そして、高市首相は積極財政と異次元金融緩和を推進した悪政「アベノミクス」の路線を引き継ぐ「サナエノミクス」という経済政策を強烈に押し進め、強い経済を実現するのだという。
自民党所属の70名ほどの国会議員で構成される「責任ある積極財政を推進する議員連盟」には講師として黒田東彦元日銀総裁や本田悦郎元官房内閣参与らアベノミクスを推し進めた中心人物が名を連ねている。
さらに、首相が議長を務める経済財政諮問会議や日本成長戦略会議など政府の経済関連会議のメンバーも「成長投資のために国債発行は躊躇すべきではない」と主張するような積極財政派の経済学者やエコノミストばかりが配置されている。
その顔触れを見ただけで、高市政権の目指す方向性が明らかであります。
政権に忖度したメディアの多くは沈黙していますが、今国民生活を苦しめている深刻な物価高の元凶こそ安倍晋三と黒田東彦率いるアベクロ体制が進めたアベノミクスに他ならない。
その失政を総括する事なく「サナエノミクス」という同じ誤りを再び進めれば、その行きつく先はさらなる円安とインフレがもたらされ、国民生活は物価高で一段と苦しくなる。
引いては、国家破産もしくはハイパーインフレに陥るリスクが高まるのであります。簡略に説明いたします。
第二次安倍政権が行った経済政策「アベノミクス」は「2年でデフレを脱却させる」というものでした。
しかし、実際には効果が出ず、ずるずると10年以上も続けられました。
アベノミクスの異次元金融緩和とは、日銀が国債を事実上無制限に買い上げ金利をゼロに押しつぶし、円を安くして景気を刺激しようというものでした。
しかしこれは事実上の財政ファイナンスという禁じ手であり、長く続けたら取り返しのつかない副作用に見舞われる政策でした。
ところが、安倍晋三と黒田東彦はこれに依存し、10年以上続けた結果、国の負債は1,300兆円を超え、GDP比では250%となり、日本は世界で最悪の借金大国となりました。
「借金が増えても金利が上がらないから大丈夫」という麻酔により、日本の財政は歯止めを失ってしまったのです。
そして、日銀は国債発行残高の半分を抱えるという異常な体質となった。
この状況で日銀が政策金利を上げれば債務超過に陥るため、日銀は金利を上げたくても上げられない状況になってしまったのです。
かくて、アベノミクスを始めた2012年の末頃は1ドル80円前半だった円は、今や150円台半ば、10数年で円の価値は約半分になりました。
分かりやすく言えば、10年前は1000円で買えた海外の物が今は2000円支払わないと買えない国となったという事です。
その結果、食料品、電気代、ガソリン代、日用品が値上がりし、国民生活を直撃しているのです。
円安の恩恵を受けたのは一部の輸出企業だけで、痛みを負担しているのは国民全体です。これこそがアベノミクスのつけであります。
しかも、これで問題は終わりではなく、深刻なのはこれからであります。
アベノミクスの異次元金融緩和とは世界が低金利である事が前提とした政策でした。
もし金利が上昇する局面になると、1,300兆円もの大借金の利払いが雪だるま式に膨れ上がり、ついには、国家財政の破綻をもたらす。
また、日銀も債務超過となり市場の信任を失えば円が暴落し、いずれ国家破産・ハイパーインフレに至るのであります。
現在こうした薄氷を踏むような状況にあるにもかかわらず、高市政権は「成長投資のため」という名目で赤字国債を躊躇なく発行しようとしているのです。
つまり、借金依存の体質をさらに強化するという事です。
先日高市首相が打ち出した総合経済対策は、補正予算による一般会計で約17.7兆円、総額では約21.3兆円とコロナ禍後で最大規模となった。
高市首相は「石破政権時の13.9兆円を何としても超えないと積極財政の期待がしぼんでしまう」と子供手当だお米券だと何でもかんでも詰め込み、とにかく規模を無理やり膨らませた。
