2023年4月のテーマ

「はじまりの物語」

 

第三回は、

「デルフィニア戦記 第Ⅰ部 放浪の戦士(1)~(4)」

茅田砂胡 著、

中公文庫 2003年発行

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

です。

 

 

以前に、「和製ファンタジー本」というテーマでおすすめした「デルフィニア戦記」の第Ⅰ部です。

 

 

この記事でも書いたことですが、「デルフィニア戦記」は"異世界とはいえ魔法などを信じられてはいない世界を舞台にした騎士物語"です。

もともとは1990年代に中央公論社の<C★NOVELSファンタジア>で発行されていたヤングアダルトをターゲットにしたファンタジー小説でした。

2000年代に入り、中公文庫で発行され、現在は本編全18巻、外伝3巻の計21巻が出ています。

私が持っているのは本編18巻のみですが、この本を読んでいた時期にわーっと買い集めたからで、外伝はその後で出たものなのでチェックしていませんでした。

 

今回記事を書くにあたって調べてみると、すでに三冊も出ている!

しかも、外伝もまず<C★NOVELSファンタジア>で発行されて、しばらくたってから中公文庫版がでている!

これ、実は本好きの人からするとすごくうれしいことだと思います。

<C★NOVELSファンタジア>の頃からのファンは絶対同じ版で続きをそろえたいと思うから。

出版社の心遣いがニクイです。

 

話が脱線しましたが、本編が18巻あり、お話としては4部に分かれています。その第Ⅰ部が<放浪の戦士>(全4巻)

 

この第Ⅰ部は簡単に言うと英雄流浪譚です。

高貴な生まれの青年ウォルの危機を救った十二、三歳くらいの子供、リィ。人間離れした身体能力の持ち主で、はじめ少年だと思われたが実のところは金髪の美しい少女です。

彼女は異世界から来たばかりで、この世界のことは何も知らず、前の世界では男だったと言います。

お互いに信頼できそうな相手とみて、同道することになった二人はやがて国を動かし、大陸全土を変えていきます。

 

この長い物語の始まりといえば、実際は<C★NOVELSファンタジア>の一冊目「放浪の戦士」になるんだと思います。

でもお話としては第2巻「黄金の戦女神」、第3巻「白亜宮の陰影」、第4巻「空漠の玉座」までで一区切り。

そういった意味で中公文庫の第Ⅰ部はちょうどよく区切ってあって、まさに"はじまりの物語"なわけです。

 

第Ⅱ部以降は騎士物語であり、戦記物になっていて、こちらもすごく読みごたえがあります。

第Ⅰ部では、高貴な生まれでありながらそれを知らず賢く健やかに成長した主人公が苦難を経て本来あるべき場所に戻る…という古来からある英雄流浪譚の典型的な形式でありながら、中心にいる主人公ウォルの求心力がただ生まれの良さだけではない彼の魅力であることをうまく描いてあって、ストーリーに引き込まれます。

また、相棒になるリィが大変個性的で、しかも世界の理からも外れているので、物語の世界の常識にとらわれない行動をとったり意見を言ったりできるというのが物語を平凡なものにしていない一因だと思います。

 

リィの持つ価値観は現代の私たちに通ずるところがありながら、合理的に過ぎる部分もあるし、相手の意見を受け入れる柔軟さも持ち合わせています。

ウォルを中心とした物語が一本道なのに対して、リィはウォルの相棒でありながらその一本道に乗っかることを良しとせず、自分が納得する方法で協力する自立した存在になっているので、そこが良いのだと思います。

「放浪の戦士」では、主にこの二人の関係が、"考え方の違いを踏まえながら相手を尊重して付き合う"という形で定着し、友情が深まっていくところが丁寧に描かれているので、後に続く物語の礎をどっしりと築いている印象です。

 

この物語は、どんどんスケールが大きくなっていくので、新しいキャラクターが第Ⅱ部以降もどんどん出てきます。

そういった意味では、第Ⅰ部が物語の大事な部分を決定しているといった感じはありません。

「ハリー・ポッター」シリーズみたいに、長い物語のはじめの方で出てきたキャラクターたちがやがてどのように成長していくか、シリーズを通して見守っていくというのもシリーズ物の楽しみの一つではありますが、「デルフィニア戦記」は登場人物が多すぎて、最初の方に出てきた人はその中の一部という感じがします。

 

もちろんシリーズ中ではじまりの物語からずっといる登場人物がその後どうなっていくかはきちんと描いてありますが、彼らだけが特別といった感じはないと思います。どのキャラもそれぞれにちゃんとその後も出てきて、「銀河英雄伝説」みたいに大事にされてます。

 

長い物語で、そこに登場するたくさんの人物たちがそれぞれに読者に愛されている。長くても物語がきちんと完結していて、しかも美しく完結している。そんな物語が「デルフィニア戦記」です。

第Ⅰ部、「放浪の戦士」はその物語のまさしく原点。

はじまりの物語と呼ぶにふさわしいと私は思っています。おすすめいたします。(*^▽^*)