2024年9月のテーマ
「ちょっと怖い本」
第一回は、
「百鬼夜行抄」
今市子 作、
朝日コミック文庫(ソノラマコミック文庫)、1995年~発行
です。
2024年4月の時点で、Nemuki+コミックスから単行本31冊、朝日コミック文庫から文庫本20冊が出ています。
(出典:Wikipediaより)
私は、ソノラマコミック文庫版で買い始めて、新しい巻は朝日コミック文庫版で持っています。
それでは、あらすじ、または概要を。
この世ならぬもの、妖が見える不思議な力を持っていた幻想小説家・飯島蝸牛(いいじまかぎゅう)の孫たち、飯島律(いいじまりつ)、飯島司(いいじまつかさ)、広瀬晶(ひろせあきら)の三人は、祖父の力を受け継いでこの世ならぬものを見る力を持っている。
主な主人公である、律は祖父の住んでいた家で祖母と母、そして心臓発作で一度死んだ後息を吹き返して以来、人が変わってしまった父と四人で暮らしていた。
実は父の中には、祖父の使い魔だった妖怪の青嵐(あおあらし)が入っており、庭の桜の木には律自身の使い魔となった尾白(おじろ)・尾黒(おぐろ)という二羽の烏天狗(?)みたいな妖魔が住み着いている。
能力を持つがゆえに、妖怪や妖魔と関わってしまう三人の周りで起きる怪異の数々を描いたホラー・ミステリー漫画です。
メインの主人公は第一巻では男子高校生だった飯島律。従姉妹の飯島司と広瀬晶は律より年上の女子大生で、彼女たちメインのお話もあります。
祖父・飯島蝸牛には子供が7人いて、うち一人が早世、一人は若くして行方不明になっています。
孫たち三人に力が受け継がれているだけでなく、子供たちにも多かれ少なかれ、この世ならぬものを感知する力が備わっており、ある者は無自覚にそういったものと接しながら気づかず、ある者は意識的にそういったものを避けて生きています。
孫世代には晶の弟もいますが、彼はあまり力がなく、父親世代の人たちと同様に普通に生活しています。
これら飯島家の人たちの周囲に巻き起こる怪異の数々が面白くも恐ろしいのです。
この漫画は、絵柄が美しく、表紙のカラー絵などは眺めているだけで楽しいですし、コミカルな場面も散りばめられていますので、いわゆるおどろおどろしいホラー漫画ではありません。
グロテスクな描写や、狂気を感じさせるキャラクター設定だったり、心をざらつかせるようなパワーを放出する絵柄ではないのです。
それゆえ、読む人によっては全く怖くない漫画だと思います。
しかしながら、私にはこの漫画は怖い。日本人ならなじみがある、妖怪や自然の中にいる神様、人の怨念…。形には見えない大いなる力…。日常生活の描写の中に、それらが存在するという恐ろしさを感じるのです。
目に見えないけれど、すぐ隣にある、すぐ隣にいる、そうした存在が怖いのです。
それでも読んでしまうのは、作者のあたたかい絵柄と、時にコミカルだったり優しかったりするお話が入っているから。
怖い方のお話では、例えば田舎のバス停留所で雨宿りをすることになった人々…時間がたつにつれてだんだんと違和感がでできて、これらの人は本当に人間なんだろうか…というようなものや、人ならぬものに付きまとわれ追いかけられるお話など、心臓がひやっとしたり、背筋がぞくっとする感じのものがたくさんあります。
一方で、コミカルなお話の方では、尾白と尾黒が一本の木をどちらのものか争うお話だったり、神様の行列が通るから邪魔にならないように避けるというようなお話だったり、くすりと笑ってしまうようなものもあります。
何というか、怖さとユーモアの緩急のつけ方が良いのです。
ちなみに、私のお気に入りキャラは、祖母の八重子(やえこ)と律の母の絹(きぬ)です。
八重子は妖魔など全く見えないし感じないタイプで、見えすぎる蝸牛とは対照的な人。
また、少々の不思議はスルーして平気なメンタルの持ち主で、彼女がいるから飯島家は回っていると言っても過言ではないと私は思っています。祖父とのなれそめのお話もあって、いいなあと思いました。
また、母の絹は最も祖母の資質を受け継いだ子供だと思います。
つまり、少々の不思議なことはスルー出来るってやつです。おっとりしていて、人が変わってしまった夫(中身は妖怪)に対しても、生きていてくれただけで本当に良かったと受け入れています。
この親子は自宅でお茶やお花を教えていて、それで収入を得ていますが、生徒の中には人ならざるものが混じっていることもあったりして…。
私はどちらかというとコミカルなお話の方が好きで読んでいるので、テーマとは異なり、怖い方のお話についてあまり書かないでしまいましたが、相対的にはぞっとする話の方が多いと思うので、やはりこの漫画は「ちょっと怖い本」なのです。
心理的な"怖い話"に興味がある方、私とは感じ方が違うかもしれませんが、どのくらい怖いかはご自身で確認してみてください。おすすめいたします。(*^▽^*)