徳川将軍家十五代のカルテ | One of 泡沫書評ブログ

One of 泡沫書評ブログ

世の中にいったいいくつの書評ブログがあるのでしょうか。
すでに多くの方が書いているにもかかわらず、なぜ書評を続けるのか。
それは、クダラナイ内容でも、自分の言葉で書くことに意味があると思うからです。

徳川将軍家十五代のカルテ (新潮新書)/篠田 達明
¥714
Amazon.co.jp


著者はなんと医者だそうだ。現代のお医者が徳川幕府15代の将軍のほか、その側室、および周囲の有力者(水戸光圀とか)の「健康状態」を取り上げて、その持病や死因を推測しているという内容。非常に面白い試みだと思う。まさに徳川家の「カルテ」なわけだ。


冒頭、位牌が歴代将軍の身長を表しているというくだりからしてすごい。神君家康公の生地である三河(現・岡崎市)には徳川の菩提寺である大樹寺という寺ががあるらしい。ここには歴代の将軍の位牌が安置されているという。著者は、将軍が亡くなった際に身長を測るという習わしに着目し、学術調査で明らかになった一部の将軍の遺体と比較して、この位牌が将軍らの身長をほぼ示しているということをつきとめた。真の歴史好きというのはこういう人のことを言うのだろう。ちなみに5代綱吉の位牌だけ異様に小さいのだが、これについては是非本文を読んでみてほしい。


著者は物語小説も手掛けているというだけあって、文体はリズム感に富み、非常に読みやすい。長すぎず短すぎず、端的な人物評もうざったくなく好感が持てる。歴史に興味が持てること請け合いだ。これはぜひ一度手にとってもらいたい一冊だ。


一つ残念なのが、著者の人物評が伝統的な歴史学のそれで毒されているところだろう。綱吉暗君、吉宗名君、くらいはご愛敬だとしても、柳沢吉保やら田沼意次の評価が低く、逆に松平定信(寛政の改革)や水野忠邦(天保の改革)を高く評価しているあたりは、どうにもいただけないという気がする。(まあ、逆に言えばわたしが井沢先生に洗脳されているだけだがw) だがこういうさりげない記述にもパターナリズムというか、儒教の残滓みたいなのが残っているような気がしてならない。いい本だけに非常に残念だ。