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One of 泡沫書評ブログ

世の中にいったいいくつの書評ブログがあるのでしょうか。
すでに多くの方が書いているにもかかわらず、なぜ書評を続けるのか。
それは、クダラナイ内容でも、自分の言葉で書くことに意味があると思うからです。

書いて稼ぐ技術 (平凡社新書)/永江 朗

¥777
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売文系の新書。働いていれば誰にでも一つくらいは専門があるとよく言われるが、ライターはそのものずばり、書くことが仕事だ。したがってものを書く人が”書くこと”をネタに書くのは一見簡単そうに見えるのだが、意外にあまりパッとしないモノが多い。乱暴に推測すると、自分の専門領域すぎて、逆に客観性を失ってしまうからではないかと邪推してみる。対象が自分自身になってしまうので、安易な「自分語り」になってしまうからなのではないかというのは、あながち的外れな指摘ではないと思うがどうだろうか。

さて永江氏である。じつは永江氏という方の他の著作は読んだことがなく、名前も本を買って家に帰ってはじめて見たので、今回は著者に対してまったく予断を持っていなかった。このように、ある程度キャリアのある作家やライターのバックグラウンドや評判をまったく知らない状態で読むというのは、なかなか稀有な経験だろう。特に本書はどこかの書評を経由したものではなく、単純に町の本屋でたまたま手に取ったものだ。しかも本のベロを見るとどうやらこの道25年の大ベテランだという。新人ならまだしも、この海千山千のライター業界を25年も生き抜いてきたというのだから、それなりの方というべきだろう。

ということで非常に楽しみにしながら読み始めたのだが、じつはのっけから通読する意欲をなくしてしまったことを正直に告白したいと思う。というのも、冒頭にいきなりこんな文章が出てくるからだ。

「―――人員削減して人件費を削るのは、最悪のリストラ手段だと思います。無能な経営者ほどクビを切りたがります。経営者は従業員のクビを切る前に自分の腹を切れ、が私の持論です」

「公務員を敵に仕立てて、大衆の視線をそちらに向かわせようとする下劣な政治家たちにマスコミが踊らされているだけ、という気もしますが」


なんだこれ、悪い予感がするな。。。もうこの辺で止めようかな、と思ったが、頑張って読み進めた。しかし

「「本当の自分探し」なんていうのは、そうやって定職につかない若者を増やして、労働力を流動化させようとした財界と役人と政治家の陰謀です。求人情報誌を出している出版社なんかも一枚噛んでそうです。実際、景気に応じて従業員を増やしたり減らしたり自由にできるようになって、いちばん得したのは企業ですから。2008年末、日比谷公園の派遣村に集まる人びとに対して、派遣労働者を選択した時点でそんなことはわかっていたはずなのに、困窮して誰かを頼ろうとするのは甘えだ、などといいつのる人がいましたが、それは詐欺の被害者に「だまされるほうが悪い」というようなものでしょう。悪いのはだまされるほうじゃなくてだますほうです。」

・・・これはひどい、とんだハズレを買ってしまった。「陰謀」て・・・。なんだこの出来の悪い残留左翼は・・・と思ったが、著者自らこう言っている。

「もっとも、私は左翼であることを広言していますので」

まあこの一節があるあたりで一章が終わるのだが、本題(二章以降)に入る前にわたしのモチベーションは一気に地に堕ちてしまった。ここでは引用していないが、このほかにも薄っぺらい主義主張が目立ち、世捨て人が言うところの「大衆」丸出しなのだ。フリーランスで長いことやってるのに、なぜこうも手あかにまみれたしょうもないことばかり書くのだろうか?

この本で唯一読むべきところといえば第8章の「お金の話」だろう。ただその内容も日垣氏がみたら激怒しそうな中途半端な内容ではある。返本とか委託販売のところももう少し詳しく書いてほしい。ツイッターで佐々木俊尚氏が書いてた内容の方がよっぽどわかりやすくてためになった。


・・・ということで、さんざクサしてしまったが、ひとつだけわかったことがある。それは、この永江氏という方が、きっと実生活ではとてもいい人なんだろう、ということだ。誠実さが伝わってくるし、書いていることもそれほど突飛ではない。特定の個人をけなしたりはしないが、国家権力や大企業には(マスコミ世論に寄り添うかたちで)断固反対する。非常に常識人であり、かつよき家庭人である(と思う)。たぶん実際にあって話をするととても気のいいおじさんなんだろうと想像する。

