日本語好きな人、寄っといで -15ページ目

「表情を作る音相基」 シリーズ ④

女らしさを作る音


【必要とする音相基】
 ・総合輝性がゼロまたはマイナス指向であること
 ・逆接拍が多いこと
 ・有声音が多いこと
 ・調音種比が低いこと
 ・摩擦音系、接近音、鼻音、流音が多いこと
 ・勁性が低いこと
 ・高勁輝拍が少ないこと


【例語】 華やぎ、やさしさ、楚々(そそ)、ダイヤモンド、メルセデスベンツ、ジョイナス、ルミネ、花子、マリリンモンロー、オランジュ、トラバーユ

(注)これらの音相基は「優しさや、優雅さ、落着き感」などのほか、「ぐずぐず、地味、ぼんやり、憂鬱…など」、活力の弱さや地味さを表す語にも多く使われます。

音の時代に入った「ネーミング」

 最近の若者たちには、漢字の読めない人が増えています。
 彼らは字が読めず意味がわからなくても、日常の会話で不便を感じることはほとんどないようです。意味はわからなくても、耳で聞く音を通してイメージで捉える感性をもっているからです。


 「不撓不屈」(ふとうふくつ)という語の場合、文字や意味はわからなくても、この語の音からうける感覚で「逞しさや活力感のような雰囲気」を捉えているのです。
 それは「ルイ・ビトン、ディオール、アルマーニ、エルメス・・」のような意味をもたない外国のブランド名が、音の良さだけで愛用されているのを見てもわかります。
 文字を中心にことばを考えてきた日本人の長い歴史で見てゆくと、ここ数十年で起こったこの現象は、日本語の画期的な出来事だったように思うのです。

 今、「チャパる」「超」「ムカつく」「チクる」など、どぎつく下卑な音を集めた日本語がはやっています。民族とともに生きてきた日本語という宝を遊び道具にする風潮には落魄の思いを禁じることができませんが、そういう中で発見できる現代人の語音感覚の鋭さには目を見張るものがあるのです。

 昭和の初めに、モダン・ボ-イ、モダン・ガ-ルを略した「モボ、モガ」や「ランデブ-」、「銀ブラ」などが流行りました。これらの語には、若さや溌剌さや明るさなどをまったく持たない濁音とオ、ウ列音が多いため、それぞれがもつ意味とは似ても似つかぬ暗く湿った雰囲気がありますが、そんなことばが十年以上、気にもされずに大はやりしたということは、当時の人たちがことばの音にいかに無関心だったかを物語っているのです。


 それに比べて現代人はどうでしょうか。
 「カッコいい」「めちゃ」「激辛」「朝シャン」「ギャル」「即」など、これまでの日本語にななかった新しい概念をそれにふさわしい音で表現した優れた語が次々と現れますし、音の響きが不自然な「ビッグ・エッグ」、「DIY(ディ-アイワイ)」、「WOWOW(ワウワウ)」などは発表になったその日から口にする人がいないのです。


 現代人は音から生まれるイメージが意味に劣らぬ働きをしていることを肌で感じて知っています。文明には後戻りがないように、日本語のこうした傾向がますます高まることは陽をみるよりも明らかです。

 これからのネ-ミング作りは、ことばの「音」の研究なしには成り立たない。もう、そんなところまできているのです。

ヒット・ネーミングは少数精鋭が作る

 ネーミングの良し悪しは、企業の浮沈にかかわる場合が多いため、制作には多数の関係者が動員され、長期にわたって討議されるのが普通です。
 こうした大がかりな取り組みは、「大勢を集めれば、それだけ良いものができるはず」という常識論から生まれるのです。


 だがネーミングは多数を集めればよいものができるとは限りません。多数の人の意見を入れると、発案者が捉えたみずみずしい感動や新奇さや意外性は議論の中で丸められ、常識的なものになってゆくことが多いのです。
 ネーミングを作るとき多数の人が必要なのは、素案を集めるときだけです。
 提案者が多くなるほど商品を見る切り口がふえ表現法も多彩になるため、選択できる幅も広まるからです。
 だが集まった案を絞る作業になると、幅広い商品知識と優れた感性をもった少数者で行う方がはるかに良い結果が得られるのです。
 そこに、感性面が多く含まれるネーミング作りの特殊性があるのです。
 大企業が時間をかけて作ったものより、社長以下数名の小企業が短期間で作ったものに良い作品が多いといわれる理由がそこにあるのです。
 傑作ネーミングとしてよく話題になる「コダック」(社名1888年創業)の社名は、社長イーストマン氏の個人のひらめきから生まれたことばだそうですが、この語の音相を分析すると、「活性感、合理性、現代感、革新感、若さ」を上位におきながら「爽やかさ、優雅さ、個性感」など社業や社風を必要十分に表現している、まことに優れたことばであることがわかります。
 国内のネーミングにもよいものは少なくありません。
 一時大ヒットしたミニカー「チョロQ」の名がどんな経緯でできたかは不明ですが、私はそこに関係者の1人(とりわけトップ)の感性と優れた決断を感じるのです。
 この語を多勢で議論していたら「小さいことを表すためミニチョロが良い」とか「同種の商品にA、BがあるからチョロCがいい」などの常識論や理屈が出てくるはずで、それらに揉まれてゆくうちに、原案者が直感でとらえた新鮮さなどはあっさり消されてゆくのです。この語の場合もそういう過程があったことでしょうが、それらを切り捨てて断を下した人の存在を、私は感じてならないのです。

