台湾人の日本語作家、龍瑛宗さんの短編。
台湾の図書館でみつけた、地球出版社というところから1993年に出ている、日中対訳つきの作品集『夜の流れ』という本に入ってました。
日中対訳といっても、原文は日本語です。
龍瑛宗さんの描く登場人物は、貧しさのなかを諦めることなく生きようとする、そんな人が多い。
でも戦前の台湾で日本語を話せるといったら、ふつうは金持ちのエリートなんですよね。
同じく台湾人日本語作家の葉石濤が序文を寄せています。
それによると、台湾は多民族国家で、龍瑛宗は客家人。客家人が台湾に渡った頃、すでに閩南系の移民が住んでいて、現地の富や権利を掌握しており、客家系の移民は生活に大変苦労したそうな。
うーん、このへんは台湾人の解説がなければわからなかった。
それで表題の『崖の男』の話。
龍瑛宗のまえがきで、この『崖の男』が自分ではもっとも好ましい作品のように思う、と書いてあったのでまっさきに読んだ。
東海岸のとある田舎で、乗合自動車に乗り合わせた乗客たちのひとときを描く、ごく短い小説。
乗合自動車にのるくらいですから、この中に金持ちのエリートなんていないわけです。なのにこの乗客たちの、それでも人のために何かを差しだそうとする心のありようが、台湾の田舎の風景とともに語られてゆく。とても龍瑛宗らしいなぁと思った。
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●文庫出ました