以上強引に総括すると、「人格的には好感が持てるのに、ライターとしては今一つパンチがきいてない」そんな印象。正直買って損したので思いっきりこきおろしたいところだが、著者の人の良さがにじみ出ているので、なんだかあまりぼろくそにいうのも気が引ける・・・そんな本である。
es[エス] [DVD]/モーリッツ・ブライプトロイ,クリスティアン・ベッケル,ユストゥス・フォン・ドーナニー

¥3,990
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連れ合いに勧められて、DVDで見たモノ。予備知識ゼロで見たのだが、ものすごくおもしろかった。予備知識がなかったのがよかったのかもしれない。ということで、人に勧める場合はとにかく予備知識無しで見てもらいたいので、ここでも敢えて詳しくは語らない。見終わった後に、Wikipediaであらすじを確認したり、アマゾンでのレビューを楽しんでみてください。

くれぐれも、最初にあらすじを読まないことをお勧めしたい。これは、面白い作品ですよ。

あえて自分の恥部をさらけ出すとすれば・・・後半、あの女性が・・・のところは、すこしエロスを感じましたw わたしはドSなのかもw
決算書がスラスラわかる 財務3表一体理解法 (朝日新書 44)/國貞 克則

¥756
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この本は、前に大前研一氏が「これからは英語と会計とITだけおさえておけ」と言っていたので、焦って買い求めたもの。今となっては古い本になってしまったのだが、以前読んだときはまったく頭に入ってこなかったため「積ん読」になってしまっていた。

ところがdankogaiやisologueさんらが勧めるこの本を読んだ後に読み返すと、不思議と頭に入ってくるような気がするから不思議だ。入門書はセットで読むといいのかもしれない。


12歳でもわかる!決算書の読み方~お金のことを知らずに「社会人」になってしまった人の会計入門~/岩谷誠治

¥1,470
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複式簿記というのは、専門でやってる人にしてみればエレガントでスマートなものなのだろうが、門外漢からすると敷居が高くて最初の一歩がなかなか大変な分野である。だいたいサラリーマンと言うのは、実家で事業をやっていたとか、今自営業をやっているというのでもない限り、帳簿を見るなんて機会はそうそうない。数字と言えばせいぜい管理会計でやるPLくらいが関の山で、実感として「複式」というのが理解できないものだと思う。だから、まずはあまり背伸びせず、こうしたわかりやすい入門書から始めてみるのがよいのではないだろうか。そもそも、会計士にでもならない限り、厳密な会計や仕訳は必要ないはずだ。ざっくりと概要がわかればいいというなら、こうした本で十分だろう。書いてる著者自身が会計士でないのだから、会計士じゃなければ会計を語ってはならない、なんてことはないというものだ。
父親のすすめ (文春新書)/日垣 隆

¥746
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昨日のエントリに続き日垣さんの本。子育てのノウハウ?が詰まった本。氏は良く知られるように3人の子供を育てた”実績”豊富な父親だ。その氏が自分のノウハウを惜しみなく披露してくれている。

氏は持ち前の理屈っぽさで子どもたちを育てるわけだが、どういうわけかこの理屈っぽい父親の子どもたちは、どちらかというと”のんびり屋”として生まれたようだ。おそらく”普通の”育てられ方をすれば本など全く読まない大人になったことだろう。しかしのんびり屋の子どもたちも、彼の一種独特な教育により、そこらの三下ブロガーはだしの名文を書く子どもに成長したようだ。素晴らしい技術(?)である。

それにしても、文の間からにじみ出てくる”厳しさ”に苦笑せざるを得ない。やはりわが子がリンチ殺人に加わるかもしれない、被害者になるかもしれない、というような危機管理を日常的にやっているからであろう。おそらくテレビが家庭の中心にあるようなご家庭では、こうした発想は相容れない考えなのではないだろうか。シビアな現状把握と自己認識が徹底されている日垣家では、ヘタすると相当に屈折した子どもが育つのではないかと思ったりもするが、文中にある子どもの作文(小論文)を読む限り、どうやらものすごく魅力的な大人に育ったものと思われる。こうした育て方をしたいと思っていたわたしにとっては、非常にうらやましくも心強い話ではある。

