年時点でまだどこの出版社とも関係を結べていないのはRandom Walkマンガメンバーの中で私一人だったので、それも情けないなあという思いが強かったのですが、ここでやっと編集の方とご縁ができました。と言ってもこのあと制作した「月が出るまで待って」は私の趣味に全振りした作品になっています。
エクセルで細かく状況や心情を書き出してみるも、どうもうまく作品とマッチさせることができずにまたしても右往左往してましたね…。
2018年の悪夢再び…となるのをサークルメンバーの力を借りつつなんとか免れながら、とにかく美少年を描きたいという気持ちだけで動いていた時期でした。
ここでの発見は「自分の好きなものを貫くならその良さを他者に伝える努力を怠ってはいけない」ということですかね…当たり前のことを一から踏んでいかないと私という人間は理解できないようですね…
右往左往は相変わらずですが、2018年よりはいいペースで制作に取り組めた2019年でした。この年はアシスタントの仕事も倍に増え、少しずつ安定しだした時期だったように思います。(私の技術的にはまだまだ未熟ですが)とにかく何も実績のない最初に仕事をもらうのがものすごく大変だったので、コンスタントに呼んでもらえる現場が増えたのは本当にありがたかったです。
そうして2019年の秋辺りから、本格的に担当さんに企画を送り始めました。より読者を意識するようになったのは間違いなくこの辺りからだと思います。(実際にできているかは以下略)
そして2020年は恐らく過去一作品制作に取り組む時間が長かった年だと思います。と言っても相変わらずネームが遅いので読み切り2本と連載用ネーム3話分ですが…
結果としては3年以内になんとかデビューできたかなというところですが、それもひとえにサークルメンバーはじめ様々な形で関わってくださった方々のおかげだなと改めて思います。まじで一人じゃなんにもできないんだな…と実感する日々です。
制作面において、例年と比べて一番の違いは「読者の共感」を意識するようになった点かなと思います。殊少女マンガにおいて共感はとても重要なのですが、口で言うのは簡単でも実際読んで共感できる作品を作るのは、私はすごく難しいなあといつも感じています。世の作家さんたちは本当に…すごい…
また、キャラクターの深掘りについても依然と比べしっかり取り組むことができたのではないかなと思います。私はマンガはとにかくキャラを好きになるかどうかが一番重要だと思っているので、ここは今後も大切にしていきたいと思っています。私はキャラクターの思考をトレースするような感じでストーリーを展開していくところがあるので、キャラのことがよくわからないのは致命傷だな…とようやく気付きました。日々自分の生み出したキャラクターと仲良くなれるように精進したいと思います。
2020年は私にしては結構沢山映画を見た年でもありました。コロナ禍であることも相まっておうち時間が増えたのと、サブスクがすごく充実してる点がうまくマッチしたなと感じます。面白い作品を観るのは単純に楽しいし、私もこんな話作りたーい!と創作意欲が沸くし、つまらない作品を観るのもそれはそれで私ならこうする!と創作意欲が沸いてどちらにせよ良い刺激になります。最近はしばらく映画を観ないと落ち着かない身体になりました。気分転換にもなるし、映画鑑賞は今後も続けていきたいなと思います。
最後に、上記の三年間を経て2021年どうにか連載という形で作品を制作できるようになりました。(といっても短期ですが)
色々試行錯誤したくさんの助けを借りてなんとかここまで来られたこと、まずはよかったなと思います。
以上、ざっくりではありますが、超結果重視型システム導入後の私の三年間でした。今回一区切りとはなるものの、目指すところは変わらないので成果の出たものについては引き続き継続する形でやっていければなと思います。
どうぞ今後ともRandom Walkをよろしくお願いします。
したらば!
rin
創作と心理学
須々木です。
先週サイトにて更新した「超結果重視型システム」に少しだけ関連のある話題に触れたいと思います。
(ちなみに、「超結果重視型システム」のページは今月中にもう一発更新して完全版になります)
改めて経緯の詳細は説明しませんが、2018年4月以降、「超結果重視型システム」と銘打って集中して商業漫画に向き合ってきた影響で、サークル内では関連する知識の集積が急速に進みました。
日々、漫画組3人がアレコレ動くたびに、興味深い情報がサークル内に共有されていきます。
それまでも、たびたび商業漫画関連ネタは触れられてきましたが、質・量どちらをとっても、以前とは比べ物にならない勢いで蓄積されていきました。
本当にわんさかと。
というわけで、放置したら積もる一方の大量の知識の山をどうしましょう。
まとめて適当に倉庫に突っ込んでおくと肝心な時に使えません。
どんな知識も使いどころが重要で、そのためには、知識そのものに対する理解が求められるでしょう。
その知識は、どのような場面で、どの程度の効果を期待できるのか?
