茲許の金融マーケットは欧州からの様々な憶測に振らされて、ひどい荒れ様となっている。
昨日までは23日のEUサミットで具体策が発表されるとのことだったので、この荒れ相場も一旦落ち着くとみられていたが、ここにきて26日にも追加でサミットを開くという話になってしまった。ポジションを持つ人にとっては悩ましい相場展開が3日も伸びてしまってさぞ憂鬱だろう。

EUサミットが開かれる週末を前に、一度このサミットで何を議論しているのかを整理してみよう。
マーケットの焦点となっているのは以下の3つである。

①ギリシャ救済に際しての民間負担
②欧州系銀行の資本増強
③EFSFのレバレッジ

特にEFSFのレバレッジに関して難航を極めており、マーケットも注目している。
以下で詳しく整理しよう。

①ギリシャ救済に際しての民間負担
これまでは民間負担は21%と想定されていたが、これは引き上げられるだろう。
マーケットの見方としては50-60%必要だという見方が大勢だが、30-40%に留まるという報道もある。
30-40%であれば、個人的にはネガティブサプライズというか、またしても大甘なEUということになるのだろう。

②欧州系銀行の資本増強
これはTire1比率9%以上にするというものだ。
欧州が過去2回実施した銀行に対するストレステストにおいては、Tire1比率5%以上が合格要件だった。
Tire1比率9% 以上という数字にはマーケットも異論はないだろう。

では、Tire1比率9%以上に資本増強するにはどのくらいの額が必要なのだろうか。
一部では2,000億ユーロ以上、一部では数百億ユーロで大丈夫との報道がある。実際のところは3回目のストレステストを行い明らかになるのだろう。

また、資本増強にはその規模とは別に、方法に関してもマーケットは注目している。
これに関しては、バローゾ委員長が言っていた、銀行が自力で資金調達→各国の公的資金→EFSFの活用というステップとなりそうだ。

③EFSFのレバレッジ
これが最大の焦点であり、フランスが主張するECBを活用する案ドイツが主張するものライン保証型レバレッジで対立している。

それぞれの説明は過去のエントリーでしてあるが、要点を再度まとめよう。
ちなみに以前の記事で、ドイツ案のモノライン保障型レバレッジでは、利払いと元金の一部を保障すると書いたが、報道では10-20%の元金を保証するようだ。基本は10%で危機が波及しては困るイタリア債に関しては20%まで保障するというものらしい。

フランス案:EFSFが銀行となりECBによる信用供与(レバレッジ)を行う
・ ドイツ案に比べてより機能強化ができる。
・ ドイツ・ECBが強い反対をしている

ドイツ案:債務不履行となった問題債券の利払いと元金の一部を保障する
・ ソブリンのクレジット悪化が小さい
・ フランス案に比べて機能強化が弱い
・ 運用が難しい

レバレッジに関してはこの2つ以外にも方法が話し合われている模様で、ウルトラCが出てくればマーケットはポジティブサプライズだろう。


フランスはEUの中で最もPIIGSのエクスポージャーが高いので、より強いセーフティネットを望んでいる。


ここまでが簡単なまとめである。

さて、最後に少しだけ欧州経済の今後について書いてみる。

今議論されていることは、全てセーフティネットであり欧州の財政問題を根本から解決する方法ではない。
ただし、強いセーフティネットが張られれば、信用不安が払拭されマーケットは一時的に好感する可能性は十分にあろう。

ただし、今後待ち受けているのは「デレバレッジ」、つまり欧州系銀行の資産圧縮である。
資産を圧縮して銀行の安全性を高めるということは、これまでリスクを取ってお金を投入していた先からお金を吸い上げることとなる。

ここで考えなければいけないことは、
. 経済が縮小するであろうこと
. 欧州マネーが入っている新興国はお金を引き上げられるリスクがあること
. 引き上げられた国は、資金流出に耐えられるかどうか

これまでは、新興国と一括りに考えていたが、これからは外国資本への依存度が高い新興国と自力がある新興国とで二分されていくだろう。


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前回のエントリーでは、EFSFのECBを活用したレバレッジ手法を説明した。
しかし、これはECBのトリシェ総裁が猛反対していることもあり実現は難しいと見られている。

そこでEFSFを保険として使おうという案が浮上している。
これもまだ検討段階であり実現されるかどうかは不透明だが、現状では最も現実味がある手法だろう。

では、EFSFを保険として使うということはどういうことなのか。

モノラインという言葉を聞いたことがあるだろうか。
リーマンショックの時にニュースに度々登場したので、一度くらいは耳にしたことがある人も多いだろう。

モノラインとは、金融保証を専門に取り扱う保険会社のことを言う。
その保証内容は、債券の将来キャッシュフローを保証するというものである。
つまり、10年の債券があったとして5年目で債務不履行が起こった場合、その後の利払いと元金を保証するというものである。

