「日本語の音相」をお頒(わ)けします。
「日本語の音相」(木通隆行著、小学館スクウェア刊)はすでに絶版になっていますが、当研究所の保有分をご希望の方にお頒わけいたします。
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日本語美を作っている「膠着語」
膠着語とは、意味をもつ「語幹」の前や後ろに、それ自体では意味をもたない「接辞」をつけて微妙な雰囲気や情緒を添える構造を持つことばをいいます。
それを「にほひやかげさ」という「源氏物語」に出てくるということばで、ご説明しましょう。
この語は「にほひ(匂い)」という意味を持つ語幹のあとに、それ自体では意味を持たないが語幹の意味を雰囲気的に補完する接辞「やか」をつけて「匂うような感じ」という語をつくり、それに「らしく見える」という感じをつくる「げ」をつけて「匂うような感じに見える」としたうえ、「状態や程度」を表す「さ」をつけて「にほひやかげさ」という語ができています。現代語に直訳すると「匂うような感じに見える状態」という複雑な心象を表現したことばになっているのです。
源氏物語には、このほか「ものこころぼそげ」(なんとなく心細い感じ)、「なまこころづきなし」(なんとなく気のすすまない感じ)などの膠着語が多く見られますが、当時の人は、ことばが伝えるこのような微妙な感覚を大変大事にしていたことがわかります。
膠着語は次のように、現代語の中でもたいへん多く使われています。
(「」内は意味を持たない接辞の部分です)
晴れ「やか」。 「そぼ」降る(雨)。 「ひた」隠す。 「さ」迷う。 「か」細い。 嬉し「げ」。 「お」寂し「げ」。 「こ」高い。
深「み」。 華「やか」だ。 怒りっ「ぽい」。 煙「たい」
なお、膠着語を持つ言語には、フィンランド語、トルコ語、モンゴル語、満州語、韓国語などがあるようです。 (木通)
ことばには「麻痺現象」がある
新しいことばに出会ったとき、何となくぎこちなさを感じてたのに、使い続けてゆくうちに、頭初の違和感があまり気にならなくなり、そのうち「悪くない」から「良い」にまで変わっていったという経験をお持ちのことと思います。
このような現象を、私はことばの麻痺現象と呼んでいます。麻痺現象は元号の名や、地名、社名など、日常多く使われることばほど早い時期に現われます。
「平成」という元号が発表になった時、識者や町の声をマスコミが報じていましたが「感じがよくない」「平凡」「明るさがない」「新時代への意欲や夢がない」などの感想が大変多く、「良い」という声はほとんど聞かれませんでした。
そしてこの語の音相を分析してみたら、やはり「穏やかで安定感はあるが、暖かさや親しみ感がなく、未来志向的、意欲的なイメージのないことば」と出ました。その原因は、温かみがなく人を寄せ付けない音相をもつ「エ」列音ばかりでできた語であることがわかりました。
ある新聞で私はその分析結果とともに、同じものを直感的にとらえた大衆のことば感覚の高さに敬意を表したことを述べました。ところが、それから3カ月後、同じ新聞社が同じ方法で行なった調査では、平成は「感じの良いことば」「明るく使いやすいことば」など、発表当時とは全く反対の肯定的なものが大変多くなっていたのです。これがことばの麻痺現象なのですが、そう見てくると、ことばには麻痺現象があるから、「初めに感じた第一印象は気にしなくてもよい」と思いがちですが、麻痺をするのは表面だけで、当初に直感した負のイメージは、心の根深いところでいつまでもそのままの形で作用し続けるものなのです。
東証1、2部上場の企業名の中で、年号を使っているのは「明治」が3社、「大正」1社、「昭和」は8社がありますが、「平成」の名を冠した社名は1社もありません。
「平成」以後は、会社の創立、社名変更がとりわけ多句、新社名つくりに腐心した時代だったにもかかわらず、平成の名を考える人がいなかったのは、人々の心の中に第一印象でうけた「負のイメージ」が大きく作用しているからだと思うのです。(木通)