というわけで、適当に倉庫に突っ込むのではなく、整理してタグでもつけて棚に収める必要があります。
漫画組がゲットしてくる情報は、漫画を制作するわけではない僕にとっても興味深いものが多く、毎度聞きながらあれこれ思考を巡らすのですが、
現場のプロからもたらされる“生の声”は大変貴重で、やはりネットに氾濫する情報とは質が根本的に違うなと改めて思いました。
一方で、それらの貴重な知識が体系づけられているのかというと、必ずしもそうではないと感じることがそれなりにありました。
(もしかすると、編集部内ではもっと体系づけられているのかもしれないが)
もっと言えば、第一線で仕事をしているからこそ得られる膨大な情報をもとにした経験則がベースだという印象です。
圧倒的な情報に裏付けされた経験則は、反論が難しいものです。
一方で、「反論が難しい情報」を授けられたからといって、それを自在に使えるかといったら別の問題。
「圧倒的な経験」自体を授かることはできないわけですし。
あくまで授かるのは、抽出された部分。
このような知識の伝授は、効率的だし便利かもしれないけれど、そのままだと使いどころが限定されてしまうようにも感じます。
つまり、「漫画制作において」「商業漫画制作において」「青年漫画において」「少女漫画において」など、リミッターがついた状態の武器を授かったようなもの。
リミッター付きの武器を渡されたらどうしたくなりますか?
当然、リミッターを外したくなりますよね。
これすなわち、知識の「一般化」。
「超結果重視型システム」では、かなり商業寄りのやり方をしてきましたが、一方でRWは本来、同人・商業を問わない“自由な創作”を掲げる集団です。
そして、漫画だけでなく、あらゆる創作媒体を扱えるようになりたいとも思っている集団です。
せっかくの貴重な知識が、リミッター付きのままだと大変勿体ない。
やはり、「一般化」はやらねばならぬ。
・・・などということを、なんとな~く思っていたところで。
先月、Newton(2021年6月号)の心理学の特集を読んでいて「これ使えるんじゃね?」と感じ、その後、サークル内でも共有してみました。

人の感情など内面的な現象、すなわち圧倒的に主観的なネタに、どうにか頑張って客観性を見出し体系化するのが心理学(ゆえに、「これは科学なのか?」という問いかけがついて回る)だと思いますが、
創作における「経験則」に客観性を持たせ、「一般化」し、使いどころを整理し武器として装備する過程も、かなり近いものを感じます。
というわけで、実際にサークル内で記事を参照しつつ共有したお話を少しばかり紹介したいと思います。
◆吊橋効果
ラブコメとかでも頻出のやつですね。
Newtonで紹介されていた実験とほぼ同内容のものがwikipediaにあるので、そちらもあわせてどうぞ。
雑に説明すれば、「ドキドキする」→「この人が魅力的だからだ!」というやつ。
ラブコメのネタ的な意味以外では、創作とあまり関係ないだろう・・・と思うかもしれませんが、チョイ待てよ。
自分の作品のキャラを好きになってもらうにはどうすれば良いか?
↓
読者を吊橋に乗せれば良いじゃないか。
↓
もちろん、リアル吊橋で漫画を読ませるというわけではなく、読んでる感覚として「揺さぶる」という意味で。
↓
すなわち、劇的な展開で読者を揺さぶること(読んでいてドキドキ)に成功したキャラは、好感度を上昇させることができるのではないか?