しかし、EFSFの保証する内容は、利払い部分がメインであり元金部分の保証は一部に限定されるようだ(※決定事項ではない)。

EFSFの基金をこのような保証に使えば、民間からの投資を誘引でき、EFSFの融資能力以上の投資を引き出すことができ、実質的にレバレッジが利いた状態になる。


この手法が好まれる理由は、この手法ではEFSFの基金は主に利払いの保障のみを行うので、EFSF自体つまりソブリンの信用力の悪化を防ぐことができるという点である。

しかし、逆にそれがこの手法の懸念点でもある。
つまり、主なクレジットリスクの所在は結局は民間負担になるので、果たして民間からの投資を誘引できるのかはかなり不透明である。

その他、保障スキームは一見簡潔そうに見えるが、将来キャッシュフローの算出方法によってキャッシュフローの現在価値が変わってくるので、その辺りの細部のスキームを決定するのに時間がかかる可能性もある。
これまでのEUの決定の遅さであったり二転三転しやすい傾向を考えると、マーケットの混乱要因にもなり得る。


EFSFのモノライン型レバレッジは上手くいけばたしかに魅力的なスキームだが、成功するかどうかは未知数である。



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今回は実際にオプション価値(所謂プレミアム)の算出方法について書いていく。

オプションのプライシングで一般的なモデルは「二項モデル」と「ブラック・ショールズモデル」である。

ただし、このブログでブラック・ショールズモデルを証明していくと、数式だらけのエントリーになってしまうのでそれは避け、二項モデルやブラック・ショールズモデルのベースとなる考え方を紹介したい。


今回は株のオプションを考えてみよう(株で債券でも為替でも考え方は同じ)。
例えば日経平均(先物)を原資産とするとして、今日経平均の価格は10,000円だとする。

この日経平均は1年後に10%上昇するか5%下落するかの2通りしかないとする。
また、無リスクで1%でお金を運用できる、もしくは借り入れることができるとする。

この状況で、日経平均(先物)を1年後に10,000円で買う権利(コールオプション)はいくらだろうか。

1年後の日経平均は10%上昇した11,000円か5%下落した9,500円なのだから、1年後のコールプレミアムは1,000円か0円のどちらかである。

では、次にこのオプションを売った場合、どのようにヘッジするのか考えてみよう。
仮に僕がこのオプションを売ったとしよう。

コールオプションを売ったのだから、日経平均が上がってしまうと負けである。なので、デルタ分だけ日経平均の先物を買えばデルタヘッジができる。

その時僕の手元には、オプションを売ったのでそのプレミアム分(以下C)の収益が入ってくる。一方、ヘッジのため無リスク資産の金利でお金(以下B)を借りて日経平均先物を買う。

つまり、現状の僕の手元は
C-10,000×⊿(デルタ)+B=0 ・・・・・・・①
という状況である。

これが1年後どうなるのか。

日経平均が上昇した場合
-1,000+11,000×⊿-1.01×B=0 ・・・・・・②
※ 日経平均が上昇すればコールプレミアムは1,000円となり、僕はオプションで損するが、⊿分だけ日経平均先物を買っていたので利益がでている。またお金を1%の金利で借りているのでその分が減る。


日経平均が下落した場合
0+9,500×⊿-1.01×B=0 ・・・・・・・・・・③
※ 日経平均の価格が下落すればコールプレミアムは0円となり、僕は当初受け取ったプレミアム(C円)だけ得をした。一方、ヘッジで買っていた日経平均は下落して損失となった。また、1%でお金を借りていた分も減少する。

さて、この①~③の式と中学レベルの数学の知識があれば、Cと⊿を算出することができる。

プットオプションの場合も同じ考え方で出せるし、プット・コールパリティの式を使えばコールプレミアムからプットプレミアムを算出することが可能である。

二項モデルやブラック・ショールズモデルはこの考え方をもっと深化させたものである。

ブラック・ショールズの一歩手前というタイトルにしてしまったが、この説明だと50歩くらい手前のような気がしてならないが、もっと深く知りたい人はブラック・ショールズに関して様々な本が出ているのでそちらを参照して頂きたい。

