川上弘美さんの短編集。

いろんな形の恋愛が、時間を超え形を超え、12の短編に描かれている。

最後に収録された表題作『おめでとう』は、特定の人というよりも、人類に対する恋を描いていると思った。

「西暦三千年一月一日のわたしたちへ」とはじまる短い手紙のような、日記のような話。

「わたし」は、昔はたくさん人がいた島に住んでいる。トウキョウタワーが遠くに見える。一日かけて歩いて行ってみたらぼろぼろで、誰もいない。

残された最後の人類みたいなSF感。

「わたし」は、「あなた」のおとうさんに言葉を喋るのをやめてはいけないと教わったとおり、ずっと誰にも会わなくても、忘れかけみたいな日本語で語り続けます。

いなくなった人類への、滅びてゆく日本語への恋心、といいますか。

これってファンタジーのように見えて、世界のどこかでは現実に起こってることですよね。たとえばアイヌ語を流暢に話せる人は、もう地球上に五人しかいないと聞いたことがあります。

少なくとも母語に恋いこがれる必要がない現代に生きている私は恵まれてるかもしれん、と思った。