創作と心理学 | 乱歩酔歩--Random Walk official blog--

創作と心理学

須々木です。


先週サイトにて更新した「超結果重視型システム」に少しだけ関連のある話題に触れたいと思います。

 (ちなみに、「超結果重視型システム」のページは今月中にもう一発更新して完全版になります)

 

 



改めて経緯の詳細は説明しませんが、2018年4月以降、「超結果重視型システム」と銘打って集中して商業漫画に向き合ってきた影響で、サークル内では関連する知識の集積が急速に進みました。


日々、漫画組3人がアレコレ動くたびに、興味深い情報がサークル内に共有されていきます。
 

それまでも、たびたび商業漫画関連ネタは触れられてきましたが、質・量どちらをとっても、以前とは比べ物にならない勢いで蓄積されていきました。

 

本当にわんさかと。

 

 

というわけで、放置したら積もる一方の大量の知識の山をどうしましょう。

 

まとめて適当に倉庫に突っ込んでおくと肝心な時に使えません。

 

どんな知識も使いどころが重要で、そのためには、知識そのものに対する理解が求められるでしょう。

 

その知識は、どのような場面で、どの程度の効果を期待できるのか?

 

というわけで、適当に倉庫に突っ込むのではなく、整理してタグでもつけて棚に収める必要があります。

 

 

 

 

漫画組がゲットしてくる情報は、漫画を制作するわけではない僕にとっても興味深いものが多く、毎度聞きながらあれこれ思考を巡らすのですが、

 

現場のプロからもたらされる“生の声”は大変貴重で、やはりネットに氾濫する情報とは質が根本的に違うなと改めて思いました。

 

一方で、それらの貴重な知識が体系づけられているのかというと、必ずしもそうではないと感じることがそれなりにありました。

(もしかすると、編集部内ではもっと体系づけられているのかもしれないが)


もっと言えば、第一線で仕事をしているからこそ得られる膨大な情報をもとにした経験則がベースだという印象です。

圧倒的な情報に裏付けされた経験則は、反論が難しいものです。

 

一方で、「反論が難しい情報」を授けられたからといって、それを自在に使えるかといったら別の問題。

 

「圧倒的な経験」自体を授かることはできないわけですし。

 

あくまで授かるのは、抽出された部分。

 

このような知識の伝授は、効率的だし便利かもしれないけれど、そのままだと使いどころが限定されてしまうようにも感じます。

 

つまり、「漫画制作において」「商業漫画制作において」「青年漫画において」「少女漫画において」など、リミッターがついた状態の武器を授かったようなもの。

リミッター付きの武器を渡されたらどうしたくなりますか?

 

当然、リミッターを外したくなりますよね。

 

これすなわち、知識の「一般化」。




「超結果重視型システム」では、かなり商業寄りのやり方をしてきましたが、一方でRWは本来、同人・商業を問わない“自由な創作”を掲げる集団です。

 

そして、漫画だけでなく、あらゆる創作媒体を扱えるようになりたいとも思っている集団です。

せっかくの貴重な知識が、リミッター付きのままだと大変勿体ない。

 

やはり、「一般化」はやらねばならぬ。








・・・などということを、なんとな~く思っていたところで。

 

先月、Newton(2021年6月号)の心理学の特集を読んでいて「これ使えるんじゃね?」と感じ、その後、サークル内でも共有してみました。









人の感情など内面的な現象、すなわち圧倒的に主観的なネタに、どうにか頑張って客観性を見出し体系化するのが心理学(ゆえに、「これは科学なのか?」という問いかけがついて回る)だと思いますが、

 

創作における「経験則」に客観性を持たせ、「一般化」し、使いどころを整理し武器として装備する過程も、かなり近いものを感じます。


 

というわけで、実際にサークル内で記事を参照しつつ共有したお話を少しばかり紹介したいと思います。

 

 

 


◆吊橋効果

 

 

ラブコメとかでも頻出のやつですね。

 

Newtonで紹介されていた実験とほぼ同内容のものがwikipediaにあるので、そちらもあわせてどうぞ

 

雑に説明すれば、「ドキドキする」→「この人が魅力的だからだ!」というやつ。

 

ラブコメのネタ的な意味以外では、創作とあまり関係ないだろう・・・と思うかもしれませんが、チョイ待てよ。

 

 

 

自分の作品のキャラを好きになってもらうにはどうすれば良いか?

 ↓

読者を吊橋に乗せれば良いじゃないか。

 ↓

もちろん、リアル吊橋で漫画を読ませるというわけではなく、読んでる感覚として「揺さぶる」という意味で。

 ↓

すなわち、劇的な展開で読者を揺さぶること(読んでいてドキドキ)に成功したキャラは、好感度を上昇させることができるのではないか?

 

 

 

つまり、キャラを好きになってもらうには、吊橋効果の積み重ねが良いということかもしれない。


「設定ではなく展開で見せろ」という趣旨のアドバイスはよくある気がしますが、これは言い換えれば「吊橋効果を重ねていけ」なのかもしれないなと。

 

「緩急つけて揺さぶれ」という感じ。
 

いろいろなタイプの作品がありますが、特に、キャラに共感してもらうタイプの作品では、非常に使いやすい考え方の気がします。

 

読者をいかにして吊橋に乗せるか。

 

読者を揺さぶることで、より好きになってもらう。

 

「読者を揺さぶるべし」「読者を転がすべし」とは、「意図的に吊橋効果を発生させろ」なのではないかと。

 

 

ところで、吊橋効果の記事で興味深いことが書いてありました。

 

wikipediaにも同内容の部分があるのでちょっと引用。

 

 

メリーランド大学のグレゴリー・ホワイトは、吊り橋の緊張感を恋愛感情と誤認するには、実験で声をかける女性が美人かどうかで結果が左右されるのではと考えた。実際にメイクで魅力を低下させた女性で同様の実験を行ったところ、美人ではない場合には吊り橋効果は逆効果であることがわかった。

 

 

熱心なファンを生む作品(特に、キャラが支持されるタイプ)というのは、ここまでの理屈で言えば「読者に対する揺さぶりがうまいため、吊橋効果的に好感度がアップしている」と解釈されます。

 

ただ、吊橋効果が、「もとから好感度プラスの場合に、そのプラスを増幅させる」「もとの好感度がマイナスの場合、そのマイナスを増幅させてしまう」ということになると、

 

「読者に対する揺さぶりがうまい作品は、もとから相性の良い読者を熱心なファンにする一方で、もとの相性が良くない読者を強力なアンチにする」と解釈できる気がします。

 

そして、実際、そんな作品は枚挙に暇がないような気がします。

 

 



 

ということで、心理学でも非常に有名な「吊橋効果」の部分をピックアップしてみました(かなり端折ってますが)。

 

サークルでは、こんなノリで、あれこれ創作との接点を探りつつ順に記事を参照して意見交換していきました。

 

なお、特集記事は56ページで、吊橋効果は2ページ分なので、全体では結構なボリュームでした。


おかげで、心理学の色々な話題と創作に関わる具体的な例を探ることができました。

吊橋効果の例では読者に対する心理学的効果に触れましたが、勿論、作中におけるキャラの心理を考える上でも役立ちますし、集団で活動しているので「集団心理」の話題も役立ちます。

いずれも、「○○に違いない」というような話ではなく「○○と解釈することも可能」という感じですが、個々の知識を繋げて使い勝手の良い状態にするヒントにはなりそうです。



貧乏性なので、入手したものは最大限有効活用。

そのためのちょっとした独自研究みたいな感じの話でした。





sho