「音相」という語の由来

 真言宗を開いた空海(弘法大師)が書いた書物に「声字実相義」(しょうじじっそうぎ)というのがあります。

   「声発して虚(むな)しからず、必らず物の名を表するを号して字という。名は必らす体を招く。これを実相と名づく…」

 これは、事物がもっている実体とそれを表わすことばは一体のものだという「言事融即の説」を説いたものです。
 声字とは記号的なことばではなく異次元の宇宙的存在エネルギーとしてのそれを指すもので、事物がもつ実体(実相)は、音声言語(はなしことば)で代表される「ことば」によって示されると説いたものです。
 「音相」は、このような背景から浮かんできたことばです。
 なお、色彩学には色彩をなりたたせている要素として「明度」(色の明るさや軽さ)、「彩度」(鮮やかさ)、「色相」(色合い…色のすがた)の語が見られます。

「日本語の音相」をお頒(わ)けします。

 「日本語の音相」(木通隆行著、小学館スクウェア刊)はすでに絶版になっていますが、ご希望の方には当研究所からお頒わけします。
 (価額1部3800円、送料、代金引換え料、送金為替料は当方で負担)
 音相システム研究所の次のアドレスへ郵便番号、住所、氏名、電話番号、冊数、配達ご希望時間などをご連絡ください。ceo@onsosystem.co.jp
*図書の内容は→こちら


【読者の感想】


1.『音相理論の深さに感動』
 「日本語の音相」と「ネーミングの極意」を息もつかずに読みました。前人未踏という「ことばのイメージ研究」の全貌が私なりに理解でき、音相理論の凄さと奥の深さに感動しました。
 50年のご研究とか、確かにそのくらいかけなければ纏められない大研究だったと思います。それをたったお一人で完成されたことにも驚きを禁じ得ません。
 このような書物こそ、日本文化を愛する人の必読の書だと思います。たくさんの方に読んでいただくことを蔭ながら祈っています。今後もご研鑽の上、更なるご活躍をお祈りいたします。  (t.tsuchiya)


2.『言語科学の欠陥を衝いた本』
 久々に手にすることのできた名著です。
 読み終えての感想は、改めて、現代の言語科学の欠陥面を見せつけられた思いです。そして日本語の美しさと奥の深さに感動し、友人にも勧めているところです。ご労作に深く敬意を表しつつ、さらなるご活躍をお祈りいたします。

(札幌、清己)
 

「年賀状にふさわしいことば」は どれ?

 年賀状の束を前に、わたしは今、暖かい豊かな時をすごしています。
 「明けましておめでとう」「新年おめでとう」「謹賀新年」「賀正」…年賀状には新玉の歳を迎えた人のさまざまな思いが伝わってきますが、特別な意識もなく選ばれている賀詞そのものからも微妙なイメージの違いが伝わってくるのがわかります。


 このようなイメージの違いを捉えるには、それぞれの語がもつ音相を分析し、分析表に出てくる表情語を比べることでわかるのです。
 表情語とは、ことばが伝える表情のすべてを「シンプルから非活性的」までの20のことばに集約したものですが、新年を表現するにふさわしい表情語をその中から拾い上げると、次の8つがあるようです。
 「賑やか」「安らぎ」「庶民的」「優雅さ」「充実感」「清潔感」「新鮮さ」「明るさ」

 そこで前に上げた6つの賀詞の音相を分析して、これらの表情語をどの程度捉えているかを一覧表で比べてみました。


新年らしいことばはどれ?