子どもがいる人は一度読んでみてはどうだろうか。750円の価値は十分にある一冊だ。
これまで心の中にたまった澱のようなものを垂れ流すという意味で、自虐的にブログのタイトルを「こころの便所」という名前にしていましたが、どうもこの「便所」というワードが適切でなかったようで、一部のニッチな趣味をお持ちの方々をガッカリさせてしまっていることがわかりました。

と、いうことで、とくにこだわりもなかったので適当な名前に改めました。新しいタイトルは「One of 泡沫書評ブログ」ということで、より当ブログの立ち位置がわかりやすくなるようにしました。どうぞ今後もよろしくお願いいたします。
ラクをしないと成果は出ない (だいわ文庫)/日垣 隆
¥680
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ツイッターで著者をフォローしていたら、久しぶりに氏の著作を読みたくなったので早速本屋で購入。(私はなるべくAmazonでは買わずにリアル書店で買うようにしているのだ。無駄な行為と笑わば笑えw)


じつはもっと本をたくさん読んでるのだが、最近どうにも筆が乗らず文章を書く気にならない。ブログを始めた理由が文章を書き慣れるため、なのだから、クソでもいいから毎日書き続けることが重要だと思うのだが、やはりコンスタントに継続することは難しい。長さも内容も問わず、好きな時に何を書いてもいいというブログのですらそうなのだから、逆に、だからこそプロがコンスタントに質の高い(=商品となる)文章を生み出し続けていることが凄いことだとわかる。


さて本書は、一言でいえば、フリーランスのジャーナリストとして非常に息の長い著者の説く”生産性向上の秘訣”である。これは著者が自信を持って「ビジネス書のコーナーにおいてくれ」と言うくらいだから、珍しく(?)ベッタベタの自己啓発系の内容となっている。


残念ながら(?)すでにdankogai によって書評済み(オビにもそう書いてある)のため、これ以上わたしが駄文を連ねるわけにはいかないだろう。まあ、それはともかく、確かにここに書いてあることを実践できれば、わたしでも日垣氏の次くらいの腕っこきのジャーナリストになれる。そんな気分にさせてくれる本である。


それにしても、毎日平平凡凡と生きていると、こういう自律的な自営業者のエッジのきき方がものすごく新鮮に映る。だからこそ、こうしたフリーランスの人から見ると、鬱々と楽しまない(?)サラリーマンはいいカモなのだろう。わたしを含む多くの善良な(笑)サラリーマンたちは、自己啓発本に書いてある内容の半分くらいは、読まなくても気づいているはずなのだ。だが、気づいていても実践できないような人ばかりだろう。だから、こうして自己啓発本を次々と買ってしまうのだ。まさに、「新しいダイエットを試すように買って読んでは「結局役に立たなかった」とお嘆き(by dankogai)」状態であるw


そろそろカモになりたくないなぁ・・・と思いつつ、再び新しい自己啓発本を探す旅は続くw

どういう紹介の仕方をしていいかわからないが、当サイトでもたびたび言及している「世捨て人の庵 」が復活した模様。ずいぶん長い間更新が止まっていたので、チェックするのが遅れてしまった。


予想通り株は止めたようだ。わたしも人のことを言えない損失を出しているが、素人がただでさえROIの低い国内株に手を出していいことは何もない。世捨て人氏も当然のように株から足を洗ったようだ。またぞろ2ちゃんねるあたりでずいぶんとたたかれるのだろう。同情することしきりだ。


「世捨て人の庵」は非常に思い出深いサイトだ。初めて読んだのが確か今から10年くらい前ではなかったか。当時はまだ社畜気味なメンタリティが残っていたので、大衆と罵倒されるのがカチンと来るほど青かったが、今はもうほとんどすべての意見に同意である。海外ニート 氏にも通ずるこのアウトサイダーイズムが心地よい。こうした考え方がもう少し市民権を得れば、日本ももう少し住みよくなるだろう。異常なまでの同調圧力と失敗を許さない狭量なエトスが改善されれば、経済が衰退していく中でも、そこそこましな「撤退戦」ができるかもしれない。自殺も減ると思う。


