ケース１３　息子の捨て台詞に傷付いたご婦人

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今回の話手　里子さん（仮名）

先日、一人暮らしをしている息子からおかしな電話がありまして。まあ、昔から何を考えているのかわからない子だったんですけど、今回の電話も意味が分かりませんで。

あんな捨て台詞を吐いて電話を切られて、もしかしたらあの子なりの絶縁宣言なのかと思うと、折り返し電話をかけるのも・・・ねえ。

それでまあ私もどうしたら良いかわからなくて相談に来た次第なんですよ。

とりあえず、電話の会話は録音してあるので、それを聞いて下さいな。

息子から「振り込め詐欺かもしれないから、電話は全部録音しろ」ってうるさく言われてたのが、こんな風に役に立つなんてねぇ。

もしもし。

ーーああ、俺。

広ちゃん？　どうしたのよ、こんな時間に。会社は？

ーー・・・

番号違うけど、どっから電話してんの？

ーーえっ？　ああ、うん、会社のケータイ。

何、どうしたの？　あんた、まさか、コロナ？

ーーいや、ちょっと、会社でトラブっちゃってさ。

ずいぶん豪勢じゃない。会社でトラフグなんて食べに行って。会社のお金でご馳走だなんて、あんた、ずいぶん良いご身分ね。

ーーえっ？　トラフグ？　いや、そうじゃなくて。オレ、会社で困ったことになってて。

またぁ？　ちょっとあんた良い加減にしなさいよ！　何人会社の女の子に手を出したら気が済むのよ！　まさか、孕ませたんじゃないでしょうねぇ。

ーー母さん、ごめん。

何よ。気持ち悪いわね。「母さん」だなんて改っちゃって。えっ？　まさか、本当に妊娠させたの？

ーー・・・

良かったじゃな〜い！　あんたも良い歳なんだから、そのまま結婚しちゃいなさいよ！　私も孫の顔が見たいわ！　で、あんたがお手つきした娘って、どんな娘なの？

ーーええ、ああ、うん、ありがとう。んー、えっと、なんだっけ、ああ、そうそう、ただその娘、もう会社内に婚約者がいるんだよ。結婚するにはその婚約者と別れてもらわなくちゃいけなくて、それにはやっぱり手切金が必要なんだ。

ケッ！　なんだい、その女！　いけすかないねぇ！　婚約者がいながら、他の男にもホイホイ付いて行くのかい？　ロクな女じゃないねぇ。ダメ、ダメ！　私は結婚は反対だよ。

ーー今回はオレ、本気なんだよ。本気で結婚したいと思ってるんだ。

はぁっ。もう、あんたの本気は聞き飽きたよ。今までだってそう言って、次の日にはもう別の女に入れ込んでたじゃないか。気づけば二股三股って！その尻拭いをさせられてきた身にもなっとくれよ！

ーーごめん。だけど今度こそは本気なんだ。手切金が必要なんだよ。お金を貸して欲しいんだ。

あんた、そんな女と結婚したいの？　お腹の子だって、あんたの子とは限らないじゃないか。婚約者の子かもしれないだろ。結婚して産まれてきた子が別の男の胤だったらどうすんだよ。

