これは「デューン 砂の惑星 PART2」について、原作などをもとに設定や背景をまとめた記事です。
フランク・ハーバートによる原作と、映画の製作については特に書籍「アート・アンド・ソウル・オブ・デューン 砂の惑星 PART2」を参照しています。
最後までネタバレしています。ご了承ください。
「デューン 砂の惑星 PART2」のレビューはこちらをどうぞ。
「PART1」のネタバレ解説記事はこちらをどうぞ。
スパイスを制するものはすべてを制する
冒頭のエピグラフは「スパイスを制する者はすべてを制する」
PART1では「夢は深淵からのメッセージだ」でした。
「スパイスを制する」ことは本作終盤で、ポールが「攻撃を受ければ核によってスパイスを破壊する」と大領家連合を脅すシーンで示されています。
ただ「スパイスを手に入れる」だけでなく、スパイスを破壊する決意をもつ者だけが、勝つことができる。
「それを破壊し得る人は、それをコントロールしていると言える」とポールのセリフ。この考え方がPART2のキーになっています。
カイタン
物語は初登場の人物、場所から始まります。
銀河皇帝シャッダム4世と、その娘であるイルーラン姫。皇帝のコリノ家の母星は、自然豊かな惑星カイタンです。
カイタンの風景は他の惑星ほどには描写されず、姫の部屋や城の内部のみにとどまっています。
しかし、カイタンのシーンはセットではなく、いくつかの印象的なロケ地で撮影されています。
イルーラン姫の居室はイタリアのブリオン・サンクチュアリと呼ばれるデザインされた墓苑。
皇帝がチェスをする庭はブダペストの美術館にある日本庭園です。
イルーラン姫
アラキスの戦いについての報告を、後述筆記装置に吹き込むイルーラン姫(フローレンス・ピュー)。
イルーラン姫はシャッダム4世の長女。ベネ・ゲセリットの一員でもあります。
ポールの勝利条件とも言える立場になる、非常に重要なキーパーソンなのですが、原作でも実際の出番はそれほど多くはありません。
しかし、イルーランは歴史家としての面を持ち、アラキスとポールの物語を記録し著作に残す役割を担うことになります。
原作では各章の冒頭に置かれるエピグラフが、イルーランが書いた「アラキスについての記録の抜粋」になっていて、全体を通じて「顔は見せないものの存在感を示す」形になっています。
ヴィルヌーヴ版ではPART2からの登場になりましたが、PART2では原作よりもむしろ目立つ描写になっています。
リンチ版では、冒頭こそイルーラン姫の語りで始まるものの、逆に出番はそれだけだったので。ほとんど存在感はない、モブのような扱いになっていましたね。
イルーランが使っている記録装置はシガワイヤと呼ばれるテープを使用していて、これはサーダーカーの故郷であるサルサ・サカンダスで産出される植物を原料としています。
シガワイヤは他に、PART1でポールがアラキスについて学ぶのに使っていた立体映像装置などにも使われています。
シャッダム4世
第81代パーディシャー皇帝(Padishah Emperor。 大王皇帝とも)であるシャッダム4世(クリストファー・ウォーケン)。
皇帝が憂いに満ちた表情をしているのは、イルーラン曰く「息子同然のレトを見捨てた」から。
シャッダムはレトと親しく、友人と言ってもいい間柄でした。「もう少し年齢が近ければ、イルーランにレトとの結婚を勧めた」ほどでしたが、レトの人気に嫉妬して、彼を陥れることになります。
皇帝が遊んでいるのは、白と黒のピラミッド型のコマを使うゲーム、ケオプス。
チェオプスとも、ピラミッド・チェスとも呼ばれます。
原作の註によれば「向こう側の端に自分のクイーンを置き、相手のキングに王手をかける二つの目的を持った九段のチェス」。
原作ではフェイド・ラウサがこのゲームをやっていたという発言があります。
