日本語美を作っている「膠着語」
膠着語とは、意味をもつ「語幹」の前や後ろに、それ自体では意味をもたない「接辞」をつけて微妙な雰囲気や情緒を添える構造を持つことばをいいます。
それを「にほひやかげさ」という「源氏物語」に出てくるということばで、ご説明しましょう。
この語は「にほひ(匂い)」という意味を持つ語幹のあとに、それ自体では意味を持たないが語幹の意味を雰囲気的に補完する接辞「やか」をつけて「匂うような感じ」という語をつくり、それに「らしく見える」という感じをつくる「げ」をつけて「匂うような感じに見える」としたうえ、「状態や程度」を表す「さ」をつけて「にほひやかげさ」という語ができています。現代語に直訳すると「匂うような感じに見える状態」という複雑な心象を表現したことばになっているのです。
源氏物語には、このほか「ものこころぼそげ」(なんとなく心細い感じ)、「なまこころづきなし」(なんとなく気のすすまない感じ)などの膠着語が多く見られますが、当時の人は、ことばが伝えるこのような微妙な感覚を大変大事にしていたことがわかります。
膠着語は次のように、現代語の中でもたいへん多く使われています。
(「」内は意味を持たない接辞の部分です)
晴れ「やか」。 「そぼ」降る(雨)。 「ひた」隠す。 「さ」迷う。 「か」細い。 嬉し「げ」。 「お」寂し「げ」。 「こ」高い。
深「み」。 華「やか」だ。 怒りっ「ぽい」。 煙「たい」
なお、膠着語を持つ言語には、フィンランド語、トルコ語、モンゴル語、満州語、韓国語などがあるようです。 (木通)