シュメールの英雄、ラガシュは20歳になった。彼は妻のウンモにこう言った。「英知の森に文明を伝える人がいると言う言い伝えがある、人々は彼らを森の人と呼んでいる。私は森の人に遭いにしばらく旅に出る。」ウンモはまだ17歳だった。透き通る様な白い肌に大きな目をしていた。彼女は言った。「森の人に遭いに行き、帰って来た人はいません。私には森の人は恐ろしい魔物にしか思えません。何故、あなたは森の人に遭いたいのですか?」ラガシュはシュメールがアッカド人の襲撃を受けた際に兵を率いシュメールを守った英雄と皆が尊敬していた。ラガシュは言った。「我々は文明を持たなければ、またアッカドの侵略に耐えれないだろう。また文明を持つことでアッカドの民とも仲良く暮らしていけるのではと考えている。ラガシュの意思は固かった。ウンモもラガシュをとめる事はできなかった。そしてラガシュは森の人に遭いに行くのだった。

シュメールの森はセレロンと言った。大きなチグリス川を挟んで西と東に分かれていた。森の人はこのチグリス川の川辺に住んでいると言う言い伝えであった。ラガシュは川辺で何日も待った。それは3日目の夜だった。ラガシュが川辺に火を焚いて眠っていたところ、川から何者かがこちらに向かってくる気配を感じた。

その者は身長がかなり高く2mはあろうかと思われた、暗くて顔を識別はできなかったが、何か今までに見た事のないものである事はラガシュはすぐ感じ取った。「誰だ!貴様!」ラガシュは叫び後ずさりをした。彼の手にはシュメールの武器、カンデランが握られていた。その2mはあろうか言う者は一人ではなかった2人いや3人いた。ラガシュの焚いた火の明かりで彼らの顔がはっきりとわかった。彼らは人間ではなかった。いや確かに体は人間と同じであったが、顔は魚、そう魚の顔をしていた。ラガシュは心臓が止まりそうだった。

そこは、静寂の世界だった。和美は琢磨の顔を覗き込んだ。琢磨は眠っている様だった。「琢磨!起きて」和美は琢磨にささやいた。涼しい風が琢磨の頬にあたり琢磨は目を覚ました。「こ・ここは?」「判らないわ・・・でも誰もいないの・・・・」夕焼け空の様な真っ赤な空が一面を覆っていた。涼しい風が吹いていてとても居心地が良かった。二人は抱き合ったまましばらく真っ赤な空を眺めていた。彼らにはその時間が永遠に続く様に感じられた。
和美は真っ赤に血に染まったCD-ROMをスロットに入れたシュィーンと言う機械音と共にデータがメインフレームを書き換えて行った。美墨が言った。「丹羽教授!私はあの時に日本帝国軍をうらみあなた達を殺し、自分も死ぬつもりでした。しかし、こちらの世界に肉体を持ってきている自分は死にたくとも死ぬ事はできませんでした。私は日本を愛していました。結局、日本人を一掃すると言う事はできませんでした。この世界のプログラムは何も変わっていません。琢磨君、君のそのプログラムはこの世界を60年前に戻そうとするはずだ、君も私ももう一度、あの瞬間に戻ることになるだろう。」琢磨は叫んだ「見ろ、世界が溶けていくすべてが真っ赤だ!」和美は琢磨をきつく抱きしめた・・・・「愛している。」和美は琢磨にささやいた。時は急速に遡って行った。すべては闇に包まれた。

「琢磨!!」和美が叫んだ。琢磨の右肩かた鮮血が噴出していた。「大丈夫!?」和美は真っ青になって琢磨を抱き起こした。和美の分身が笑った。「ははは、まったく同じことの繰り返しだわ。」「60年前にもあなたのお祖父さんも同じことをじようとした。」萩原も右耳から血を流していた。「このやろう、よくもやりやがったな!絶対に許さん!!止めをさしてやる!!」その時だった。コントロールサーバー室の奥のドアが開き一人の人物が姿を現した。美墨だった。「やめろ萩原君・・・止めるんだ!!」美墨はまったく年を取っていなかった。そして琢磨の前まで無言でやってき、そして琢磨に言った。「君が丹羽教授のお孫さんだね?もう60年になるのか・・・早いものだ・・・自分は、丹羽教授にだまされ殺人の片棒を担がされた事が丹羽教授への憎しみに変わっていった・・・自分でも自分をコントロールできなかった。彼を・・・尊敬する丹羽教授を自分は殺してしまった。」・・・琢磨は痛みに顔をゆがめながらこう言った。「あなたは、この高次元の世界を支配し、そして日本を一旦は破滅に追いやった。何万人と言う罪の無い人々を死に追いやった。その罪を償うべきだと俺はいつも親父から言い聞かされ育ってきた、そんな貴様を許すわけには行かないんだ。この世界に平和をもたらすべきシステムの浄化が必要なんだ!」「和美!、早くこれをそのスロットに!!」琢磨はCD-ROMを和美に渡した。そのCD-ROMは血で真っ赤に染まっていた。