このブログではあくまであまり数学的知識を使わずにオプションを理解するというテーマなので、プライシングに関してはこのあたりでとめておくとする。



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不正取引は3年間継続―UBS巨額損失事件

三菱UFJモルガン、赤字1400億円 金融商品で損失

大和銀行ニューヨーク支店巨額損失事件

ベアリングス銀行

金融機関の巨額損失は繰り返されている。しかも多くが1人のトレーダーによる損失である。
記憶に新しいUBS証券の巨額損失も今年初の三菱UFJモルガン・スタンレー証券の巨額損失も1人のトレーダーによって1500億円程度の損失が発生したとなっている。

ベアリングス銀行に関しては、マネートレーダーという映画になっているように、1人のトレーダーの損失が原因で、「女王陛下の銀行」と呼ばれていた銀行が破綻に追い込まれた。


トレーダーが損失を出すことはしばしばある。プロであっても相場で負けることはごく自然に起こりえることだ。
しかし、UBSや三菱のように1500億円規模の損失を出すというのは、決して普通ではない。

なぜ、このような1人のトレーダーによって企業経営が危ぶまれるほどの損失が発生してしまうのか。


全ての損失が共通の理由とは思わないが、大きく2つの共通した理由があるように思う。

1.トレーダーの報酬制度
2.上司のマネージメント能力の欠如


トレーダーの報酬制度は基本的にベースが決まっておりボーナスは自分の成績に連動するようになっている。
例えばベースが1,000万円でボーナスは自分の稼いだ利益からコストを差し引いた残りの10%、といったような感じだ。
もちろんボーナスの部分には上限がついていたりする。

僕が思うに、この制度はかなりトレーダーに有利だ。

例えばこんなケースを考えてみよう。

1年目、トレーダーAの稼いだ利益が10億円だったとする。ボーナスはその10%で1億円だ。
2年目、そのトレーダーは10億円の損失を出してしまった。ボーナスはもちろん0だ。

だが、この2年間を比べると、会社の利益は10億円+(-10億円)=0円だが、
トレーダーのボーナスは1億円+0円=1億円である。

2年間で比較すると、このトレーダーは会社に一切貢献していないのに1億円のボーナスを手に入れている。
トレーダーにとってはまさに美味しい話である。
この制度ならば、トレーダーはよりリスクを取ることを選択するだろう。リスクをとれば、もちろん失敗した時の損失は大きくなる。

しかし、10億円の損失を出してしまったらこのトレーダーはおそらくクビになるだろう。
しかし、トレーダーという職種にはそこにも抜け道がある。

1500億円という規模の損失を出すためにはおそらくデリバティブを取引しなければ発生しない。
デリバティブというのは、普通の株式取引や為替取引に比べると流動性が低い。

また、トレーダーの収益は多くが実現益ではなく評価益、つまりまだ決済していないがもし仮に今日決済するとしたらいくらになるか、という評価益が多い。
この評価益を計算する時に使う評価レートは通常引け値(日本の株式なら15時の株価)、つまり最後に取引された値を使う。

デリバティブは流動性が低いが故に、価格操作がしやすいという面がある。例えば、自分がデリバティブのポジションを買い持ちをしているとしたら、評価レートを上げたいわけだから、引け間際に自ら買いにいけば引け値があがるというわけだ。

そうすると、引け値が上がるわけだから、その日のPL(成績)では損失が明るみに出てこないわけだ。

本来発生すべき損失を評価レートの操作で明るみに出ないようにしておき、その間にそのトレーダーは他社へ移籍することを模索する。
上手く移籍できれば、そのトレーダーは晴れて腐ったポジションとおさらばして、一からやり直せるわけだ。
しかも、前の会社に残した腐ったポジションを把握しているわけだから、新しい会社での1年目は楽に儲けることができる。

この抜け道に失敗してしまうトレーダーがUBSや三菱のトレーダーのように巨額損失を生み出してしまうわけだ。
損失を隠すために評価レートを操作しようとすれば、ポジションがどんどん大きくなってしまうので、その分損失も大きくなる。


では、こんな制度は辞めてしまえ、と思うだろうが、それも違うと思う。
この制度があるからこそ、トレーダーは良い成績を出そうとするわけで、それが会社のためになるんだ。

僕が思うに、上司がしっかりとマネージメントできていれば、このような問題は起きないはずだ。

トレーダーが評価レートを操作してその日のPLに損失が出てこなくても、少なくともポジションが大きくなっていることは把握できるはずである。
ポジションが大きければ、損失が大きく出る可能性も十分にあるわけで、これ以上ポジションを拡大させるな、とトレーダーに警告等をしなければいけないだろう。

しかし、ここもデリバティブ。実際、巨額損失を出してしまうようなトレーダーの上司というのは、最先端のデリバティブの知識に乏しいのだと思う。
前年に高パフォーマンスを出していたトレーダーから、よくわからないデリバティブの話をされたら上手く丸め込まれてしまうのもよくわかる。


