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売文系の新書。働いていれば誰にでも一つくらいは専門があるとよく言われるが、ライターはそのものずばり、書くことが仕事だ。したがってものを書く人が”書くこと”をネタに書くのは一見簡単そうに見えるのだが、意外にあまりパッとしないモノが多い。乱暴に推測すると、自分の専門領域すぎて、逆に客観性を失ってしまうからではないかと邪推してみる。対象が自分自身になってしまうので、安易な「自分語り」になってしまうからなのではないかというのは、あながち的外れな指摘ではないと思うがどうだろうか。
さて永江氏である。じつは永江氏という方の他の著作は読んだことがなく、名前も本を買って家に帰ってはじめて見たので、今回は著者に対してまったく予断を持っていなかった。このように、ある程度キャリアのある作家やライターのバックグラウンドや評判をまったく知らない状態で読むというのは、なかなか稀有な経験だろう。特に本書はどこかの書評を経由したものではなく、単純に町の本屋でたまたま手に取ったものだ。しかも本のベロを見るとどうやらこの道25年の大ベテランだという。新人ならまだしも、この海千山千のライター業界を25年も生き抜いてきたというのだから、それなりの方というべきだろう。
ということで非常に楽しみにしながら読み始めたのだが、じつはのっけから通読する意欲をなくしてしまったことを正直に告白したいと思う。というのも、冒頭にいきなりこんな文章が出てくるからだ。
「―――人員削減して人件費を削るのは、最悪のリストラ手段だと思います。無能な経営者ほどクビを切りたがります。経営者は従業員のクビを切る前に自分の腹を切れ、が私の持論です」
「公務員を敵に仕立てて、大衆の視線をそちらに向かわせようとする下劣な政治家たちにマスコミが踊らされているだけ、という気もしますが」
なんだこれ、悪い予感がするな。。。もうこの辺で止めようかな、と思ったが、頑張って読み進めた。しかし
「「本当の自分探し」なんていうのは、そうやって定職につかない若者を増やして、労働力を流動化させようとした財界と役人と政治家の陰謀です。求人情報誌を出している出版社なんかも一枚噛んでそうです。実際、景気に応じて従業員を増やしたり減らしたり自由にできるようになって、いちばん得したのは企業ですから。2008年末、日比谷公園の派遣村に集まる人びとに対して、派遣労働者を選択した時点でそんなことはわかっていたはずなのに、困窮して誰かを頼ろうとするのは甘えだ、などといいつのる人がいましたが、それは詐欺の被害者に「だまされるほうが悪い」というようなものでしょう。悪いのはだまされるほうじゃなくてだますほうです。」
・・・これはひどい、とんだハズレを買ってしまった。「陰謀」て・・・。なんだこの出来の悪い残留左翼は・・・と思ったが、著者自らこう言っている。
「もっとも、私は左翼であることを広言していますので」
まあこの一節があるあたりで一章が終わるのだが、本題(二章以降)に入る前にわたしのモチベーションは一気に地に堕ちてしまった。ここでは引用していないが、このほかにも薄っぺらい主義主張が目立ち、世捨て人が言うところの「大衆」丸出しなのだ。フリーランスで長いことやってるのに、なぜこうも手あかにまみれたしょうもないことばかり書くのだろうか?
この本で唯一読むべきところといえば第8章の「お金の話」だろう。ただその内容も日垣氏がみたら激怒しそうな中途半端な内容ではある。返本とか委託販売のところももう少し詳しく書いてほしい。ツイッターで佐々木俊尚氏が書いてた内容の方がよっぽどわかりやすくてためになった。
・・・ということで、さんざクサしてしまったが、ひとつだけわかったことがある。それは、この永江氏という方が、きっと実生活ではとてもいい人なんだろう、ということだ。誠実さが伝わってくるし、書いていることもそれほど突飛ではない。特定の個人をけなしたりはしないが、国家権力や大企業には(マスコミ世論に寄り添うかたちで)断固反対する。非常に常識人であり、かつよき家庭人である(と思う)。たぶん実際にあって話をするととても気のいいおじさんなんだろうと想像する。
以上強引に総括すると、「人格的には好感が持てるのに、ライターとしては今一つパンチがきいてない」そんな印象。正直買って損したので思いっきりこきおろしたいところだが、著者の人の良さがにじみ出ているので、なんだかあまりぼろくそにいうのも気が引ける・・・そんな本である。