明るい家族計画 (5) 妊婦生活~驚き編 1
街はもうクリスマス一色。恋人たちはみんなお洒落してヒルズや表参道なんかのロマンチックな夜景を楽しんでいる。
あたし達夫婦ももちろん一緒。
お腹にはあたし達の愛の結晶。もう4ヶ月になって、つわりも治まってきたし、お腹も少しだけど目立ってきた。(雅和さんはあたしに太ったって言うけど・・・。まあ、つわりが終わった分食欲が・・・)
明日は今年最後の検診日。前回は検診終了後、すぐに区役所行って母子手帳をもらいに行ったのよね。超音波写真も明日で3枚目。もらったらすぐに雅和さんたらコピーして自分の仕事用のカバンに入れる。そして自分のデスクマットに挟んでいるらしい・・・。もう官邸内は親ばかで通っているらしいけれど。未だ公に発表はしていないし。(総理大臣の息子とはいえ、ただの秘書だから必要ないと思うけど・・・。)
「ホント大丈夫?お腹はったり痛くない?」
「うん大丈夫だよ。」
いつものように雅和さんはあたしとあたしのお腹をいたわってくれる。
階段なんていつも落っこちないように手を引いてくれるし、もちろん荷物なんかも持ってくれる。ちょっとした段や滑りやすいところもそう。まああたしはドンくさい方だからね。
今日は国会も終わって、早めに帰ってきてくれたから、久しぶりのデート。家から出るときも体が冷えたらいけないからって、いっぱい着せられてしまった。反対に暑いってなんの・・・。靴もヒールのないブーツ。それも滑りにくいようにゴム底のやつね・・・。
ホント過保護?
まああたしは論文も仕上がって提出済み。あとは年明けの秋季試験を受けて合格点取れば卒業できるのよね・・・。卒業すれば専業主婦になって、お腹の赤ちゃんが生まれてくるのを指折り数えて待つの。赤ちゃんのために何かつくろうかななんて考えたり・・・。
最近ね、雅和さんのお父さんが、芦屋のおうちから雅和さんのばあや、光子さんを呼び寄せてくれてね。家事の手伝いをしてくれることになって助かっているの。官房長官夫人もちょくちょく遊びに来てくださって、いろいろアドバイスもくださるし、楽しい話も聞かせてくれるのよね・・・。ホントみんなに助けられて妊婦生活をしているって感じ。
もちろん旦那様のいつもの素敵な笑顔もあたしの元気の源。仕事で疲れていてもあたしとあたしのお腹の赤ちゃんを慈しんでくれるんだもん。ホント感謝しないとね・・・。
そして次の日、愛育病院の検診予約日。いつものように受付を済ませて順番を待つ。すると誰かがあたしを呼ぶの。
「綾乃さん!お元気?」
「あ、美月さん。」
美月さんはあたしのお兄ちゃんのお嫁さんで、防衛庁長官のお嬢様。兵庫県の駐屯地近くに住んでいるんだけど、どうしたのかな?
「ええ?うそ、綾乃さんも妊娠しているの?今何ヶ月?」
「4ヶ月なんです。6月中旬が予定日で・・・。美月さんはどうして?」
「東京で産むことになったから、今日入院予約に来たのよ。パパもこっちで産むようにって言っているもの。そっか、弐條さんのところもね・・・。私たちよりも早く結婚したから・・・。知らなかったわ。博雅さん何も言っていなかったけれど・・・。」
「まだ正式には言っていないの。安定期に入ってからにしようと思って・・・パパに報告したら結構驚いてたわよ・・・。そっか、美月さんここで産むのね・・・。いつ里帰り?」
「実はもう帰ってきているのよ。ちょっと早すぎるけれど、博雅さんったら最近演習とかで家を空ける事が多いから、私のパパが心配だって・・・。」
「なるほど・・・。」
「実家は代官山だからまた遊びに行くわね。いいかしら、弐條さん。」
雅和さんは微笑んで承諾してくれた。ああこれで妊婦仲間が出来て嬉しいわ。そして今度代官山のおうちに遊びに行く約束までしたわ。
「綾乃、名前呼ばれたぞ。」
あたしはいつものように診察室に入って、内診や触診、超音波などをしたの。でも今日はなんだか超音波が異様に長いんだよね・・・。いつもの倍以上かかっている。そして何枚も超音波写真を取り出している。何?なんかあったの?気になるじゃない!