必要な表情語 賑やか 安らか 庶民的 優雅さ 充実感 清らか 新鮮さ 明るさ 合 計 順 位
賀詞の区別
新年おめでとう
新年明けましておめでとう
明けましておめでとう
謹賀新年
恭賀新年
賀正

 この表から、「新年おめでとう」と「新年明けましておめでとう」は迎春のよろこびを完全に捉えたことば、「明けましておめでとう」「謹賀新年」がそれに次ぎ、「恭賀新年」と「賀正」は意味的な表現はされていても、情緒やイメージはほとんど伝えていないことがわかります。
(木通)
 

「富士山」と「フジヤマ」の情緒の違い

 日本人はこの山を「ふじさん」といい、西欧人は「フジヤマ」と言います。こういう呼び方の違いから、日本人と西欧人が富士山に対し、どんなイメージの違いを持っているかを調べるため、音相分析を行いました。
 このような違いは、情緒語を比べることで捉えられます。


 下表をご覧ください。
 情緒語を比べると、どちらの語も「夢幻的、神秘的、情緒的」を捉えていますが、日本人は「フジサン」という音から「情緒感、爽やかさ、夢幻性、孤高感」をイメージし、西欧人は「フジヤマ」という音を通して「エキゾティシズム」を強く感じてはいるが、日本人が抱いている「爽やかさや孤高感」はほとんど感じていないことがわかります。
 富士山と身近かに接しているわれわれと、その実感をもたない西欧人とのイメージの違いを、音相分析が正しく捉えているのがわかります。

 (注)○印はポイント数が高い項、◎印はそれがとりわけ高い項、
   -印はその表現をもたない項を示します。
   またポイント数がどちらもゼロの項(11項)は掲載を省略しました。


「富士山とフジヤマ」の表情比較情緒語

情緒語 富士山 フジヤマ
情緒的
爽やかさ
夢幻的
孤高感
鄙びた感じ
クラシックな感じ
エキゾティックな感じ
神秘性

(木通)

Q&A 音とイメージの関係はどのようにして捉えたか。

A.

 音とイメージの関係を捉えるには、「ことばに表情を作る音の単位とは何か」と、「ことばが作るイメージ(表情)とは何か」の2つを明らかにしなければなりません。
 調査した結果、表情を作る音の単位には、多拍、少拍、無声化母音、逆接拍、順接拍、濁音…など40種があることがわかり、それらを「音相基」と名づけました。
 また、表情とはどういうものかを調べるため、国語辞典から「感情」の含まれている語1300語を取り出して、感情の傾向を分類整理した結果、20の表情語を得ることができました。

 これらの関係を種々の角度から分析した結果、多くの公式が得られましたが、それらの公式を組み合わせるなどしてことばの表情を実態的に明らかにしたのが音相分析法です。
 これらはすべて数値によって表しますが、その数値がどんな根拠で得られたのか、公式の種類や、計算式の内容などを説明するのは、この欄ではとても無理なので省略しました。詳細については参考図書「日本語の音相」をご参照ください。
(木通)

「表情」を作る音相基【シリーズ】③

●新鮮さ、新奇さを表すには

[必要な音相基]
  ・特殊音素が多いこと
  ・無声音が多いこと
  ・無声化母音が多いこと
  ・無声拗音が多いこと
  ・イ音が多いこと
〔例語〕 
  ピカピカ、テカテカ、ピチピチ、ハッキリ、新鮮、新品、
  パンプキン(雑誌)、アンフィニ(会社名)、ピカソ(人名)

(注)ここで上げた音相基を多用すると、軽薄感、安直さなどを表す語に
   なりやすいのでご注意を。
(木通)

音用慣習とは何か

 人は生まれたときはどんな言語音でも使いこなせる能力をもっているそうですが、ある言語の中で育ってゆくうち、使う音の範囲や発声方法が限定されるため、使わない音は発声器官の発育が止まり、その言語にとって「発音しにくい音」というのが生まれます。
 このことについて音声学者、城生佰太郎氏(筑波大教授)は次のように述べています。
 
 「いわゆる喃語期にある乳児の発音を観察すると、乳児はほとんど世界のあらゆる言語音に用いられている音を一種の遊びとして無意識に発していることに気付くが、その無限の可能性を持つ乳児が成長して、いわゆる言語形成期にさしかかると、一時的に発音ができなくなり、更に発達が進んで母国語の発音が獲得されはじめると、今度はそれ以外の言語体系に用いられている音を発することができなくなり、遂には二度と再び口に出すことがなくなってしまう。これが普通の言語発達像なのである。」
(城生伯太郎『当節おもしろ言語学』講談社)
 
 生活習慣から生まれるこのような癖や傾向は、発音しにくい音だけでなく、その言語固有の音の好みや特殊なことば感覚を作ります。
 日本人の多くの人が「チ」や「ピ」を強い音、「グ」や「ジュ」などの濁音を暗い音に感じたり、「ティ」、「ファ」、「シャ」などをモダンな音と感じますが、このようなその言語固有の好みや癖のことを、私はその言語の音用慣習と呼んでいます。
 この音用慣習が、日本語固有の表情や情緒をも作っているのです。
(木通)