たとえば恋とも愛ともつかないような、まだこの世に名前のない感情を、鮮やかにすくい取った小説を読むと、快哉を叫びたくなる。この小説を読むことは、至福の体験でした。久しぶりに、そんな気持ちになった。


この話に出てくる吉崎さんという老人の最期って、一般的に言ったらものすごい悲劇なんだけど、一般的にとらえるだけではこぼれおちてしまうものが、たくさんあるんだろうなーと思えた。それって救いだ。その自由だけは誰にも奪えないっつーか。作者の山田さんは、超がつくほど人間が好きに違いない。


なぜこれが、何万文字もていねいに費やして、書かれなければならなかったのか、作者のひたむきさにじんじんした。それを見つける楽しさを、ぜひに。読書の秋ですから。



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●隠居生活の本出てます