このブログの初期に紹介した「ビジネススクールの学部」。本記事はその更新版です。
アメリカのトップスクールの多くはMBAその他の大学院レベルの教育に専念しています(M7の中で言えば、WhartonとMIT Sloanを除く)。しかしそれ以外の大学(UCB Haas、Michigan Ross等のトップ州立大を含む)ではほぼすべての大学で学部レベルの教育を提供しており、卒業生の人数も極めて多くなっています。そうしたところで教育を受けたプロフェッショナルは層も分厚く、社会的にも大きな役割を果たしています。
「ビジネススクールの学部」とは?
「ビジネススクールの学部」は、卒業後のキャリアと密接に結びついたジュニア・プロフェッショナルの養成課程です。専門的な職能教育としての色合いが強く、プロフェッショナルとしてのスキルセット・マインドセットを(直截的な言い方をすれば)叩き込んでくれます。ビジネスプロフェッショナルらしい積極的なコミュニケーションと、分析的なスキル(エンジニアのようにモノを作ったりするわけではないにせよ、数学・数字に強くITも得意な、見方によっては「理系的な」スキルセットを持っている人も多いです)を重視します。私が思う学習内容の特徴は以下の通りです。
(1)幅広い教育
ビジネススクールの学部は、MBAのようにビジネスの一通りの分野(財務、会計、ミクロ・マクロ経済学、統計学、マーケティング、オペレーション、経営戦略、リーダーシップ…)をカバーするコアコース(必修科目)から教えられます。コアコースのボリュームは多く、3年生の前半ぐらいまでそうした科目に費やしている場合も多いようです。そうしたコアコースを通じ、ビジネスの様々な局面に幅広く対応するとともに、幅広いプロフェッショナルとコミュニケーションを取り、リーダーシップを発揮できる人材の育成を目指しています。学位の名前も、BBA(Bachelor of Business Administration)、BSBA(Bachelor of Science in Business Administration)といった、MBA(Master of Business Administration)とも類似した学位名になっていることが多いようです。
(2)深い専門性
ビジネススクールの学部教育は、そうした幅の広さを志向すると同時に、管理職・ゼネラリスト養成課程であるMBAと比較すればスペシャリスト志向のカリキュラムになっていることも多いです。MBAの場合、授業を4つ程度取れば専攻(Concentration)の条件を満たせる形になっていることが多く、2つの専攻を取ることも一般的ですが、学部では上記のコアコースを終えた後は単一の専攻(Major)に向けたカリキュラム構成になっていることも多く、MBAよりは自分の専攻分野に時間を取って勉強することができます。
一方、学術的な大学院(修士博士一貫課程)への接続はあまり重視されていない場合が多いように見えます。例えば学部でファイナンスを専攻したとしても博士課程で通用するような数理的な内容は身につくとは考えにくく(2重専攻等、別のところで時間を取って勉強していれば別ですが)、大学院では別途、理系出身者を中心に採用している場合が多いでしょう。この辺の割り切りはアメリカの大学の大きな特徴だと思います。MBA等の専門職大学院に進む人は勿論多くいます。
卒業後は各々の分野の専門的なポジションで務めることになります。就職先は専攻により大きく異なりますが、金融機関・会計事務所・コンサル等で専門的な経験を積む人も多いようです。
主な提供分野
ここから先は、分野ごとに提供されているプログラムの一般的な概要を書いていきます。
(1)ファイナンス
定番のファイナンス。ビジネススクールの学部でも花形です。投資論、コーポレートファイナンス、デリバティブ等を始めとしてファイナンス分野の幅広い領域を勉強することができます。但し、先に述べた通りビジネススクールの学部ではコアコースの履修に多くの時間を使うこともあり、数理的に高度な内容までは一般的にはカバーされません。学部の学習内容だけだと、CFAのレベルまでには到達しないことが多いようです。
キャリアパスは金融機関、コンサル、一般企業等、幅広くなっています。マーケット関係の就職先も勿論ありますが、カリキュラム的にはコーポレートファイナンスの方がフィットするケースが多いのではないかと思います。
(2)会計学
アメリカの会計専攻は、公認会計士(CPA)養成コースになっていることが殆どです。学部の会計学専攻は学習しなければいけない範囲が広く、ひたすら必要な範囲をカバーするだけで選択科目等もほとんどないケースも多いです。かなり忙しいと聞きます。CPAの取得要件は「単位取得」「資格試験」「実務経験」の3つに分かれており、最近は最初の「取得単位」の要件を満たすのに必要な単位数が増えているため、大学院まで進むのも一般的になっています。
卒業後は会計事務所等で経験を積み、試験に合格すれば晴れてCPAです。アメリカでは珍しく、新卒が積極採用されるキャリアパスです。また、新卒でも資格試験に合格する前から働き始めます。その後は企業等に転職していくことが多いと思いますが、会計事務所に残ったり独立開業するケースももちろんあります。
(3)経営学
学部でビジネス専攻を提供している大学では、組織論専攻を提供していることが多いです。アメリカの組織論専攻は、リーダーシップ、コミュニケーション、交渉論等、よりミクロかつ実践的なソフトスキルのコースに注力している印象があります。一方で組織論専攻は明確なキャリアパスに乏しく(つまり、リベラルアーツ分野と就職先が大差ない)、学部でビジネスを専攻するなら専門職としてのキャリアパスがよりはっきりした分野(ファイナンス、会計、経営情報システム等)の方がいいのでは、と考える人も少なくないのではないかと思います。
