健二は1週間後には研究所に復帰しなければいけなかった。軍の命令には、そむくことはできなかったのだ。言いようの無いイライラ感の中で健二は美墨の実家を訪れる決心をした。それは彼が内閣官房室に行った3日後の事だった・・・美墨の故郷は岡山の倉敷にあった。白壁に川辺の柳並木が美しい通りに面した大きな屋敷だった。「ごめんくださ~い。」健二は門を叩きながら声を張り上げた。大きな門の勝手口が開き中から35歳位だろうか色白のハッとする様な女性が現れた。彼女は健二が来ることが判っていた様にこう言った。「丹羽教授でいらっしゃいますね。お待ちしておりました。どうぞ、中にお入り下さい。」・・・・「え、は、はい、ありがとうございます。」突然の訪問であったのに健二は何がどうなっているのか理解できなかった。彼は彼女の後から屋敷に入った。その屋敷の庭は健二が想像していたよりもはるかに大きく思わず絶句するほどであった。彼は応接室に通された。非常にモダンな西洋風の応接室でえび茶色の革張りのソファがすわり心地も良かった。しばらくすると先ほどの女性が飲み物を持って現れた・・・「主人から色々聞いておりました。主人は本当に丹羽教授の事を崇拝していた様です。主人からこれを丹羽教授に渡して欲しい。丹羽教授は必ずこの家に来てくれるはずだ。そう主人の最後の手紙にあったんです。その最後の手紙と一緒に送られて来たのがこれです。」彼女はそれを健二に渡した。それは革張りの手帳だった。健二はその手帳を受け取り最初の一頁をめくった。「フィッシャーマン理論の考察」そこにはそう書かれていた。