これは「デューン 砂の惑星 PART2」に関して、用語や背景などの解説記事です。最後までネタバレしています。

「ネタバレ解説1」の続きです。

砂漠で生きることを学ぶ

ポールは自分がリサーン・アル=ガイブであることを否定し、フレメンの一員として共に戦うことを宣言。砂漠で生き抜くフレメンの訓練を受けることになります。

スティルテントパラコンパスを使いこなし、砂漠で一人で一昼夜を過ごす。

スティルテントは中にいる人間の呼気から水分を回収して再利用することができるテントです。

パラコンパスは通常の磁石ではなく、磁気異常によって位置を決めるコンパスです。これによって、アラキスの砂嵐がもたらす磁気異常に対応することができます。

 

スティルガーはポールに「ジンの声に耳を貸すな」と告げます。

ジンはフレメンの間に伝わる砂漠の精霊。夜にささやき、取り憑くデーモンです。

これは特に何か出てくる訳でもなく、物語上必ずしも必要なセリフでもないのですが、でもこういうセリフがあることで、フレメンという民族のリアリティが補強されていますね。

ポールは再三ジャミスの気配を砂漠に感じることになります。

 

チャニはポールの誠実さを認め、彼にサンドウォークや砂漠で生き抜くノウハウを教えます。

サンドウォークは砂漠でワームを呼び寄せないための、わざとリズムを崩した歩き方です。

チャニはまた、導風器の使い方を教えます。これは風を受けて空気中のわずかな水分を集める技術で、フレメンにとって命綱と言えます。

ハルコンネン採掘機の襲撃

PART1に登場したのと同様に、ハルコンネンも地上で砂からスパイスを集めるクロウラーと、空中からクロウラーを運び、ワームサインを検知したらクロウラーを持ち上げて脱出する飛行機械キャリオールの組み合わせによって、スパイス採掘を行っています。

ハルコンネンのキャリオールは、風に乗って飛行する蜘蛛を思わせるデザインになっています。

 

フレメンは砂中シュノーケルを使って砂の中に潜み、クロウラーに近づいて、ゲリラ戦を仕掛けます。

ポールは勇敢な活躍でチャニを守り、チャニがロケットランチャーでオーニソプターを撃墜するのをサポートします。

ポール・ムアディブ・ウスール

大型のスティルテントを展開し、フレメンはその中で休息を取ります。

活躍を認められたポールは、フレメンのフェダイキン(戦士)と見なされ、フレメンとしての名前を与えられることになります。

 

スティルガーがポールに与えたのは、ウスール。「いしずえ」「柱の基礎」を意味します。

自分で名乗る名前を決めるよう促され、ポールは「砂漠のネズミがいい」と言います。

砂漠のネズミの呼び名はムアディブ。ムアディブは大きな耳を使って空気中の水分を水滴にして利用するという習性を持っていることから、「自分で水を作れる動物」としてフレメンに敬われています。

ムアディブはまた北を示す星座であり、「道を示す者」の別名もあります。

 

ムアディブ(Muad'dib)。地球にもよく似たトビネズミがいます。

 

ポールはポール・ムアディブ・ウスールとなり、フレメンに兄弟として迎えられます。

原作では、ポールが名前を得るのはジャミスを殺した後すぐのことです。映画版ではよりドラマチックな展開になっていますね。

 

デューンの特徴に、特有の固有名詞の多さが挙げられます。

同じものでも、様々な名前で呼ばれる。

ポールの呼び名一つとっても、本名であるポール・アトレイデス

フレメンとしての名前が、ウスールムアディブ

救世主としての呼び名も、リサーン・アル=ガイブマフディーの2通り。

更に覚醒した者として呼ばれるのが、クウィサッツ・ハデラック

ややこしいのですが、この複雑さこそがまた魅力でもあります。

シハヤ

自分の道を遂に見つけたことを確信し、ポールは父の形見の指輪を外してポケットにしまいます。

これは、公爵としての自分を一時封印し、フレメンになり切ることを意味しています。

 

「アラキスは日が低いほど美しい」光景を見ながら語り合うポールとチャニ。

チャニは秘密の名「シハヤ」を明かします。意味は「砂漠の春」

これはリサーン・アル=ガイブがアラキスを緑化する予言にちなんだ名前なので、予言を信じないチャニは嫌っています。

 

ポールとフレメンとの違いについて、チャニは「ここではみんなのために生きる」と言います。

かつてのポールの世界は、特定の人物のために多くの人が生きる世界でした。アトレイデスの人々が生きるのは、公爵の家系を生かすため。

しかしフレメンの世界では、フレメンという集団を存続するために個々のフレメンが生きています。

チャニはポールも「フレメンになれるかも」と言い、二人はキスを交わします。

 

およそこの辺りで、原作では2年が経過することになります。

ポールの妹エイリアは「大人顔負けの知識を持つ2歳児」となり、ポールとチャニにも息子(レト2世)が産まれています。

ヴィルヌーヴの映画版の最大の特徴は、この時間経過をオミットしたことでしょう。エイリアは産まれないまま、同じ10191年のままで物語は展開していきます。

ウラディミール・ハルコンネン

フレメンの妨害により、ラッバーンの指揮するスパイス採掘量は低下。

このままでは採掘権を皇帝に取り上げられてしまう…と、ハルコンネン男爵がラッバーンを叱責にやって来ます。

 