(つづく)
明るい家族計画 (4) 妊夫生活~親ばかのはじまり編 2
次の日綾乃は、つわりがひどいのに、きちんとお弁当まで作ってくれた。
「綾乃、つわりが治まるまで無理してお弁当は作らなくていいよ。議員会館の食堂で食べるから・・・。」
「だって外食は栄養のバランスが悪いし・・・。忙しい雅和さんにはお弁当が一番なんだよ。」
僕は綾乃からお弁当とカバンを受け取ると綾乃にいつものように「行ってくるよ」のキスをして自宅を出た。そして朝一に議員会館に寄らずに官邸へ。まず総理大臣執務室に向かう。
いくら総理大臣の息子だと言っても官邸内では特別扱いはない。いち官房長官の公設秘書として扱われる。執務室前の秘書官たちに面会を申し出て、少し待つと、秘書官によって呼ばれ、執務室に入る。
「どうした?こんな朝早く。」
父さんは国会に行く準備をしていた。
「あのお話が・・・。」
「急いでいるから手短に頼むよ。」
「あの、父さん。私的な話で申し訳ないんですが、綾乃に子供が出来ました。」
「え?それは本当か?いつ生まれる?」
「今3ヶ月で、6月中旬に・・・。」
「そうか、この私もおじいちゃんか。また綾乃さんにお祝いの電話を入れておくよ。じゃ、急ぐから。」
父さんは嬉しそうに足早に執務室を出て行く。今日は党首討論が行われるから、本当にたくさんの秘書官や取り巻きに囲まれながら官邸を出て行ったんだ。
後は官房長官なんだけど、長官はもう国会にいってしまって、不在。
僕は官邸のデスクで国会中継を見ながら仕事を行う。先輩秘書たちは国会に行ってしまったから、僕だけ電話番。外部からの電話も扱うけれど、主に国会からの電話を受け持つ。たまに資料が足りなかったり、急な報告類をまとめたり運んだりするのが今日の僕の役目。
僕はデスクのシートの間に僕たちの赤ちゃんの超音波写真のコピーを挟んで暇さえあれば見つめて微笑む。先日2回目の検診に行ったところだからこれで2枚目。本当だったら写真をいただけないんだけど、無理言って毎回写真をもらうようにして、大事にコピーをし、持ち歩いている。
前回はまだ丸くてこれが赤ちゃん?って感じだったけれど、今回は違う。頭、胴体、そして可愛い手足がきちんと付いている。まだ5センチぐらいで10gぐらいしかないけど、一生懸命心臓を動かして動いていた。本当に感動ものだった。
先生はもうそろそろ流産の危険性はなくなってきたって言ってくれて安心したけど、まだ安定期に入っていないって言うから、出来るだけ無理させないようにしないと。
お昼の休憩時間になると、続々と先輩たちが帰ってくる。僕は写真の上に本を置いて恥ずかしそうに隠してみる。ホントに僕って親ばかかもしれない。
官房長官は総理大臣である父さんとお昼を食べながら会議をするらしい・・・。だからこちらには戻ってこない。いつものように僕はお弁当を取り出し、官邸の職員がお茶を持ってきてくれる。今日に限って職員が思いっきり写真の上の本にお茶をこぼしてくれた。
「あ、すみません、今からふきますから!」
「いいよ!僕がするから!」
職員は本を一冊ずつふきながら別の場所に移していく。僕は濡れた資料を一生懸命拭いていた。
「あ~~~~弐條さんなんですかこれ?!」
忘れてたよ、超音波写真のことを・・・。
見つかってしまった・・・。
案の定先輩たちが集まってきてしまって、みんなに見られてしまった・・・。
「実は僕の子供・・・。今、奥さんは妊娠3ヶ月なんです・・・。」
「だから最近早く帰るのか・・・・。なるほど・・・。官房長官は知っているのか?」
「今日話そうと思いまして・・・。父には朝、報告はしましたが。」
もちろんからかわれたよ・・・。
やっぱり新婚だねとか言われたりなんかして・・・。
嬉しいやら恥ずかしいやらで・・・。
一応まだ公に出来る状況でないからとくち止め・・・。
口止め料として今度の飲み会は僕のおごりになってしまった・・・。
普通おごってくれるもんだろ!
まあいいか・・・気分はいいし・・・。
やっと報告できたのは帰るギリギリ・・・。
官房長官はすごく喜んでくれて、困った事があったらなんでも言ってくれっていってくださった。まあこの人は僕らの仲人さんでもあるし、ご近所に住んでおられるからね・・・。綾乃に奥様は母親のように接してくれているし、綾乃はよく相談とかもしているらしいから、安心かもしれない・・・。これからいろいろ配慮してくれるらしいし、仙台行きも僕の代わりに私設秘書がしてくれるらしいから助かったよ。
まあお手当て分の給料は減るからしょうがないか・・・。
まあ周りの人たちに報告できたから安心・・・。
あとは綾乃のお父さんだよね・・・。
約束と違うから怒られるかな・・・。
ちょっと怖い・・・。
(作者から^^;)
イラストの超音波写真はまさしく私のなのです^^;うちの双子っちが写っています。
よく見たら赤ちゃん状のモノが見えるのがわかりますか?あれはうちの3女です。
体形でわかるんです。丸々ぷっくり体形・・・。そしてなんとなく右側に見えるのがうちの長男。
おなかの中でもがりがり君。
実はこの小説、妊娠時の場面は実際の話がベースになっているんです。