つまり、キャラを好きになってもらうには、吊橋効果の積み重ねが良いということかもしれない。
「設定ではなく展開で見せろ」という趣旨のアドバイスはよくある気がしますが、これは言い換えれば「吊橋効果を重ねていけ」なのかもしれないなと。
「緩急つけて揺さぶれ」という感じ。
いろいろなタイプの作品がありますが、特に、キャラに共感してもらうタイプの作品では、非常に使いやすい考え方の気がします。
読者をいかにして吊橋に乗せるか。
読者を揺さぶることで、より好きになってもらう。
「読者を揺さぶるべし」「読者を転がすべし」とは、「意図的に吊橋効果を発生させろ」なのではないかと。
ところで、吊橋効果の記事で興味深いことが書いてありました。
wikipediaにも同内容の部分があるのでちょっと引用。
メリーランド大学のグレゴリー・ホワイトは、吊り橋の緊張感を恋愛感情と誤認するには、実験で声をかける女性が美人かどうかで結果が左右されるのではと考えた。実際にメイクで魅力を低下させた女性で同様の実験を行ったところ、美人ではない場合には吊り橋効果は逆効果であることがわかった。
熱心なファンを生む作品(特に、キャラが支持されるタイプ)というのは、ここまでの理屈で言えば「読者に対する揺さぶりがうまいため、吊橋効果的に好感度がアップしている」と解釈されます。
ただ、吊橋効果が、「もとから好感度プラスの場合に、そのプラスを増幅させる」「もとの好感度がマイナスの場合、そのマイナスを増幅させてしまう」ということになると、
「読者に対する揺さぶりがうまい作品は、もとから相性の良い読者を熱心なファンにする一方で、もとの相性が良くない読者を強力なアンチにする」と解釈できる気がします。
そして、実際、そんな作品は枚挙に暇がないような気がします。
ということで、心理学でも非常に有名な「吊橋効果」の部分をピックアップしてみました(かなり端折ってますが)。
サークルでは、こんなノリで、あれこれ創作との接点を探りつつ順に記事を参照して意見交換していきました。
なお、特集記事は56ページで、吊橋効果は2ページ分なので、全体では結構なボリュームでした。
おかげで、心理学の色々な話題と創作に関わる具体的な例を探ることができました。
吊橋効果の例では読者に対する心理学的効果に触れましたが、勿論、作中におけるキャラの心理を考える上でも役立ちますし、集団で活動しているので「集団心理」の話題も役立ちます。
いずれも、「○○に違いない」というような話ではなく「○○と解釈することも可能」という感じですが、個々の知識を繋げて使い勝手の良い状態にするヒントにはなりそうです。
貧乏性なので、入手したものは最大限有効活用。
そのためのちょっとした独自研究みたいな感じの話でした。
sho
霧島凜「先生、ずっと夜がいい。」連載スタート!+α
Random Walkのたまに広報担当・須々木です。
霧島凜の漫画新連載が始まったので、そのお知らせプラスアルファを。
集英社女子向けアプリ、マンガMeeにて6\2(水)より初連載「#先生ずっと夜がいい。」スタートしました!少しでも楽しんでいただけると嬉しいです。
— 霧島凜(Random Walk) (@rw_rin) June 1, 2021
アプリはこちらからhttps://t.co/G05xxXNP3V pic.twitter.com/ot0UByVMn2
このブログを日頃から追ってくれている方や、Random Walk関連アカウントをフォローしてくださっている方はすでにご存知だと思いますが、
本日6月2日(水)より、
霧島凜の漫画「先生、ずっと夜がいい。」
連載スタートしました!
(週刊連載。初回は第1~3話公開)
集英社の女子向けマンガアプリ「マンガMee」での配信となります。
スマホからアプリをダウンロードしてお楽しみください。
詳細は、霧島がすでにブログにまとめているので、そちらをご覧ください。
2021年2月末のチャレンジMeeグランプリ受賞で連載権をゲットし、そこからモリモリ頑張っていましたが、ようやく始まったなという感じです。
短期連載とのことで、始まればあっという間かもしれませんが、だからこそ今見るべし!
