2025年11月のテーマ

「私が何度も読んでいる漫画」

 

第一回は、

「メダリスト」

つるまいかだ 作、

講談社 アフタヌーンKC、 2020年~発表

 

 

です。

 

この記事を書いている時点で13巻まで出ていて、まだ完結していません。

今年の1月からの1クールでアニメ放送していまして、それを観て知りました。

来年1月からアニメ第2期の放送があり、今から楽しみにしています。

 

あらすじは、アイスダンスで全日本選手権出場を果たした明浦路司(あけうらじつかさ)はアルバイトをしながらアイスショーへの出演を目指して就職活動中に、アイスダンスの元パートナー・高峰瞳(たかみねひとみ)が主催するスケートクラブのコーチにならないかと誘われます。自分自身がスケーターとして仕事をすることを諦めていない彼は渋るのですが、小学5年生の結束いのりと出会い、彼女をコーチする決心をします。

話は前後しますが、司は中学生でフィギュアスケートに出会い、高校生から一人で練習をしてちゃんとしたコーチについたのは20歳からという異色の経歴の持ち主で、もっと早くからきちんとしたコーチに教えてもらえていれば…という思いを根底に抱えています。

一方のいのりはずっとフィギュアスケートをやりたかったのですが、フィギュアをやっていた姉が怪我で辞めたことや、いのりが物事を覚えるのに時間のかかるタイプであることを心配する母親が禁止するため、隠れてリンクに通っていました。

スケートをやりたければきちんと親にお願いしてやらせてもらわないといけないと司に諭されたいのりは、勇気を出して母親に自分の気持ちを伝え、それでも諦めさせようとする親に司がコーチすることを申し出て認めてもらいます。

大好きなフィギュアスケートを始めることになったいのりちゃんと、彼女がなりたいと望むスケーターに近づくサポートをする司先生との師弟コンビの成長を描く物語です。

 

そもそもの話、私はフィギュアスケートが好き(観るの専門です)で、子供が生まれる前はテレビで試合を放送していればよく観ていました。(最近はちょっと遠ざかってました。)

トリノオリンピックの少し前辺りから観るようになって、浅田真央選手がシニア初出場のシーズンにグランプリファイナルで優勝した試合もリアルタイムのテレビで観てました。

この作品がフィギュアスケートの物語だと知って、アニメで演技をどのように描いているのかと気になって観始めたのが最初のとっかかりでした。さくっとアニメにはまって、続きを知りたいと原作の漫画を読んでみたら、これが本当によかった。今でも読むたびに涙が出てしまうくらいです。

しかも、よかったと感じた点に、フィギュアスケートのお話だからというのはあまり関係がなかったというのも付け加えておきたいです。

 

では何がいいかというと、アニメでしか観ていなかった時にも感じていたことではありますが、この作品の登場人物の言葉はぐっさぐっさ胸に刺さるのです。

コーチである司がいのりに向けた言葉や、いのりが司に向けて言った言葉だけではなくて、時には他の登場人物たちの言葉も、形にしづらい感情や気づきにくい事柄なんかを上手に言語化して伝えてくれるのです。

 

いのりちゃんは物語の初めでは小学生だけど、成長して中学生になっていきます。

素直にコーチの教えを何でも聞いていた頃には苦労していなかった意思の疎通のズレみたいなものも生まれてきたりするのですが、なんで伝わらないのか、どうすれば伝わるのか、大人として司先生は考えますし、他所のクラブのコーチたちとも悩みを分かち合ったりします。

私が過去に読んだことのあるスポ根漫画では、指導者側の葛藤とか悩みってあんまり描かれていなくて、選手が悩み苦しんで殻を打ち破り、新しい技術を習得したりする展開がお約束なイメージがあったのですが、「メダリスト」は違ったんです。

 

(以下、文章中で作品よりセリフを引用させていただきます。)

例えば、跳べないジャンプの特訓をしているときに、いのりちゃんが「跳びたい、跳ばなくちゃ」と強い思いで、必死の形相で取り組んでいるとき、司先生は「成功を願いすぎちゃだめだ。」と言います。

「これは思いの強さで跳べる魔法じゃないんだ。必要なのはガムシャラになることじゃない。」

そして、

「成功するためじゃなくて、跳んでいるときにどんな感覚なのか先生に教えるためにたくさんの言葉を探して。どれだけ細かく世界を感じられるかがコントロールの鍵だよ。」(長いので若干セリフを編集してます)