日蝕の戦い
ジェシカの胎内の妹(エイリア)に、「君の誕生までに世を直す自信がない」と伝えるポール。
まだ人の胎児らしい姿にもなっていない段階ですが、ポールはジェシカより先に妹の誕生を察知しています。
アラキスでの導入部は、PART1の直後から始まります。
つまり、ポールとジェシカがスティルガー率いるフレメンの一団に合流し、”タハッディの挑戦”を挑んだジャミスをポールが退けた直後…ということになります。
この冒頭のアクションシークエンスは、デューンという映画の魅力を象徴するものになっていますね。
CGでなくロケで撮影された、雄大な砂漠の圧倒的なリアリティ。
それでいて同時に、2つの月による異様な日蝕、空中の母船からゆっくり降下するハルコンネン兵士、重力制御で高い崖の上に飛び上がるハルコンネン兵士など、SF的イマジネーションに満ちた独創的な表現。
映画ならではの「スケールの大きな異世界感」に実に興奮させられる、見事な導入部だと感じます。
この戦闘シーンはすべてロケ撮影ですが、ヨルダンとアラブ首長国連邦の12もの異なる地域で撮影され、それを編集で繋いだものになっています。
フレメンたちの会話はチャコブサ語です。
アラビア語を元にハーバードが考案した設定をヴィルヌーヴは体系化し、意味の通じるチャコブサ語の文法を作り上げています。
ジェシカとポールは、ベネ・ゲセリットのハンドサインでも会話を交わすことができます。
ハルコンネンの兵士たちは、大きなヘルメットと全身を覆う黒いスーツを着ています。
灼熱の砂漠での活動を可能にする、フレメンの保水スーツ(スティルスーツ)に当たるものでしょうが、潜水服のように無骨なデザインで、フレメンのものに比べると洗練されていないことがわかります。
腰の部分には重力制御装置がついています。「デューン」の世界は重力制御が実現している世界です。
ハルコンネン兵士たちはそれで上空の母船から降下し、またワームの襲来を逃れて崖の上に飛び上がります。
砂にリズムを伝えるサンパーでワームを呼び、ハルコンネンを崖の上に誘導して、そこで狙い撃ちにするのがフレメンの作戦でした。
重武装を持つハルコンネン軍ですが、砂漠での戦いにおいてはフレメンに敵わない。
新参者であるポールとジェシカは作戦からは除外されていますが、ポールは降下してきたハルコンネン兵士を一人倒し、ジェシカは一人を石で殴り殺して、フレメンに一目置かれることになります。
水を取る
戦いが終わると、フレメンたちは敵の死体から水を搾り取り、持ち帰ります。
水が何よりも貴重なものであるフレメンの世界では、敵を倒すことは「その者の水を取る」ことと同義です。
まだ生きているハルコンネン兵士も、容赦なく水を取られていますね。
スティルガーは「化学物質だらけの汚い水」と評しています。
ハルコンネンの故郷であるジエディ・プライムは全土が工業化されスモッグに覆われた世界なので、その住人の体も汚染されているようです。
ハルコンネン兵士たちの死体を積み上げたら、フレメンはサンパーを作動させ、サンドワームを呼びます。
倒して水を取った敵の死体は、ワームに捧げる。そこまでがフレメンの戦闘の流儀であるようです。
ワームがやってくると砂が液状化し、兵士たちの死体はワームの口の中に流れ込んでいくことになります。
ワームは震動によって周囲の砂を液状化して、その中を泳ぐように進むことができます。この様子は、PART1でリエト・カインズが砂に呑まれるシーンでも描かれていました。
アラキーン
北アラキスの首都であるアラキーン。かつてアトレイデスの居城があった都市は、現在はラッバーンが治めています。
戦闘によって大きく破壊されたアラキーンの街は、破壊の痕跡を覆い隠すようにハルコンネン風の建物が建てられ、歪な風景に変わっています。
