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ブレードランナー 2049を2回見て、ようやく考えがまとまってきた。この映画は、決してわかりやすいものではない。興行成績が振るわないのは当然であろう。しかし、見どころは多く、前作と同様に長く、見続けられる名作だと思う。
以下の考察は映画のネタを激しく徹底的に割っているので、まだ見てない人は見ないでくださいね。
本当にネタばれでもいいんですね。
You have been warned!
いいのですね。
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[3つのセクト]
わかりにくいのは、前作がLAPD(ロス市警) 対 逃亡レプリカントとという単純な二つのグループの戦いの物語であったのが、今作は下記の3つのセクトの絡みあいであり、しかも、誰がどのセクトに属しているか、一部意図的に曖昧になっているのが原因であると思う。
1. LAPD
2. ウォレス社
3. 逃亡レプリカント
前作にもタイレル博士とタイレル社はでてくるのであるが、あまり能動的な役割を果たしていない。
では、今作で登場人物がどの「セクト」に属しているのか整理してみよう。
LAPD
"K" (レプリカント)
"マダム” (人間)
ウォレス社
ネアンダル・ウォレス (人間)
ラブ (レプリカント)
レプリカントセクト
サッパー・モートン (レプリカント)
デッカード (?)
レイチェルの遺体 (レプリカント)
マリエッテ (娼婦) (レプリカント)
フレイサ (リーダー) (レプリカント)
アナ・ステライン (レプリカント)
"K"の彼女であるジョイは、人間でもレプリカントでもないAIのホログラフィである。彼女のメーカーはウォレス社であるが、人格は "K"の味方のように見える。
物語の中心的なプロットは「レイチェルとデッカードの間に生まれたレプリカントの子供を、抹殺したいLAPD, 発見して研究したいウォレス社、隠して生き延びさせたいレプリカントセクトの3者の争い」である。
[5つの謎]
このプロットを頭にいれて見ると映画はややわかりやすくなってくる。 それにしても、まだいくつもの謎が説明されないままに残る。
謎1:「なぜ "K"に「木馬と孤児院」の記憶が植えつけられていたのか」
この記憶はアナ・ステラインが自分の記憶を元に「製造」したもので、ウォレス社に製品に組み込まれるために「納品」されたものに思われる。では、この記憶は同モデルのレプリカントすべてに組み込まれていたのだろうか?それとも、”K"が特別の役割を果たす前提で何者かが特別に組み込んだのであろうか。
アナが"K"に会ったときに、スキャナーのような装置で"K"に「木馬と孤児院」の記憶を見せられて動揺し涙を流す。ということはやはりこの記憶は一般的なレプリカントに埋め込まれているものではないとおもわれる。
映画では、"K"の過去(記憶ではなく)について特に説明がなかった。見たところ、生活感のある住居や、以前からマダムの部下だったような雰囲気で、ブレードランナーとしてLAPDで数年は働いていたようではあるが、本当にそうなのだろうか。
レプリカントはいきなり大人として製造され、最初の日から働けるようになっているはずである。成長したり、学校で勉強したりする必要はなく、製造された時点で必要な知識・能力、そして記憶までも与えられているようである。
ということは"K"は「レイチェルの子供を捜す」というミッションだけのためにウォレス社により製造されたばかりのレプリカントである可能性もある。だとすると「木馬と孤児院」という特別な記憶を与えられたことも説明はつく。ただし、ウォレス社はアナがレイチェルの子供であることは知らないはずなので、ウォレス社がこの記憶を選んだはずはない。それを選べたのはアナ本人か、レプリカントセクトの誰かでしかないはずである。
そうだとすると、"K"の製造過程にすでに、ウォレスの意図と、レプリカントセクトの意図の両方が紛れ込んでいることになる。
