2025年6月のテーマ

「かっこいいヒロインが登場する本」

 

第三回は、

「スカーレット・ウィザード」(全5巻、外伝)

茅田砂胡 作、

中央公論社、 1999年~発行

 

に登場する、

 

ジャスミン・ミリディアナ・ジェム・クーア

 

です。

 

 

 

 

茅田砂胡さんといえば、「デルフィニア戦記」というとても大きな代表作があるので、そちらでご存じの方も多いと思いますが、私は「スカーレット・ウィザード」を先に読んで、あの作者のファンタジーなら「デルフィニア戦記」も読んでみてもいいかなって流れで手に取った人間です。\(*^▽^*)/

 

 

 

 

文庫版も出ていますが、私が持っているのは上に貼ったC★NOVELS版です。

初読は25年くらい前かな。「剣客商売」みたいに何度も読み返している作品ではなく、せいぜい1回読み返したくらい。

「精霊の守り人」みたいに初読が5,6年前で記憶にも新しく、その後アニメやドラマで再び作品に出会ったわけでもない。

どちらかというと、遠い記憶の中にキラキラと輝いて存在している作品です。

それでも"かっこいいヒロイン"というと真っ先に思い浮かんでくるのが「スカーレット・ウィザード」

これまでの本の断捨離でライトノベルはかなり切り捨てられたものが多かったんですけど、どうしても手放すことができなかった本です。

 

ではまず、あらすじから。

人類が宇宙に進出し、ゲートという自然にできた宇宙のワープポイントを利用して行き来している世界。ワープポイントは入ってみないとどこにつながっているかわからないため、発見されてかつ使用されているものはごくごくわずかです。海賊王と呼ばれる一匹狼の凄腕ゲートハンター(ゲートを発見する人)であるケリーの元にあるとき奇妙な依頼が…。

宇宙エネルギー産業を担うクーア財閥の総帥であるジャスミンとの偽装結婚(ただし一年間だけ)です。ケリーは宇宙船レースで自分を捕まえることができたらと条件を出しますが、ジャスミンもまた凄腕の宇宙船乗りだったのです。

規格外の二人が織りなす、SFラブコメです。

 

ラブコメって書きましたが、お話としては割とアクションエンターテインメントな感じなので、全然スイートではありません。ただ、追いかけっこで捕まえたら依頼を受ける(=結婚する)って、「うる星やつら」やんけ!と思うのは私だけでしょうか??

それと、ケリーもジャスミンも二人ともかっこよすぎて、甘い雰囲気なしなのに恋愛ものってとこが既にコメディだと思います。

 

まあ、ラブコメの定義はさておき、ジャスミンのカッコよさについて語らせていただきたいと思います。

ジャスミンはクーア財閥総帥で28歳。出自を隠して十代の頃から軍に入隊。鍛え上げられた軍人で凄腕の戦闘機乗り。

身長は190㎝越えの体格の良い迫力ある美女。性格は豪放磊落なところがあり、しゃべり方やら思考、態度まで男勝りというより男性そのものな感じです。実物はあまり人目に触れることがなく、画面越しだったり映像としてテレビに映ったりが多いため、世間的には身長175㎝くらいの可憐な女性と思われています。(公式な場では身なりが良いし、美女ですから。)

ケリーも190㎝越えの長身なので、二人が並んだビジュアルはちょうどよく、映像上はお似合いのカップルに見えますが、実物を前にすると"壁"みたいだし会話を聞いていると男同士の会話みたい…とギャップがすごいです。

 

クーア財閥は大企業なので、総帥と言ってもジャスミンに全ての権限があるわけではありません。実際には重役たちがほとんど仕切っていて、ジャスミンをただの添え物にしておきたい思惑もあったりして、権力闘争と陰謀が渦巻いているという実態があります。ジャスミンは前総帥の一人娘なので、財閥を事実上乗っ取りたい重役たちからすれば、ジャスミンが死んでしまえば都合が良いわけで、彼女は自身の身辺に気を付けて生活しなくてはならない状況にあります。

ジャスミンとしては早急に跡継ぎを残す必要があるし、配偶者には頼りになる味方になってもらわねば困るので(…敵に懐柔されるような人間は論外)、白羽の矢が立ったのがケリーというわけ。

 

それから、このお話はケリーの目線から描かれている部分が多いですし、ケリー自身非常にかっこいいキャラクターなんですけど、「スカーレット・ウィザード」というタイトルが赤毛のジャスミンを表しているように、ジャスミンが主体のお話なんです。財閥内での権謀術数も、刺客のターゲットとして狙われるのも、ジャスミン。