ちなみに、アトレイデスへの移封前、ハルコンネン統治時代は、ハルコンネンはアラキーンではなくカルタゴという街に本拠地をおいていました。
その時代には、アラキーンには皇帝の監視者であるフェンリング伯爵が暮らしていました。後で登場するマーゴット・フェンリングはフェンリング伯爵の妻です。
タブールのシエチ
スティルガーの一行は、タブールのシエチにやって来ます。
シエチは、岩窟の中に作られたフレメンの隠れ家。
その内部は、表からではわからないいくつもの空間に分かれています。
フレメンの個人や家族が暮らす部屋はヤリと呼ばれます。
シエチ内のシーンは、ブダペストに大規模なセットが組まれ、そこで撮影されています。
リサーン・アル=ガイブとマフディー
よそ者であるポールは「ジャミス殺し」と罵られ、ベネ・ゲセリットであるジェシカは「魔女」と呼ばれます。
そのようにポールたちを憎む人々の一方で、ポールを「リサーン・アル=ガイブ」「マフディー」と呼んで、崇拝する人々も存在しています。
リサーン・アル=ガイブとは「外からの声」を意味し、フレメンの間に語り継がれる異邦人の救世主のことです。
マフディーも救世主を意味します。これはそのまま、アラビア語で救世主を意味する言葉です。
フレメンの中にも温度差があって、北地域出身のフレメンはあまり伝承を信じておらず、迷信とみなしている。
南地域出身のフレメンは強く伝承を信じていて、本気でリサーン・アル=ガイブの到来を待ち望んでいる…という南北の違いがあります。
この要素は、ヴィルヌーヴが付け加えたものです。
スティルガーは南出身なので、救世主伝説に熱心です。彼は率先してポールとジェシカに救世主への期待を抱いています。
スティルガーがそうであるおかげで、ポールとジェシカは簡単に殺されてしまうことなく、フレメンに受け入れられることができたとも言えます。
PART1でポールに挑戦したジャミスは「信じない方」の人物でした。彼はおそらく、北出身だったでしょう。
タブールは北アラキスなので、指導者層も簡単には伝説を信じない人が多くなっています。
スティルガーは「しるしを見た」と言い張り、仲間や年長者たちに「またか」と呆れられるという構図です。
ダーク・シング
ポールはジェシカに、フレメンがポールを救世主と見るのは「ベネ・ゲセリットの宣伝効果だ」と言います。
ベネ・ゲセリットはその宗教的大目的として、遺伝子交配によって超人クウィサッツ・ハデラックを生み出すという教義を持っています。
クウィサッツ・ハデラックが生まれた時に人々に受け入れられるように、ベネ・ゲセリットは何百年もの年月をかけて、宇宙の様々な民族の間に「異邦人の救世主伝説」を植え付けてきました。
そのための「迷信の伝播」を使命とするのが、ベネ・ゲセリットの保護伝道団(ミッショナリア・プロテクティヴァ)です。
それによって植え付けられる「伝染性のある迷信」を暗いもの(ダーク・シング)と呼びます。
スティルガーはリサーン・アル=ガイブの伝説に熱狂し、ポールが救世主であるという期待を持っているのですが、それもまたベネ・ゲセリットの陰謀の一部であるということになります。
民族が自分たちだけで自立するのではなく、外部から送り込まれた者によって統治されることを民族自身が熱狂的に受け入れるように、種を蒔いている。
それはもちろん、ベネ・ゲセリットが必ず権力を掌握するための深謀遠慮である訳です。
ポールはそんなベネ・ゲセリットの陰謀に反発を感じていますが、一方で彼らが安全にフレメンに受け入れられているのは、スティルガーがダーク・シングを信じていたからに他ならない。
ポールがハルコンネンに対抗し父の復讐を遂げるためにもフレメンの協力は不可欠であり、そのためにはベネ・ゲセリットの陰謀に乗って、自分自身が救世主となることを受け入れざるを得ない。
