沙代子は病院のベッドで涙を浮かべかすれた声で私にささやいた。「神さまって本当にいるのかしら?私はこのまま・・この病院で死んでしまうのかしら・・」沙代子は病状はこの1年悪くなる一方だった。悪性リンパ腫・・・手の施し様がなかった。「神様は沙代子のうちに存在するんだ。神様は決して沙代子を見捨てたりはしない。」私は沙代子の手を握りしめて言った。沙代子はうんと小さくうなづいた。彼女の頬を一筋の涙が伝わった。

惑星間の飛行は、現実のものとなっており、今の時代で言えばニューヨークからサンフランシスコに車で移動する位の感覚だった。ジェームス・P・ケンドリックスは妻のアンと娘のサラそしてサラの友達のレイモンドをつれて週末の惑星間旅行を楽しんでいた。「目的地は、・・・・・モーロ星・・・」彼はナビゲーションシステムに入力をした。「どの位かかるのかしら?」アンがジェームスに聞いた。「そうだね、6時間ってところかな・・」彼らが住んでいる星はアーセナル星と呼ばれていて。周辺にいくつかのリゾート目的の星を持っていた。モーロ星もその中のひとつだった。「あ、あれ・・・あれ」サラが指差した先には宇宙空間に出来るオーロラが幻想的な輝きを放っていた。「ジェネシスだね」レイモンドが答えた。彼はサラと同じ中学に通う少年だった。今日は、彼の両親が不在だった為、この惑星間旅行について来ていた。レイモンドの両親はジェームスと同じ職場で働いていて仲の良い関係だった。「本当にきれい・・」サラがため息をついた。ジェネシスは何千キロと続くオーロラだった。虹色に輝くその姿はまるで天にかけられたカーテンの様だった。彼らの惑星間ロケットはそのカーテンを右手に見ながら進んだ。

今日で終わりにしよう。モットはそう決心していた。その政府専用機には本田教授とひとみも乗っていた。順調なフライトで後数時間でカイロに到着する予定だった。窓の外は漆喰の闇だった。本田教授が彼の隣に座っているモットに独り言の様につぶやいた「窓の外にさっきから何か閃光が見えるんだ。あれは一体・・・」

モットは目を閉じたまま「気がつきましたか?我々はどうやら、彼らにつけられている様です。シーケイダの連中は我々がカイロで彼らのリーダーを抹殺し彼らを分断すると言う作戦を見抜いている様です。」モットは目を見開いてこう付け足した。「今、カイロのギザのピラミッドにいる奴らのリーダーの精神にダイブして

彼らの意図を探っていました。奴らは核爆弾を主要都市で30分以内に次々と爆発させるつもりです。その前にギザのピラミッドを破壊しましょう。」「え、そんな無茶苦茶な!」本田は絶句した。「やらなければこちらがやられるだけですよ。」モットはテレパシーでペンタゴンの同士に指令を出した。ギザのピラミッドを核攻撃しろと。後は時間との勝負であった。漆喰の闇の中ペルシャ湾に駐留していた空母エンタープライズから

スティルス戦闘機が3機発進した。同時にモットたちの専用機を追尾していたシーケイダの飛行物体が閃光を残し南に消えていった。


その時だった、TVの画面がいきなり変わりそこに小林教授と山城教授が映し出された。「これは・・・」ひとみは声にならない声をあげた。「やつらのメッセージだ!」モットはTVの映像を凝視した。映像はみだれがちであったが音声はクリアーだった。小林教授が最初に話し始めた。「君たち人類はこの地球と君たちが呼ぶ惑星が君たちの物であるかの様に考えているのだと思うが、君たちは侵略者だ。ここにわれわれ-----は、われわれ-------の力で君たちを元の君たちの惑星-------に帰って貰いたい。その為の時間を-------与える。それがすぎれば我々は我々の武器を君たち人類に使わなければならないだろう!」そこでいきなり画像は終わった。音声はクリアーであったが一部彼らの発音が我々人類の可聴域を超えているのか聞き取れない部分があった。彼らは我々人類に火星に戻れと通告して来たのだ。モットが言った。「もう一度彼らと戦わないといけない様だ。我々に与えられた時間はほとんど無い様だ。」「彼らが人類に与えた時間と言うのは?」ひとみが心配そうな顔でモットに確認した。「1時間だ・・・彼らの時間軸と我々の時間軸は全く違うようだ。くそ!1時間で何が出来るんだ。彼らの武器とは何なんだ?」沈黙の時間が流れた。