前面に立って問題と闘っているのもジャスミン。どうしたいか、どうするのか、自分の運命を決める決断もジャスミンが自分で決めています。

ケリーはケリーで己の判断で行動するので、決してジャスミンの添え物ではないですが、ジャスミンがかっこよすぎるので、この女性の横に並ぶなら、ケリーくらいの器量がなければ無理だと思います。

 

財閥の総帥の一人娘のお嬢様が、凄腕の軍人で…ってそんなことある?っていう設定ですが、ジャスミンがなぜこういう経歴を辿ったのか、なぜ期限付きの偽装結婚なのか、その辺のことは物語で少しずつ明らかになっていくので、そこは読んだときのお楽しみとして書かずにおきます。そもそも、ネタバレを避けるのがこのブログのポリシーですので…。

 

というわけで、SFラブコメの「スカーレット・ウィザード」、おすすめいたします。

今は漫画化されたものもあるようですし、その後のお話も出ているようです。

その後のお話はいくつか私も読んだことあるのですが、「スカーレット・ウィザード」を知っているからこそ楽しめると思うので、ぜひ先にこちらをお読みいただきたい!(*^▽^*)

 

 

 

 

2025年6月のテーマ

「かっこいいヒロインが登場する本」

 

第二回は、

「精霊の守り人」

上橋菜穂子 作、

新潮文庫、 2007年発行

 

に登場する、

 

バルサ

 

です。

 

 

 

上橋菜穂子さんの守り人シリーズの第一作目です。

このシリーズの本は、第二作目の「闇の守り人」を記事に書いたことがあります。

 

 

この記事でも触れていますが、まずはあらすじから。

女用心棒バルサは青弓川に流された新ヨゴ王国の第二皇子チャグムの命を助けたのをきっかけに、チャグムの母・二の妃から彼を連れて逃げるように依頼されます。チャグムの体には異世界の精霊である水妖の卵が宿っており、父であるはチャグムを秘密裏に殺そうとしていたのです。

また、水妖の卵を捕食する異世界の怪物・ラルンガもチャグムを狙っていました。

チャグムの用心棒となったバルサは彼を守りながら、呪術師のタンガ、タンガの師匠トロガイと共に打開策を模索します。

 

NHKにて綾瀬はるかさん主演でドラマも作られましたし、アニメ化や漫画化もされているので、ご存じの方は多いと思います。

私は友達に勧められて児童書でこのシリーズを読んだのが最初でしたけれど、まあ、はまりまして、図書館をめぐってシリーズの続きを借りまくりました。

児童書は本の装丁も立派で物語の世界観を表現しようという心意気が感じられて素敵でした。

その後自分でも欲しくなって買い集めたのが新潮文庫版。

児童書はかさばるしお値段も張るので…。軽装版もありましたが、あの大きさだったら元々の児童書の方が私は好きです。

 

と、まあ、装丁の話はこのくらいにして、主人公の一人、バルサの話に戻りましょう。

(「精霊の守り人」に関しては、主人公はバルサだと思いますが、チャグムもある意味主人公だと思いますし、シリーズを通してではむしろチャグムの比重が高いかも・・・?という気もするので、このように書かせていただきました。)

バルサは短槍使いの女用心棒。養い親で短槍の達人、ジグロに仕込まれただけあって、女性ですけれどとても強い。

用心棒は雇い主を守る仕事だけれど、守られる対象とはビジネスライクな関係で、主に商人の隊列の護衛なんかをやっていたようです。幼いころからジグロと旅暮らしで、力がないと生きてゆけない環境で育ったバルサは、己の腕一本で生きていくために用心深くなり、感情に任せて行動しないように訓練されています。隙を見せないことが生きていくのに必要な世界の住人だからです。

だけど、チャグムの用心棒となったことで、かつてジグロに守られていた自分を思い出し、彼女の中にも変化が起きていきます。ただの護衛ではなく、愛情を持ったチャグムの庇護者となっていくのです。

チャグムはまだ少年で、実の父親から命を狙われている境遇が不憫であったこともありますが、バルサの固い心を溶かす何かをチャグムが持っていたことも確かです。

私には、バルサは母か姉のように、または父のように、チャグムを守っているように感じられるのですが、その態度は控えめです。そこもニヒルでいいです。

というか、私はむしろバルサはチャグムの父親のようだと思っています。

不器用な愛情の示し方や、少しでも強くなれるように鍛えてあげたりと、ジグロにしてもらったことをチャグムにしていると言えばそうなんですけれど、私はあまりバルサに女性を感じていないのです。