表情語のポイント数が全体的に高い語と全体的に低い語
Q. 表情語のポイント数が全体的に高い語と全体的に低い語がありますが、高い語の方が音相のよい語と考えてよいですか。
(Mr help)
A. 分析表に現れるポイント数は、表情の方向性と、表情語相互間の量的関係を捉えただけのものですから、他の語の数値と比較してもほとんど意味がありませんし、これをもって音相の良し悪しが判断できるものでもありません。一般に明白な表情を持つ語は、ポイント数が全体的に高く出ますし、ポイント数の低い語は反対方向を向く表情語を多くもつ複雑な内容を含んだことばに多く現れます。そのため、語のコンセプトとの関係から、高い方が良いときと、低い方がよい場合があるのです。(木通)
人々の意識を変えた … 『クール・ビズ』
ノーネクタイ、ノー上着という夏のビジネス軽装「クール・ビズ」が、服装にこだわりの強い
サラリーマンの間で、なぜこんなにすんなりと広まったのでしょうか。
このような大衆心理を観察するときに欠かせないのが、ことばの音の 「音相分析」
です。
この語の音相を分析すると、表情欄の上位のところに、『静的、高級感、安定感、暖かさ、優雅さ』など、高尚さや気品を作る表情語が並び、それらをフォローするように『派手、新鮮、個性的、進歩的、若さ』などが続いています。
また、Onsonic体験版では省略してありますが、情緒欄では「クラシック、大らか、夢幻的、人肌のぬくもり感」などがあり、ここでも知的で人間的なものを表現する語が並んでいます。
この語が広待ったのは、梅雨に入って以後のことでまだ日も浅いのに、日経BPの調査によればこの語への一般の認知度は96%にもなっているそうです。
ネーミングが持つ影響力、中でも音が人の心を捉える働きの強さを考えずにはおれません。(木通)
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「日本語の音相」(木通隆行著、小学館スクウェア刊) はすでに絶版となっています
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分析できない語と、評価の難かしい語
音相分析を行って、どうにも評価のできない語が私の経験からみて1~2%ありますし、高度な判断や、高い分析知識がないと捉えられない語が20~40%ぐらいあるようです。
それらは次のような語にほとんど限られているようです。
1. 表情が捉えられない語の場合
(1)意味や字形だけを中心に作られた語。
(例)告別式、鎮魂歌、露骨、病気、激突、爆発、海峡、躍動、
平成、天平、大正 などの年号、デッドロック、ブルドッグ…など
(2)政治的その他、特殊な意図が中心で作られた語
(都市の合併地名、合併社名など。)
(例)大森区と蒲田区の合併 → 「大田区」
更級郡と埴科郡の合併 → 「更埴(こうしょく)市」
三菱銀行と東京銀行の合併 → 「東京三菱銀行」…など
(3)定められた命名法で作られた語
学名、学術用語、法名など。
(4)数字や記号を中心に作られた語
(例)一番町、一丁目、一号館、、A地区、B棟、BGM、NYKなど
(5)他援効果を狙って作られた語
他援効果とは語中の一部の音(次の括弧内に示した音)を際立たせる
ため、それと反対の音を前後に配する技法をいいます。
(例)どくだみ茶(ちゃ)、オロナミンC(シー)、午後の紅茶(チャ)、
リポビタン(リポビタン)D…
2. 高度な判断が必要な語
(1)語自体が「あいまいさ」を意味に持つ語
(例)まぼろし、おもろい、悪魔、ギクシャク、しとしと、
ほのぼの、そろそろ…
(2) コンセプトの数が多すぎる語
一語の中で多くのことを表現しようとすると、反対方向の表情語が
増え、イメージが相殺しあうため表情の見えにくい語になります。
(例)1.土地の名(都市の名)…京都、札幌、東京…など
2.季節を表す語…夏、うづき、6月…など