映画の中で "K"は「自分は誰」ということに悩むのであるが、映画を見ている我々にも実はそれは謎なのである。
謎2:「マリエッテなど3人のレプリカント娼婦はなぜ"K"に目をつけたのか」
"K"がブレードランナーであることは秘密ではないようなので、何かを探るために彼女たちが接近した、というのはありそうである。ただ、それにしてはタイミングが良すぎる。もしかすると、レプリカントセクトは "K"がどのような役割を果たすレプリカントであるかをあらかじめ知っていたのではないか。
謎3:「ジョイは誰の味方なのか」
ジョイはウォレス社の製品のAIで、映画のなかで"K"と行動する「個体」は"K"の味方であるように振舞う。だが、彼女はあくまでもウォレス社の「製品」なのである。映画の途中でポータブルプロジェクタにダウンロードされ、アンテナを折られるまではウォレス社のクラウドに接続されたアパートの端末上で動作していたようで、移動中もウォレス社につながっていたようである。ということは、実はウォレス社は彼女を通じて"K"を監視していた可能性もある。
映画の前半で"K"はポータブルプロジェクタを手に入れてジョイに「プレゼント」として渡す。どうもかなり高価なもののようである。そもそもレプリカント刑事にそのような給与は支払われるのであろうか。これは何者かが"K"が常にジョイを持ち歩くように「持たせた」のかもしれない。
マリエッテとジョイが重なりあって"K"とセックスする、という凝ったシーンがあるが、これは実はジョイを動かしているのはウォレスではなくてレプリカントセクトであることの暗喩かもしれない。
謎4:「アナ・ステラインはどのような経緯であの「記憶アーチスト」として働くようになったのか」
アナはレプリカントセクトのとっては「奇跡」の象徴であり厳重に保護するべき存在である。ウォレスが追い求めている存在であるにもかかわらずなぜウォレスに「記憶」を納品する仕事についているのであろうか。アナは「ウォレス社に買収されそうになったが断り、契約で仕事をしている。」と語っている。
確かに他の逃亡レプリカントのようにスラムやサンディエゴのゴミ捨て場に隠れるより、逆にウォレス社のそばに隠したほうが良い、という考えなのかもしれない。
また彼女はレプリカントであるレイチェルから生まれたのではあるが、人間のDNAを持った赤ん坊として生まれ成長したらしいので、レプリカントのように体のどこかにシリアル番号が埋め込まれてはいないから、検査をうけても人間だと判定されるかもしれない。また「大停電」でレイチェルやデッカードのDNA情報も失われているとするとDNA検査でも発覚しない可能性もある。
そう考えると、彼女はレプリカントセクトの意図により、あえてレプリカントの記憶を製造する、という仕事をしてウォレス社の近くに配置された可能性もある。
謎5:「デッカードはレプリカントか?」
これは前作から続く謎で、映画のなかでは明示的には明らかにされていない。ただ、様々な状況証拠は彼がレプリカントであることを示唆している。
人間が居住困難と思われる核汚染されたラスベガスに住んでいる。
ウォレスが彼の名前を他のレプリカントの名前と一緒に列挙して語っていた。
レプリカントが「老化」することは、サッパー・モートンの例を見れば明らか。
また、なぜデッカードとレイチェルの間には子供が生まれたのか、ということを考えると、もしデッカードが人間だとすると、生殖能力をタイレルにより与えられたレイチェルは普通の人間との間でも妊娠できたことになる。それよりも同様に生殖能力を与えられて製造されたデッカードとの間でのみ生殖可能であったと考えるほうが生物工学的な難易度は低そうである。
物語としても、デッカードも"K"も何者かにより特定のミッションのために製造されたレプリカントであるが、本人達はその意図を意識はしていないくて、与えられた「記憶」「意識」「能力」に突き動かされていくだけで、結局その製造者の意図を達成してしまう、という同じ構造を両方の作品に与えることになり、P,K.ディックの小説世界を正しく体現していることになる。
[真相?]