PART1と同様、男爵はオイルのような薬風呂に入っています。

これはレトに浴びせられた毒の治療ですね。

ハルコンネン男爵はPART1よりも弱っているようで、体重を支える浮上装置サスペンダーは片時も手放せないし、呼吸を補佐する装置も体に繋いでいます。

 

腹いせに、男爵は何人かの女奴隷を殺しています。

機嫌の悪い時に、ハルコンネンはいとも簡単に奴隷を殺してしまいます。ラッバーンやフェイド=ラウサも同じことをやっていますね。

サンドライダー

悪夢を見て目覚めたポール。

南へ行くことで大戦の引き金を引き、ポールのせいで数百万人が飢えて死ぬことになる…という予知夢です。

 

ポールはサンドライダーになる試練を受けます。

サンドワームを乗りこなすことは、一人前のフレメンとして認められる最後の条件です。

スティルガーは「シャイ・フルードにフレメンと認められる」と言っています。

シャイ・フルードはフレメンによるワームの呼び名で、「砂漠の親分」「永遠なる父」「砂漠の祖父」などを意味します。

フレメンの伝承にある「地の神」の呼び名でもあります。

ここも、一つのものがいろんな名前で呼ばれる例ですね。ワームは他にメイカーとも呼ばれます。

 

ワームに乗ることは、まずは音が反響するドラム・サンドを探すことから始まります。

サンパーを仕掛けてワームの来るのを待ち、タイミングを見てフックでワームに取りつきます。

ワームの体に取り付くためのフレメンの道具をメイカー・フックと言います。

 

フレメンはメイカー・フックをワームの体の節に差し込み、隙間をこじ開けます。

体内の柔らかい部分に砂が入るのを嫌がったワームは、体を回転させてフックの差し込まれた部分を上に向けます。これを利用して、フレメンはワームの背中の上に立ち、姿勢を制御することができます。

 

「長老級の大物」を見事に乗りこなしたポールは、いよいよリサーン・アル=ガイブとして認められることになります。

南へ

教母となったジェシカは、ポールがサンドライダーになったという事実も「リサーン・アル=ガイブの布教」に利用します。

「シャイ・フルードは外世界の者にひれ伏す」「シャイ・フルードはマフディーを見分ける」というのも、ベネ・ゲセリットがフレメンに広めた意図的な伝承です。

 

北での布教を終え、南の原理主義者にポールがリサーン・アル=ガイブであることを認めさせるために、ジェシカは南へ行くことを決めます。

ジェシカ「クウィサッツ・ハデラックは南で誕生する」

 

しかし、ポールは頑として南へ行くことを拒否します。

ポールは予知夢を通して、自分が南へ行くことが大戦のきっかけになると信じています。

また、それがチャニとの関係の変化を意味することも。

 

ジェシカの胎内の妹は、まだ産まれてもいないにも関わらず、ポールに「愛に目が眩んでいる」「結婚相手は政略的に選ばなければ」と忠告します。

実際、ポールは妹の忠告通りに「結婚相手を政略的に選ぶ」ことになります。

ムアディブの噂

アラキーンのスパイス集積所が爆破され、ラッバーンは怒りに我を忘れて前線へ出ていきます。

しかしフレメンのゲリラ戦に撹乱され、ムアディブに命を捧げるフレメン戦士の恐ろしさを思い知り、必死で逃げ帰ることになります。

 

フレメンの新たな預言者、ムアディブの噂は、皇帝にまでも届きます。

父に意見を求められたイルーランは「殉死は信仰を強める」と言い、戦争に発展させた後で皇帝が救世主として降臨することを提案します。

これは、ベネ・ゲセリットが支配下においたクウィサッツ・ハデラックを救世主として送り込む作戦と似たやり口です。

 

皇帝の読真師である教母ガイウス・ヘレン・モヒアムは、皇帝は失脚することになると既に見切っています。

モヒアムは、コントロール可能なコマとして、フェイド=ラウサの名をあげます。

イルーランは「異常者」と見なしますが、モヒアムは「それは問題ではない」と言います。「我々がコントロールできるかだけが問題だ」と。

フェイド=ラウサ

フェイド=ラウサはハルコンネン男爵の甥。

男爵から次期男爵(ナー・バロン)と見なされています。

男爵は始めから、ラッバーンに圧政をさせた上でフェイド=ラウサを送り込み、救世主とすることを狙っていました。

しかしムアディブによってその当ては外れ、フェイド=ラウサはラッバーンに続く圧政者として送り込まれることになります。

 