* * *
関連する話題なので、ついでにもう一つお知らせを。
Random Walkは、2018年4月より「超結果重視型システム」なる体制をとり、珍しくひたすら結果重視の方針で活動していました。
そして、このたびシステム終了条件の一つ「RWメンバーのいずれかが商業デビューし、商業連載もしくはそれに相当する状況に至る」を達成したので、シメに入りたいと思います。
近いうちに、システム期間中のあれこれをまとめたページを公開します。
期間中オープンにしていなかった情報などもまとめて出すので、興味のある人は是非ご覧ください。
●「超結果重視型システム」期間中の出来事(受賞関連を中心に抜粋)
2019/8/15
遊木の漫画「クラウン」がヤングジャンプシンマン賞#72の期待賞+初投稿賞受賞。
2020/4/30
霧島の漫画「恋を食む」が第18回マンガMee新人賞の奨励賞受賞。
2020/6/15
遊木の漫画「Good-bye wolf」がヤングジャンプシンマン賞#82の佳作受賞(デビュー相当)。
2020/9/4
霧島の漫画「私のオーダーメイド」が第1回マンガMee翌日デビュー漫画賞の準グランプリ受賞(デビュー)。
2020/10/22
米原の漫画「トモダチ宇宙人と笑わない少女」がヤングジャンプ40周年記念賞金総額最大1億円40漫画賞の宇宙漫画賞佳作受賞。
2020/11/12
遊木の漫画「Undead Love」がヤングジャンプ40周年記念賞金総額最大1億円40漫画賞のゾンビ漫画賞佳作受賞。
2021/2/26
霧島の漫画「先生、ずっと夜がいい。」がチャレンジMee 2021年2月期のグランプリ受賞(連載確約)。
2021/6/2
霧島の漫画「先生、ずっと夜がいい。」がマンガMeeで連載開始(初連載)。
ページ公開時には、もっといろいろな情報をまとめます。
しかし、こうやって改めて眺めると、なぜか集英社ばかりですね。
漫画3人衆、日々モリモリ頑張っているので、引き続き応援よろしくお願いします!
【6.7追記】「超結果重視型システム」のページを公開しました!
sho
初連載始まりました。
どうもこんばんは霧島です。
本日6/2より集英社の少女マンガアプリ、マンガMeeにて初連
なんと週刊連載です…こわい。

こちらの作品は今年の2月にマンガ投稿サイト、マンガmeets
失恋の痛手を癒す為に呼んだ添い寝屋さんが実は…?というような
11話連載予定で、初回は1話無料、2話チケット、3話コインか
ちょっと簡単にマンガmee のシステムについてご紹介しますね!
マンガmeeでは無料閲覧、チケットを消費しての閲覧、コインで
どの作品も大体初回3話くらいは無料での公開となっていますが、
チケットは各作品1日一回使うことができ、23時間経つと自動的
次にコインですが、こちらは先読みとなっているエピソードが対象
ちなみにコインは通常のコインとボーナスコインがあって、通常の
また、ボーナスコインは広告動画の視聴などでゲットできます。
コインで購入したエピソードも閲覧できるのは初回に読んでから7
色々書きましたが週刊連載なので1週間待てば自動的に1エピソー
あと各ページタッチすると♡が送れるようになってます。(いいね
連載作品の数がとても多いので、いいなと思う作品に出会ったらお
マンガMeeではオリジナル連載の他にも、リボンや別マ、クッキ
今何作品掲載されているのか正確な数は把握していませんが、歴代
アプリはこちらから。
それから現在チャレンジMeeの第3回である6月期が丁度開催さ
チャレンジMeeは1話完成原稿、2、3話ネームで読者投票を考慮したうえで連載作品が決定するという企画です。(私はこちらの第一回に参加しました)
今回期間は6/1から6/14の2週間ですので興味のある方はぜひご
それではつらつらと宣伝ばかりでしたが、初連載頑張っていきたい
したらば!