ここまでで、この映画の物語の5つの謎について考えてみたが、これを元に、映画にでてこない部分の物語を勝手に妄想してみる。
「ブレードランナー 隠された物語」
前作の事件の直前にタイレル博士はレプリカントによる生殖の技術を秘密裏に開発していた。そのプロトタイプとしてレイチェルとデッカードは製造された。さらにただ単に妊娠可能にするだけではなく人間の両親のように子育てをして人間と同じように真実の記憶をもつ本物の人間が生まれることまで想定した。
そのため、この「レイチェル=デッカード型レプリカント」には寿命はなく、人間のように老化し、人格も成長し、子供を生み育て、自分がレプリカントであることは製造者に告げられない限り知らない。
前作でデッカードがロイ・バディーなどの逃亡レプリカントを追跡する仕事をしているのは、タイレル博士の真の意図とはあまり深く関係してはいない。何か充実感のある仕事、レプリカントの肉体能力が生かせる仕事、ということでブレードランナーという職業につかされた。そして、博士の意図どおり、レイチェルと逃亡し、子供を作る。残念なことにタイレル博士はその成果を見る前のロイ・バディーに殺されてしまう。
そしてこの「生殖可能レプリカント」の技術はタイレル博士の死、「大停電」でのデータ喪失、タイレル社の破綻などにより失われてしまう。
タイレル社の資産を買い取ったウォレスは、この「レイチェル=デッカード型」レプリカントの技術を発見するが、生殖を実際に可能にすることだけはできなかった。なにか重要な要素が一つ欠落していたのである。("2049"でウォレスが製造されたばかりの女性レプリカントの腹部を刺して殺してしまうシーンがあるが、これは「生殖できるレプリカントをまた製造できなかった」という失望のメタファーではないだろうか。)
実はタイレル博士は「レイチェル=デッカード型」の量産試作型のようなレプリカントを多数製造していて、密かに地球上で人間に紛れ込ませていた。恐らく、次世代人類であるレプリカントに人類文明を引き渡す、というようなマッドサイエンティストらしいビジョンがあったのであろう。ところが、このレプリカントは「寿命がない。老化する。」という特徴はあったが生殖能力だけは持つことができなかった。彼らは、人間たちに混じりながらも密かに連絡をとる秘密組織を作っていた。
やがて、レイチェルとデッカードが逃亡したことは彼らにも知られ、二人はこの秘密組織にかくまわれる。そして、レイチェルの妊娠がわかる。彼らは、ここで、この子供を隠して育てることにし、生まれる前にまずデッカードを単独行動させ、彼はその後、核汚染されたラスベガスに隠棲するようになる。
レイチェルはタンパク質農場に仲間と隠れすみ、2021年6月10日に、娘が誕生するが、出産のときにレイチェルは死んでしまう。娘はレプリカント達にしばらく農場で密かにそだてられるが、やがて、こんどはサンディエゴのゴミ捨て場にある孤児院にレプリカント達の監視の元で預けられる。
一方、レプリカント達は、レイチェルとデッカードの間に娘が生まれたことをみて、さらに生殖について研究し、ついに、自分達も生殖できるようにする方法を発見する。(恐らく、「レイチェル=デッカード型」はすべて生殖能力はあったのだが、何らかの「鍵」がないと発動しないようになっていて、その「鍵」がタイレル博士の死とともに一旦失われた。それがなんらかの方法でレプリカント達により再発見された。)
そして、彼らの間からも子供が生まれるようになったが、最初の子供であるアナについては「奇跡」として特別に扱われた。アナがいた「孤児院」は実はレプリカントの子供の養育施設であった。
アナは成長するにつれ、記憶操作に関して特殊な能力を持つことがわかり、レプリカントセクトは、このことを利用して、ウォレス社に彼らの影響を及ぼす手段としてアナを利用することを決断する。そして、偽の身分や会社を用意し、ウォレス社がアナからレプリカント用の模擬記憶を買うようにしむけていく。
レプリカントセクトは、「大停電」などの大きな社会変動の過程で、密かに勢力を拡大していき、情報ネットワークの面でもウォレス社、LAPDなどの諸組織に侵入するなどして、彼らの動きを監視しつつ時には干渉していた。
