不正取引は3年間継続―UBS巨額損失事件

三菱UFJモルガン、赤字1400億円 金融商品で損失

大和銀行ニューヨーク支店巨額損失事件

ベアリングス銀行

金融機関の巨額損失は繰り返されている。しかも多くが1人のトレーダーによる損失である。
記憶に新しいUBS証券の巨額損失も今年初の三菱UFJモルガン・スタンレー証券の巨額損失も1人のトレーダーによって1500億円程度の損失が発生したとなっている。

ベアリングス銀行に関しては、マネートレーダーという映画になっているように、1人のトレーダーの損失が原因で、「女王陛下の銀行」と呼ばれていた銀行が破綻に追い込まれた。


トレーダーが損失を出すことはしばしばある。プロであっても相場で負けることはごく自然に起こりえることだ。
しかし、UBSや三菱のように1500億円規模の損失を出すというのは、決して普通ではない。

なぜ、このような1人のトレーダーによって企業経営が危ぶまれるほどの損失が発生してしまうのか。


全ての損失が共通の理由とは思わないが、大きく2つの共通した理由があるように思う。

1.トレーダーの報酬制度
2.上司のマネージメント能力の欠如


トレーダーの報酬制度は基本的にベースが決まっておりボーナスは自分の成績に連動するようになっている。
例えばベースが1,000万円でボーナスは自分の稼いだ利益からコストを差し引いた残りの10%、といったような感じだ。
もちろんボーナスの部分には上限がついていたりする。

僕が思うに、この制度はかなりトレーダーに有利だ。

例えばこんなケースを考えてみよう。

1年目、トレーダーAの稼いだ利益が10億円だったとする。ボーナスはその10%で1億円だ。
2年目、そのトレーダーは10億円の損失を出してしまった。ボーナスはもちろん0だ。

だが、この2年間を比べると、会社の利益は10億円+(-10億円)=0円だが、
トレーダーのボーナスは1億円+0円=1億円である。

2年間で比較すると、このトレーダーは会社に一切貢献していないのに1億円のボーナスを手に入れている。
トレーダーにとってはまさに美味しい話である。
この制度ならば、トレーダーはよりリスクを取ることを選択するだろう。リスクをとれば、もちろん失敗した時の損失は大きくなる。

しかし、10億円の損失を出してしまったらこのトレーダーはおそらくクビになるだろう。
しかし、トレーダーという職種にはそこにも抜け道がある。

1500億円という規模の損失を出すためにはおそらくデリバティブを取引しなければ発生しない。
デリバティブというのは、普通の株式取引や為替取引に比べると流動性が低い。

また、トレーダーの収益は多くが実現益ではなく評価益、つまりまだ決済していないがもし仮に今日決済するとしたらいくらになるか、という評価益が多い。
この評価益を計算する時に使う評価レートは通常引け値(日本の株式なら15時の株価)、つまり最後に取引された値を使う。

デリバティブは流動性が低いが故に、価格操作がしやすいという面がある。例えば、自分がデリバティブのポジションを買い持ちをしているとしたら、評価レートを上げたいわけだから、引け間際に自ら買いにいけば引け値があがるというわけだ。

そうすると、引け値が上がるわけだから、その日のPL(成績)では損失が明るみに出てこないわけだ。

本来発生すべき損失を評価レートの操作で明るみに出ないようにしておき、その間にそのトレーダーは他社へ移籍することを模索する。
上手く移籍できれば、そのトレーダーは晴れて腐ったポジションとおさらばして、一からやり直せるわけだ。
しかも、前の会社に残した腐ったポジションを把握しているわけだから、新しい会社での1年目は楽に儲けることができる。

この抜け道に失敗してしまうトレーダーがUBSや三菱のトレーダーのように巨額損失を生み出してしまうわけだ。
損失を隠すために評価レートを操作しようとすれば、ポジションがどんどん大きくなってしまうので、その分損失も大きくなる。


では、こんな制度は辞めてしまえ、と思うだろうが、それも違うと思う。
この制度があるからこそ、トレーダーは良い成績を出そうとするわけで、それが会社のためになるんだ。

僕が思うに、上司がしっかりとマネージメントできていれば、このような問題は起きないはずだ。

トレーダーが評価レートを操作してその日のPLに損失が出てこなくても、少なくともポジションが大きくなっていることは把握できるはずである。
ポジションが大きければ、損失が大きく出る可能性も十分にあるわけで、これ以上ポジションを拡大させるな、とトレーダーに警告等をしなければいけないだろう。

しかし、ここもデリバティブ。実際、巨額損失を出してしまうようなトレーダーの上司というのは、最先端のデリバティブの知識に乏しいのだと思う。
前年に高パフォーマンスを出していたトレーダーから、よくわからないデリバティブの話をされたら上手く丸め込まれてしまうのもよくわかる。


報道では1人のトレーダーによる損失と出てくるが、決して責任はトレーダーだけにあるかと言えば違うだろうし、その点で、リスク管理ができていなかったその上司や究極的にはCEOが引責辞任するというのはごく自然な流れだろう。