と教えます。

これって、スケートに限ったことではなくて、スポーツに限ったことでもなくて、人生で"どうしても今これをできるようになりたい、ならないと"って場面に出会ったなら、だれにでも当てはまる(言ってほしい)言葉のような気がするのです。

ガムシャラになれば願いが必ず叶うわけではないということを、多くの人が知っています。

だけど、どうしても願いをかなえたいときにどうすればいいのかわからない。必死になりすぎていると視野が狭くなりがちです。どうしても超えたい壁にぶち当たったときに、ちょっと冷静に攻略法を探すことも大事だなって思いました。

漫画だから、主人公が根性で壁をクリアしちゃう展開だってできちゃうのに、ちょっとブレーキをかけていのりちゃんにできるヒントをあげるところが、"都合の良いストーリー展開"にならない絶妙なバランスを感じます。

(遅くからスタートした主人公が才能を開花させてものすごいスピードで成長…って展開が、漫画ではよくありますし、それ自体が"都合の良いストーリー展開"ではありますけれども…。)

 

他にも、いのりちゃんが、うまくいっていないと感じてもやもやしてしまっている気持ちを吐き出した場面で、

 

「私もできない私の悪口を心の中でいっぱい言う…」

「自分で自分の悪口を言っている時って別の人間になれた気がするから…」

「でも最近はできない私ばかりだから、自分の悪口を言いすぎちゃって、ちょっと苦しい…」

「悪口を言っても私は私なのに…」

 

っていうんですが…これって中学生のセリフですか!?

ワタクシもう中年を通り越してますけど、こんなにちゃんと自分を客観視できていないよ…。

いのりちゃんから学ぶこと多いです。

 

書いたのはほんの一例で、私の心に刺さったセリフってのはもっとすごくたくさんあるんですが、もちろんセリフだけじゃなくてスケートの試合も日々の練習風景とかでも胸が熱くなる展開が満載で、読んでて何度も泣いてしまっています。

 

来年1月スタートのアニメの2期も楽しみにしています。

なんたって、アニメではスケートのプログラムが丸っと観れますもの。漫画では決してできない、音楽に乗せて滑る演技が観られるのはアニメならではですからね。

というわけで、おばちゃんの心を熱くしてくれている漫画「メダリスト」、おすすめいたします。(*^▽^*)

十月の閑話休題です。

 

2025年10月のテーマ

「クリスティー関連本」

 

でおすすめしてまいりました。

 

本屋さんでは基本、新しく出た本を多く取り揃えてあるので、今回おすすめした類の本には発売されてしばらくの間しかお目にかかれません。つまり、その時期に本屋さんで出会わなければ知らないままってことが多いです。

だから、私がクリスティー関連の本に出合うのはもっぱら図書館の海外文学の棚付近。

図書館だと何年も前に発行された本もおいてありますからね。

それにたぶん、私みたいに借りている人も一定数いると思います。

前に読んだ本が棚にないこともしばしばなので。

見つかってなかった原稿が出てくるという奇跡がない限り、本家クリスティー作品の新作が出ることはない…という状態では、こういった関連本で未読のものをみつけると心躍ります。

まだまだ私の知らないクリスティー関連本があるだろうし、それらをたくさんみつけられたら、またこのテーマで書くかもしれません。

 

それでは、タイトルの「しゃばけ」アニメ化!』の話にまいりましょう。

以前記事に書いた、時代小説の「しゃばけ」

 

 

以前に実写ドラマ化されていましたが、私は観ていませんでした。

たぶん興味の方向が別のところに行ってたんだな…。

で、今回の記事に書くにあたってちょっと調べてみたら、テレビドラマ化以外にも、舞台化されていたり、Webアニメ化されていたりしていてびっくり。

当然どれも観ていないので、今回は2025年秋アニメの「しゃばけ」のことしか書けませんので、あしからず。

 

この記事を書いている時点で、アマゾンプライムで第4話まで観ることができます。

そもそも、アニメ化を知ったのも、子供がアマゾンプライムで観たいアニメを探していた時にたまたま「しゃばけ」が目に入って、「んんん~…これはあの『しゃばけ』かな??」と気づいた次第でまったくの偶然でした。

 

