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今回の話手:竹之助さん(仮名)
大変困った事が起きました。
妻が紫陽花を氷に閉じ込めてしまいましてな。紫色の紫陽花だったかな。そう、そう、氷に浸かっていたんですな。
私はそれを眺めていましてね。どうして氷の中に紫陽花があるんだろうと不思議に思ってたんですな。妻が紫陽花が好きでしてね、それで氷の中に入れたんだろうと思いました。
そういえば、妻はどこです？
はっ？来てないですと？
さっきまで私の隣に立っとたんですがな。トイレにでも行ってるんですかな。
そうそう、紫陽花を眺めとったんです。青色だったかな。それを見ていたらですね、妻が氷の中にいるんですわ。そこから、おいで、おいでと私を呼ぶんです。
これは大変だと思いましてね。だって、あんた、人が氷漬けにされてるんですよ。命に関わるじゃないですか！
妻が紫陽花を氷の中に入れる際に間違って自分まで氷の中に入ってしまったんですな！そういうところがあるんですよ、私の妻は。なんというんですか、おっちょこちょいなんです。
それはそうとですな、妻が先に来とりませんでしたか？
はあ、来ておりませんか。
どこへいったんでしょうかな？ 実は、私、困っとりましてな。
紫陽花を部屋に飾りたくてですな、探しておるんです。庭からたくさん取ってきたと思うたんですが、ないんですわ。
妻が土の中に埋めたんですかな。そうしたら大変ですわ。そのままなら、腐ってしまうじゃないですか！
氷ですな。氷が必要ですわ。冷やさないけません。腐ります。
妻は？ 妻はどこですかな？
早く妻を氷で満たしませんと。
そうそう、庭で紫陽花を眺めとったんでしたな。青い紫陽花だったかな？私は紫陽花が好きでしてね。雨に濡れるとまた格別で。
紫陽花の下に妻がおりましてな。私が声を掛けても返事がありませんで。眠っとるのかもしれません。
そうしたら、氷を。
氷で満たしませんと。
紫陽花が腐ってしまいます。
私は、どうしてあなた様のところにいるんですかな？
はあ、今から息子のところへ電話しなさるのですか？ どなたの息子さんですかな？
はて？ 私に息子などおったでしょうか？
妻に、妻に聞いてみて下さい。家のことは全部妻任せだったものですから。
先に妻が来とったんじゃなかったですかな？
妻は？ 妻はどこですか？
ああ、紫陽花ですな。そうそう、困ったことになっとりましてな。
紫陽花が全部氷に浸かっておるんです。妻もその中じゃなかろうかと思います。氷の中から呼ばれたような気がしますので。
余所見してて、躓いたんでしょう。そそっかしい人間ですから。いつも気をつけるように注意しとったんですがなあ。
でもね、まあ、なんだかそのままの方がよかろうゆう気がしてきました。気持ちよさそうに眠っとりましたから。
それに、その方が腐りにくいでしょう？
はて？
妻は？ 妻はどこにいますかな？
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