「彼らシーケイダは人間と違って集団でしか行動ができないんだ。彼らは必ずリーダーがいて、そのリーダーが死んでしまえば彼らは方向性を失い自滅するしかないんだ。前回の戦いでは、人間の中から誘導者と呼ばれる人たちが現れ、人間を誘導すると共にシーケイダのリーダーをその強い念力で葬り去ったんだ。

彼らには科学力では立ち向かう事ははなから無理なんだ・・・・。僕は子供の頃からこの日が来ることを親から告げられていた。そう、誘導者の末裔として・・・」モットは唇をキュっとしめ、厳しいまなざしでひとみを見つめた。彼の話では、誘導者は各国に数人いて常に念力で通じ合っているのだそうだ、彼らはシーケイダのリーダーがエジプトのピラミッドの中でよみがえりピラミッドその物が全世界の彼らの仲間に指令を送る電波塔の役目を担っていると言う事まで突き止めているのだそうだ。その時、リビングのTVでは、日本各地でシーケイダがよみがえり中には人間に危害を加えたと言う情報も入ってきている事を告げていた。事態は動きだしたのだ!

その電話は本田教授からだった。「やられたよ、君の言っていた通り彼らシーケイダは、小林教授と山城教授の意識に一瞬の隙に入り込み、捕獲していたシーケイダのカプセルを全部開けてしまった・・・我々に勝ち目はあるのだろうか?」モットは静かに言った。「僕たちは現在の地球に住む人間の誘導者として今こそ一致団結するときだと考えています。すでにこの事態に備えいつでも作戦を実行できる段階にあります。」本田教授はモットに言った。「地球を救えるのは君たち誘導者しかいないだろう。この事は城嶋さんにもすでに伝えているんだが、とにかく明日の朝、10時に国家安全局に来てくれたまえ。車をそちらに回すから・・」「はい、分かりました。」モットは受話器を置き、宙を仰いだ。「モット?大丈夫」ひとみが心配そうに声をかけた。「うん、大丈夫だよ、これから彼らともう一度戦わないといけない事になりそうだ・・・君にも力を借りなくてはいけないなぁ・・・」「え、私が・・・」ひとみは何のことかまったく理解できなかった。モットはソファに戻りひとみと再度向かい合い、話を始めた。ひとみはじっとその話を聞いた。その話はひとみの想像を超えた話だった。

モットは全てがわかっている感じだった。真っ赤なソファから立ち上がると、ひとみに背を向け何かを考えている様だった。ひとみは、モットが何か重要な事を言うか言わないか迷っているのではと思った。そして声をかけた。「モット、この地球は彼らシーケイダの物だったなら、私たちはどこから来たの?」彼は振り向いてこう答えた、「火星だ。」「えっ」ひとみは驚きの声をあげた。「我々はもともとは火星に住んでいた。今から何十億年も昔の話だ。火星はその星としての寿命を終える事が判明し我々はこの地球に住まざるを得なかったんだ。この星の先住民である彼らシーケイダは快くそれを受け入れたのだが、我々人間は最終的に彼らシーケイダを追い払ってしまうことになったんだ。」モットはもう一度ソファに戻り腰を落とした。ひとみはモットに質問をした。「最初はうまくやっていたんでしょ?どこで彼らと対立する事になったの?」「我々人間は他の生物を絶滅に追いやる性質を持っている・・・としかいい様が無いんだ。」モットはため息をついた。そのため息は彼の幾分寒い部屋で白い吐息となった。「彼らが目を覚ますと厄介な事になる。彼らは人間を完全に敵対視している。今度はただじゃすまないだろう。彼らの科学力は人間のそれをはるかに凌駕するものだ・・・どちらかが絶滅する事になるだろう。これは戦争だ。」その時、彼の部屋の電話が鳴った。


「モット・・・私、ひとみ・・・」「どうしたの、こんな夜に・・・」すでに深夜0時をまわっていた。突然、ひとみがモットの家を訪ねてきたのは、例のシーケイダ問題が世界中で公表され天地がひっくり返った様な騒ぎになった日の夜だった。「怖いの・・入っていい?」「いいよ、散らかってるけどよければ入って・・」モットはひとみを