試しにつけてみたら、これがなかなかいい。

原作の持つゆったりとした雰囲気がちゃんと生かされている。

妖怪たちのデザインも、文庫本表紙絵に描かれているものを踏襲している。

江戸の日常風景を丁寧に描写されている。

例えば、大工の道具箱の担ぎ方、そろばんを扱う手、暖簾をくぐるときや菓子を食べるときの何気ないしぐさ…など、昔の時代劇の世界(実際の江戸時代の様子は見たことがないので)。今とは違う人の動きをアニメで細かく表現されているので、時代劇を見慣れた世代はしっくりくると思いますし、時代劇をあんまり知らない世代にはほんとに観てほしい、そんでもってもっと時代劇に親しんでほしいと思います。

 

しゃべり方や言葉遣いにも気を配ってあって、主人公の若旦那がゆっくりしゃべるのはキャラクターだとしても、他のキャラクターも昔の時代劇に比べればしゃべり方はゆっくりめだと思います。

今の若い人は倍速再生でドラマを観たりしますし、漫才師も昔に比べれば早くしゃべります。音楽のJポップだってテンポが速いし、歌詞も詰め詰めで早口なので私には聞き取れないこともしばしばです。

だけど、このアニメに関しては昔の時代劇よりはゆっくりめ。

原作の雰囲気を出すためというのも考えられるけど、作中で話されている言葉遣いが、今の若い世代にはなじみが薄いのでわかりやすいように配慮してあるのではないかと私は思います。

作中では時代劇特有の江戸っ子言葉みたいなのがたくさん出てくるからです。(江戸っ子言葉って伝法で早口なイメージです。)

例えば、「こりゃあ、いけねえ。長っ尻(ながっちり)になっちまった」なんて言ったりするのですが、耳で聞いただけで"ながっちり"ってぱっとわからない人もいると思います。文章だと漢字でなんとなく想像がつくところもありますが、音だけだとそれもない。知らない言葉だと、聞いた時にシュチュエーションから意味を想像する作業が知らず知らずのうちに行われるので、そのための間をとっているのかなと感じました。

作り手の方々の努力が原作の良さを引き出していると感じられる作品になっていました。

 

ほんっとに、時代劇になじみがない人に観てもらって、時代劇の面白さを知ってほしい。

なので、家で子供たちに何とか観てもらおうとしたのですが…空振りでがっくりしています。

各自毎日忙しく、自分が観たいアニメを観る時間や読みたい本を読む時間を捻出しているので、その時間は自分が観たいアニメを観たいよ!ってことでした。そりゃそうだ。でも母は観てみてほしかったんよ。

 

テレビのどこの局がやっているのか、何曜日のどの時間に放送しているのかも全く知らないで配信で観ている私が言うのもなんですが、ご興味のある方はご覧になってみてください。

 

さて、来月のテーマの話に移りましょう。

アニメの話をしたからというわけではないですが、

 

2025年11月のテーマ

「私が何度も読んでいる漫画」

 

でおすすめしたいと思います。

何度も繰り返し読んだ漫画はもちろんたくさんありますが、大人になってから出会い、ここ十年ほどの間で何度も読んだ漫画となるとすごく限られます。

今までに、クリスティー作品をはじめとして何度も読んでいる小説についてはたくさん書いてきましたが、そういえば漫画のことは書いてないなあ…というわけでこのテーマにしてみました。

小説に比べると漫画は読む量がめっきり少なくなってしまったので、私の知る作品なんてほんの僅かではありますが、ご興味ありましたら覗いていただけると幸いです。(*^▽^*)

2025年10月のテーマ

「クリスティー関連本」

 

第四回は、

「名探偵ポワロの華麗なる生涯」

アン・ハート 作、深町眞理子 訳、

晶文社、 1998年発行

 

 

です。

 

この本は、今月おすすめした他のクリスティー関連本とはちょっと違います。

内容は、ずばりポアロの研究書。

クリスティーが生み出した架空の名探偵、エルキュール・ポアロを一人の人物として、研究した本です。

(本のタイトルでは"ポワロ"となっていますが、記事では私のいつも通り"ポアロ"と書かせていただきます。)

彼の人生、性格、事件が起こった年代やその背景となったイギリスの社会変化、探偵術。

さらには、好きなものや場所、親しい友人にそのほかの交友関係まで。

まさにポアロ徹底解剖!といっていい一冊です。

 

もう何年も前のことですが、この本を図書館で見つけた時、ものすごく興奮したことを覚えています。

だって、シャーロック・ホームズならこの手の本は見たことがあります。

シャーロキアン(ホームズの熱狂的ファンのこと)の団体もありますし、そういった会の会員たちはホームズおよびホームズ作品についての研究論文を発表したりしているとも聞いています。

 

でも、ポアロの本は初めて!

