ドイツ首相アンゲラ・メルケルの評伝。フランス人ジャーナリストのマリオン・ヴァン・ランテルゲム著、清水珠代訳。


もともと特異な歴史を持っていて、気になっていたドイツではあったが、このたびのコロナ禍での活躍にますます興味が出て、ふだん政治家の評伝って読まないんだけど、これはめちゃくちゃ面白かったー!


メルケル首相が他のG7のリーダーと一線を画すのは、独裁体制の共産主義を経験している(東ドイツ出身である)こと。女性であること。物理学者という、まったく別の畑出身であること。だから政治的権力や虚栄心にはまったく興味がなく、そこに溺れることがなかったという。演説は決して煽らず訥々と(これヒトラーと真逆)。大言壮語やできもしない約束は絶対にしない。ロシアなどの困った隣人にも、粘り強く連携を語りつづける。前任者が建てたバカでかい官邸を嫌い、簡素なアパートに夫と二人暮らし。スーパーでふつうに買い物してても誰も驚かないという。言い換えるとカリスマゼロ!(笑)


だけど、「人道に対するもっとも重い罪を犯したドイツが、今日では自由民主主義国の希望の星となっている」これも事実なんだよなー。2015年のシリア危機で100万人の難民を受け入れたときも、「私が首相でいるかぎり、ドイツの国境に鉄条網はない」鉄条網、というのが歴史の重みを感じさせますね。で、もちろん市民のほうはそんな大量の難民を受け入れる準備はできてないわけで、批判が殺到したんだけど、「もし今私たちが、緊急事態において友愛を示したことを詫びなければいけないとしたら、もはやこれは我が国ではありません」。


極めつけはパンデミックにおける采配。あの演説を見ると私は今でも目頭熱くなるんだけど、自由と権利と人間的生活を奪われていた東ドイツ出身のメルケルが、パンデミックとはいえ今度はそれらをロックダウンによって奪う側に立つことになるとは、運命のなんと皮肉なことよ。その重大さが身にしみているからこそ、あの国民一人ひとりに語りかけるような説得力のある演説が生まれたのであるなあ。


もちろんいつでも反発はあった、でも2021年現在メルケル政権の支持率は70%超え、16年間におよぶ任期中でも50%を下回ったことは一度もないという。従来の理想のリーダー像とはまったく違う人なのに、2005年「ヨーロッパの病人」と言われるまでに落ちぶれていたドイツをここまで回復させ、結果16年も続投し、惜しまれながら引退へ。えー、1年で放り投げてぜんぜん惜しまれない日本の首相っていったい何なんだろう…。私たちはメルケルというひとつの奇跡を目撃していたんですね。


ところでなんでドイツの首相の評伝を、ドイツ人じゃなくてフランス人が書くんだろう?と一瞬思ったんだけど、たしかにたとえば日本人が日本人政治家のことを書くと、めっちゃ批判的かめっちゃ太鼓持ちかどっちかになっちゃって、本国人が書いたモノって距離感がとりにくく、中立的・客観的なものが少ないからなのかもしれん。


 

 

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