予想外、想定外の話から・・・。すべてじゃないですけれど、詳しい描写はやはり経験者じゃないと・・・。
そういえば3回目の妊娠はみんなに怒られたんですよ・・・。双子だったから・・・4人になるわけでしょ。もう四年も前のことです。
また該当する場面が出てきたら、こうしてご報告を・・・。
明るい家族計画 (4) 妊夫生活~親ばかのはじまり編 1
10月中旬、僕の奥さん綾乃の妊娠が発覚した。まだ綾乃は学生だから、家族計画をきちんとしていたつもりだったのに、いきなりの妊娠発覚。まあ僕たちは結婚しているんだから遅かれ早かれ出来て当たり前。そしてもちろん夫婦生活っていうものはきちんとしていたんだし・・・。
「あれって100%じゃないから!」 って綾乃に言われた時はまさしくそうだと思うしかなかった。なんで?なんで?って思う前に、もともと一年程前から、子供が早く欲しいなあなんて思っていたわけだから、もうすぐ僕はパパになる!っていう思いのほうが強くって、もう避妊の失敗なんてどうでも良くなったんだよね。
もう本当に嬉しくって、近所にある愛育病院に決めたんだよね。ここはいろんな人から勧められていて、ここしかないかなって思っていたわけで、僕は休みを頂いて、綾乃を連れて診察に行ってきたんだ。綾乃はここ最近気分が悪くって、しんどそうにしているから、全部僕が手続きをしてあげて、辛そうな顔をしている綾乃に寄り添ってあげたんだよね。
名前を呼ばれてはじめに綾乃だけが診察室に。診察時間は数十分もしないのに、すごく長く感じちゃって、看護師さんに診察室に入るように言われても気づかないほど緊張していた。
「さあ、ご主人どうぞ。」
綾乃の横の椅子に腰掛けて、診察結果を聞く。
「おめでとうございます。奥様は確かに妊娠されていますよ。現在5週目2ヶ月になります。」
先生は超音波の画像を見せてくれてちっちゃいけど、胎嚢(たいのう)っていう袋の中に確かにまだまだ小さな赤ちゃんが入っていたんだ。(と言ってもまだおたまじゃくしのような形らしい・・・。胎芽って言うんだ。)その画像をにやけながら見てたんだけど、先生が考えられないことをいったんだ。
「奥様は一度今の時期に流産経験がありますので無理は禁物ですよ。・・・・」
え?!流産?今回が初めての妊娠じゃなかったってこと?何で黙っていたわけ?多分僕の子だと思うけど・・・。綾乃は浮気するような子じゃないし・・・。(僕は一度だけあったりなんかするが・・・。)
一度流産・・・って言う言葉がすごく頭に残って、そのあとの先生の言葉なんて頭に入らなかったんだよね・・・。そのまま会計済ませて何も言わずに車に乗って自宅に帰った。
そのあと何がなんだかわからなくなって、仕事に行くって嘘ついて自宅を出たんだ。ひとりで車を運転しながらいろいろ考えてたんだ。もしかして僕の子じゃなかったとしたら誰?
時期にもよるかもしれないけれど、綾乃を取り巻くいろんな男の顔が僕の脳裏に浮かんだ。
自衛官幹部の清原?
それともにっくき丹波?
丹波の場合は2年ほど前からちょっかいかけていたけど、綾乃はすごく嫌っていたし、清原は?清原ねえ・・・あるとしたらこいつか・・・。
でも綾乃は清原のことをお兄ちゃんみたいな人と断言してたからね。じゃあ今回みたいに避妊の失敗か・・・。でもそれなら僕に言ってくれてもいいのにな・・・。もしかしたら、独身時代のことだからばれたくなかったのかな・・・。
なんだかんだ言いながら、海を見ながら考えた。でも結局綾乃のお腹の中に僕の子がいるわけだから、最後のほうなんてどうでもよくなって、お昼食べてなかったし、そろそろ夕方になってきたから、横浜そごうに車を止めて、夕飯を買って帰ったんだ。
ホント僕はまだ子供だよね・・・・つまらないこと(?)でショックを受けて、こうして家を飛び出したんだから。綾乃もいろいろと心身ともに不安定な時期だからできるだけ一緒にいてあげないといけないのに・・・。
今はそっちのほうが大事。僕は家に帰ると綾乃に謝って、一緒に夕飯を食べたんだ。もう以前の妊娠のことなんて聞く必要はないからね。今確かに綾乃のお腹の中には僕達の愛の結晶がいるわけなんだし。これから残業や休日出勤を控えて綾乃の側にいようと決めたんだ。そして検診の日にはきちんと付き添って、もちろん両親学級や立会い出産なんかも考えるよ。
やっぱり早くみんなに公表したいなあ・・・。嬉しくってたまらないし。父さんも喜ぶだろうな・・・。
次の日から僕は仕事にさらに張り合いが出て、みんなが驚くぐらいに早く仕事をこなしていくんだ。そして何かない限り(国会の時間延長とか・・・そのほか急なことなど)ほぼ定時で家に帰る。そして下手だけど、つわりで苦しい綾乃の代わりに夕飯の準備をするんだ。
綾乃は卒論を書きながらなんだか気を紛らわせていたようだけど、日に日につわりがひどくって、大学も休みがち・・・。でも春には卒業しないといけないから、できるだけがんばっているのはわかっている。やっぱりこれからいろいろ休んだり、出張とかをお断りしないといけないことが出てくるから、周りの人だけでも公表しないと・・・。