美墨はセントラルと呼ばれるタワーを高次元世界の中心に建造し,全世界を彼の考案したシステムで統治していた。財膳達の秘密部隊はセントラルの場所を確認しセントラルに侵入した。タワーには何百人と武装したセキュリティが配置されていた。壮絶な戦いだった。原田が叫んだ。「皆、ドラゴンフライをオンにしろ。」彼らは総勢11人であったが、何百人もの戦力を持っている軍隊の様であった。目にも留まらない速さで瞬間に移動しその移動が終わった瞬間に何十人ものセキュリティがフロアに横たわっていた。あっと言う間にセントラルの最上階、美墨のいるコントロールルームにたどり着いた。その時点では財膳の秘密部隊は半数の4名となっていたが、相手方は数百人の犠牲者が出ていた。美墨はあまりの戦力の違いに愕然としながら、コントロール室に逃げ込んだ。「お見事です。丹羽教授、驚きましたよその装置の威力には・・・ただこれだけは言っておきます。現在、この世界をコントロールしているのは私です。今、一瞬で皆さんをこの世界から消し去ることができると言ったらどうしますか?」美墨の声が最上階に響き渡った。財膳たちはコントロール室の入り口まで来ていた。財膳が健二に確認した。「美墨の言っている事は本当か?」健二は答えた「私もここまで簡単に来られるとは思いませんでしたが、おそらく最後の手段として我々を消し去ろうとしているのでしょう。」「それなら何故最初からやらなかったんだ?」原田は大きな声で健二に言った。「おそらく、それは彼にとってもいちかばちかの最後の手段だったんでしょう。ひとまず、撤退した方が無難でしょう。」・・・健二は叫んだ。「美墨君、それではこうしようじゃないか?我々は撤退する。しかし日本を犠牲にするのはやめてくれ。君も日本帝国の人間じゃないか?」・・・・美墨が答えた。「残念ですが、日本は破滅の運命を選択しました。まもなくとてつもない悲劇が日本を襲うでしょう。それは中国人やアジアの人々を人とも思わない扱いをしたその天罰なのです。残念です。私にはこれしかできません。」美墨はコントロールシステムの消去システム稼動のボタンを押した。美墨の目には涙がこぼれた。「さようなら、丹羽教授、尊敬しておりました。」次の瞬間、丹羽教授、財膳、原田そして秘密部隊の4名は霧に包まれ消え去った。

いよいよ、財膳を長とする帝国軍の秘密部隊が健二が完成させた次元装置によって今や美墨が支配する高次元の世界へ侵略する日を迎えた。美墨を殺害しそして高次元世界を支配する事が目的であった。その作戦は2月3日が決行日だった為、2.03作戦と呼ばれた。財膳は原田に命令をした。「原田、準備は良いか、美墨はすでにあちらの世界を支配している。今回の2.03作戦は美墨の命だけを狙うんだ、正面から戦っても勝ち目はないだろう。奴のシステムは完璧に高次元世界を支配している。こちらの動きはお見通しだ。」健二が後を続けた。「原田さん、この2.03作戦では、先方の目くらましが必要だと考えています。まず、このドラゴンフライとなずけられた瞬間移動装置を皆さんには装着してもらいます。この瞬間移動装置はこの様に一瞬で・・・」その瞬間、健二の姿は消え去った。次の瞬間、研究所の吹き抜けになった2階の廊下に健二の姿はあった。そしてまた、次の瞬間に健二は原田の前に姿を現した。「このドラゴンフライで美墨から高次元世界を取り戻しましょう。奴は日本を滅ぼそうとしています。危険な思想に取り付かれています。」財膳はうなづきこう言った。「はじめてくれ、丹羽教授。」健二は次元装置のスイッチを入れた。ゴーという低いうねりの音が加速室を包み財膳、原田、健二そして秘密工作員が8名の合計11名が次の瞬間に

高次元世界に消え去った。後は静けさだけが残った。いよいよ高次元の世界での戦いが始まろうとしていた。現実の世界でもまさに世界大戦が始まる瞬間であった。

美墨は生きていた。高次元の世界で確実に・・・彼はその世界をコントロールし始めていた。その次元は皆が肉体を持たない精神だけの世界であり、肉体を持った彼がコントロールをする事はそれほど困難な事ではなかった。「なるほど、連合軍が血なまこになってこの開発を阻止しようとしていた事が始めて判った。これは精神を支配する事が、すなわち3次元の世界を支配できると言う事なんだ・・・」彼はこの高次元の世界をopposite deirectionと名づけた彼のシステムでコントロールを始めていた。まず最初に彼は3次元の世界をその汚れ切った世界を一掃しクリーンな状態からの再生を試みようとした。彼の高次元世界での研究所には彼を崇拝する何百人と言う研究員がすでに存在していた。彼らは美墨のマインドコントロールシステム opposite deirectionにて洗脳されていたのだった。世界一掃作戦は第二次世界大戦となって3次元世界を襲う事になるのだった。