世捨て人氏や海外ニート氏は、日本で言えば「ドロップアウト組」だが、わたしからすれば彼らのメンタリティはホリエモン成毛眞 さんらとあまり変わらないような気がする。もちろん経済的な成功からすると真逆なのだが、それは色んな適性がかみ合わなかっただけで、基本的なエトスは同一に思えてくる。わたしは他人事に思えないので、世捨て人氏が今の時代に生まれていればどう生きるだろうということが気になって仕方がない。彼なら海外ニート氏のように、海外に安息の地を見つけただろうか。世捨て人氏も生産性が高く付加価値の高い産業で働けたかもしれない。


ちょっと唐突だが、グロービス堀義人 氏が大変素晴らしいTweet をしていたので引用してみる。


良い意味での「ダイナミックな調和社会」は、主義主張をぶつけ合いながらも、生み出せると思う。個性を尊重し、違いを認め合い、論理的に意見交換をし、ルールに従い意思決定する。その素地が社会にあれば、異論を歓迎し、建設的に進化することが可能であろう。」


こういう考えって、「世捨て人的」じゃないか? ちょっと違うかw


でも、やはりエネルギッシュな発言をする「空気を読まない大人」たちの主張が、どれも世捨て人的なのがわたしにとって非常に興味深い。ともあれ、世捨て人氏には今後も定期的な更新を期待したいところだ。


2010.5.29追記

残念ながら、世捨て人氏のサイトは4月ごろに閉鎖となりました。関連するエントリをUPしていますので、時間があればこちらもご覧ください。


世捨て人の庵 終了

昭和東京ものがたり〈1〉 (日経ビジネス人文庫)/山本 七平
¥700
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本屋で偶然見つけてびっくりして買ってしまった。今更、なぜ山本先生の原稿が文庫化されるのであろう。単行本の初出は1990年ということだそうだ。あとがきに長男良樹氏の解説があるが、それによると1988年から89年までに雑誌連載したものを収録した本だという。まさに山本氏最晩年に書かれたエッセイといえる。「1巻」ということは2巻が出るということなのだろう。どういう読者層が読むのだろか。


山本氏は1991年12月に、70歳を目前にすい臓がんで亡くなられた。したがって本書は入院しながら書いたものなのかもしれない。1988~89年と言えば当時日本はバブルからその崩壊へと向かうエポックの時代である。わたしも生まれていてドラクエ3とかドラクエ4をやっていた時期だ。当時わたしは小学校だか中学校だかにいっているガキだったが、氏とこの世を生きた時期が数年だけでもオーバラップしていたというのが今更ながら不思議な感じがする。


それはさておき、本書は著者最晩年のエッセイである。簡単にいえば著者の幼少期の思い出話である。そう聞くと陳腐に聞こえるかもしれないが、読み進めていくと、こうした「日常を記す」という類の本が意外に貴重な「文献」であることに気づくだろう。今ではブログやSNSが隆盛し、日常を記すというのは誰もがやっていることだが、昔のことはその話が俗になればなるほど書物に残されない傾向にある。というのも、昔は文字を書くというのは大抵が知識階層に限られており、そうした人がこのような日常風景を軽いタッチで描くということはほとんどなかったからだ。


とくに著者の著述を知っている人はわかると思うが、山本氏は普通は気付かないような細かいところに執着する癖がある(と、少なくとも読者には感じられる)ので、やたらとこまごまと書くのだ。苦手な人は「理屈っぽくてとてもついていけない」と思うかもしれないが、実際、とても子どもの記憶とはは思えないほど、微細な点まで詳細に書き記している。歴史に詳しい人はよく「昔の人はトイレをどうしていたとかが意外にわからない」と言ったりするが、まさにそうした「トイレの話」のような当時の東京の庶民の生活や考え方、日常風景が活き活きと描かれているこの本は、今だからこそ新鮮に映るに違いない。


本書のもう一つの焦眉は、戦争を命からがら生き延び、復員後に高度経済成長を経験した大正時代の老人が、かつて貧しかった時代の日本を語っているという点であろう。だから氏は安易に昔は良かったとかいう話はしないし、今(つまり、昭和62年ごろ)の子供たちに向かって、「最近の若い者は」的な発言もあまりしない。(ときどき「最近の若い者は」というニュアンスで書かれている部分もあるが、これは仕方ないだろう) したがって当時の世相や時代背景を考えると相当に進歩的な立ち位置といえる。もっとも、氏は生まれついてのクリスチャン、父親は内村鑑三の一番弟子というくらいだから、現在の水準としても相当なアウトサイダーには違いないので、そういう意味で「多様性」というものへの付き合い方には慣れていたのかもしれないが。