「ねえ、綾乃。父さんや官房長官には言ってもいいかな・・・。だってよく考えてみてよ、僕たちにはお母さんがいないだろ、僕がさあ、仕事中や出張中に何かあったらどうするの?他の人に頼めないこともあるかもしれないから、僕が出来るだけ側にいてあげないと・・・。急に病院に行かないといけないときに理由を言わないで出れないでしょ。」
「うん、そうね・・・。」
「今でもつわりがひどくなっているのに、残業なんか出来ないじゃないか・・・。出来るだけ早く帰れるようにしないと・・・。」
2人でゆっくり相談して、父さんと僕の上司(?)の官房長官にはきちんと事情を説明しておくことになったんだ。
(つづく)
明るい家族計画 (3)予想外・想定外編 3
雅和さんは朝一番に官房長官や秘書仲間に月曜に休みたいと連絡してたのよね。まあ普段欠勤はしていないから難なく休ませてもらったみたいだけど・・・。
ホントにニコニコしちゃってさ。買い物していても、荷物を全部持ってくれたり、夕飯も珍しく作ってくれたりしたの。ホントにマメなんだから・・・。
「まだ公表しちゃだめよ。はっきり病院で見てもらっていないんだから・・・。」
「え~~~早くみんなに知らせたいよ・・・。」
月曜日になって、朝一番に愛育病院へ。雅和さんは初診手続きまですべてしてくれる。恥ずかしくないのかな・・・。
初診手続きを済むと待合室へ。やっぱり人気病院ね・・・。朝早く受け付け済んでも結構待つ。だんだん雅和さんは緊張してきたみたいで、なんともいえない顔。名前を呼ばれてあたしだけ診察室へ・・・。あたしはやはり妊娠5週目。予定日は6月中旬。問診でいろいろ聞かれるんだけど、妊娠歴なんかも聞かれたわけ。あたしはつい、4年前の流産の件を言ってしまったの。ちょうど今頃の流産。そのことで、先生は雅和さんを呼んで、言ったの。
「ご主人。奥様は一度流産経験があるようですので、安定期に入るまでは無理は禁物ですよ。何か変わった事がありましたら時間外でも構いませんから診察に来てください。」
「え?流産?」
雅和さんは複雑な顔をして、あたしを見つめてるの。
「まああまり心配の必要はないと思いますよ。順調な大きさですし。ではひと月後に来てください。」
雅和さんは車の中で、ずっと黙っていたの。そりゃそうよ。雅和さんは今回の妊娠を初めてだと思ってたんだから・・・。雅和さんは自宅に帰ると、スーツに着替えて出勤準備をするのよね。
「やっぱり仕事行ってくる。まあゆっくり寝てなよ。夕飯は何か買ってくるから。」
「雅和さん。」
「またゆっくり前回の妊娠について話をしよう。」
そういうとお昼を食べずに家を出て行ってしまった。やっぱり怒ってるんだ・・・。隠してたから・・・。言わなければよかった・・・。でもこういうのは言わないといけないって聞いたし・・・。でも前回の相手が雅和さんじゃなくって、清原さんだなんて言えないよ・・・。やはり相手は雅和さんだって言い張るしかないか・・・。
雅和さんは百貨店の紙袋を持って帰ってきた。なんとなく雅和さんは仕事に行ってないんじゃないかと思ってたの。だっていつも持っていくパソコンを持って行っていなかったし・・・。こういうことははじめて。百貨店の紙袋だって、仕事場近くのじゃなくって、横浜そごうのだし・・・。きっと海を見に行ってたんだ・・・。
「綾乃、惣菜で悪いけど、何か食べなよ。」
「う、うん・・・。」
「あのさ、綾乃・・・急に出て行ってごめんな・・・。なんかいろいろありすぎて・・・。」
「ううん・・・あたしだって流産したこといえなかったから・・・。ごめんなさい・・・。」
それ以上雅和さんは聞いてこなかったけれど、お腹の中に授かったばかりの赤ちゃんがいることは確か。本当に2人にとって予想外、想定外ばかりの数日間になった。もちろん次の日雅和さんは普段の優しい雅和さんに戻っていた。
ごめんね雅和さん・・・ほんとのこと言えなくて・・・。
明るい家族計画 (3)予想外・想定外編 2
あたしは食事を済ませてお待ちかねのケーキ!お紅茶入れて、雅和さんと一緒に食べる。
大好きなはずなのにおかしいなあ・・・。夕飯食べすぎたかな・・・。普段ならケーキ2,3個ぐらい別腹で食べる事が出来るのに・・・。1個全部食べられない。おいしいケーキなのに・・・。
「また明日食べるね・・・。」
「どうかした?大好きなケーキなのに・・・。」
胸焼けのひどいやつって感じ?食中毒?でも雅和さんはなんともなさそうだし・・・。
でもちゃんと出来ないようには・・・・。前回はこんなことはなかったし、そういえばあれが数日遅れてる・・・。
「綾乃があんまり食べないのなら、もったいないね・・・。彩ちゃん呼ぶ?」
「うん、彩子もケーキ好きだし・・・。」
彩子はあたしの三歳年下の妹。東大文Ⅰにこの春入学して南麻布の実家に住んでいる。雅和さんは彩子に電話してくれた。彩子は喜んでうちに遊びにきたわよ。まあおいしそうに食べること・・・。ペロッと3個食べちゃったのよね・・・。そして笑顔でさっさと帰っていったのよね・・・。さすがあたしの妹だよ・・・。
でも気分は良くならなくって・・・。せっかく休み前日だから、ゆっくり夜を過ごそうと思ってたのにそれどころじゃなくなったのよね・・・。
「大丈夫?明日土曜日だから午前中病院に行こうか。」
「いいよ、大丈夫だから。」