報道では1人のトレーダーによる損失と出てくるが、決して責任はトレーダーだけにあるかと言えば違うだろうし、その点で、リスク管理ができていなかったその上司や究極的にはCEOが引責辞任するというのはごく自然な流れだろう。

EFSF(European Financial Stability Facility)
日本名:欧州安定基金
ユーロ圏諸国の救済を目的とした特別目的事業体。ルクセンブルクに本部を置きEIB(欧州投資銀行)が資金管理業務と運営支援を行う。
資金支援が必要となったユーロ加盟国向けに融資するため、最大で4,400億ユーロの加盟国保証付きのEFSF債を発行できる枠をもつ。

現状、EFSFの融資能力は2,500億ユーロである。
今週中にもスロバキア議会はEFSF拡充案を可決させると見られ、そうなれば融資能力は4,400億ユーロまで増える。また融資だけでなくユーロ圏の国債の購入などの機能も可能となる。

現在、話題の中心となっているのはこの機能強化でありレバレッジとは別の話である。

ちなみにギリシャの債務合計(債券・ローン)は3,500億ユーロ程度で、PIIGSの債務合計は3兆ユーロ弱である。

EFSFの支援能力を4,400億ユーロまで拡充できればギリシャの債務残高を超える支援能力となり、レバレッジを活用して2.5~3兆ユーロまで強化すればPIIGS全体の債務残高をカバーできるというわけだ。

ギリシャが潰れたとしても100%減免されるわけではないので、実は現状の2,500億ユーロでもなんとかなるレベルである。4,400億ユーロなら十分安心できるレベルでありレバレッジなど正直そこまでする必要はあるのか、と思ってしまう。

しかし、マーケットの不安心理に火がつくと信用収縮の連鎖による被害が出てくるので、4,400億ユーロに拡充してマーケットに安心感を与えることは重要なのだろう。
また、危機がイタリアにまで侵食してきた場合は、レバレッジ活用という方法をとらなければ安心感には繋がらないだろう。

さて、EFSFのレバレッジだが、いったいどういう仕組みで行われるのか。
これにはいろいろな方法が議論されるのであろうが、現状よくニュースに出てくるのはECBを使うパターンである。むろんECBのトリシェ総裁はこの方法を否定しているが…

僕は専門家ではないので詳細にはわからないが、ECBによるEFSFのレバレッジの仕組みは、僕らがFXを使う場合と同じような仕組みではないかと考えられる。つまり、FX会社が僕らに信用を供与するのと同じように、ECBがEFSFに信用を供与するわけだ。

FX会社、例えば外為オンラインがECBであり、個人投資家である僕はEFSFと同じ立場だ。

まずは僕がFXを取引する時のことを考えてみよう。
僕は100万円しか持っていないのにそれより大きな金額で取引をしたいと考えている。
その時、外為オンラインに有効証拠金として100万円差し入れれば、この100万円(厳密には100万円-必要取引証拠金)分の損をするまで、僕は外為オンラインからお金を借りることができ、外為オンラインを通して為替取引をすることが可能となる。

EFSFの場合、拡充された4,400億ユーロをECBに差し入れることで、ECBからお金を借り2.5兆ユーロの支援能力にするというわけだ。

ECBのトリシェ総裁がこれを拒否するのは当然といえば当然である。
なぜなら、EFSFとはユーロ圏の救済を目的とした基金であり、融資する先は救済されなければいけない国である。
つまり、ダメなものを買うためにお金を貸すということであり、そんなことにお金を貸す人などは存在するはずがない。

トリシェ総裁は「各国政府にはEFSFをレバレッジする能力がある」とその役割を政府に負わせようとしている。
ECBのマンデートは唯一「物価の安定」であり、そういった面からも救済目的にECBがEFSFをレバレッジする道理はない。

ただし、各国政府がレバレッジするとなると、またしてもドイツがその役回りを担うことになり、それはドイツが嫌がるだろう。

この問題をスムーズに解決するには、ECBのマンデートをFRBのようにデュアルマンデートに変更し「雇用の維持」であったり「経済成長」等を追加するのが最も効果的だと考えている。

EUという組織を維持していくのであれば、もはや通貨以外の統合も進めて各国政府のコミットメントを強くいていくことは必要不可欠であろう。



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オプションの価値(所謂プレミアム)について、追加で説明しようと思う。

