上から読めないときは下から読め … 流行語「どんびき」を分析する
最近「ドンビキ」ということばが聞かれます。
駄洒落などを聞いたときのシラケた感じを言うときや、はなしに乗れない(引く)ようなときなどにも使われているようで、グループや場所の違いによって使われ方もまちまちのようです。
最近の流行語は、初めに珍奇で不思議な音のことばが探しだされ、それがいろいろな所に広がって勝手な意味づけが行われ、そういう中から意味とイメージの関係の優れたものが流行語となって広がってゆくという例が多いように思われます。
そのため流行語はあまり音相のはっきりしない語の方が、いろいろな使い方ができて都合がいいようで、そういう精か、流行語の音相を分析するとはっきりしたイメージをもたないことばが大変多く見られます。
「どんびき」もそんな1つといえましょう。
体験版で見ればお分かりのように、上位の表情語をどのように読んでもこれというイメージの浮かんでこないことばですが、このような語は、表情語を下位の方から読んでゆくと、はっきり見えてくることが多いのです。
この語の下位の表情語を見てみましょう。
「清らかさや爽やかさがなく、大衆性や合理性や現実性がなく、都会的、軽快感、活力感、清潔感」もすべてゼロ…
ここから、この語の表情がはっきり見えてくるではありませんか。
ことばの表情は一筋縄では捉えられないことがこんなところからもわかるのです。
なお、上から読んでイメージが捉えられない語は、
1.曖昧な意味をもった語 か、
2.良くない意味を持つ語(ネガティヴ語)に多いようです。
ついでに、そういことばの例をいくつか挙げておきましょう。
1.曖昧な意味を持つ語の例
「幻、夢、そろそろ、陽炎、曖昧」…
2.ネガティヴ語の例
「しらける、間抜け、ばかやろう、がめつい、憎らしい、自己中」…
「音読」はなぜ大切か
― 音のイメージ効果に気づいた現代人 ―
文章を声に出して読むことの大切さを説いた書物が最近いろいろ出版されるようになり、ことばの音の大切さがいろいろ取り上げられるようになりました。遅きに失したとはいえ同慶に耐えません。
声を出して読むことが、どんなに大事なことかは、音相論で説明すれば答えはきわめて簡単です。
文字は意味と直接的に結びついているため、黙読すると字面(字形)を中心に読むことになり、その間、音の機能はほとんど無視されたままですが、声を出して読むと、音が持っているイメージの作用が加わるため、も功徳よりも立体的で深みのある理解が可能になるからです。
読者の声 ― 「日本語の音相」
やっと、読み終えました。
感想を少々したためます。お時間の有る時にお読み下さい。
1.先生の音相理論は、「日本語の」としなくとも、理論付けられる道が有るように思っています。
前回の著作で、そのように感じていました。しかし、今回の方が、具体的になった、という事かもしれません。
具体的になった分、一歩引いて見えます。
2.第一部には、相当な御苦労があったように思います。しかし、現代の言語学なんて、無視しちゃっても良かったんじゃ無いでしょうか?
世界中の言語を、同一の言語として捕らえる道を切り開いた、それだけでも、すごい著作だと思います。
3.第3部第二章7の表情が捉えにくい語の表情を読み取る事ができれば、もう少し違った著作になります。その部分の表情を、音相理論の中でどのように位置付けられる可能性が有るのか? 興味を持っています。 (男性)
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「日本語の音相」をお頒(わ)けします。
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「ナウい」から、「イケてる」→「キてる」まで
もう1~2年前のこと。
雑誌社へ出した原稿のことで編集者からの電話で「文中のナウいという語はもう使われていないから、ほかのことばに変えてはどうですか」という。
「何かうまいことばがでたのですか。」
「それはまだないようですが」
「…古い語が消えてゆくのはより良い語ができたとき、というのが流行語の常識なんですが。代わりの語ができないのにいま使っている語が使えなくなるなんて…現代語は日本語のそんなルールすら壊しているんですかね」
と、編集者にむかって漠然とぼやいたことがありました。
『ナウい』は、古いものはすべて悪というバブル時代の狂的な嵐の中で使われ始めたことばですが、そのような軽薄さをこの語の音が見事に捉えているので、私は時々好んで使っていたのです。
この語の軽薄感は、体験版で分析すればすぐわかります。
表情解析欄の上位のところに「大衆的、シンプル(単純)、派手、軽さ、」がありますし、体験版では省略してある特記事項欄には「ユーモア感、単純さ、現代感…」などがあるため単純で軽薄なイメージが作られているのです。
ふと最近このことを思いだし、『ナウい』の新語がその後生まれているかをHPの検索で調べてみたら、『いけてる』と、それに続いて『キテる』があるのがわかりました。