実際にはポアロの研究書だって他にもあるのかもしれませんが、私はお目にかかったことがありませんでした。

それにやっぱり、ホームズほど多くは研究されていないと思います。(不本意ですが…。)

初めて見つけたポアロ研究書に、ポアロもホームズの領域に達しているような気がしてすごくうれしかったのです。

 

ちなみに、私のポアロ愛については過去の記事で書かせていただきました。

 

 

この本は、内容も装丁もどっしりしています。中は二段組になっていてボリューム満点。私みたいにコアなファン(自称)にはたまらないマニアックな内容になっております。ミステリー研究家向けの専門書みたい…。

装丁も、表紙が赤いバラとポアロの姿、裏表紙には田舎のお屋敷っぽい建物と風景(たぶんクリスティー家族の田舎の邸宅・グリーンウェイだと思います。本で見た写真に似てる。)に美しくセッティングされたテーブル。全体的に深緑~青緑の色で統一感を出してあって、帯は金色。

ポアロのイメージによく合っていると思います。

これが例えばホームズの研究書だったら全然違うデザインになると思う。

 

何が言いたいかといいますと、

 

全体的にポアロへの愛!が感じられる

 

ということです。

 

正直だいぶボリュームがあるので、私も何度も読むには重いのですが(時間がないなかで他の本も読みたいし)、久しぶりにこの本を手に取ったら欲しくてたまらなくなってしまい、葛藤しています。

(たぶん私以外の家族は読まないので…。)

 

というわけで、かなりどっしりしたポアロ研究書であるこの本。

ポアロ愛たっぷりでございます。ポアロ好きの同士の皆さん!ぜひともおすすめいたします。(*^▽^*)

2025年10月のテーマ

「クリスティー関連本」

 

第三回は、

「アガサ・クリスティー完全攻略」

霜月蒼(しもつきあおい) 作、

講談社、 2014年発行

 

 

 

 

です。

 

今はクリスティー文庫でも出ているんですね。Pickの検索するまで知らなかった…。

私が読んだのは一番目と三番目に貼った単行本版なんですが、図書館で借りたものはカバーがなかったので、こんなデザインだったのね…と新鮮な気持ちで見ております。

ちなみに、カバーを外した状態ものっぺらぼうというわけではなくて、黒地にミステリーっぽいモチーフが散らしてあって、シンプルだけどかっこいい感じです。

 

それはさておき、作者の霜月蒼さんはミステリー研究家だそうで、主に海外ミステリーに関する書評や評論を書いていらっしゃる方のようです。

そして、この本は「翻訳ミステリー大賞シンジゲート」にWeb連載された「アガサ・クリスティー攻略作戦」を加筆修正して書籍化されたものとのことです。

Webでの情報収集にどちらかといえば消極的な私は、ミステリー好きのくせに名作ミステリーだとかおすすめミステリーだとかの情報を検索することがほとんどありません。興味の方向があっちこっちに向くので、調べなくても読みたい本に事欠かない…むしろ飽和状態なので、たまたま私の人生とクロスして出会えた本が読みたいものであればそれでいっか!みたいなところがあるのです。

というわけで、この本の基になった記事についても全く知らず、もし書籍化されていなければきっと読むことはなかったでしょう。講談社さんありがとう。

 

さて、本の概要としては、早川書房から出ている早川クリスティー文庫の全作品(2014年時点での99作品)について、あらすじと解説がされている、"早川クリスティー文庫の詳しすぎるガイド本"です。

 

しかしながら、まだ読んでいないクリスティー作品のうちどれを読もうか決める指針として読むのならばさっき言ったとおりの"ガイド本"になりますが、私みたいにすでにほぼ攻略済みの人間にとっては全く別です。

(ほぼ、と書いたのは、購入していないクリスティー文庫が三冊くらいあるからです。)

ミステリー研究家から見たクリスティー作品の評価を一冊一冊ぜーんぶ読めるんですから。

 

ただのクリスティー好きおばさんの私には、クリスティー作品について人と話す機会はまずありません。

ネット上で同好の士をみつけて同じく好きな方々のグループに飛び込めばいいのかもしれませんが、日常生活を回す中で正直時間が足りませんし、クリスティー以外、何ならミステリー以外にはまっているときもあるので、そういう場に入っていいのか気が引けるところもあります。

クリスティー以外にも海外ミステリー作品をたくさん読んでいらっしゃる作者からは、解説の端々から新しい知識や見方を得ることもできて、個人的には楽しかったです。

 