ジエディ・プライムで、フェイド=ラウサの誕生日を祝う式典が行われ、そこでフェイド=ラウサと3人の奴隷闘士の剣闘が行われます。

原作ではフェイド=ラウサは17歳なのですが。映画では年齢は示されていないですね。まあ、もっと上の設定でしょう。

3人の奴隷闘士は、アトレイデス家の兵士の生き残りです。

本来であれば、彼らは体の自由を奪う薬を射たれ、なぶり殺しにされるはずでした。

しかし男爵の思惑で、3人目の兵士だけは薬を射たれないままで闘技場に出てくることになります。

 

満をじしての登場となるフェイド=ラウサを演じるのは、オースティン・バトラー

リンチ版では、ミュージシャンのスティングが演じていました。ほとんどセリフのない役でしたが、なかなかの存在感でした。

 

実現しなかったホドロフスキー版では、フェイド=ラウサにはミック・ジャガーが予定されていました。

…って、予定だけですが。

フェイド=ラウサにはみんな、ロックスターをキャスティングしたくなるようです。

オースティン・バトラーはミュージシャンじゃないけど、エルヴィスですからね! 彼もまた、まさにロックスターと言えますね。

ジエディ・プライムの太陽

ジエディ・プライムの「黒い太陽」は色を消し去る光線を発し、その光のもとではすべてはモノクロームに見えます。この太陽の光で育ったジエディ・プライムの人々は、毛髪のない、真っ白な肌を持つようになります。

…というのが、今回ヴィルヌーヴがジエディ・プライムに与えた設定です。

これは原作にはない設定。原作では、「光合成の行われる範囲が狭い」とされていました。

 

このシーンはモノクロの赤外線カメラで撮影されています。

異世界感が強調され、実に印象的なシーンになっていると感じます。

特異な黒い花火は、インクをアルコールに落としたところをベースに作られています。

 

(c)2023 Legendary and Warner Bros. Ent. All Rights Reserved

 

アトレイデス家最後の兵士はランヴィル中尉(ロジャー・ユエン)。レト公爵の側近でした。

戦うフェイド=ラウサとランヴィルの周りには、死神のような衣装を着た男たちが、いざという時には奴隷を殺すために控えています。彼らはピカドール(闘牛士)と呼ばれます。

 

戦いの後、「薬漬けじゃなかった」ことに抗議したフェイド=ラウサに、男爵は「アラキスをやる」と告げます。

男爵はあえて危険に晒すことで、フェイド=ラウサを試したようです。

二人の関係は互いに心を許さないもので、原作にはフェイド=ラウサが男爵の暗殺を目論むシーンも登場します。それは映画では省略されましたが。

レディ・マーゴット・フェンリング

マーゴット・フェンリング(レア・セドゥ)はベネ・ゲセリットで、皇帝の親友であるフェンリング伯爵の妻です。

原作にはフェンリング伯爵が結構な重要度で出てくるのですが、映画では一切登場せず、マーゴットだけがクローズアップされる形になっています。

 

原作に登場するハシミール・フェンリング伯爵は、暗殺者であり、メンタート。コリノ家の優秀な戦闘員であり、皇帝シャッダム​4​世の親友でした。

彼はハルコンネン統治時代のアラキスの帝国代理人であり、アラキーンに駐留していました。

彼はまた、クウィサッツ・ハデラックの成功しなかった候補の一人でもありました。

 

マーゴット・フェンリングは皇帝よりもむしろベネ・ゲセリットに対して忠実で、ガイウス・ヘレン・モヒアムの命を受け、フェイド=ラウサの血統を保存するために彼のもとに送り込まれます。

モヒアムはもともと、アトレイデスとハルコンネンの血統からクウィサッツ・ハデラックが出ることを予期して、遺伝子操作を行ってきました。ジェシカはレトとの間に女の子を産むことを命じられていて、その子をフェイド=ラウサに嫁がせることが、最初の計画だったのです。

しかし、ジェシカがその命令に背き、レトの望んだ男の子を産んだことで、モヒアムの計画は狂うことになりました。(ベネ・ゲセリットは意思によって男女を産み分けることができます。)

 

マーゴットはフェイド=ラウサを来賓棟の寝室に誘い、ゴム・ジャッバールの試練を与えます。

これはPART1でポールがモヒアムにされたものです。箱の中に手を入れ、手が焼ける苦痛に耐える試練です。苦痛に耐えられず手を抜けば、猛毒のゴム・ジャッバールが首を貫きます。

フェイド=ラウサはこの試練に耐え、マーゴットは彼の子種を胎内に仕込むことになります。モヒアムの言いつけ通りの女児です。

フェイド=ラウサの出発

マーゴットはフェイド=ラウサについて、「ソシオパス」と評価しています。

ソシオパスは社会病質者。精神障害が反社会的な振る舞いとして表出するタイプの人間を指します。

フェイド=ラウサはまた、「母親を殺した」と指摘されています。

 

ジエディ・プライムでパレードが行われ、フェイド=ラウサのアラキス赴任を祝う式典が開かれます。

このシーンでは男爵がフェイド=ラウサに激しいキスをするのですが、フェイド=ラウサも男爵にキスを返しています。この仕返しは、オースティン・バトラーのアドリブだったそうです!

 

ネタバレ解説3に続きます!