今が一番不幸な時代だと思っている人は、歴史が繰り返すということや、何事も相対化してとらえるといういいきっかけになるに違いない。本書は、たとえば日本はかつて格差のない国だったが、小泉改革によって格差が広がったなどの議論に何の疑問も抱かないような人々、いわば同時代性の中でしか議論できない人たちに対する大きな示唆となるだろう。80年前は相当に貧しかったということがわかるだけでも、読む意味は十分にあるだろう。

フリー~〈無料〉からお金を生みだす新戦略/クリス・アンダーソン
¥1,890
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話題のベストセラーをようやく読了。訳書としてはかなり読みやすい部類に入り、分厚い割にはサクサク読めてストレスを感じない。作者はもう皆さんご存じとは思うが、ベストセラー「ロングテール 」のクリス・アンダーソン氏である。氏は米「ワイアード」誌の編集長でもあるというから、IT系から出版業界まで幅広い知識をお持ちであるのも頷ける。

そうとう有名な本だからおそらく皆さんすでに読まれていることだろうが、あえて要約すれば、「フリーとは恐れるものではなく、重力のようなものだから、抵抗するのではなく率先して飛び込んで行こう。<フリーの世界>でマネタイズする方法は無数にある」ということだろう。その方法は大きく分けて三つあると著者はいうのだが、まあこれは本書を読んでもらうときのお楽しみということで書かないでおこう。それにしても、こういう本が”出版業界”から出てくるというのがアメリカのすごさかもしれない。(日本だと、一部の人が思ったとしてもとても書けない内容なのではないだろうか)

冒頭で「フリー」とは英語で「無料」でもあるが、「自由」という意味もあると書いているが、確かに言われてみるとその通りだ。日本語では両者は区別されているが、英語では本質的に同じものであるということなのだろうか。言語学的に追究するとおもしろい議論かもしれない。

訳者の小林さんという方はメディア系ではかなりの”大物”らしい。、恥ずかしながらわたしは存じあげなかったので、時代にキャッチアップするためにこちらも買いました。次はこれを読もう。

新世紀メディア論-新聞・雑誌が死ぬ前に/小林弘人
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徳川将軍家十五代のカルテ (新潮新書)/篠田 達明
¥714
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著者はなんと医者だそうだ。現代のお医者が徳川幕府15代の将軍のほか、その側室、および周囲の有力者(水戸光圀とか)の「健康状態」を取り上げて、その持病や死因を推測しているという内容。非常に面白い試みだと思う。まさに徳川家の「カルテ」なわけだ。


冒頭、位牌が歴代将軍の身長を表しているというくだりからしてすごい。神君家康公の生地である三河(現・岡崎市)には徳川の菩提寺である大樹寺という寺ががあるらしい。ここには歴代の将軍の位牌が安置されているという。著者は、将軍が亡くなった際に身長を測るという習わしに着目し、学術調査で明らかになった一部の将軍の遺体と比較して、この位牌が将軍らの身長をほぼ示しているということをつきとめた。真の歴史好きというのはこういう人のことを言うのだろう。ちなみに5代綱吉の位牌だけ異様に小さいのだが、これについては是非本文を読んでみてほしい。


著者は物語小説も手掛けているというだけあって、文体はリズム感に富み、非常に読みやすい。長すぎず短すぎず、端的な人物評もうざったくなく好感が持てる。歴史に興味が持てること請け合いだ。これはぜひ一度手にとってもらいたい一冊だ。


一つ残念なのが、著者の人物評が伝統的な歴史学のそれで毒されているところだろう。綱吉暗君、吉宗名君、くらいはご愛敬だとしても、柳沢吉保やら田沼意次の評価が低く、逆に松平定信(寛政の改革)や水野忠邦(天保の改革)を高く評価しているあたりは、どうにもいただけないという気がする。(まあ、逆に言えばわたしが井沢先生に洗脳されているだけだがw) だがこういうさりげない記述にもパターナリズムというか、儒教の残滓みたいなのが残っているような気がしてならない。いい本だけに非常に残念だ。