「じゃあ明日になっても治らなかったら、月曜日に行こう。休み取るし・・・。綾乃がつらそうな顔見るの辛いし・・・。」
時間見たらまだ8時前・・・。どこか薬局開いてるかな・・・。
「ちょっと薬買ってくるね・・・。」
「あ、僕が運転してやるから・・・。」
雅和さんはあたしを連れ出して薬局探し・・・。なんとか六本木ヒルズ近くで見つけて、車の中で待っていてもらって、検査薬を買いに・・・。なんとか購入して、結局ドライブ。コンビニに車止めて、雅和さんは水を買ってきてくれた。
「薬飲むんでしょ。ほら。」
「薬は薬でもね、飲むものじゃないから・・・。」
「胃薬とかじゃないの?何買って来たわけ?」
「ん?んん・・・家に帰ってから使うから・・・。」
「じゃあドライブやめて帰ろうか・・・。」
本当に雅和さんはあたしを心配してゆっくり車を進めてくれた。
ごめんね、心配かけちゃって・・・。まあ原因はわかってるし・・・。まあそれを確かめるために薬局に買いに行ったのよね・・・。
早速自宅に帰ったら、トイレへ・・・。
5分待つって書いてあるのにすぐ結果が・・・。ああやっぱりね・・・。
帰ってすぐにトイレに駆け込んだあたしを不思議に思っていた雅和さんはトイレの前であたしを待っているの。あたしはそっとトイレから出ると雅和さんはあたしを見つめるの。
「やっぱり辛いの?」
「あのね・・・あたし・・・できちゃった・・・。」
「え?何が?」
「だから、赤ちゃんが・・・。」
「嘘!だって・・・・きちんとやってたじゃん・・・。」
「ああいうのは100%じゃないの!」
「そっか、そっか!できたか!」
雅和さんは心配そうな顔から一変すごく嬉しそうな顔してあたしを抱き上げてくれたの。
やっぱり嬉しいんだね。あたしも嬉しいけど、前回は流産したし、今は学生の身分・・・。
雅和さんはまだ赤ちゃんが宿ったばかりのあたしのお腹をさすって喜んでた。
「男かな?女かな?双子だったらビックりだよね・・・・。実は僕、双子だったんだよ。」
「え?」
「まあまたこのことはゆっくり話すよ。ちょっといい話じゃないからね。」
双子だったの?はじめて聞いた・・・。もう一人がいないってことは死んじゃったのかな?でも嬉しそうにまだお腹をさすっている。すると思いたったようにパソコンを立ち上げて、病院を調べだした。
「やっぱり麻布の愛育病院だよね。ここから近いし、有名だから。でも明日は休みなんだあ・・・。よし!月曜日は休みを取るぞ!綾乃も大学休みだよね。」
愛育病院ってのはここらで超有名な有名人御用達産婦人科。設備はもちろん、夫の立会いOKらしいし、このあたりでは一番のところ。
雅和さんはああでもないこうでもないとぶつぶつ言いながら、楽しそうにしている。
よっぽど嬉しかったんだ・・・。そうだよね・・・1年前くらいからよく言ってたもん・・・。子供欲しいよねって。まああたし達は結婚しているし、周りもあたし達の子供に期待しているみたいだから、いいか・・・。パパだってわかってくれるよ。
明るい家族計画 (3)予想外・想定外編 1
あの強姦未遂事件からひと月後、もうそろそろ風が冷たくなってきた頃のことね。
あの事件があってからますます一緒に行動する事が多くなったあたし達。あたし自身卒論で大忙しだから、婦人会の会合はお断りし続けているの。もちろんわかってくれてるけどね・・・。
当分「子供は?」「まだ?」攻撃から開放されて、卒論に集中できるわけ。春季にだいぶん単位をとってしまったから、あとはゼミと数講座。図書館で文献を借りてきて、まとめている状態。
官房長官公設秘書の旦那様は臨時国会が12月はじめまで開催されているから、残業も多い。たまに国会が伸びて、伸びて、その日の閉会が午前様になったことも数回あり。その時はさすがに議員会館の事務所に泊まり込んで仕事してたりね・・・。
まあそんな時はたんまりお手当てをもらってきてくれるんで助かるわ。
何もないお休みの日はラブラブモード全開!もちろん新婚だから、一日中いちゃいちゃしてるのよ。その時ばかりは卒論のことは忘れる。旦那様も携帯の電源切って仕事の話はシャットアウト。ホントにゆっくり出来ちゃう。
いつものように「今から帰る」コール。その電話にあわせて夕飯支度の仕上げをする。夕方はやはり道が混むから、いつもの倍以上かかる。今日は早いなあ・・・。そうか明日は国会がないのか。だから早いんだね。そして休み?最近休日出勤も増えてるからどうかな?
「ただいま。」
「おかえり。」
雅和さんは何か包みを持っている。ニコニコしながら・・・。
「なにこれ?」
「今日官邸で、防衛庁長官に頂いたんだ。おいしいケーキらしいよ。綾乃にどうぞって。」
「ケーキ?珍しいね。」
「今日はすごくニコニコされていてね。」
雅和さんはあたしにケーキの入った袋を渡してスーツを脱ぐ。あたしはこっそり中のケーキを見る。無茶苦茶おいしそう。それもいっぱい。
「横浜のおいしいお店らしいよ。食後に食べようよ。ケーキ大好物だろ?」
「うん!」
防衛庁長官の一人娘の美月さんはあたしの義姉さん。陸上自衛隊幹部であるお兄ちゃんの奥さん。性格が結構天然で、乙女チックな箱入り娘のお嬢さん。ままごとのような新婚生活だって聞いたけど?