それでも、チャグムに抱く愛は母性のなせる業とも思いますし、バルサのことを、父性と母性の両方を兼ね備えた人間だという風に思います。

たくさんの作品で戦うかっこいい女性キャラをみてきましたけど、このような印象を持ったキャラクターというのは他に思い当たりません。似たような設定のキャラに出会うこともわりとありますが、きっぷのいい姉御という印象を持つことが多いです。バルサが特別と感じるのはそのせいかもしれません。

 

「精霊の守り人」はファンタジーとして物語の世界がすごくきちんと創られていて、それだけでもファンタジー好きの人には魅力的な作品です。そこにバルサというかっこいいヒロインが、少年チャグムの成長と共に彼女自身も変わっていく物語は、私のようにはまってしまう人続出…だから人気作なのだと思います。

ようはみんなバルサが好きなわけです!

というわけで、かっこいいヒロイン・バルサの魅力にはまっていただきたい。

「精霊の守り人」をまだ読んだことない方、おすすめいたします。(*^▽^*)

 

※ちなみに、この下に貼ったPickの一番下が児童書版です。お気に入りの素敵な装丁!気になった方はチェックしてみてください。

 

 

 

 

 

 

 

2025年6月のテーマ

「かっこいいヒロインが登場する本」

 

第一回は、

「剣客商売」

池波正太郎 作、

新潮文庫、 1985年発行

 

に登場する、

 

佐々木三冬

 

です。

 

 

 

このシリーズについても過去に記事を書いたことがあります。

 

 

 

池波正太郎さんの作品で、私のいち推しなのが「剣客商売」です。

このシリーズは、剣客の秋山小兵衛、大治郎親子が剣をもって人助けをしたりトラブルを解決したり悪人を成敗したりする時代小説で、父・小兵衛の老練さと、息子・大治郎の真っ直ぐさが好対照。

 

ヒロインの佐々木三冬はシリーズ第一作目の短編「女武芸者」から登場し、長いシリーズの中で強い存在感を放っています。

三冬はときの老中・田沼意次の妾腹の娘で、母の没後、家臣の佐々木又右衛門勝正の養女とされます。

長じて後剣術に打ち込み、やがて江戸剣術界で名人と名高い井関忠八郎に弟子入りし、女だてらに井関道場の四天王の一人に数えられるほどの腕前になります。

「剣は三冬のいのちです。」と言うほどに剣術一筋ですが、若い女人であることに変わりはなく、肉体の限界が剣を極めるのに厚い障壁となっています。

剣士仲間は男ばかりなので舐められないように男装し、酒も嗜み、本人は男に負けぬ気概ですし実際に相当の使い手ではありますが、当然ながら彼女より強い剣客はまだまだいます。

初登場のときは十九歳。男装姿をしていても優美な容貌は道行く人を振り返らせます。

自分の剣に自身があるせいで少々天狗になっていてピンチに陥ったところを秋山小兵衛に救われて、秋山家と縁を得ます。

 

長いシリーズ中に、年月は過ぎ、彼女もどんどん変わっていきます。「三冬のいのち」とまで言っていた剣の道から退いて人の妻となり、子を得、人生の階段を上っていきます。

人妻となってからも剣の稽古をしますし、危急の折には戦力として戦います。

 

男装の若武者であった頃も、美しくて強い剣客ぶりがかっこよく、人妻となったのちも侵入者の鼻柱に桶(柄杓だったかも)を投げつけて撃退したり、剣を抜いて立ち向かう凛とした姿が勇ましい。

ずっと男のようにふるまっていたうえ、"お嬢様"でもあるために、料理などの家事はからきしだったので、結婚後に小兵衛の妻おはるに教わる姿も可愛らしいです。

 

何というか、気質が一途で素直。まっすぐに伸びる若竹のような女性です。

私が三冬に好感を持ったきっかけは、「剣客商売」の中の一遍「井関道場・四天王」

「女武芸者」ではトラブルに巻き込まれたお嬢様(男勝りの女武芸者)としか思いませんでしたが、「井関道場・四天王」での三冬は、師匠の井関忠八郎亡き後、道場を守って運営している四天王の一人として道場の行く末を案じ、後継者争いに決着をつけるべく秋山小兵衛に助けを求めます。

