そして、高市の対中強硬姿勢が中国による他国侵逼を早め、日本を亡国にいざなっている。これこそ何よりの悪政であります。
さる11月7日の衆議院予算委員会における高市首相の不用意極まる国会答弁によって、日中関係はかつてないレベルの危険水域に入ったといっても過言ではありません。
この日、立憲民主党岡田克也元外相の台湾有事をめぐる質問に対し高市首相はこう答弁した。
「戦艦を使って武力行使も伴うものであれば、これはどう考えても存立危機事態になり得る」と。
「存立危機事態」とは、日本と密接な関係にある他国アメリカへの武力攻撃の結果日本の存立が脅かされ、国民の生命等に明白な危険が迫る事態の事を言います。
政府がこの「存立危機事態」と認定した時に、日本は集団的自衛権を行使できる。
この「集団的自衛権」とは、日本が直接攻撃されていなくても、同盟国であるアメリカが攻撃された時、日本が共同で反撃できる権利の事です。
要するに「台湾有事の際に来援したアメリカが中国に攻撃されたら、日本も参戦する可能性がある」事を述べたのでした。
これまでの歴代首相は、この「存立危機事態」については慎重な答弁を繰り返し「個別・具体的な状況に即し、全ての情報を総合して判断する」というお決まりのセリフを述べるにとどめ、具体的な明言を避けてきました。
なぜなら、あえて曖昧にする事が外交・安全保障・国内政治・経済等の観点から国益に適うものだからであります。
たとえば、台湾問題を「核心的利益」と言い続ける中国の国名を出して「台湾有事が存立危機事態になっている」などと言えば中国を刺激して外交関係が直ちに悪化します。
また、台湾を防衛するか否かをあえてはっきりと言わない曖昧政策を取り、中国を牽制しているアメリカの戦略ともずれが生ずる。
さらには、国内世論の反発を招き、対中貿易に大きく依存する日本の経済界にも甚大な影響を与える。
何より、日本の戦略の手口を明かす事になり、中国に対する抑止効果がなくなるためであります。
にもかかわらず、今般高市首相はこれまでの歴代内閣が取ってきた姿勢から踏み込み「台湾有事は日本の存立危機事態になり得る」と日本の首相として初めて明言してしまったのであります。
あの安倍晋三元首相でさえ首相退任後には「台湾有事は日本の有事」と語ったものの、在任中は決してその事には触れなかった。
それが、日本を戦争当事国へと一気に押し上げる危険なラインである事を弁えていたからであります。
ところが高市首相は自分の言葉にこだわり、官僚が事前に準備した答弁書の通りに答えず、政府内での事前調整も行わず、中国にいかなる刺激を与えるのか、また、それによって被る日本の影響を深く考えず、国家安全保障の最重要ラインを踏み越える軽々しい答弁をしてしまったのであります。
件の高市発言に関する中国の反応は戦後に例を見ない激しさでした。
まず、薛剣駐大阪総領事はSNSに「勝手に突っ込んできたその汚い首は、一瞬の躊躇もなく切ってやるしかない。覚悟ができているのか」という異常な暴言を投稿しました。
これは単なる一外交官の激しい投稿ではない。習近平政権の意思と見るべきであります。
なぜなら、その後在中国大使館、中国外務省、国防省、人民日報、中国人民解放軍報等も一斉に「日本が台湾に介入すれば日本全土が戦場となる」「必ず頭を割られ血だらけになる」などと同じように激しい論調で発信しているゆえであります。
さらに中国政府は中国人に日本への渡航の自粛や留学の検討を呼びかけ、日本の水産物の事実上の輸入停止を、また今後、日本の商品の不買運動やレアアースの輸出制限をしてくる可能性もある。
もしそうなれば、日本の主要産業は大きな打撃を受ける。
本来存立危機事態の認定は極めて重い判断であるゆえ、予算委員会などで高市首相が「どう考えても存立危機事態になり得る」などと不用意に発言すべきものではない。
この高市の失言によって中国は「先に日本が台湾情勢に武力介入する意思を示した」と当然解釈する。日本を攻撃する格好の口実を与えてしまったのであります。
高市首相は一国会議員だった時の発言と首相の発言とその重みの違いすら分からないらしい。
朝日新聞によれば、高市首相はこの予算委員会での発言の後「つい言いすぎた」と周囲に漏らしたという。
高市の側近は「ハレーションがどうなるか確認が甘いままに答えてしまった」と語り、サポート不足を悔やんだという。
自らの右翼的な政治理念と保守派の支持層へのアピールで頭がいっぱいなのかもしれませんが、国益を損ね、日本を亡国へと導くその短慮は致命的であり、その見識と資質を疑うものであります。
このような高市の姿を見ていると『蒙古使御書』の仰せが脳裏をよぎります。
「一切の大事の中に、国の亡びるが第一の大事にて候なり。
乃至、一切の悪の中に国王と成りて、政事悪しくして我が国を他国に破らるるが第一の悪しきにて候」と。
「国が亡ぶ事が最も大事なのである。
ゆえに、一切の悪の中で政権を掌握する者が自らの悪政によって他国侵逼を招く事こそ最大の悪である」と為政者の責任の重さを仰せられておられます。
高市首相はまさに亡国の政治家というべきであります。
かつて先生はかく仰せ下さった。
「保守系の政治家達は強がりばかり言っている。私はそれを見る度に『みっともないな。戦争の事も知らないでただ強がりばかりで』と思っている。
どれもこれも凡夫の浅智恵である。中国の責めの本当の恐ろしさを誰も知らない」と。
高市首相並びにその応援団やネトウヨらの強がる姿を見ると、かかる先生の仰せが今千鈞の重みで胸に迫ってまいります。
そして、日本への敵意をむき出しにする一連の中国の反応の底意に日本侵略への意志を強く感じてなりません。
どういう事かと言えば、中国人民解放軍の機関紙人民日報で今回の高市の発言についてこう言っております。
「決して高市単独の政治的妄言ではない。その背景には軍事大国の地位を追求しようとする日本の右翼勢力の偏執と傲慢さがある」と指摘している。
さらに「高市率いる右翼勢力により日本の軍国主義が復活する」と見て「そのような日本が台湾海峡に武力介入すれば、それは侵略であり、中国は必ず正面から痛撃を加える。火遊びをする者は必ず自ら焼き亡ぼす」と露骨なまでに軍事的脅迫をしているのであります。
また、中国の王毅外相は今月22日に訪問先のタジキスタンで「日本の軍国主義の復活を決して許さない」と批判した。
中国の外相が公の場で日本を名指しして強く批判するのは極めて異例であり、中国が今後日本を敵国と扱う準備を進めている兆候といえます。
高市がトランプに媚び諂い、武器を爆買いして非核三原則を見直し、米軍の下請けとして一体化するほどに中国はますます日本を敵視してくるに違いない。
たとえ今回の日中関係の悪化が今後表面的に落ち着いたとしても中国の意思は変わらない。
自然と中国が日本に対し侵略の意思を抱く事こそ、まさに諸天の働きなのであります。