三年後

時は1943年を迎えようとしていた。健二はハルピンの研究所に戻り研究を完成させた。しかし、美墨の時と決定的に違ったのは、完全に日本帝国軍の監視の下に研究が進められたと言う点であった。また、健二のそばにはいつも原田がいた。そしてその日は来た。第一回目の公開実験である。あいにく朝から激しい雨が降り雷が鳴っていた。公開実験には帝国軍の幹部はもちろん原田とあの白髪の老人も列席していた。後で健二は知らされる事になるのだが、その老人は日本のフィクサーと呼ばれている人物であり、ナチスドイツの秘密結社にも所属している人物であった。名前は財膳と名乗っていた。財膳は言った。「それでは丹羽教授始めてくれ。」「判りました。」健二は大きくうなずくと加速室のスイッチを押した。同時に被検者である中国人のヘルメットに連結された加速器も作動させた。この2つの加速器が重力のひずみを人口的に生み出し

被検者の次元移動を可能とさせていた。ドーム型の加速室は世界最大の大きさを誇り、コントロール室は

加速室に隣接して設置されていた。コントロール室にもその大きく低いうなるような音はビンビン響いてきておりその時間は永遠に続くのではないかと思われるほど長く感じられた。実際には数分の時間ではあったが、被検者は光に包まれそして消え去ってしまった。それは一瞬であった。皆は自分の目を疑った。

「成功です。」健二はつぶやいた。財膳は満足げな表情であった。そして言った。「よし、OKだ。次の段階に進もう・・・・・」

フィッシャーマン、彼がその名前を初めて聞いたのは2か月前のことだった。これからこの人物が自分の人生を揺り動かす事になる様な気が健二にはしてならなかった。美墨の手帳は黒い革張りの手帳でかなりの厚さがありずっしりと重かった。ざっとページをめくると彼にはその意味するところが何故か瞬時に判った様な気がした。アインシュタイン理論では説明がつかないアインシュタイン理論を越えた理論。そうそこには

ブラックホールの作り方が詳細に記載されていた。ブラックホールをこの地球上で形成させ、そのブラックホールを利用して高次元世界を顕在化させるというのが究極の目的であった。健二はすでにハルピンの研究所で人間の意識を加速器にて高次元の世界に移動させる実験にほぼ成功していた。この研究とフィッシャーマン理論を結合させれば次元のコントロールが可能になるはずであった・・・・しばらく健二はむさぼるように美墨の手帳を読んでいた・・・「すみません。奥さん・・・つい夢中になってしまって・・しばらくこの手帳を貸していただけないでしょうか?」色白の彼女は頬をほのかに染めて言った。「主人からその手帳は丹羽教授に渡して欲しいと言われていました。私が持っていても仕方ないものですから・・・ただ最後のページに気になる事が・・・」健二は最後のページを開けてみた、そこには震える様な字体でこう書かれていた。「丹羽教授・・・僕は先に次元を超えます・・・丹羽教授が来られるのを待っています・・・僕は中国人を何千人と殺してしまった。この罪の重さに耐えられなかった・・・・次元を超えてすべてを精算させます。」

健二は1週間後には研究所に復帰しなければいけなかった。軍の命令には、そむくことはできなかったのだ。言いようの無いイライラ感の中で健二は美墨の実家を訪れる決心をした。それは彼が内閣官房室に行った3日後の事だった・・・美墨の故郷は岡山の倉敷にあった。白壁に川辺の柳並木が美しい通りに面した大きな屋敷だった。「ごめんくださ~い。」健二は門を叩きながら声を張り上げた。大きな門の勝手口が開き中から35歳位だろうか色白のハッとする様な女性が現れた。彼女は健二が来ることが判っていた様にこう言った。「丹羽教授でいらっしゃいますね。お待ちしておりました。どうぞ、中にお入り下さい。」・・・・「え、は、はい、ありがとうございます。」突然の訪問であったのに健二は何がどうなっているのか理解できなかった。彼は彼女の後から屋敷に入った。その屋敷の庭は健二が想像していたよりもはるかに大きく思わず絶句するほどであった。彼は応接室に通された。非常にモダンな西洋風の応接室でえび茶色の革張りのソファがすわり心地も良かった。しばらくすると先ほどの女性が飲み物を持って現れた・・・「主人から色々聞いておりました。主人は本当に丹羽教授の事を崇拝していた様です。主人からこれを丹羽教授に渡して欲しい。丹羽教授は必ずこの家に来てくれるはずだ。そう主人の最後の手紙にあったんです。その最後の手紙と一緒に送られて来たのがこれです。」彼女はそれを健二に渡した。それは革張りの手帳だった。健二はその手帳を受け取り最初の一頁をめくった。「フィッシャーマン理論の考察」そこにはそう書かれていた。