三冬の剣術への情熱、道場への愛、亡き師匠への敬愛の念…いろんなものが見えてきて、第一話の"そこそこ剣をつかえて天狗になっている娘"という印象は遠ざかりました。

始めのうちはまだ若いので、シリーズ中では失敗もするし、未熟なところも見えますが、そこから成長していくのが読んでいて魅力的です。

人妻になってからは剣客としての活躍はがくんと減るものの、私の中では三冬はやはり男装の女武芸者。

颯爽としてかっこいいヒロインのままです。

 

シリーズは16冊(+番外編3冊)ありますが、魅力的なキャラクターは三冬だけではないですし、彼女が出てこないお話も含めてぜひおすすめいたします。(*^▽^*)

 

五月の閑話休題です。

 

2025年5月のテーマ

「私のあこがれの女性」

 

でおすすめしてまいりました。

 

二冊がクリスティー作品、もう二冊がローラ・チャイルズさんの作品になってしまったのは、私が何度も読み返している作品だからというのが大きいと思います。

小説の登場人物にあこがれたとしても、その作品自体を読んだのが一度きりなら記憶に残る部分も少ないですし、やがて自分の中でぼんやりとした印象として存在することになるでしょう。

作品自体が好きで、何度も読んで解像度が上がっているからこそ、この人物のこんなところを自分にも取り入れたい、少しでも近づきたいと思えるのです。

いま、さらっと書いちゃいましたが、今月のテーマで書いた"私のあこがれ"の定義は"自分もこうなりたい"、"私にとっての理想の女性が持つ資質を持っている"ということでした。

"あこがれ"っていうと、「手に届かないけれど手に入れたいもの」の他に、「手に入る入らないなんて考えたこともなくただ好き(または理想)でみているだけでテンションが上がる(もしくは心地よい)」というのもあると思います。

今月のテーマ的には、どちらかというと前者でしたので、メンタルだったり、家事能力だったり、生活をハッピーに前向きに生きようとする姿勢だったりが大事なポイントで、選択肢としては必然的に自分が生きている世界に近い近現代のお話になりました。ファンタジー小説の人間的にも素敵で容姿も美しい姫君なんかが対象に入らなかったのはそのためです。(私の年齢的な問題もなくはないかもですが…。)

 

さて、それではタイトルの話題へとまいりましょう。

先月の閑話休題で教皇選挙にまつわる映画の話を書きましたが、アップした後に、「もういっちょ、コンクラーベがモチーフの映画」を観てまたカラーが違う面白さがあったのでぜひ書きたいと思い、現実のコンクラーベは終了しましたが書いちゃいます。

その作品とは、

 

・「ローマ法王の休日」(邦題)

 2011年 イタリア・フランス映画(ウィキペディアより)

 

です。

イタリアを代表する映画監督の、ナンニ・モレッティ監督作品で、主演はフランスの名優ミシェル・ピコリさんだそうです。

お恥ずかしながら私はこのお二方とも知りませんでした。映画わりとよく観るんですけど、我ながら作品の偏りがすごいんだと思います。

※以下、映画の邦題が「ローマ法王の休日」なので、教皇のことを"法王"と記述いたします。

 

あらすじは、法王逝去に伴って始まった法王選挙(コンクラーベ)で、誰もが予想しなかった無名の枢機卿・メルヴィルが新法王に選出されます。しかしメルヴィルは就任演説の直前にその重圧に耐えられず、その場から逃げ出してしまいます。

就任演説が終わるまで、誰が新法王になったのかは極秘のまま。新法王発表までは、枢機卿たちもコンクラーベ同様に外部との接触は一切禁止です。何とか新法王の心を落ち着かせようと周囲は奔走。当のメルヴィルは自分は法王になれるような人間ではないと思い悩みます。

 

この映画は、配信サービスのU-NEXTで観たんですが、観終わった後に検索して調べてみるとコメディドラマ映画って出てきたんですよ。

冷静に考えると、確かにコメディなんですけど、笑いをとろうと茶化したり、漫才なんかでよくある、あまりにも荒唐無稽なシュチュエーションだとか登場人物の会話がかみ合わないとか…例えば、聖職者らしくない下品なしゃべり方や振る舞いをするとか…そういうあからさまな笑いをとるコメディではなかったので、観ている間私はコメディだと思っていませんでした。でも、笑いながら観てました。言われてみればそうね、コメディねって後から気づいたのです。