ただ、概要とか知らないでまっさらなまま読みたい派の方には不向きだと思います。逆にほぼ攻略済みの方でも人によっては結末のわかっている作品についての解説を99作品読み続けるのは飽きてしまってきついと思われるかもしれません。

そのあたりは、個人個人の読書に求めるものが違う以上仕方がないことかなと思います。

 

私としましては、全作品(何度も言いますが2014年時点)を網羅してひとつひとつにこれだけのボリュームで言及している本にはお目にかかったことがなかったので、貴重な一冊だと思います。

いったいどれくらいの労力がかかっているのか、想像するだけで目が回りそう。…私のキャパと作者のキャパが違うのだろうとは思いますけれども。それでも。

個人的には、ほぼ攻略済みの方におすすめしたい作品です。私だったら、まだ見ぬクリスティー作品はまっさらで読みたいので…。とはいえ、本に求めるものは人それぞれ。どんな方にとは限定せずに…おすすめいたします。(*^▽^*)

2025年10月のテーマ

「クリスティー関連本」

 

第二回は、

「イギリスのお菓子と本と旅 アガサ・クリスティーの食卓」

北野佐久子 作、

二見書房、 2024年発行

 

 

です。

 

作者の北野佐久子さんは、児童文学、ハーブ、お菓子を中心にイギリス文化について発信している方で、以前イギリスに"ハーブ留学(自称)"されていたそうです。

実際にイギリスで暮らし、結婚後も四年間ウィンブルドンに住んでいらっしゃったとのことで、この本には作者自身がイギリス生活中に撮影した写真がたくさん使われています。

 

内容としては、クリスティー作品に登場する食べ物(主にお菓子)とその作品について、筆者が体験した現代のイギリス文化とも照らし合わせて章ごとに綴ってあります。

例えば、

 

・真夜中のココア『スタイルズ荘の殺人』

・英国のビールはぬるい『五匹の子豚』

 

みたいな感じです。

 

・英国のビールはぬるい『五匹の子豚』

を例にとると、ポアロの長編作品『五匹の子豚』ではビールが一つの注目ポイントなんですが、英国のパブで提供されるビールはその場でグラスに注いで出されるのが基本だが冷えていなくてぬるいのが普通だとか、作中に出てくる薬草にからめてハーブ専門家目線でのお話なども書いてあります。

さらには物語の舞台となった場所についても…トリビアが満載です。

 

他の章に関しても、ハーブの専門家らしく、作中に登場する植物から抽出された毒の話や、イギリスで料理の付け合わせによく使われるハーブのお話がたくさん書いてあるのはもちろんのこと、伝統的なお菓子やお祝い事の時に出される食べ物のお話、さらにはレシピが載っているものもあって、お菓子好きの方にも楽しめるのではないかと思います。

私はお菓子作りはあまりしないので、載っているレシピを活用することはできませんでしたが、日本にはないいろんな種類のお菓子の解説が面白かったです。

 

例えば、"ロックケーキ"、"コーヒーケーキ"、"プラムケーキ"…ケーキとついていれば焼き菓子なんだろうなーと想像しますが、焼き菓子といっても日本人が想像する"ケーキ"とは全然違うクッキー?でっかいスコーン?みたいなものもあったりしますし、想像だけではわからないビジュアルを写真で補ってくれてたりなんかもして、目に楽しいです。お店で売っているものや知り合いの方がホームパーティでだしてくれたもの、有名店で食べたものなど、写真も宣伝用のスチール写真ではなく作者が実際に触れたものなので、余計に臨場感があるというか。

 

また、お菓子をはじめとする食べ物に関する章だけではなくて、

 

・ハーブとしてのすみれ「鉄壁のアリバイ」(←短編)

・ふさわしい服装『書斎の死体』

 

みたいな、イギリス文化について紹介されているものもあります。

 

ちなみに、各章の下スペースに、対象のクリスティー作品からの抜粋が載せてありまして、先月の閑話休題で書いた、タペンスが牧師の娘だと明言しているのを見つけたのはこの本です…。だからどうだというわけではないですが…。

 

 

 

 

この作品は、クリスティー作品の中に登場するイギリスの生活の描写をより色鮮やかに感じさせてくれる本だと思います。

同じ作者で、"アガサ・クリスティーの食卓"シリーズの本がほかにも出ているようなので、見つけたら読んでみたいと思っています。おすすめいたします。(*^▽^*)