「あのさ、今日すごく防衛庁長官が機嫌がよかったのはね、何だと思う?」
「なに?」
「美月さんがね、妊娠したらしいよ。春に生まれるんだって。えらく自慢されちゃったよ。」
「それでもしかしてうちはまだか?って言われたの?」
「よくわかったね・・・。父さんも困ってたよ。ボソッと早く孫が欲しいって言ってたけど。」
やっぱりそっちにきたか・・・。なんだかんだ言ってままごと生活のお兄ちゃんたちもすることしてるんだ・・・。ふうんいいな・・・。
明るい家族計画 (2) 明るい家族計画~危機一髪編3
丹波さんが新しく持ってきたオレンジジュースを半分くらい飲んだ後、あたしは急になんだかわからないけど意識が朦朧となって・・・。
意識が薄れる中であたしは誰かに抱き上げられて・・・・。
あたしはなんか夢の中で雅和さんに愛されている夢をみたんだけど・・・。だんだん意識が戻ってきて・・・・。気が付くと・・・。
「キャ~~~~~~~~~!!!!!!!!」
この男、丹波があたしをベッドで横にしていやらしいことをしてる!
「ち、少なかったか・・・。もうちょっとだったのに・・・・。」
「何すんのよ!」
「もうここまで来たんだから最後まで・・・。」
「お断りよ!最初からこれが目的だったってこと?!」
あたしはこの男を蹴り飛ばしてやったわよ。それでもしつこく迫ってくるこの馬鹿!
なんとか逃げ出して車飛ばして自宅まで帰ったわよ。あの時帰らなかったあたしも馬鹿だけど、飲み物に薬入れてあたしを襲うあいつが悪い!もう絶対あいつに同情なんかしない!今度しつこく言ってきたら警察に訴えてやるから!未遂だけど絶対許せない!
もちろん意を決して、雅和さんに報告したわよ。すごく叱られたりなんかしたけど・・・。でもそのあとちゃんとケアしてくれて・・・。
後日政調会長にご報告したらしいわ・・・。もちろん政調会長は驚いて、訴えないでくれってすごく謝ったらしいわよ。
もちろん甥っ子の不祥事だから、公になった時は退任だもんね・・・。
まああれから政調会長夫人はあたしが出る会合には顔を出さなくなったの。雅和さんはもうパーティー関係には一人で行っちゃだめって言ってくれて、ちょっと安心かな・・・。
噂で聞いた話によると、あの男は伯父さんの政調会長にすごく怒られ、父親にも報告されて、家を追い出される寸前だったとか・・・。もちろん父親は総理大臣である雅和さんのお父さんの東京後援会長を辞退したわよ。
もうこれでちょっかいかけられることはなくなったの。まあこの男に関しての問題は解決。一応私は傷ついたけど・・・・。ああ今でもむかつく!!!
明るい家族計画 (2) 明るい家族計画~危機一髪編2
指定された住所に着いてみると山の上の結構でかい別荘。駐車場だけでも何台とめられるんだろうって思うぐらいで、ここってホテル?って言うようなでかさ。止まっている車もいい車ばっかりで、プリウスなんてうちぐらいなもん。プリウスが軽自動車のように見えるわよ・・・。パパの車借りてくればよかった・・・。失敗・・・。
何がなんだかわからなくなって案内されるまま別荘の中へ。なんかみたことある顔ぶれがちらほら・・・・。誰だったっけな・・・。いろいろ今まで出会った人の顔と名前を思い出していると、ついに今日の主人公登場ってことで、みんなその人物の周りに集まっていたのよね・・・・。するとその人物はあたしのほうに近づいてくるじゃない!あ!誰だかわかった!
「綾乃ちゃんよく来てくれましたね。伯母様に頼んで正解だった・・・。」
あたしに馴れ馴れしい態度をするのはただ一人!医学部6年の丹波!なるほど・・・みたことある顔ぶれってみんな慶応義塾大学の医学生&丹波さんの取り巻きだったんだ!もちろん政調会長夫人なんて来てるわけない!仕組まれたのよ。誕生日は本当みたいだけど、学生ばかりだもん。この馬鹿はあたしをここに呼ぶために伯父さんの権力を使ったってこと?政調会長の甥っ子があんたってわかってたら断ってたわよ。最近おとなしくなったと思ったらこういうこと計画してたんだ・・・。渡すもん渡したらさっさと帰るか・・・。もう雅和さんの立場なんて関係ないもんね。
招待されたみんなはあたしを見てこそこそ何か話しながら怪しそうな表情であたしを見てたのよね・・・。何かあるわこれは・・・。
「綾乃ちゃん、俺のために来てくれたんでしょ。」
「あんたって知ってたら来ないわよ。」
「つれないな・・・。本当にますます綺麗になったね。それだけ弐條に愛されているのか・・・。」
あたしは渡すもん渡して帰ろうとしたんだけど、腕を掴まれて引き寄せられて抱きしめられた。あたしはひっぱたいてやったわよ。
「この俺に恥をかかせるの?みんな見てるのに・・・。せっかくの俺の誕生日だよ。」
この男はあたしを引っ張って、プールサイドの椅子に座らせたのよ。
「綾乃ちゃんがここにいてくれるだけでいいよ。俺はみんなに挨拶してくるからさ。」
今が帰るのにいいチャンスなのに・・・。あの男のすごく残念そうな顔を見てしまったら動けなくなっちゃったのよね・・・。あたしも馬鹿かもしれない。何であの男に同情してんだろ・・・・。あたしはプールに浮かんだ小さな葉っぱを眺めながら、いろいろ考えていた。するとあたしの目の前にグラスに入ったオレンジジュースが置かれる。
「はいどうぞ。今日車だろ。ジュースでいいよね・・・。変な物はいっていないから安心してよ・・・。」
なんだかんだ言ってこの男は結構優しい。あたしにいろいろ食べるものを取り分けて持ってきてくれたりなんかして、あたしの隣に座って微笑んだりしている。こういうところがモテる要素なのかもしれない。雅和さんも結構マメだけど、この男はそれ以上マメ?