結局は、人気取りのために大借金をしてその場しのぎのばらまきをしようとしているのであります。こんな無責任な事はない。
そして、象徴的なのは、高市首相は「基礎的財政収支(プライマリーバランス)を単年度で見るのをやめるべきだ」と公言した事です。
プライマリーバランスとは簡単に言うと「税収だけでその年の支出を賄えるかどうか」を示す指標で、税収だけで支出を賄えていれば黒字、足りずに赤字国債を発行している状態が赤字です。日本はずっと赤字が続いている。
要するに、単年度でプライマリーバランスの黒字化を目指すと思い通りに赤字国債が発行できなくなるからこの縛りを緩くするという事です。
家計に例えると「今年は赤字でもお金が足らなければ借金を増やせばいい」と言っているのと同じであります。
これは、市場から見れば「日本政府は財政再建の意思がない」と受け止められてもおかしくない。
この認識が広がれば、いずれ国債が格下げされる可能性もある。
そしたら、国債価格は下落し、金利は跳ね上がる。
すると、政府の国債の利払い費が増え、国家財政を圧迫する。
そして、国債を多く保有している金融機関や生命保険会社の経営を直撃し、日本経済全体が危機に陥る。
実際すでに市場には財政悪化懸念の兆候が出ております。
高市首相が自民党総裁に選ばれてからドル円の為替レートは約10円も円安となり、10年物の国債も投げ売られ、金利は一時17年半ぶりに1.8%を超え、また、30年、40年の超長期の国債も過去最高の金利になりました。これは、市場の警告であります。
株価はどれだけ下がっても国家の存在を揺るがすものではない。
しかし、今の日本においては国債価格の下落、すなわち、金利の上昇こそが国家財政を破綻へと導く最大のリスクなのであります。
ドイツ銀行のグローバル通貨調査部門責任者ジョージ・サラベロス氏はこう警告しております。
「高市首相の歳出計画によって日本国債と円は急落し、2022年に英国債市場を崩壊寸前にまで追い込んだトラスショックを彷彿とさせる無秩序な資本投機の懸念を高めている」と。
さらに、日本総合研究所の河村小百合氏は高市政権の積極財政政策について先日このように断じていた。
少し長いですが引用いたします。
「我が国にとってあり得る最悪の展開は、高市政権が安易に赤字国債を大増発して円売りを招き、日銀が急ピッチの利上げを余儀なくされ、日銀の財務を急激に悪化する事態である。
政府全体として十分に検討する事もないままそうした事態を招けば、円安のみならず債券安と株安が同時に起こるトリプル安のような展開も起こりかねない。
我が国はこれまで長年にわたり続けてきたアベノミクス(事実上の財政ファイナンス)の負の側面が一気に表面化する事態でもある。まさに、日本版トラスショックだ。
我が国の場合、大元の財政事情は英国よりはるかに悪い他、日銀のバランスシートの状況や正常化に向けての取り組みの進展も、イングランド銀行のそれよりはるかに劣っている。
英国がかろうじて危機を乗り切った事とは大きく異なる展開になるだろう」と。
この河村小百合氏は財政金融政策の専門家で、日本の財政に関する分析は信頼を集めております。
かつて先生はこの河村小百合氏の事を大変重んじておられました。
この中に出てくる「トラスショック」とは、2022年9月に英国のリズ・トラス首相が発表した財源の裏付けのない無謀な大規模減税によって金融市場が大混乱し、英国の国債とポンドと株式が急落し、英国経済に危機が生じた騒動の事です。
これによりリズ・トラス首相は就任からわずか一月半で辞任に追い込まれた。
もし日本で同じようなショックが起きたら、トラスショックの比ではない激震に襲われる事は疑いない。
このまま高市政権が積極財政を続ければ、日本は先生が兼ねてから叫び続けてこられた国家破産・ハイパーインフレという取り返しのつかない事態になる危険性がある。これこそ、現代における大飢渇であります。