沢木耕太郎さんが、引退直前の藤圭子さんにインタビューした本なんだけど、いろんな事情でお蔵入りになっていたものが、藤圭子さんの死後に出版されたもの。
表紙には「藤圭子」とは一切書かれておらず、まえがきでの説明もなく、インタビューの会話にもどちらの発言か、は書いていない。読んでいくとはじめて誰の、どういうタイミングのインタビューなのかがわかる、という変わったインタビュー本。私は高校生のころから藤圭子さんの歌をカラオケで必ず歌うくらい好きなので、これはたいへん興味深く読んだ。
藤圭子さんの生い立ちから、歌との出会い、デビューからショービズの世界への違和感、そして家族と友人と恋愛。「いくら真正直にしゃべっても、信じてくれないんだ、あの人たちは」という人間・メディア不信とも思える冒頭の発言のあと、なぜか聞き手の沢木さんには非常に率直に話をしているように見える。引退を決めたあとで解放されたような気分だったのか、お茶目で、頭の回転が早くて、そして違和感に正直な人、という印象。
なぜお蔵入りになり、なぜ今になって出版されたのか、というあたりの事情もあとがきで書いてあり、便乗商売だという批判もあるかもしれないけど、憶測がとびかった最期にこれを世に出すことは、藤圭子さんの人生を悲劇のように消費しようとする世間に対して、こんなにキラキラしていた瞬間がたしかにあったという静かな反論にも見える。いちファンとして、読んで良かった。
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