明るい家族計画 (4) 妊夫生活~親ばかのはじまり編 1
10月中旬、僕の奥さん綾乃の妊娠が発覚した。まだ綾乃は学生だから、家族計画をきちんとしていたつもりだったのに、いきなりの妊娠発覚。まあ僕たちは結婚しているんだから遅かれ早かれ出来て当たり前。そしてもちろん夫婦生活っていうものはきちんとしていたんだし・・・。
「あれって100%じゃないから!」 って綾乃に言われた時はまさしくそうだと思うしかなかった。なんで?なんで?って思う前に、もともと一年程前から、子供が早く欲しいなあなんて思っていたわけだから、もうすぐ僕はパパになる!っていう思いのほうが強くって、もう避妊の失敗なんてどうでも良くなったんだよね。
もう本当に嬉しくって、近所にある愛育病院に決めたんだよね。ここはいろんな人から勧められていて、ここしかないかなって思っていたわけで、僕は休みを頂いて、綾乃を連れて診察に行ってきたんだ。綾乃はここ最近気分が悪くって、しんどそうにしているから、全部僕が手続きをしてあげて、辛そうな顔をしている綾乃に寄り添ってあげたんだよね。
名前を呼ばれてはじめに綾乃だけが診察室に。診察時間は数十分もしないのに、すごく長く感じちゃって、看護師さんに診察室に入るように言われても気づかないほど緊張していた。
「さあ、ご主人どうぞ。」
綾乃の横の椅子に腰掛けて、診察結果を聞く。
「おめでとうございます。奥様は確かに妊娠されていますよ。現在5週目2ヶ月になります。」
先生は超音波の画像を見せてくれてちっちゃいけど、胎嚢(たいのう)っていう袋の中に確かにまだまだ小さな赤ちゃんが入っていたんだ。(と言ってもまだおたまじゃくしのような形らしい・・・。胎芽って言うんだ。)その画像をにやけながら見てたんだけど、先生が考えられないことをいったんだ。
「奥様は一度今の時期に流産経験がありますので無理は禁物ですよ。・・・・」
え?!流産?今回が初めての妊娠じゃなかったってこと?何で黙っていたわけ?多分僕の子だと思うけど・・・。綾乃は浮気するような子じゃないし・・・。(僕は一度だけあったりなんかするが・・・。)
一度流産・・・って言う言葉がすごく頭に残って、そのあとの先生の言葉なんて頭に入らなかったんだよね・・・。そのまま会計済ませて何も言わずに車に乗って自宅に帰った。
そのあと何がなんだかわからなくなって、仕事に行くって嘘ついて自宅を出たんだ。ひとりで車を運転しながらいろいろ考えてたんだ。もしかして僕の子じゃなかったとしたら誰?
時期にもよるかもしれないけれど、綾乃を取り巻くいろんな男の顔が僕の脳裏に浮かんだ。
自衛官幹部の清原?
それともにっくき丹波?
丹波の場合は2年ほど前からちょっかいかけていたけど、綾乃はすごく嫌っていたし、清原は?清原ねえ・・・あるとしたらこいつか・・・。
でも綾乃は清原のことをお兄ちゃんみたいな人と断言してたからね。じゃあ今回みたいに避妊の失敗か・・・。でもそれなら僕に言ってくれてもいいのにな・・・。もしかしたら、独身時代のことだからばれたくなかったのかな・・・。
なんだかんだ言いながら、海を見ながら考えた。でも結局綾乃のお腹の中に僕の子がいるわけだから、最後のほうなんてどうでもよくなって、お昼食べてなかったし、そろそろ夕方になってきたから、横浜そごうに車を止めて、夕飯を買って帰ったんだ。
ホント僕はまだ子供だよね・・・・つまらないこと(?)でショックを受けて、こうして家を飛び出したんだから。綾乃もいろいろと心身ともに不安定な時期だからできるだけ一緒にいてあげないといけないのに・・・。
今はそっちのほうが大事。僕は家に帰ると綾乃に謝って、一緒に夕飯を食べたんだ。もう以前の妊娠のことなんて聞く必要はないからね。今確かに綾乃のお腹の中には僕達の愛の結晶がいるわけなんだし。これから残業や休日出勤を控えて綾乃の側にいようと決めたんだ。そして検診の日にはきちんと付き添って、もちろん両親学級や立会い出産なんかも考えるよ。
やっぱり早くみんなに公表したいなあ・・・。嬉しくってたまらないし。父さんも喜ぶだろうな・・・。
次の日から僕は仕事にさらに張り合いが出て、みんなが驚くぐらいに早く仕事をこなしていくんだ。そして何かない限り(国会の時間延長とか・・・そのほか急なことなど)ほぼ定時で家に帰る。そして下手だけど、つわりで苦しい綾乃の代わりに夕飯の準備をするんだ。
綾乃は卒論を書きながらなんだか気を紛らわせていたようだけど、日に日につわりがひどくって、大学も休みがち・・・。でも春には卒業しないといけないから、できるだけがんばっているのはわかっている。やっぱりこれからいろいろ休んだり、出張とかをお断りしないといけないことが出てくるから、周りの人だけでも公表しないと・・・。
「ねえ、綾乃。父さんや官房長官には言ってもいいかな・・・。だってよく考えてみてよ、僕たちにはお母さんがいないだろ、僕がさあ、仕事中や出張中に何かあったらどうするの?他の人に頼めないこともあるかもしれないから、僕が出来るだけ側にいてあげないと・・・。急に病院に行かないといけないときに理由を言わないで出れないでしょ。」
「うん、そうね・・・。」
「今でもつわりがひどくなっているのに、残業なんか出来ないじゃないか・・・。出来るだけ早く帰れるようにしないと・・・。」
2人でゆっくり相談して、父さんと僕の上司(?)の官房長官にはきちんと事情を説明しておくことになったんだ。
(つづく)