「今日は来てくれてありがとう。ホントにいい誕生日だよ。大好きな綾乃ちゃんが横にいてくれるんだから・・・。」
「・・・・。」
「もう弐條と結婚して1年半たったよね。もうそろそろ子供なんか考えてるの?それとももうお腹にいるのかな?」
この男もそういうこと考えるのか?至る所で言われるのって・・・。ああなんか気分悪い・・・。嫌な予感・・・。
「いるわけないよ・・・。だってまだあたし大学生だし・・・。」
「そうか・・・じゃあこの僕にもチャンスはあるのかな?弐條よりもかわいがってあげるよ・・・。」
「え?」
(つづく・・・)
明るい家族計画 (2) 明るい家族計画~危機一髪編1
セレブパーティーからひと月後、もう秋の訪れが感じられるようになったの。もう9月なんだな、もうすぐ夏休みも終わりか・・・なんて考えながら、いつものように婦人会のお茶会に出席している。
今日のお当番は政調会長夫人。とても気さくでいい人なんだけど、旦那様は雅和さんのお父さんと同じ派閥であり、ライバル同士。次期総裁は政調会長、官房長官、そして幹事長が候補になっているの。まあ最近任期延長が決まって、あと2年総裁をすることになった雅和さんのお父さん。とういうことはあと2年総理大臣ってことよ。あと二年ということは雅和さんは25歳。比例代表で出馬?という噂が流れている。もちろん雅和さんはまだ無いって言っていたけどね・・・。まあまだお父さんが健在だからね・・・。でも水面下では雅和さんの出馬が検討されていると、このお茶会で聞いてしまった・・・。だから余計にこのおば様連中はあたしに「子供」「子供」と迫ってくるんだろうか・・・。本当にマインドコントロールされそうな感じ・・・。
たまにもうそろそろいいかな・・・なんて妊娠時期と出産時期を逆算してみたりなんかして・・・。ああだめ、だめ!大学に通う妊婦になるのはちょっと・・・。
ひどいおば様なんて、子供が
出来ないのはあたしに原因があるんだとか雅和さんに能力が無いとか影で言っているひとがいるのは確か。まあそういう人って、お父さんと違う派閥の人が多いんだけど。もしかしてあたしの妊娠・出産まで政治の駆け引きに使われるってこともあるわけ?これでもし女の子だったら?それはそれで生まれてすぐに婚約させられたりなんてしないわよね・・・。あたしって、ドラマの見過ぎかな?
「綾乃さん?」
「は、はい・・・。」
「お疲れのようね?」
「い、いえ・・・。」
「遠慮なさらなくていいのよ。新婚さんですものね。」
ああ、また子供攻撃が始まるんだわ。案の定、始まってしまったけれど。その攻撃が辛いのよ。やっとのことでお開きになったら、政調会長夫人があたしに声をかけてくる。
「今度の土曜日のお昼間ご予定ある?」
「いいえ何も・・・。主人は仕事ですし・・・。」
「では甥っ子の誕生日パーティーに来ていただけないかしら?鎌倉の別荘でするのですよ。人数あわせで来ていただけるだけで構わないから・・・。こちらにいらしてね。」
半強制的に住所を渡されて、有無を言えない状態・・・。しょうがないよね・・・。断ったら雅和さんの立場がね・・・。ホントに付き合いって大変ね・・・。このことを雅和さんに相談したら、驚いたわよ。しょうがないねって。何、手土産を持って行けばいいんだろう。噂によるとあたしぐらいの歳の人って言うし。ということは社会人なんだろうか・・・。別荘でするって言うくらいかだからそれなりの家柄の人なんだろうな・・・。
まああたしは適当に見繕って当日雅和さんの車を借りて鎌倉へ・・・。雅和さんはしょうがなく電車通勤・・・。泣いてたわよ・・・。嫌だ~~って。いつまでも電車怖いって言ってられないでしょ・・・子供じゃあるまいし・・・。あたしは運転歴2年・・・。普通に運転できるわよ。ナビも付いてるから、住所を入力して準備万端。開始時刻11時に間に合うように出発したの。ああ、どんなお宅でどんな人なんだろう・・・。緊張するわ・・・。
明るい家族計画 (1) 明るい家族計画~お節介編Ⅱ
夏休みに入ったから、ゆっくり出来るって思ったんだけど、婦人会の中でも超セレブな党幹事長の奥様にあるパーティーに誘われちゃって、もう大変・・・。どんなの着て行ったらいいかわかんなくって、一応官房長官夫人にアドバイスを頂いて、雅和さんと表参道で待ち合わせ。雅和さんったら待ち合わせ時間前に修理に出すため立ち寄った時計屋さんでテレビ局の変な取材を受けたって言って笑ってたけど・・・。まああたしが言うのもなんだけど、雅和さんは背も高くって、モデル体形、顔も整っているからね・・・。そりゃ表参道とか歩いてたら声かけられるわよ。もしかしてテレビに出るの?って聞いたら断ったって・・・。当たり前か・・・。なんだかんだ言っても知る人ぞ知る有名人だし・・・。