ーー責任持って育てるよ。

はっ！　考えもなしに偉そうな事言って！　聞いて呆れるね！　私だってねえ、色々あるんだよ。あんたの戯言になんか付き合ってられないんだよ。

ーー・・・

手切金って、いくらよ？

ーー５０万円くらい・・・かな。

は？　安っ！　あんたの欲しがってる女は50万ぽっちで捨てられる女なんだ。そんな女で良いのかい？

ーー本気で愛しているんだ。

ねえ、その娘の親って、どんな親？　まともな親かねえ。

ーーご両親はとても真面目で優しい方だよ。　

へえ。仕事は？

ーーえっと、なんだっただろう？・・・公務員かな。そうだなぁ・・・えー、市役所に勤めてるって言っていた様な気が・・・金、振り込んでもらっていいかな。

堅いねえ・・・

ーー口座番号と名前を教えるから、相手の男に直接振り込んで欲しいんだよ。ほら、オレの口座に入れると使い込む可能性があるだろ。

あんた、金に汚いからね。広ちゃん、ちょっと私の話を聞いてくれない？

ーーえっ？　オレ、今仕事中で時間ないんだけど。後でじゃ、ダメかな？

なんだい、金の無心の時ばっか！　あんた、今どこにいるの？　

ーー会社の近くの公園だよ。サボってるの見つかったらヤバいから、多機能トイレの中。

良いわね、滝のおトイレなんて！　私もマイナスイオン浴びながらオシッコしたいわよ。気持ち良さそう。今度、連れて行きなさいよ。

ーーいや、違、まっいいや。とにかく人が来たらヤバいんだよ。メモある？

良いから、私の話を聞きなさい！　

ーー・・・

今私さあ、田渕さんとこの若奥さんと揉めててね。若奥さんだけじゃなく、旦那の方もご立腹らしいんだけどね。ちょっとした勘違いなのよ。

この前ね、大きい荷物を引きずってる若奥さんにあったからさ、「ご旅行ですか？」って声かけたのよ。そうしたらさ「カール・井沢さんと旅行です」って澄まして答えるじゃない。

私、たまげちゃってさ。だって、あんた、カール・井沢っていうハーフ男との不倫旅行を堂々と宣言したんだよ！こりゃ離婚間近だねと踏んでさ、近所の人に喋っちゃったのよ。

そうしたら、若夫婦揃ってうちにやって来てさ、「私達は離婚なんてしません！　不倫もしていません！　夫婦二人で軽井沢に旅行に行ってきました！」って、まあ若奥さんの方なんてカンカンなの。

「これお土産です」って変なクッキー渡されたけどさ、怒ってるなら、こんなの渡さなけりゃ良いと思わない？

その前のこともあるからさ。あんたに話したっけ？若奥さんとちょっと立ち話してた時にね、若奥さんの友達らしき人が子どもを連れて寄ってきたのよ。その子、さくらって言う名前らしいんだけどさ、若奥さんは「あら、さくらちゃんじゃない」って言ったらしいの。でも、ほら、私はその人知らないじゃない。だから、「あら、もう酒がないじゃない」って聞こえたの。

私はその時、何この人、人と話している時に急に酒がないなんて言い出してと不審に思ってさ。アル中じゃないかと疑ったのよ。だから、近所の人にそう話しちゃったのよね。それも耳に入ってたらしくってさ。

なんか夫婦二人で凄い息巻いてるらしいのよね。名誉毀損だとか訴えてやるとか慰謝料がどうのこうのとか。

ちょっと、あんた、聞いてるの？

ーーもう時間ないからさ、入金だけお願い。そうしたら、あとでゆっくり話を聞くよ。久しぶりに実家に帰りたいな。口座番号言うから、メモして。

だからさ、あんたが孕ませた娘の親って、公務員なんだろ。きっと小金を貯め込んでるよ。あんた、その娘の両親に会ってさ、妊娠のこと、話して来なよ。そういうお堅い仕事の人間はさ、婚約者のいる娘が他の男の子供を身籠ったなんて話しは、絶対に表沙汰にしたくない筈なんだよ。

娘がお前の方が良いっていうんならさ、両親が塩梅良く問題を片付けてくれる筈だよ。

それでさ、自分との結婚は母親の問題が解決しないと出来ないってごねて来てよ。娘を丸め込んでさ、娘からも言わせるんだよ。そうすれば渋々金を出すはずだから。とりあえず、２００万、引き出してよ。

１００万で田渕さんとこの若夫婦を黙らせて、後１００万はさ、あんたが結婚するんなら、わたしも身綺麗にしておく必要があるだろ？

ちょっと、聞いてるのかい？

ーーこの、詐欺師野郎！

ガチャ。

この電話以降息子からの連絡は一切なくてね。まあ、今までだってほとんど連絡なんかしてこない子でしたけど。