部屋に入れた。彼の部屋は充分な広さのある1LDKでリビングは20畳はあった。ソファは真っ赤な革張りで

あったがセンスのあるインテリアだった。彼はマグカップを2つ持ってキッチンから戻ってき、それをテーブルに置いた。「コーヒーしか飲まないんで、これで我慢して・・・」彼はそう言うと一口、コーヒーを口にした。ひとみは話を続けた。「小林先生から電話が、あったの。」「なんて?」モットは二口目を口にして言った。コーヒーの湯気が口から出ていた。結構この部屋が寒いことがその時ひとみは気がついたが、ひとみは話を続けた。「あのシーケイダなんだけど・・タイマーが作動して地球に埋もれている何十億のカプセルが稼動し彼らが目を覚ますのが非常に近いと言う事が判ったらしいの・・」「やっぱりな・・」モットは予感していた様にそう答えると話を続けた。「前にも少し話したんだけど、この事は秘密にしていたんだ。実は彼らこそ地球人で、我々人類は他の星から来た異星人なんだ・・」ひとみはあまりの話にマグカップを落としそうになった。

まずは、これから見てください。本田は手もとのリモコンのボタンを押した。すると目の前のスクリーンが上がりガラス張りの部屋が現れた。「おー」思わず城嶋は叫んでしまった。そこには生きたままのシーケイダが2匹いた。「気をつけてください。今はシールドがありますから大丈夫ですが、彼らは我々の意識に侵入し我々を操る事ができるのです。最初、それを知らない時には何十人と言う研究員が犠牲になりました。」・・「つまり、彼らは超能力を持っているのですね?」小林は本田に尋ねた。本田は軽くうなずき話を続けた。「そうです。彼らは言葉の代わりにその能力で会話をしています。恐ろしいのは同時に複数のシーケイダ同士で意思を通わす事はもちろん距離も彼らには関係ないわけで・・・その統制力はずば抜けている訳です。」・・ガラス室のシーケイダはじっとこちらを見ていた。その顔はまさにセミそのものであり、手には人間と同じように指がついていた。小林はセミのお面か何かをつけて人間が中に入っているのではと言う・・何か不思議な感じがした。その時、突然シーケイダがガラスに突進してきた。ドーンと言う大きな音がしたがガラス面はびくともしなかった。本田がスクリーンをリモコンで即座に下げた。「普段はとてもおとなしいのですが、興奮した様ですね・・彼らは本当に攻撃性は殆ど持っていません。しかし彼らのカプセルから判断するとその科学力は現在の人間のレベルの比ではないです。そこで今、アメリカと日本そしてイギリスも入り極秘の対応策が練られています。彼らを敵に回したら人間の勝ち目は無いでしょう。」本田は静かにそう言った。

「蝉人間とでも言うべきでしょうか?」本田教授は続けた。「かれらは、このカプセルの中で7万年もの間、眠っていて活動を起こすチャンスを伺っているのです。」ここは幕張の政府系の調査研究所であった。本田教授はこの調査研究所の責任者であり生物研究のエキスパートだった。小林教授と山城教授もこのシーケイダ計画のメンバーに選ばれた。国家安全局の城嶋はカプセルの中をのぞいていた。「本田教授・・・この蝉野郎は・・いや失礼、このシーケイダはこれで何体目なのですか?」城嶋は国家安全局の秘密メンバーだった。「こちらへどうぞ・・・」本田は小林教授たちと城嶋ら国家安全局のメンバーを別室に案内した。その部屋の扉を開けた瞬間、城嶋や小林は息を呑んだ。なんと何千と言うカプセルが壁の両側に作られた専用の棚に整然と並べられていた。城嶋も数多くのシーケイダが回収されていると言う話は聞いていたが実際に見るのは初めてであった。「みんな生きているのか?」城嶋の声は震えていた。「動いていますね・・・」小林が言った。その部屋はマイナス温度に設定されておりひんやりと寒かった。皆の息が白かった。小林は今にも蝉人間がいっせいにカプセルから出てくるのではと言う恐怖を感じた。「それでは実際のシーケイダを見てもらいましょう。こちらにどうぞ・・・・」本田は皆をまた別の部屋に案内した。