オプション講座③でオプションの価値は本質的価値と時間的価値に分解できると説明した。
図で表すと以下のようになる。※コールオプションの場合
photo:01



①の範囲(赤い直線の下部分)が本質的価値
②の範囲(赤と青の線の間)が時間的価値
となっており、①+②がオプション価値(プレミアム)となる。

ATM、ITM、OTMとあるがこれを先に説明しておく。

ATM(At The Money)
(プレミアム分を無視すると)原資産価格がストライク(権利行使価格)と一致した状態。

ITM(In The Money)
原資産価格>ストライクの状態。

OTM(Out of The Money)
原資産価格<ストライクの状態。


図を見れば分かるとおり、OTMの時の本質的価値は0になる。
本質的価値とは(原資産価格-ストライク)で表され、オプション価値が0以下になることはないので、OTMで本質的価値が0になることは当たり前である。

このエントリーをあえて作ったのは、ATM、ITM、OTMを説明するためでもあるが、もう1つ、オプションの教科書等によく書かれている“あるミスリードしやすい文言”について指摘するためである。

その文言とは
「オプションの買いは損失が限定で利益が無限大、オプションの売りは利益が限定で損失が無限大」である。

たしかに間違ってはいない表現(上の図を見ると原資産価格が上がれば価値も無限大に上がっていく、つまり買い手の利益と売り手の損失が無限大に増える)だが、簡単なオプションの説明の中にこの文言が入っていてきちんと説明がなされていないと、オプションの売りがとんでもないハイリスクでオプションの売りなど取引する価値のない戦略のように思えてしまう。

実際、証券会社のように顧客の取引を受ける側は、顧客のオプション買いの相手方になるのでオプションの売りポジションを持つことになる。
オプションを売れば、毎日セータ分だけ儲かるので、オプションディーラーの重要な収益源となっている。
また、投資家サイドでも、オプションを買うコストを下げるためにOTMのオプションを売るという戦略は広く一般的に使われている。

オプションの売りが危険という本質は、ガンマの売り(ガンマショート)を放置することが危険であるということである。(詳しくはガンマを説明する時に書く。)

ガンマショートでもしっかりヘッジしていれば損失を限定させることは可能であり(もちろんヘッジしきれず多大な損失を被ることもある)、だからこそリスク指標をしっかり理解し自分の持っているポジションのリスクを正確に認識する必要がある。
何度も言うようだが、原資産価格が動いた時、どの程度の利益もしくは損失が発生するのか瞬時に把握できる状態(もちろん1円単位のPLではなくざっくりとした把握で構わない)になければ、オプションに限らず投資を行う権利はないと思った方が良い。

また、このような説明なしに闇雲に「オプションの売りは損失が無限大で危険」と投資家の不安心理を煽るだけで投資家のリスクに対する理解を促さない本などはあまり良いとは思えない。





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株でも債券でも為替でも金融商品を取引する時、所謂投資を行う時は、常に自分がどういったポジションを持っているかを把握しとかなければいけない。

つまり、自分が買った商品の価格が動いた時に、いくらの収益もしくは損失が発生するのかを常に瞬時に把握できるようにしておく必要がある。
これができていないのに投資を行ってる人は、投資をギャンブルと勘違いしているのだろう。

ただ、これは多くの場合それ程難しいものではない。
例えばトヨタの株を1000円で100株買ったとして、株価が1100円になったら収益は100円×100株で10,000円である。

ただこれだけのことである。

ちなみに、自分が買った商品の価格が動いた時の収益の変化幅をデルタと言う。
一次関数y=ax+bで言うところのaに相当する部分がデルタということである。


オプションの厄介なところは、このリスク指標がデルタ以外に3つあるということである。
逆に、そこが醍醐味でもあるし、多くのオプションディーラーはそこに魅力を感じてオプションを取引している。

デルタ以外の3つのリスク指標とは、ガンマ、ベガ、セータである。
それぞれの特性についてはおいおい説明していくとして、今回はそれぞれの意味の説明だけしておく。

ガンマ
ガンマとは、原資産(ドル円のオプションならドル円、トヨタ株のオプションならトヨタ株)の価格が変化した時にデルタがどのくらい変化するかを表したもの。

オプションでは原資産の価格水準によってデルタの値が変化してくる。原資産価格が変化した時のデルタをきっちり把握するためにガンマという指標が必要であり、このガンマはとても重要かつオプションディーラーを魅了するものとなっている。
ガンマの具体的特性やどのように魅了するかという話は別の機会でじっくりと解説していく。
(余談ではあるが、先日のUBS証券の大量損失などトレーディングにおける大きな損失、もしくは大きな利益というのは、多くがオプションが絡んでおりもっと突き詰めるとこのガンマに起因するところが多いと考えられる。それ程ガンマは重要なものであり、その面白さを少しでも伝えられるようにしていきたい。)