rin
R.I.P. KENTAROU MIURA
【三浦建太郎先生 ご逝去の報】
— ヤングアニマル公式 (@YoungAnimalHaku) May 20, 2021
『ベルセルク』の作者である三浦建太郎先生が、2021年5月6日、急性大動脈解離のため、ご逝去されました。三浦先生の画業に最大の敬意と感謝を表しますとともに、心よりご冥福をお祈りいたします。
2021年5月20日 株式会社白泉社 ヤングアニマル編集部 pic.twitter.com/vy923fIqiP
須々木です。
20日にネットで第一報を知ったときは、正直、「あー……」と溜息しか出ないような感覚でした。
執筆ペースは遅いものの、特に体調不安の話も聞いていなかったので「いきなりこれか……」と。
悲しいというよりは喪失感。
そして「ベルセルク、もう続きはないのか……」と。
実は、「どうせ続きはすぐには出ないから、数巻ためて読もう」と思って2、3冊未読のまま放置していたのですが、もう待つ必要もなくなってしまったので、その日のうちに最新40巻まで読みました。
「ガッツたちの旅や戦いは終わらないけれど、それでもこれで終わってしまうのか……」と思いつつ読み進めていきました。
偶然にも、40巻が内容的に一つの大きな区切りで、なんとなく「結局、ここに至る物語だったのかな」と妙に心穏やかになりました。
それから2、3日して、今度は第1巻からゆっくり味わいながら久々に読み返し始めました。
まだ読み返しの途中ですが、内容も全て知っているはずなのに、改めて読んでも強く響くものが端々にあります。
第2話(コミック1巻「烙印」)に、ガッツのこんな台詞があります。
「どんなことだろうと
やりたいようにやって
死んだんだろ?
幸せ者だぜ
そいつは」
三浦先生の死に際して、静かに噛みしめたい言葉です。
一方で、ちょっとの間をおいてガッツの台詞は続きます。
「…もっとも
死んじまったら
それまでだけどな
そこから先は
無いさ」
「悪いけど
少し 寝かして
もらうぜ」
ベルセルクを見れば、重厚な世界を大胆かつ緻密に描きだす画力に圧倒されます。
でも、個人的に本当に凄いと感じるのが、哲学を伝える言葉の力強さ。
言葉がうまい人は結構いる気がします。
でも、ここまで芯のある強さを感じさせる言葉を語れる人は多くないと思います。
「祈るな!!
祈れば
手が
塞がる!!」
印象的な場面や言葉は本当にいくらでもありますが、一つあげるなら21巻のこの台詞です。
この台詞をあげる人は結構いる気もしますが、実は作中でそれほど大きく強調された台詞ではありません。
でも、本当に力強いし、始めて読んだとき「これだ」と思った記憶があります。
「祈るな」は、場合によっては「嘆くな」とも言い変えられるでしょう。
勿論、祈ったり嘆いたりすることで己を保たねばならない人はいるでしょうし、そのことを否定する気は全くありません。
あくまで僕が自分自身に向けて刻んでおきたい言葉であり、理屈抜きにストンと落ちた物凄く分かりやすい表現です。
良い作品に登場するキャラクターは、相手を煽るのがうまい気がします。
読み返していても、ガッツをはじめベルセルクの魅力的なキャラたちは咄嗟に相手の痛いところを突き、相手を動かすのがうまい。
これは、言い換えれば、相手の本質を見抜く感覚の鋭さを示しているのでしょう。
そして同様に、三浦建太郎という漫画家は、作品によって読者を煽るのが非常にうまい人だったと思います。
ハッとさせるような、感情のより深いところから揺さぶるような、そんなパンチ力ある表現の数々は、現代を生きる人々の本質を鋭く見抜いているからこそと感じます。
見映えよく整えられた表面ではなく、その下の層、下の層へと観察を深めていき、そこを突いてくる。
そうやって、現代を漫然と生きる読者を見事に煽り、刺激し揺さぶり、刃を食いこませてくる。
互いに武器を手にし対峙しているわけでもないのに、これができてしまう。
だからこそ、凄い作家だと感じます。
だからこそ、もっと見たかった。
けれど、それは叶わない。
道半ばとは言え、間違いなく偉大な作品を生み出した偉大な作家です。
改めて、ご冥福をお祈りします。
でも、ベルセルク読者としては、あまり祈ってるのもどうかと思うので、これを新たなエネルギーとするしかないのでしょう。
あらゆるネガティブな感情を飲み込んでなお前進するための糧へ昇華してきたガッツのように。
お疲れ様でした。
どうか安らかに。
sho