そこで、これら3語を並べて分析したら、「いけてる」や「キてる」には「ナウい」に見られる軽薄感を示す表情語がないのです。
そこではじめて「ナウい」が生きながら捨てられた理由がわかったのです。
つまり、『ナウい』は、はじめ新しさだけを意味したつもりのことばでしたが、この語の音に『軽薄さ』が含まれているのを感じはじめた若者たちがそれを嫌って、「新しさ」だけを意味することばとして「イケてる」「キてる」が生まれたのです。
「軽薄さ」を直接表す表情語は「派手さ」ですが、「ナウい」にはそれが上位第3位にあるのに対し、「イケてる」は6位に、「キてる」は16位へと、軽薄的な表現が逐次なくなっているのがわかります。
大衆のことば選びの感覚の鋭さと、それを適切な数値で捉えた音相分析の確かさに敬意を表した次第です。
(木通)
ことば分析 『 向日葵 (ひまわり) 』
真夏の炎天に向かって咲く『ひまわり』。
そんなこの語の雰囲気を音がどこまで表現しているかを見てみようと、音相分析してみました。
軽快感・・・・68,2ポイント
爽やかさ・・・62,5ポイント
健康的・・・・54,5ポイント
シンプル・・・50,0ポイント
庶民的・・・・50,0ポイント
派手・・・・・50,0ポイント
躍動感・・・・37,5ポイント
活性的・・・・30,0ポイント
健康的で活力あふれるこの花の風情が極めて具体的に表現されているではありませんか。
いやそれだけではありません。
表情語のゼロ・ポイントのところに「現代的、都会的、高級感、優雅さ」が並んでいて、「優雅さや高級感がない…鄙びた感じ」まで表現されています。
そのほか、体験版では省略してあるその他の欄からは、「単純さや、孤高感」も見られ、ひまわりが持つほとんどの表情を捉えているのがわかります。
この花が何時ごろ日本にきたかわかりませんが、この名を選んだ遠い昔の先人たちと、この語を今も好んで使っている現代人の間にピタリと一致した音相感覚があることがわかるのです。
それが、太古から日本人が守り続けてきた音相感覚なのです。
(木通)
体験版は一部の表情しか取り出せません
HPの「分析表の読み方」欄
の別表に、「オリンピック」ということばを例に分析の過程を取り出した表がでています。
Onsonic体験版は、この中の「表情解析欄」だけを取り出したもので、体験版には、次の欄の表示がないのがお気づきでしょう。
1.特記事項欄
(分析評価を行うに当たり、とくに注意すべき事項を並べた欄)。
2.情緒解析欄(情緒の種類には18種があります。)
3.コンセプトバリュー欄
(性別、年齢区分その他特殊な表情を捉えた欄。
4.表情や情緒を捉える根拠となった種々の基本分析データー。
こうみてくると、Onsonic体験版は表情の方向性だけを示したもので、微妙な表情や情緒などは捉えられないことがわかります。。
重要なネーミングを決めるなどの時は、当研究所の専門家に診断を依頼されることをとくにおすすめします。
Q&A 表情と情緒はどう違うか
Q. 表情と情緒はどう違うのですか。(江戸川、ミサ)
A.
「嬉しい、楽しい、やさしい、つらい」など感情の含まれていることばには、具体的なことばで表現できるいくつかの顔がみられます。それを、ことばの「表情」と呼んでいます
また、表情と似たものに『情緒』があります。
表情が感情の一次的な表現形態であるのに対し、情緒はいくつかの表情が複合化されて生まれるものといってよいでしょう。
例えば、ある語の表情語の高点部分に、「高級感、強さ、鋭さ、個性的、シンプル感』があるとき、または低ポイントの部分に『庶民的、適応性、鋭さ、強さ、合理的、現実的、派手、賑やか、動的活性的」などがあるときは、いずれも「孤高感」という「情緒」が生まれるのです。
情緒は、表情の周りを取り巻いている雰囲気や気分(mood)のようなものをいい、具体的で指示的意味を持つことばでは表現しにくい抽象的で曖昧なことばで表現される概念です。
心理学には情緒の定義として、諸説があるようですが、情緒はレベルの高い感情と言われる「情操」(sentiment 仏)に近いものと考えてよいようです。
気品と若さの音相 「アンチ・エージング」
高齢化時代を迎えて「老化、加齢に対抗する」ことばとして、最近「アンチ・エージング」ということばはが聞かれるようになりました。
エージングとは英語の「老化、加齢」を意味し、「アンチ・エージング」は「老化に対抗する」という意味のことばです。
アメリカでは「アンチ・エージング・メディスン(抗加齢医学)が1990年代から研究されているそうですが、わが国でも21世紀のキーワードとして、若返りの医学や薬学をはじめ、美容、デザイン、社会生活や食の分野などさまざまな方面で研究されてゆくことでしょう。
このことばには、何となく爽やかな気品のようなものが感じられますが、その原因がどこにあるかを調べてみようと音相分析をしてみました。