ベガ
ベガとは、原資産のボラティリティが動いた時のオプション価値の変化幅を表す指標である。
オプションは権利の売買と何度も言ってきたが、実はボラティリティをトレーディングしていると言って差し支えない。

セータ
セータとは時間の経過に対するオプション価値の変化幅を表す指標である。
オプションはもちろん時間が短くなれば価値が減るわけで、満期日がくれば時間的価値はゼロとなる。
オプションを買えば、一日経過する毎にその価値は減っていく。つまりボラティリティにも原資産価格にも変化がなければオプションの買い手はそれだけで損をしていくとこになる。
逆にオプションの売り手は毎日の時間的価値の低下分、つまりセータ分だけ収益が上がっていくことになる。

オプションの買い手はセータによるオプション価値の低下分よりも大きいボラティリティの上昇を見込めばオプションを買うと決断するだろう。


以上のデルタ、ガンマ、ベガ、セータの4つがオプションのリスク指標である。
とりわけ、ガンマ、ベガ、セータがオプション独特のものであり、オプション取引の魅力である。

ここまで、オプションの基本的なことを説明してきたが、次回からはもう少し踏み込んでオプション価値のプライシングや実際のトレーディング手法などを説明していく予定である。



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米財務長官であるガイトナーが9月16日の欧州財務相会合に出席し、欧州危機を終息させるためにEFSFの強化、つまりレバレッジの活用を提言した。
ユーロ圏の要人たちは、いわゆる部外者であるアメリカのガイトナー長官の意見を突き放し、塩をまいて追い払う形となった。

しかし、その後のユーロ圏からEFSFのレバレッジ活用案が次々と飛び出してきて僕はびっくりした。

そんなことはどうでもいいのだが、EFSFのレバレッジ活用とはなんなのか。

現状、EFSFは実質2500億ユーロの融資能力をもつ。
これにレバレッジをかけて例えば2兆ユーロの能力にしてしまおうわけだ。

レバレッジにはそんな魔法のような力がある。
日本の個人投資家の間で流行っているFXも、レバレッジを使って少ない資金で大きな利益をあげよう、などと謳っている。

レバレッジ、レバレッジと何気なく使っているが、一体どういう仕組みで2500億ユーロを2兆ユーロにできるのだろうか。
よくレバレッジ10倍とか50倍とか言うけど、そんな10倍というボタンを押すだけかのような簡単な作業でいきなり資金が10倍に増えるのだろうか。


レバレッジとは、そもそも「他人資本を使うこと」なのだ。
別にボタンを押せばお金が10倍に増えるわけではなく、単純に他の誰かからお金を借りているだけ。

僕が今100万円持ってるとして、友達から100万円借りて事業を行えばレバレッジ2倍ということだ。

100万円で10万円の利益が上がれば利益率は10%。同じ事業を友達から借りた100万円を足して200万円で行えば利益は20万円出ることになる。でも僕のお金は100万円しか使っていないので、100万円に対して20万円の利益が出たことになる、つまり利益率は20%に上がる。少ないお金で多くの利益を稼いだことになる。

もちろんリスクも大きくなる。
200万円で事業を行い失敗した時、100万円で事業を行っていた時よりも多額の損失が発生する。100万円以上の損失、例えば130万円の損失が出れば追加で30万円自己資本を出さなければいけない。

レバレッジとは諸刃の剣のようなものなんだ。
EFSFとは話題がそれるが(実はもともとEFSFを主にしたエントリーではないが…)、レバレッジが諸刃の刃なのはたしかだが、それでもFXというのは大変魅力的なサービスだと思う。

レバレッジといえばFXを連想するほどFXは浸透してきたが、実はもっと身近で日本人の多くが利用しているサービスの中にレバレッジは使われている。

それは住宅ローンである。

多くの日本人は頭金500万円しか払わないのに3,000万円の住宅を購入している。
これはレバレッジ6倍の投資と同じ効果だ。

しかし、住宅ローンとFXの違いは、使う他人資本に金利がつくかつかないかという点である。
住宅ローンの場合、自己資本以外の部分には金利がついてしまう。しかもその金利にもマジックが隠されている(過去のエントリーを参照)。

しかし、FXでレバレッジを使う場合、たいていの場合他人資本の部分に金利はつかない(取引手数料をとる業者も一部あるかもしれない)。
つまり、これは無利子でお金を借りていることと同じ効果だ。
もちろん借りたお金は為替取引をすること以外に使うことはできないのだが、今の日本において無利子でお金を借りることができるサービスは、奨学金とクレジットカードとFXくらいだろう。