 

ではどんな風なのかというと、一般人ならこういうこともあるかもだけど、高位の聖職者の方々がちょっと一般的すぎんかね?と思う作りになっているのがコメディかな…と。

神秘のベールに包まれたコンクラーベの内側が、とっても普通な感じなのが面白いと言いますか。

 

新法王が重圧に押しつぶされて就任演説から逃げちゃうってのも、まずありえない話です。

ですが、この映画では、そもそも、選挙の最中に枢機卿たちみんなが、「選ばれませんように」って祈ってるんです。

法王の地位がものすごく重い責務だと、自分には務まりそうにないとみんなが思っている。

そして決まったメルヴィルは、まさしくダークホースで、自分も含めて誰もが思いもよらなかった選出でした。

呆然としているままに誓いの言葉を口にしてしまってから、我に返って「無理無理無理無理無理…」とパニックに。

人として、気持ちはわかる。

だけど、枢機卿というカトリックにおいて高位の聖職者の方々は一般人のように取り乱したりしないという先入観があって、そこのギャップの部分がコメディに感じられるのかなと思います。

 

コンクラーベがモチーフにはなっていますが、このお話はコンクラーベ後のお話であり、現実にはありえないお話です。

登場人物たちは真剣に悩み、困り、何とか対処しようとあがいています。

そこがちょっとハートフルと思うのは私だけでしょうか。

 

また、先月の閑話休題で書いた二作品と真逆だと思うのが、この映画ではみんな"法王になりたくない"んです。

このことが、「法王の重責は並大抵ではない」ということをより強く押し出していますし、候補者である枢機卿たちが法王の役割というものを真剣に考えていて、決して軽く扱っていいものではないと理解しているとも受け取れます。自分には務まらないと考えるのも謙虚で、聖職者の美点とも言えます。(めんどくさい役職はごめんだと考えているなら話は別ですが…。)

そういったこともまた、この映画のストーリーとは別のところで、コンクラーベの側面の一つとして感じられるんじゃないかと思います。

前回の二作品とは全然カラーが違いますが、私的にはこちらもおすすめです。

 

それでは、来月のテーマとまいりましょう。

 

2025年6月のテーマ

「かっこいいヒロインが登場する本」

 

でまいりたいと思います。

"あこがれ"について、上であれこれ書きましたが、私にとっても「手に入る入らないなんて考えたこともなくただ好き(または理想)でみているだけでテンションが上がる(もしくは心地よい)」という方面でのヒロインはたくさんいます。

主にファンタジーや時代もの、SF、サスペンスなんかで"戦うヒロイン"に心奪われています。

今月はこの方面のヒロインを除外してしまったので、来月にまたがって私の"あこがれ"を追求する記事を書きたいと思います。ご興味ありましたら覗いていただけると幸いです。(*^▽^*)

2025年5月のテーマ

「私のあこがれの女性」

 

第四回は、

「卵料理のカフェ5 保安官にとびきりの朝食を」

ローラチャイルズ 作、東野さやか 訳

コージーブックス(原書房) 2015年発行

 

に登場する、

 

スザンヌ・デイツ

 

です。

 

 

 

このシリーズも過去に何回かブログで書いています。

 

 

 

まずはシリーズの前提を…。

アメリカ合衆国中西部の町、キンドレッド。スザンヌ、トニ、ペトラの三人が経営するカフェは、本屋と編み物用品のお店が併設している地元の人気店です。

主人公のスザンヌは元教師で、数年前に夫を亡くしてから店を立ち上げた、40代の女性。本屋は主にスザンヌの管轄です。トニはスザンヌと同年代で、ちょっとお堅いスザンヌとは対照的に元気のいいイケイケタイプ。不良少年のまま大人になったような夫と離婚を前提に別居中。カフェのホールを仕切っています。ペトラはスラブ系の50代。カフェのシェフで、編み物が大好き。編み物用品のお店で閉店後に編み物教室を開いています。夫は病気で施設に入院中。

タイプの違う三人の女性が切り盛りするカックルベリー・クラブには、毎日保安官が立ち寄り、スザンヌとあまり仲が良くない町長でさえもペトラの料理目当てにやってきます。

地方の町だけに、住人達の多くは顔見知りで、事件が起こるたびにスザンヌ(とトニ)は調査にのりだします。

 