メインのイメージを作っている5位までの表情語として、「暖かさ、高級感、充実感、静的、高尚さ、優雅さ、安定感、信頼感」などがあり「静的」な音(薄色の青線)を集めて高齢者がもつ豊かさや気品を出し、6位以下(中薄および濃い青線)で、「強さ、個性感、若さ、溌剌感、健康感」など若さや華やぎ感や活力感などをつけ加えて、語の意味とイメージを調和させているのがわかります。
こういう雰囲気はどんな音から生まれるのか。それはこの表からは見られませんが、正規の分析表をみると「気品や豊かさ」は「有声音と濁音の多用、マイナス輝性、多拍」から生まれたもんだし、「華やぎ感や若さ」は「じゃ」(摩擦拗音)の1音とイ音の多用で得られたものであることがわかるのです。
(木通)
「マニフェスト」を分析する
―― 表情語は裏からも読もう ――
選挙と共に、「マニフェスト」(選挙公約)という言葉が聞かれるようになりました。
この語は一見、モダンで軽やかで、とりわけ欠点のないことばのようにみえますが、使われ始めて2年たつのに「ニート」や「クールビズ」のような人気はありません。
このように人気がぱっとしないことばは、音の仕組みに問題があることが多いので音相分析をしてみました。
オンソニック体験版の表情欄でみられるように、「清らかさ、安らぎ感、充実感、現代的、清潔感、軽快感、信頼感、安定感、進歩性、新鮮さ、優雅さ」などが高点で並び「クリーンさ」を感じる反面、ネガティブ(否定的)なイメージを伝える音もいろいろ持っているのです。
すなわち、表情解析欄下位のところには選挙活動に欠かせない「庶民的、現実的、強さ鋭さ、特殊な感じ」がすべてゼロ・ポイントになっているし、体験版で省略してある「情緒欄」には「あいまい感、不透明感、不協和感、異常感」などが出ています。
大衆がこの語にパット飛びつかなかったのは、モダン、クリーン、公正感を表に出しながら、この語の音にこのような異質なものを同時に感じているからではないでしょうか。
その意味で、「マニフェスト」は「選挙公約」という意味が持つさまざまな概念を音響的に見事に表現している優れたことばといってもよいでしょう。(木通)
研究員レポート ― 「牛鍋」と「すき焼き」
山本夏彦氏の『誰か「戦前」を知らないか』(夏彦迷惑問答・文春新書)を読んでいたら、「牛鍋」が「すき焼き」と言われるようになったのは昭和初年で、東京山の手の人達が「牛鍋」を大衆的で下品な言葉として嫌ったからだとありました。
東京山の手一帯に文化住宅街があちらこちらにでき始めたのは昭和初年で、そこは東京の知識階級の人が多く住む、モダンで明るい新開地でした。
その山の手の人たちが、牛鍋をなぜ「大衆的で下品な料理」と思ったのだろうか、「すき焼き」という語は生まれた背景などを探ってみようと音相分析を試みました。
「牛鍋」・・・
分析表の表情解析欄では「高級、優雅、安定、静的」などが高ポイントで並んでいて、この語が上品で高雅な音で作られたことばであることがわかります。
牛肉は明治以前は庶民の口にはほとんど入らない高級食材だったようですから、当時の人が『上品、高雅』な音で表現したのは極めて自然な選択だったと思います。
また、同著の中に「当時は獣臭を消すため味噌仕立てで食した」とありましたが、この語は味噌がもつどぶつき感をオ、ウ列音や濁音や逆接拍を使って見事に表現しています。
そして「ぎゅー」とうい珍しい音を入れて新しさを出しているのです。
「ぎゅ-」の音は日本語では「牛」という字以外はどこにもない新奇でモダンな音だったのです。
このように「牛鍋」は、明治の人の音相感覚の高さを示すに十分な優れたことばだったことがわかります。
「すき焼き」・・・
高級料理とされていた「牛鍋」が、昭和になって庶民の食卓に上るようになると、この料理を明るくモダンな音で表現しようとする山の手のインテリたちの感性から「すき焼き」が生まれたのです。
この語の表情語は、
「爽やか、個性的、現代的、開放的、庶民的、健康的、活性的」などモダンで明るく庶民的な活力を感じる音が上位のところを占めており、「牛鍋」のトップにあった「高級感、優雅感、安定感」はすべてゼロ・ポイントとなっています。「牛鍋」とは全く反対の語であることがわかるのです。
このイメージの違いはどこから生まれたのか。
それは、牛鍋がオ、ウ音、濁音、逆接拍を多用したのに対し、すき焼きはイ音と無声破裂音を多用した中に、爽やかさを作る無声化母音(ス)を1音加えたことにあったのです。
山本氏によれば、「牛鍋が山の手の人に嫌われたのは「ぎゅ―」という音の不快さにあったのではと書いていますが、それは山本氏の主観的な判断が多分に入っていたように思うのです。
昭和の人々が望んだのは、上品で地味な音をもつ「ぎゅーなべ」よりも、モダンで明るい響きの「すき焼き」の方が昭和の時代にふさわしいと感じたからではないでしょうか。
ことばの音が作るイメージは、作家や作曲家など、どんな音の専門家でも個人の経験や好みからくる判断違いは致し方のないことですが、それを客観的な根拠によって論証できるのも、音相理論という旅の楽しさの1つなのです。
(音相研、研究員桂太)