無利子でお金を借りられるサービスというのは、どんどん活用すべきだと個人的には考えている。

少し話はそれてしまったが、レバレッジとは自分のお金が数倍に増えるわけではなく、単に他人のお金を使わせてもらう、という単純な仕組みである。
利益が出てるうちは魔法の杖のようだが、損が出始めると雪だるま式に損失が膨らんでしまう。

(最後にEFSFの話をさらっと。わかる人だけ読んでください。)
同じ国の中の困ってる人を助けるのにレバレッジを活用した基金(米国のTARP)を使うことはできても、別の国の困ってる人を助けるためにレバレッジを活用(EUのEFSF)するとなると、損失が出たときのリスクを考えてしまいなかなか踏み込めないのはすごくよくわかる。

EFSFのレバレッジとは、その仕組みと可能性


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日本経済は長期間の不況を経験し、俗に「失われた20年」と呼ばれている。

日本とアメリカの名目GDPを見てみよう(黒がアメリカの名目GDP,オレンジが日本の名目GDP)。
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日本の名目GDPは1990年代前半に0%付近まで低下し、その後はプラスとマイナスをいったりきたり、リーマンショックが起こったときは▲10%近くまで低下し、まさに低成長を続けている。そして今も抜け出せていない。実は今日本は「失われた30年」に突入しようとしている。

アメリカでは今「日本化」してきているという議論がなされている。アメリカがこれから「失われた10年」に突入していくのだろうか。そして、もしそうなった場合、アメリカは「失われた10年」に耐えることができるのだろうか。

そんな問題意識が、日本は「失われた20年」で何を失ったのか、を考えるきっかけとなった。

ありきたりな表現かつ当たり前のことかもしれないが、日本は「成長」を失ったと結論付けるのが無難なような気がする。

様々な指標を眺めていると、この20年間で「(良い意味での)急増」した指標を見つけるのは難しい。「微増・横ばい」「下落」のカテゴリに入る指標は以下の通り。

「微増・横ばい」:雇用・給料・経常収支など
「下落」:株価・インフレ率・財政など

またGDPを簡易に分解すると以下のように分解できる。

GDP=民需(消費+投資)+政府支出+貿易収支

日本の公的債務が莫大であること、日本の貿易収支が恒常的に黒字であることを踏まえると、日本のGDPが0%付近をさまよっているのは、民需の大幅なマイナスによるものと想定される。
逆に言うと、民需の大幅なマイナスを政府の財政出動と貿易収支(トヨタなどの輸出企業の努力)で補っていたと言う事ができる。

また、この20年間で忘れてはいけないことは日本が「デフレ」であったことである。
日本は「成長」失ったこと、つまり低い成長率を受け入れるとともにデフレも受け入れた。おかげで、日本国民の可処分所得は「下落」することはなかったのだろう。

「失われた20年」を個人・企業・政府の立場から振り返ってみよう。

(個人)
日本における個人の雇用は他の先進諸国に比べて大分守られている。また、失われた20年の中でもサラリーマンの給料(大学の初任給で比較した。)は微増となっている。これは、松下幸之助の「社員は家族」といった考えに代表される日本人の精神とそれを実行する企業努力の賜物ではないだろうか。
一方、その間の日本はデフレ(物の価値が下がる状態)に陥っていたため、日本人の可処分所得は実質増えていたことになる。
個人の視点から振り返ると、この20年間は意外とオイシイ20年間だったのように感じる。
(もちろんバブル世代は天国から地獄のようなギャップに苦しんだのだろうが。)
(余談→)しかし、成長を失った結果、松下幸之助の考えのような社会システム、例えば終身雇用・年功序列などはもうすぐ完全崩壊を向かえることを考えると、オイシイ時間は間もなく終わるのだろう。

(企業)
企業、特に日本を代表するトヨタなどの輸出企業は、人件費以外の部分でコスト削減・効率化に励み、低成長の日本の中で世界に自慢できる努力をしてきたと言える。
国内で売れない分は海外で穴埋めをし、日本の雇用を守り、暗い日本に唯一光を当て続けた存在だった。
しかし、グローバル化の波、新興国の企業の勢い、世界不況、そして大震災と向かい風が続き、さらにこれまでの日本の雇用を守ってきたことも仇となり(企業体質が悪くなり)、株価は右肩下がりの状態だ。
日本のために最も貢献してきた主体が、皮肉にも「失われた20年」の大きな被害者となっている。

