2021年10月のテーマ

「イベントを楽しむコージーミステリー」

第三回は、

「卵料理のカフェ3 ほかほかパンプキンとあぶない読書会」

ローラ・チャイルズ 作、東野さやか 訳、

武田ランダムハウスジャパン、2011年発行

 

 

です。

 

前回の記事でおすすめした作品と同じ作者の別シリーズです。

 

 

お茶と探偵シリーズの舞台はアメリカの南部、サウスカロライナ州チャールストンで、歴史の香りを感じる観光地です。海の近くでヨットなどのマリンスポーツも盛ん。作品に出てくるイベントには、なんだか優雅な感じが漂っています。

 

対して、今回おすすめする卵料理のカフェシリーズはアメリカ中西部の田舎町、キンドレッドが舞台。周囲には農場が点在し、幹線道路沿いにダイナーやバーが並んでいて、住民のほとんどが顔見知りです。

主人公のスザンヌは40代。同年代のトニとちょっと年上のペトラと三人で卵料理が自慢のカフェをやっています。タイプの違う三人がお互いの個性を尊重しながら仲良く助け合ってカフェを運営する様子は、読んでいてほっこりします。

 

この本に出てくるイベントは、前回の映画祭や前々回のバーベキュー大会のような、街を挙げてのお祭りというのとはちょっと違います。

小さな町のあちこちで開かれるちょっとしたイベントの数々が読者を楽しませてくれる、そういう作品になっています。

今回シリーズの中でこの第三弾を選んだのは、カフェで開かれるハロウィンパーティーがこの季節にぴったりだったからです。

ではちょっと、作中のイベントの数々をご紹介していきましょう。

 

まずは、読書家限定のお見合いイベント、リーディング・デート。主人公たち三人が経営するカフェ<カックルベリー・クラブ>には本屋スペース<ブック・ヌック>と編み物好きにむけて毛糸を販売する<ニッティング・ネスト>が併設されており、それぞれのスペースで定期的にイベントが行われています。<ブック・ヌック>ではトニ主催の恋愛小説の読書会なんかが開かれていましたが、今回は本好きの住民たちが集まって、お互いの本の好みを話しながらお見合いするというちょっと変わった趣向のお見合いパーティーが開かれます。参加者の大半は中年で、第二次世界大戦マニアがロマンス小説好きとカップルになりそう!だとか、本好きの私には面白い企画だなーと思わせられるイベントです。

 

続いては<カックルベリー・クラブ>で開かれる英国風のお茶会。お店を英国風に飾り立て、メニューも普段カフェで出しているものとは違ってお茶会にぴったりのスコーンやマフィン。参加者の住民は帽子をかぶり、手袋をはめて服装をお茶会スタイルに整えて来店します。別にドレスコードがあるわけではないようですが、イベントを目いっぱい楽しみたいという気持ちが伝わってきます。

 

そして、歴史協会が主催する<キルト・トレイル>。伝統的なデザインのキルトを街のあちこちのポイントに展示し、参加者はポイントを回ってキルトを鑑賞してもらう、というイベント。私は最初うまく想像できなかったのですが、キルト作品はすごく大きいもので、芸術品といってもいいような複雑な図案のものもあるようです。編み物や裁縫好きな住民がたくさんいるようなので、秋の町を散策しながら、キルトを見て楽しんでもらうというイベントのようです。

 

それから、地元に新しくできたブティックで行われるファッションショーもあります。田舎町のブティックとはいえ、オーナーはお金持ちでしゃれたブランド服を取りそろえたお店です。販売促進のためにモデルを雇い、お客に招待状を送ってファッションショーを開きます。スザンヌはそこで軽食のケータリングを頼まれているのですが、田舎町のブティックで軽食スタンドを設置したファッションショーイベントって、すごいなぁ、とオーナーの気合の入れように感心してしまいます。描写としては短いのですが、私にとっては印象的なシーンです。

 

最後に、<カックルベリー・クラブ>主催のハロウィンパーティー。カフェの裏にある駐車場にグリルや舞台を設置して、野外で行われるお祭りです。飾りつけはもちろん、大量のカボチャをディスプレイします。仮装コンテストにバンドの生演奏、りんご食い競争、ホットドッグにドーナツ、サイダーなどの屋台も出ます。参加者はこぞって仮装してくるわけですが、アメリカでは仮装するのは若者や子供だけではないようで、主催者のスザンヌやトニ、ペトラだけではなく、他の中年の皆さんも、何の仮装にしようかなと趣向を凝らしたりしているところが楽しいです。

 

小さな町のちょっとしたイベント、とはいえそれぞれ工夫が凝らされていて町が活気づいるのを感じます。

実際のストーリーとしては殺人事件に挑むミステリー小説ですし、イベントの描写も短いものだってあるのですが、こんなに次々とイベントがあるのって読んでいて私はとても楽しいです。

このシリーズはほかの作品でも<カックルベリー・クラブ>を中心に様々なイベントが出てきますので、この作品だけが盛りだくさんなわけではありません。ですが、ちょうどハロウィンの季節ですしね。是非ともこの作品をおすすめしたいと思います。(*^▽^*)