そのジレンマが、ポールを苦しめていくことになります。
スパイスの混じった食事
フレメンたちの食べる食事にはスパイスが混じっていて、長年に渡ってスパイスを摂取することで、フレメンの目は青く染まります。これはイバードの目と呼ばれます。
ポールはまた、スパイスの影響によって、未来予知のビジョンを見るようになります。
父レトの髑髏を崇める人々のビジョンを、ポールは見ます。
これは原作に、ポールがアラキーンの攻撃跡から父の遺体を見つけ、フレメンの岩窟に持ち帰って祀るという経緯が(ポールの未来予知のビジョンとして)描かれています。
「レトの髑髏への崇拝」は、銀河を混乱に巻き込む大規模な聖戦(ジハド)への不安の象徴となっています。
魂の貯水池
ジャミスの遺体はシエチに持ち帰られ、死者の間で儀式が行われて、水が取られることになります。
水は正確に測られ、専用の容器に入れられます。水を測るウォーター・カウンターはネックレスのような形状をしています。
ジャミスの水は、シエチの最深部にある「魂の貯水池」に返されます。
乾き切ったアラキスの地下に、フレメンは3800万デカリットルもの水を蓄えています。これは地上の隠された導風器を使って、空気中の僅かな水分を集めることなどによって蓄えられたもので、フレメンはたとえ死にかけていてもこの水を飲むことはない。
やがてリサーン・アル=ガイブがアラキスを緑の楽園に変える日に備えて、フレメンは水を守り続けています。
このような貯水池が各地のシエチにあって、その数は1000箇所にも及びます。
大勢の魂を感じたジェシカは涙を流します。
スティルガーはジェシカに「死にかけた我々の教母に代わって教母になる」ことを求めます。
命の水
命の水を飲む儀式によって、ジェシカはタブールの老教母ラマロから歴代の教母の記憶を引き継ぎ、ベネ・ゲセリットの教母(Reverend Mother)になります。
皇帝の読真師であるガイウス・ヘレン・モヒアムが教母です。ジェシカはモヒアムの命令には反抗できない立場でしたが、教母になることで同格に並び立つことになります。
それは「何世紀にも渡る痛みや苦しみ」を受け継ぐことで、「男には耐えられない」とされています。
教母の神殿の前で待つポールやチャニたち。
チャニの友人であるシシャカリ(スヘイラ・ヤクー)は、予言を信じていません。「南の言い伝えだよ」と言う彼女は、外からもたらされた迷信を不快に感じており、フレメンのことはフレメンが決めるべきと考えています。
チャニとシシャカリは、北出身で迷信を信じないフレメンとして、スティルガーと対照的に描かれています。
シシャカリは原作にも登場していますが、男性のキャラクターです。リエト・カインズと同様、映画で女性に変えられたキャラクターになっています。チャニの友人という設定も映画だけです。
渦巻の仮面をつけた神官が、ジェシカに命の水を飲ませます。
命の水は青い液体。これは、サンドワームの幼体が水で溺れ死ぬ時に出す液体です。シシャカリは「砂虫の小便」と言っていましたが。
命の水に晒され、ジェシカの胎内で胎児が目を開きます。
これによって、ポールの妹エイリアは産まれる前から「すべてを知る」存在になります。
胎児は「リサーン・アル=ガイブが道を示す」とジェシカに語りかけます。
ジェシカが教母になり、これによってポールがリサーン・アル=ガイブである「しるし」は更に強化されたことになります。伝説ではリサーン・アル=ガイブは教母の息子なので。
それに「奴らが書いた予言」と反発するシシャカリやチャニたち。
これはフレメンを分断しかねない火種ですが、ポール自身が「自分はリサーン・アル=ガイブではない」と否定します。
しかし、その謙虚さによってスティルガーはますます確信を深めることになります。
ネタバレ解説2に続きます!