(政府)
日本の公的債務は1995年程度から急増している。日本国内の需要不足を財政出動により補った結果だ。おかげで日本は世界一の借金大国となった。
しかし、財政出動での景気浮上は机上の空論だったのか、日本の政治家・官僚が無能だったのかはわからないが、大規模な財政出動で日本が再浮上することはなかった。
政府は様々な努力をしてきたことには違いない。ただし、その努力が企業のように成果に結びつかなかっただけただ。結果この20年間、日本政府は無駄な努力を続けてきたという事実だけが残ってしまった。


日本が「失われた20年」で失ったものは「成長」である。
本来であればその弊害を個人・企業・政府の3者が受け入れなければいけないはずだったが、なぜか日本では企業が主の被害者で個人がほとんど被害を受けていないという、奇妙なバランスとなっている。

そうなると、「失われた30年」に突入しようとしている日本において、今後の10年間では企業に代わり個人が被害を受ける番が回ってくる(回ってきた)のではないだろうか。

長くなってしまったので、そもそもの問題意識の発端であった「アメリカは失われた10年を耐えることができるか」という疑問については、次回かまたいつか書くことにする。





iPhoneからの投稿
auからのiPhone販売という報道が出てから、瞬く間に「ソフトバンクの快進撃の終焉」を予想する声が出てきた。
たしかに、auからiPhoneが販売されれば、ソフトバンクの契約純増数に陰りがでてくることは間違いないだろう。
それは一般消費者の目から見れば、au優勢ソフトバンク劣勢と映るのだろう。

しかし、投資家からの目線は少し違うようだ。
auからiPhone販売という記事が出る1日前を起点として携帯キャリア3社の株価の推移を見ていただきたい。
9月21日の始値を起点としたドコモ(緑)、ソフトバンク(オレンジ)、KDDI(黒)の株価チャート(出所)Bloomberg
photo:01



投資家は明らかにKDDI株を売っている。そしてソフトバンク株は報道を受けて売られたが買い戻しが既に入っている。

この理由(単なる個人的見解だが)は、以前の記事と今回の記事で書く通りである。

auのiPhone販売はKDDI株の売り材料だろぉがよー
docomoからiPhoneが発売される可能性が限りなく0に近いと思う個人的見解

さて、今回はソフトバンクについて書こうと思う。

ソフトバンクは本日(2011年9月29日)の新商品発表会で、「4G」と銘打った新データ通信サービスを発表した。
投資家はこの発表から、ソフトバンクの今後の携帯事業におけるビジョン、つまり海外戦略を感じ取っただろう。

ソフトバンクが新たに採用する通信方式は「TD-LTE」というもの。
※ 通信方式の詳しい説明は割愛します。

ドコモのLTEサービス「Xi(クロッシィ)」はFDD方式のLTEであり、世界では一般的にこちらが使われている。

ならば、なぜソフトバンクは世界で一般的でないTDD方式のLTEを採用するのか。
それは、世界最大の契約者数を誇る中国移動(チャイナモバイル)がTDD方式のLTEを採用することを決定しているからである。
世界No1,No2の人口を誇る中国とインドは国家単位でTDD方式のLTE採用を後押している。

国内の携帯電話市場を見ると、ドコモが約50%のシェアで圧倒的にリードしており、ソフトバンクの契約台数はドコモの半数にも及ばない。
しかし、次世代の通信方式で括ってみると、ソフトバンクの採用するTD-LTE方式には中国での携帯電話契約台数(7億台以上)が加わるわけだから、ソフトバンクは数の上でドコモを圧倒することができる。

ソフトバンクにはメリットがとても大きい。

①規模の経済を利用してコスト削減ができる
本日の発表会で、通信インフラに関して中国の華為技術(ファーウェイ)が構築を受注したことを発表した。この企業は中国国内でも同じインフラを構築するため、規模の経済が働きソフトバンクにとっては低コストとなることが想像できる。
他にも、同じ通信方式の端末開発において低コストを実現できることが予想される。

②グローバルローミング契約で有利になる可能性
同じ通信方式のため、中国人が日本に旅行に来た時にはソフトバンクのネットワークが利用される可能性がある。
このあたりはまだ不透明な部分は多いが、可能性は相応に高いと考えられ、先般日本の来る中国人旅行者が多いことを踏まえるとソフトバンクにとって大きな収益源となりそうだ。

次世代通信サービスが本格的に展開されるのはもう少し先の話だが、次世代通信の世界ではよりグローバル化が進んでおり、国内マーケットの重要性は低下すると考えられる。その時に微笑んでいられるのは、海外戦略で成功した会社であろう。

(あくまでも企業経営・投資の話だが)もはや国内マーケットの微々たる変化は重要な問題ではなく、auがiPhoneを販売してシェアを伸ばしたところで世界から見ればそれはすずめの涙程度の話でしかないだろう。






iPhoneからの投稿