「保安官にとびきりの朝食を」では、墓地で行われる記念式典のために花を届けに行ったスザンヌとトニが嫌われ者の刑務所署長の死体を発見してしまい、警察の第一容疑者にスザンヌの友達・ミッシーが浮上します。ミッシーは行方をくらましてしまい、いつもは頼もしい保安官が解決の糸口すらつかめず弱気に…。

スザンヌはカフェでおいしい食べ物を出して保安官を励まし、ミッシーへの疑いを晴らそうと奔走します。

 

前回書いた<お茶と探偵>シリーズのローラ・チャイルズさんが手掛ける別のシリーズです。

<お茶と探偵>のセオドシアは30代ですが、スザンヌはもう少し上の40代。

キャラクターとしては似ているところもあるけれど、スザンヌの方が落ち着きがあります。

あと、同世代のトニといいコンビで、彼女たちのガールズトークは<お茶と探偵>にはない魅力です。

スザンヌとトニの会話では、「もう私たち若くないんだよ」というような台詞も飛び出す一方で、「まだまだ捨てたもんじゃないよね」とも言ったりなんかして、私的にはセオドシアよりも共感しやすいというか…。

 

また、舞台が中西部ということもあり、スザンヌは馬が大好きでモカ・ジェントという馬とグロメットというラバを飼っています。二頭のお世話は、スザンヌの土地を借りている農場主がやってくれています。

スザンヌが馬たちを可愛がっている描写はシリーズ作品で毎回出てきますし、ハロウィンのイベントの際には首無し騎士に扮したスザンヌがモカ・ジェントに乗って登場したり、バレルレース(樽の周りを走る馬術障害レース)に出場したりもします。

自宅でも犬を二頭飼っていて、動物が大好きな様子が伝わってきます。

 

何というか、スザンヌはいつも周りに気を許せる仲間がいて、困っている人には手を差し伸べる面倒見の良さがあり、何事も積極的に取り組むバイタリティがあります。

そういうところが好き。

 

また、人間関係においては、嫌いな人やウマが合わない人との接し方が私好みというか…。

地元出身のロマンス作家でセレブのカーメン・コープランドはいつもスザンヌに嫌なことを言ってくる高慢ちきな女性ですが、スザンヌは本屋のイベントなどで協力する時には多少の無礼はスルーし、あまりに失礼だと感じるときにはきちんと言い返します。(カーメンに対しては、トニがやり返すこともありますが。)

大嫌いな町長に対しても、来店したときには客として最低限の礼儀を尽くしますが、他のお客に迷惑をかけたりすれば(政治活動するとか)話は別。偉そうな態度には、嫌みのひとつも返します。

偉ぶったり人を見下したりする人間が大嫌いで、そういう人にはこちらもそれなりの態度で返す、という姿勢がとても好きです。見習いたい。

 

私から見てスザンヌは、"生活の中でバランスをとるのが上手な人"です。

人間関係のストレスもそれなりにあるけれども、解消する方法を持っている。

(ちゃんと言い返す。馬に乗って農場を散歩したり、ペトラの作った焼き菓子と紅茶をお供にミステリーを読むとか、恋人とディナーを食べに行くとか。)

健康にも留意していて、質のいい野菜や肉を使った料理を自分で作って食べるけれど、時にはトニと一緒に地元のバーガー屋に行き、油たっぷりのジューシーなハンバーガーとオニオンフライを食べたり。

どちらかというと真面目だけど、トニに頼まれたら好きでもないカジノに行ったり、マッスルカーレースの観戦についていったりもする。

自分の好みというものがちゃんとあるけどそれに固執せず、あまり好きではないことにも付き合いで参加する。

そういうところが、新しい発見につながって、頭がやわらかくなるんじゃないかなと思います。

 

このシリーズでは、スザンヌ、トニ、ペトラの三人はそれぞれに問題だったり心の傷だったりを抱えています。

人生が順風満帆ではないということを三人とも知っています。

だからこそ、お互いに助け合って、毎日を一生懸命生きているのです。

シリーズの主人公であり、三人の中ではオピニオンリーダー的な役割を果たしているスザンヌは、私のあこがれの女性の一人です。

 

今回、シリーズでどの作品を選ぼうか考えた結果、

 

・原書房さんから出版されていて、絶版になっていない

・スザンヌがかっこよく大活躍するお話

 

という観点から、「保安官にとびきりの朝食を」に決めました。

ラストのスザンヌの活躍が、シリーズで一番カッコいい(現時点で)と思っている作品です。

ぜひおすすめいたします。(*^▽^*)