音数律の美はどこから生まれるか
○ 有声音 対 無声音
○ 清 音 対 濁 音
○ O、U音 対 A、E、I音
○ 強い音 対 弱い音
日本語の音数律にはこのような配慮が隠し味になっていて、これらの対比が明白であればあるほど、音数律の美的効果も高まるように思います。
音相理論を追ってゆくと、このような日本語の隠れた秘密に出会うことが時々あるのです。(木通)
新奇さを作る音の秘訣
ことばには、大昔から新しい表現を求めようとする習性がありますが、どのような新しさを盛り込むかは、時代によっていろいろ違いがあるようです。
現代語が求めている新しさ(ナウさ)の方法には、次の7つの傾向があるように思います。これは、流行語やネーミングを考える際の大事なポイントと言ってよいでしょう。
1. 音の数を少なくする。
2. アルファベットや片仮名文字を使う。
3. 西欧風の音韻を使う。(ファ行音、ティ、トゥ、ディ、ドゥ、拗音など)。
4. 響きの強い音を多く使う。
5. イメージに合った音を使う。
6. ユーモア感のある音を使う。
7. 意味的連想のきく音を使う。
次に、今はやっていることばが、これらの項目をどの程度満たしているか調べてみました。
・全項該当…朝シャン おやじギャル
・6項該当…トラキチ キャバクラ デパチカ
・5項該当…ボキャ貧 激カラ 紺ブレ IT ジコちゅー イケメン
ナウい
・4項該当…ダサい 花キン セクハラ 濡れ落ち葉 ファジー
タマちゃん 一番搾り チョベリバ
・3項該当…おっはー FA
息長く使われている語の多くが、該当項目の数も多いようです。
これらをみても、現代人の音響感覚の高さがよくわかります。(木通)
感涙で読んだ音相理論
(寄 稿)
初めてメールさせて頂きます。
私は日本文化系の学科に通う大学一年生で、進学するかどうかも決まらない時期から、日本語の「聞いたときの印象」に大変興味がありました。しかし、それをズバリ扱う本は殆ど無く、見つけたとしても難解な学術書で、それを読みこなせるほどの力も知識もありません。
自分なりに五十音表などを作って研究はしてみましたが、さすがに客観的な説明も出来ずに悶々としている折、書店で「ネーミングの極意」を見つけ、心から感動するとともにほっとしました。
このような、形も無く説明するにもなかなか難しいことを、非常にきちんと研究なさっている方がいらっしゃることに、本当に感銘を受けました。
今までは「なんとなく」で終わり、不思議に思うけれども自分で調べるのは難しかったことが、音相理論として出来上がってきている、そして、それを解り易く紹介する本やサイトも存在している。凄いことだと思います。この時代に生まれて良かったなあと心から思っています。
私は、拙いながら趣味で文章を書く人間です。たったひとつのフレーズの違いが、全く違う印象となって立ち現れてくる凄さと怖さを、今まで何回も体験しました。また、登場人物の名前ひとつにしても同じことがありますし、プロの作家の方の作品でも、「イメージどおりの名前だなあ」と作品に没入することもあれば、「どうしてこんな名前なのだろう」と馴染めないときもあります。
その不思議な現象を解く鍵が具体的に説明された「ネーミングの極意」と音相システム研究所さんのサイト、どちらも興味深く拝読させて頂いております。もしも叶うなら、私は大学で日本語の印象についての研究をしていこうと考えています。
また、「音」と、それを聞いたときに喚起させられる「色」の関係にも興味があるのですが、友人に尋ねたところ、「そんなことはない、音は音だ」と云われてしまいました。音からの色のイメージはごく個人的な体験から喚起されてくるものなのか、音相とは関係がないのか、その不思議を友人に説明できるようになるためにも、音相について興味を持ち続けていきたいと思います。
夢と感動をありがとうございました。これからも、サイトの更新や新刊の発行など楽しみにさせて頂きます。
長々と失礼致しました。(扶美)