戦略論を学部で専攻分野として提供している大学はあまりありません。これは、心理学・社会学的な背景を持った組織論に比べ、戦略論が学問分野として比較的新しいことによるものだと思います。一方、コアコース(必修科目)には必ず戦略論が含まれており、これは必修の総まとめとして、事業全体を見渡す立場を言わば疑似体験してみる、というのが主たる目的です。戦略論がアカデミックな研究分野として確立される前からある伝統的な教育スタイルです。
(4)ビジネス・アナリティクス
ビジネススクールで提供されているデータ分析関係のプログラム。大学院(Specialized Masters)では高いレベルの前提(理系レベルの数学、プログラミング等)を置き、高度な専門性を身に着けさせるプログラムも増えていますが、学部の場合、おそらくビジネススクール全体で最低限、履修が必要なレベルを超える前提条件(数学で言えば、所謂「文系数学」程度)を求めるのは難しいのではないかと思います。そのため、学習内容はもちろんプログラミングや機械学習といった専門的な勉強が中心となりますが、学校によってはかなりテクニカルな内容に力を入れようとするケースもあれば、逆にビジネス・アナリティクスについては「専攻」までは設けずに「副専攻」に留める等、学生に教えられるスキルやキャリアパスを勘案して様々な工夫を凝らしているようです。
就職先としてはどちらかと言えばテック系だけでなく、コンサル・インダストリーへの就職も多いようです。
(5)経営情報システム
ITの技術とビジネスの両側面を学ぶ経営情報システム専攻。カリキュラムとしては、基礎的な情報技術・プログラミング、伝統的なデータベース・情報管理、システム分析・デザイン等に加え、クラウド・コンピューティング、データ分析、セキュリティ等の内容も増えているようです。ビジネスの側面ではIT戦略・プロジェクト管理・投資評価等についても勉強します。どちらかと言えば、エンジニアというよりは「情報システム担当者(又はコンサル)」向けのプログラムです。
最近は上記の「アナリティクス」とのクロスオーバー的な内容が増えているようです。「データ分析に強い情報システム担当者」というスキルセットは、実際的なニーズも高そうです。
(6)オペレーションズ・マネジメント
オペレーションズ・マネジメント。ビジネススクールで教えている科目の中で、日本では最も馴染みが薄いかもしれません。現場の生産管理、プロジェクト管理等を学ぶ、極めて実践的なプロフェッショナル志向の専攻です。また、工学部の中で教えられている経営工学ともかなり重なる専攻でもあります。ビジネススクールの数多ある専攻の中で、最も定量的とされており、生産・在庫・物流等、種々の計画策定・意思決定を行う際に有益な様々な定量分析の手法を勉強することができます。
アメリカの企業では実際の事業運営に係るポジションは「Operations(Ops)」と呼ばれ、卒業生の中にはそうしたポジションからキャリアをスタートする人も多いと思います。他にはコンサルティング等に就職する人もいると思います。一方、例えば「CPA」や「経営情報システム」等と異なり、この分野の専門職としてキャリアを積む、というよりは、最終的には総合的な経営管理・問題解決を志向するビジネスリーダーを目指す、という人が多いようです
(7)マーケティング
学部のマーケティングではマーケティング戦略・管理に加え、消費者行動論やマーケティングリサーチを中心とした伝統的な学習内容を教えているケースが多いと思います。一方でマーケティングの現場では様々なプロフェッショナルが進出しており、そのバックグラウンドもかなり多様になっているようです。例えばプロダクト・マネージャー(ある製品(又は一群の製品からなるブランド)のビジネス上の責任者)であればMBA的なビジネス・リーダーを志向するバックグラウンドの人もいるでしょうし、定量的な分析を専門とするアナリストであれば統計学を専攻した人もいるでしょう。広告やマーケティング・コミュニケーション関連の職種であれば、コミュニケーション学等の学科で関連する分野を専攻した人もいるようです。
ビジネススクールの学部でマーケティングを専攻した人は、そうした様々なバックグラウンドのプロフェッショナルと競合しながらキャリアを築いていくことが必要となっています。そのためビジネス分野の中では比較的、キャリアパスが見出しにくい領域とされているようです。
(8)国際経営
国際的なキャリアを志向するプロフェッショナルに幅広く対応した国際経営専攻。国際経営専攻の全体的なカリキュラムとしてはそうしたニーズに対応し、国際経営学、異文化マネジメント等に加え、国際金融、マーケティング、ロジスティクス等、コアコースの内容に国際的な内容を加えてもう一周するような形になっていることが多いのではないかと思います(別の言い方で言えば、必ずしも狭い意味での「経営学」にフォーカスしたプログラムではありません)。また、勿論、国際経営以外の他の分野(例えばファイナンス)を勉強しながらその分野における国際的な側面(例えば通貨の相違・為替レート等を考慮した財務管理)を勉強することもできるようになっています。
こうしたプログラムというのは、カリキュラムとしても、また学生のキャリア・パスとしても、どうしても「非・アメリカ(又は非・アングロサクソン)」的な問題・領域を主たる関心としているイメージがあります。そのため日本人としては、ちょっと横着な言い方ですが「国際的な=アメリカ的な=世界標準の」ビジネス・スキルを身に着けたいのなら、必ずしもこうした分野を勉強する必要はないと思います。一方で、そうした範囲を超えて世界中の様々な人々の中に飛び込んでキャリアを築きたいと願っている人であれば、きっと何らかの助けになるのではないかと思います。









