日本経済は長期間の不況を経験し、俗に「失われた20年」と呼ばれている。

日本とアメリカの名目GDPを見てみよう(黒がアメリカの名目GDP,オレンジが日本の名目GDP)。
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日本の名目GDPは1990年代前半に0%付近まで低下し、その後はプラスとマイナスをいったりきたり、リーマンショックが起こったときは▲10%近くまで低下し、まさに低成長を続けている。そして今も抜け出せていない。実は今日本は「失われた30年」に突入しようとしている。

アメリカでは今「日本化」してきているという議論がなされている。アメリカがこれから「失われた10年」に突入していくのだろうか。そして、もしそうなった場合、アメリカは「失われた10年」に耐えることができるのだろうか。

そんな問題意識が、日本は「失われた20年」で何を失ったのか、を考えるきっかけとなった。

ありきたりな表現かつ当たり前のことかもしれないが、日本は「成長」を失ったと結論付けるのが無難なような気がする。

様々な指標を眺めていると、この20年間で「(良い意味での)急増」した指標を見つけるのは難しい。「微増・横ばい」「下落」のカテゴリに入る指標は以下の通り。

「微増・横ばい」:雇用・給料・経常収支など
「下落」:株価・インフレ率・財政など

またGDPを簡易に分解すると以下のように分解できる。

GDP=民需(消費+投資)+政府支出+貿易収支

日本の公的債務が莫大であること、日本の貿易収支が恒常的に黒字であることを踏まえると、日本のGDPが0%付近をさまよっているのは、民需の大幅なマイナスによるものと想定される。
逆に言うと、民需の大幅なマイナスを政府の財政出動と貿易収支(トヨタなどの輸出企業の努力)で補っていたと言う事ができる。

また、この20年間で忘れてはいけないことは日本が「デフレ」であったことである。
日本は「成長」失ったこと、つまり低い成長率を受け入れるとともにデフレも受け入れた。おかげで、日本国民の可処分所得は「下落」することはなかったのだろう。

「失われた20年」を個人・企業・政府の立場から振り返ってみよう。

(個人)
日本における個人の雇用は他の先進諸国に比べて大分守られている。また、失われた20年の中でもサラリーマンの給料(大学の初任給で比較した。)は微増となっている。これは、松下幸之助の「社員は家族」といった考えに代表される日本人の精神とそれを実行する企業努力の賜物ではないだろうか。
一方、その間の日本はデフレ(物の価値が下がる状態)に陥っていたため、日本人の可処分所得は実質増えていたことになる。
個人の視点から振り返ると、この20年間は意外とオイシイ20年間だったのように感じる。
(もちろんバブル世代は天国から地獄のようなギャップに苦しんだのだろうが。)
(余談→)しかし、成長を失った結果、松下幸之助の考えのような社会システム、例えば終身雇用・年功序列などはもうすぐ完全崩壊を向かえることを考えると、オイシイ時間は間もなく終わるのだろう。

(企業)
企業、特に日本を代表するトヨタなどの輸出企業は、人件費以外の部分でコスト削減・効率化に励み、低成長の日本の中で世界に自慢できる努力をしてきたと言える。
国内で売れない分は海外で穴埋めをし、日本の雇用を守り、暗い日本に唯一光を当て続けた存在だった。
しかし、グローバル化の波、新興国の企業の勢い、世界不況、そして大震災と向かい風が続き、さらにこれまでの日本の雇用を守ってきたことも仇となり(企業体質が悪くなり)、株価は右肩下がりの状態だ。
日本のために最も貢献してきた主体が、皮肉にも「失われた20年」の大きな被害者となっている。

(政府)
日本の公的債務は1995年程度から急増している。日本国内の需要不足を財政出動により補った結果だ。おかげで日本は世界一の借金大国となった。
しかし、財政出動での景気浮上は机上の空論だったのか、日本の政治家・官僚が無能だったのかはわからないが、大規模な財政出動で日本が再浮上することはなかった。
政府は様々な努力をしてきたことには違いない。ただし、その努力が企業のように成果に結びつかなかっただけただ。結果この20年間、日本政府は無駄な努力を続けてきたという事実だけが残ってしまった。


日本が「失われた20年」で失ったものは「成長」である。
本来であればその弊害を個人・企業・政府の3者が受け入れなければいけないはずだったが、なぜか日本では企業が主の被害者で個人がほとんど被害を受けていないという、奇妙なバランスとなっている。

そうなると、「失われた30年」に突入しようとしている日本において、今後の10年間では企業に代わり個人が被害を受ける番が回ってくる(回ってきた)のではないだろうか。

長くなってしまったので、そもそもの問題意識の発端であった「アメリカは失われた10年を耐えることができるか」という疑問については、次回かまたいつか書くことにする。





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