2025年6月のテーマ
「かっこいいヒロインが登場する本」
第一回は、
「剣客商売」
池波正太郎 作、
新潮文庫、 1985年発行
に登場する、
佐々木三冬
です。
このシリーズについても過去に記事を書いたことがあります。
池波正太郎さんの作品で、私のいち推しなのが「剣客商売」です。
このシリーズは、剣客の秋山小兵衛、大治郎親子が剣をもって人助けをしたりトラブルを解決したり悪人を成敗したりする時代小説で、父・小兵衛の老練さと、息子・大治郎の真っ直ぐさが好対照。
ヒロインの佐々木三冬はシリーズ第一作目の短編「女武芸者」から登場し、長いシリーズの中で強い存在感を放っています。
三冬はときの老中・田沼意次の妾腹の娘で、母の没後、家臣の佐々木又右衛門勝正の養女とされます。
長じて後剣術に打ち込み、やがて江戸剣術界で名人と名高い井関忠八郎に弟子入りし、女だてらに井関道場の四天王の一人に数えられるほどの腕前になります。
「剣は三冬のいのちです。」と言うほどに剣術一筋ですが、若い女人であることに変わりはなく、肉体の限界が剣を極めるのに厚い障壁となっています。
剣士仲間は男ばかりなので舐められないように男装し、酒も嗜み、本人は男に負けぬ気概ですし実際に相当の使い手ではありますが、当然ながら彼女より強い剣客はまだまだいます。
初登場のときは十九歳。男装姿をしていても優美な容貌は道行く人を振り返らせます。
自分の剣に自身があるせいで少々天狗になっていてピンチに陥ったところを秋山小兵衛に救われて、秋山家と縁を得ます。
長いシリーズ中に、年月は過ぎ、彼女もどんどん変わっていきます。「三冬のいのち」とまで言っていた剣の道から退いて人の妻となり、子を得、人生の階段を上っていきます。
人妻となってからも剣の稽古をしますし、危急の折には戦力として戦います。
男装の若武者であった頃も、美しくて強い剣客ぶりがかっこよく、人妻となったのちも侵入者の鼻柱に桶(柄杓だったかも)を投げつけて撃退したり、剣を抜いて立ち向かう凛とした姿が勇ましい。
ずっと男のようにふるまっていたうえ、"お嬢様"でもあるために、料理などの家事はからきしだったので、結婚後に小兵衛の妻おはるに教わる姿も可愛らしいです。
何というか、気質が一途で素直。まっすぐに伸びる若竹のような女性です。
私が三冬に好感を持ったきっかけは、「剣客商売」の中の一遍「井関道場・四天王」。
「女武芸者」ではトラブルに巻き込まれたお嬢様(男勝りの女武芸者)としか思いませんでしたが、「井関道場・四天王」での三冬は、師匠の井関忠八郎亡き後、道場を守って運営している四天王の一人として道場の行く末を案じ、後継者争いに決着をつけるべく秋山小兵衛に助けを求めます。
三冬の剣術への情熱、道場への愛、亡き師匠への敬愛の念…いろんなものが見えてきて、第一話の"そこそこ剣をつかえて天狗になっている娘"という印象は遠ざかりました。
始めのうちはまだ若いので、シリーズ中では失敗もするし、未熟なところも見えますが、そこから成長していくのが読んでいて魅力的です。
人妻になってからは剣客としての活躍はがくんと減るものの、私の中では三冬はやはり男装の女武芸者。
颯爽としてかっこいいヒロインのままです。
シリーズは16冊(+番外編3冊)ありますが、魅力的なキャラクターは三冬だけではないですし、彼女が出てこないお話も含めてぜひおすすめいたします。(*^▽^*)