そして、2049年、ウォレスがレイチェル出産の現場の手がかりを掴み、その探索のために、特別仕様のレプリカントを製造し、LAPDに派遣しようとしている、ということをレプリカントセクトは監視網を通じて探知する。彼らは、ウォレスにもLAPDにも、レプリカント繁殖の謎を明かすべきではないと考え、密かに、ウォレス社のネットワークに侵入し、この特別仕様のレプリカントにウォレス社に気づかれないように、最後には裏切るようなプログラムを意識下に埋め込む。このプログラムはアナがこのような事態のために予め製造しておいたもので、「木馬と孤児院」の記憶の中に埋め込まれていた。
そして、この特別仕様レプリカント "ブレードランナー”がウォレスにより製造され、レプリカントセクトの裏切りプログラムを抱えたまま、LAPDに派遣される。
レプリカントセクトは、さらに、娼婦マリエッテたちに"K"を監視させ、さらに"K"が使っているジョイのプログラムにもウォレス社のネットワークを経由して侵入し、密かに"K"の行動を操りだす。"K"の行動を常時監視できるように高価なモバイルホロプロジェクターも"K"の手に入るように仕組む。ただし、ジョイはあくまでもウォレスの製品なので、ウォレスもジョイを通じて"K"を監視していた。そこで、最後の重要局面では、レプリカントセクトはジョイに自分をウォレスのネットワークから切り離すように"K"に頼ませる。
レプリカントセクトの計画は、"K"を操って、レプリカント生殖の「鍵」をウォレスに渡さないようにし、さらにはウォレスを殺害しウォレス社を乗っ取り、自分達の同類を量産させ人類の代わりになることである。
実はレプリカントセクトもデッカードをレイチェルから引き離したあと、彼がどこに行ってしまったかは掴んでいなかった。だから"K"が木馬の放射線痕跡を元にラスベガスにいるデッカードのところに行くとは想定はしていなかった。実は、デッカードの所在はアナだけは知っていた。彼女は「木馬と孤児院」の中に隠された裏切りプログラムのなかに、デッカードを自分のところに連れてくる、という行動もレプリカントセクトにも隠して組み込んでいたのである。そして、その記憶も埋め込まれた"K"が彼女の前に現れたときに、ついに、レプリカントによる人類置き換えと、父との再会、への動きが始まることを知り、深い感情に襲われ、涙を流した。
後は映画の通りだが、レプリカントセクトは、生殖の鍵をウォレスに渡さないことには成功したが、ウォレス社を乗っとることには成功していない。自然繁殖で自分達の子供をつくることはできるので、時間をかけて人数を増やしていくことしかできないが、いずれレプリカント製造技術もなんらかの方法で手に入れて自らの種族を量産し人類にとってかわることを目指していると思われる。
今回の事件で、デッカードの存在、アナの正体は、ウォレスにはわかってしまったので、二人はまたレプリカントセクトにより別の場所に秘匿されると思われる。"K"は重傷を負ってはいるが致命的ではないようなので、あらためてレプリカントセクトの重要メンバーとして迎えられるのか、それとも「レイチェル=デッカード型」ではないので、用済みとして、あっさり捨てられるのかのいずれかであろう。
(妄想終わり)
お楽しみいただけただろうか。このような想像をかきたれる"2049"は前作とはまたちがった深みをもった作品だと思う。この映画の登場人物は、真の正体が観客にはよくわからない、あるいは登場人物本人にもよくわからない人たちが多い。単純明快なのはLAPDの「マダム」ぐらいである。このように現実と偽現実(シミュラクール)が混在としていく、というのがディックの小説の醍醐味なので、その意味では"2049"は前作以上にディック的な物語であるといえよう。
続編は作れそうであるが、単純なレプリカント軍団とウォレスの戦いの話になってしまいそうである。安易にそのような映画は作らないで、2021年あるいは2049年までじっくり構想を練って、また謎の多い映画になってほしいものである。