(でもこの前偶然見た番組でモザイクかかった状態で映ってたわよ・・・。あれよ、あれ、セレブが何ちゃらって言う番組・・・。うちはセレブじゃないってば・・・。たぶん・・・。)
「ねえ雅和さん、本当に買ってもらっていいの?」
「いいよ。先日賞与が出たところだし。やっぱり付き合いでいるものを買うわけだから、いいものを何点か買っておこうよ。」
ホントいろいろ買ってもらっちゃった。上から下までね・・・。カバンも・・・。それを今度のお誘いに着ようと思うのね・・・。ホントに雅和さんはセンスいいから助かるわ・・・。
「本当に一人で大丈夫?行けるものならついて行ってやりたいけど・・・。」
「いいよ。仕事でしょ。まあなんとかなるから。」
なんて雅和さんを心配させないようにいったんだけど、自信ないよ・・・。まあその日の朝一番に美容院とネイルサロンに行ってとことんがんばったんだから・・・。あたしが失敗したら雅和さんが恥をかくわけだし・・・。
広尾にあるお洒落なイタ飯屋。まあ何度かここには雅和さんと来た事がある。オーナーさんはイタリア人。とっても気さくな人で有名だけど。この店は結構セレブや有名芸能人御用達で・・・。今日のパーティーってなんだろうなんて思いながら、ホントに近所だから、歩いて指定された時間に到着する。あたしはお店の前でおどおどしていたら、ベンツに乗った幹事長夫人が降りてきてあたしに微笑むの。
「まあお早いご到着ね・・・。さ、いらっしゃい。」
「は、はい・・・。」
あたしは夫人に誘導されて会場に入るの。やっぱりセレブのパーティー。いかにもどこかの企業の御曹司とか、ご令嬢、そして某海外ブランドのお孫さんとか、デザイナーとか・・・。時計とか靴を見れば大体のランクの人かがわかるのよ。時計で言えばバセロン、パネライとか・・・。まあ雅和さんが時計好きだから、なんとなく知識はあるけど・・・。1000万円以上もする時計を平気でつけている。まああたしもいい時計を買ってもらったけれど、せいぜい数百万。一桁違うのよ・・・。いろんな人をご紹介してもらって、いろいろ話すんだけど・・・。何なのこのパーティーは???後から聞くとただの半年に一度のお食事会というか、親睦会というか・・・。やっぱりレベルが違うわ・・・。
「まあ、この方ね。未来のファーストレディーは・・・。」
「そうよ、とても可愛らしい若奥様でしょ。綾乃さん。この方は某有名商事の会長夫人よ。」
あたしはとびっきりのスマイルできちんとご挨拶。続々とあたしに話しかけてくる。そしておば様連中は口癖のように「お子さんはまだ?」って聞いてくるんだよね・・・。もううんざり・・・。正式に結婚してまだ1年経ってないって・・・。どうしておば様方ってこう言う話題が好きなのかな・・・。まああたしも雅和さんとの子供はほしいわよ・・・。でもまだ学生だし・・・。
日が陰りだして、やっとのことでお開きになった。まあなんとか印象はよかったみたいだけど・・・。すると店の前で雅和さんが待っていてくれたのね。
「あれ?雅和さん。今日は残業って・・・。」
「心配になってね・・・。こういうところ初でしょ・・・。早く切り上げてきたんだ。上手くいったの?」
「うん・・・。まあね・・・。」
あたしは雅和さんの手を握って、歩き出した。
「雅和さん、おなか空いたでしょ。家にあるもので何か作るね・・・。」
「うん。僕も手伝うよ・・・。気疲れしたでしょ。さあ帰ろう・・・。」
雅和さんはホントに心配してくれてたんだね・・・。あたしは緊張や挨拶回りであまり食べてないからおなか空いちゃった・・・。自宅に帰るとあたしは着替えて、冷蔵庫の中をあさって適当に作ったの。まあ雅和さんはいろいろ手伝ってくれて、何品か作って食べたの。雅和さんは相変わらず、おいしい、おいしいって言ってくれてね・・・。微笑みながら残さず食べてくれるの。まあ明日のお弁当にちょこっとだけ残しておいたけど・・・。
ああ、いつまで「子供まだ?」攻撃が続くんだろうね・・・。こんなこと雅和さんに言ったら、喜んで子作り宣言するんだろうけど・・・・。まあ内緒にしないと・・・。ホントお節介よ・・・。