これは「デューン 砂の惑星 PART2」に関して、用語や背景などの解説記事です。最後までネタバレしています。
ガーニイ・ハレックの帰還
アトレイデス家の武術指南だったガーニイ・ハレック(ジョシュ・ブローリン)は、ハルコンネン侵攻後脱出し、密輸業者の中に身を潜めていました。いつかラッバーンに復讐することを心に誓って。
久しぶりにガーニイが登場するシーンでは、彼がバリセットを弾きながら歌うところが見られます。
バリセットは九弦の楽器で、ガーニイはその名手であり、優れた歌い手です。原作にはガーニイが歌うシーンが何度か出てくるし、リンチ版でも(パトリック・スチュワートが)歌っているのですが、今回のヴィルヌーヴ版ではほとんど歌わない。歌うシーンはここだけですね。(それも一瞬だけ、かなりヤケクソみたいな歌です)
もしかして、ジョシュ・ブローリンが抵抗したんでしょうか。
密輸業者がスパイスを採掘するためのクロウラーとキャリオールは旧式で、無骨なスタイルのものです。
フレメンは襲撃に、板が飛んできて機体に張り付き、爆発するタイプの機雷を使います。
ポールがガーニイに気づくのですが、その時のセリフは「足音でわかった。おいぼれ」でした。
このセリフはPART1の冒頭、ガーニイがポールの部屋に入ってきて訓練を強いるシーンの繰り返しになっています。
PART1の生き残りのうち、PART2に登場したのはガーニイ・ハレックだけだったのですが、原作ではもう一人、メンタートのスフィル・ハワトも生き延びています。
原作では、スフィル・ハワトは毒物を打たれ、ハルコンネンが与える解毒剤がなくては死んでしまう体にされた上で、ハルコンネンのメンタートにされてしまいます。
映画では登場しなかったのですが、スフィル・ハワトを演じたスティーヴン・マッキンリー・ヘンダーソンはPART2にも出演になっているので、登場シーンは撮影された上でカットされたようです。完全版があれば、PART2でスフィル・ハワトが見られるかもしれません。
アトレイデス家の核弾頭
ポールが南へ行ってより多くのフレメンを組織することに抵抗していると知ったガーニイは、レト公爵が残した核弾頭の隠し場所を示します。
「デューン」の世界では、核兵器はかつて思考機械との大戦争で使用されて壊滅的な被害をもたらしたことから、タブーとして忌避されています。
しかし明確に禁止されている訳ではなく、ほとんどの大領家はそれぞれ、いざという時に備えて核兵器を備蓄しています。
アトレイデス家も、核弾頭92発を秘密裏に所持していました。
この戦力がハルコンネンに見つからずに済んだのは、ポールさえも存在を知らないという徹底した秘密主義のおかげでしょう。
この戦力によってポールは「スパイスの畑を消し去る」という切り札を持つことになります。
「真に支配する者はそれを破壊できる者」という格言が、ここに成立します。
産砂の神殿
サンドワームの幼虫を飼育して、命の水を生み出すフレメンの神殿。
サンドワームは非常に長命で、仲間に殺されるか、彼らにとっての毒である水で溺れない限り死なない。
しかし、死ぬ時には命の水(Water of Life)と呼ばれる毒物を分泌します。これは「啓発する毒」と呼ばれ、教母の体内で変化し、無毒化されます。
産砂の神殿には、ワームの幼虫を飼う砂のプールと、それを溺死させる水のプールが備えられています。
フレメンの産砂管理者(アリソン・ハルステッド)はワームの幼虫を捕まえて溺死させ、命の水を取ります。
ワームにとって水が毒物であるということは、アラキスが緑化された場合はワームは生き延びられないことを意味します。
ということは、スパイスも得られなくなり、スパイスによる恒星間移動を中心にした現在の支配システムは崩壊することになります。
だから、アラキスを緑の楽園にするというフレメンの夢は、現在の宇宙の支配システムに反抗しなければ実現できない訳です。
フェイド=ラウサの攻勢
フェイド=ラウサはラッバーンを失脚させ、フレメンのシエチに総攻撃をかけます。
タブールも空襲を受けて壊滅。魂の貯水池も瓦礫に潰され、フレメンたちは脱出します。
南で軍事会議が開催されることが決まり、スティルガーはポールに南へ行くことを求めます。
それでも躊躇していたポールですが、ジャミスの霊の「過去を見ずして未来は見えない」「いい猟師は狩りの前に丘に登る。遠くを見るために」という囁きを聞き、チャニにも「私を失ったりしない」と説得されて、遂に南行きを決心します。
「鳥ヶ洞」と呼ばれる、燕の巣のあるシエチが侵略され、最後まで抵抗したシシャカリが捕えられます。
ナイフ1本で9人を殺したシシャカリですが、フェイド=ラウサに火炎放射器で処刑されることになります。
ポールの覚醒
南へ向かうサンドライダーの列から外れて、ポールは産砂の神殿へ。
「飲めば命を落とす」という警告を聞かず、命の水を飲んだポールは昏睡状態になります。
映画ではポールの昏睡は一時ですが、原作では3週間に及んでいます。
ポールは砂丘に海が打ち寄せる光景を見、大人の女性に成長した妹エイリア(もしくはアリア)を見ます。
ノンクレジットでエイリアを演じているのはアニャ・テイラー=ジョイです。
命の水は教母の体内で無毒化され、歴代の教母の記憶を引き継がせることになります。そのことから、命の水を飲むことができるのは女性だけとされています。
これを克服することで、ポールがクウィサッツ・ハデラックであることは証明されたと言えます。過去と未来を見通す力を得たのです。
チャニが涙と命の水を混ぜて与えることで、ポールは目覚めます。
「砂漠の春の涙で救世主は目覚める」というのも、予言に含まれていたものです。
ただし、チャニのシハヤ(砂漠の春)という名前はその予言から取られた名前なので、そこまで不思議ではないとの見方もできる…とも言えます。
「選び得る未来の可能性すべて」を見たポールは、勝つことができる「狭い道」を見出します。
また過去を見通したポールは、ジェシカがハルコンネン男爵の娘であることを知ります。それはジェシカ自身も命の水を飲むまで知らなかったことでした。
ポールは、自身も宿敵ハルコンネンの血を引いていることを知ります。
大洞窟の軍事会議
アラキスは北が砂漠の多い地帯、南が岩山の多い地帯とされています。
そんな岩山地帯の大洞窟のシエチの中で、フレメンの各部族が集結しての軍事会議が開かれます。
南地域のフレメンの多くは原理主義者で、リサーン・アル=ガイブの伝説を本気で信じています。
チャニは、皆が予言を真に受けて行動を決めようとすることに危機感を抱いていますが、スティルガーは聞く耳を持ちません。
フレメンのルールでは、会議で発言できるのは部族の指導者だけ。
タブールの指導者はスティルガーであって、ポールではないので、しきたりに従うならポールは発言を許されず、どうしても発言したいならスティルガーと決闘して勝つ必要があります。
そして、PART1のジャミスとの戦いで示されていたように、フレメンの決闘は必ずどちらかが死ぬことになります。つまり、ポールが指導者になるためには、スティルガーが死ななければならない。
このしきたりはしかし、フレメンが発展する障害になっていたと言えるでしょうね。組織の中に強力な者が複数いることができず、その都度一人ずつしか許されない訳だから。
ポールは自身がリサーン・アル=ガイブであると言い切り、「道は僕が示す」と宣言することで、このしきたりを乗り越えてしまいます。
フレメンの一人の過去を言い当て、祖母について語るというエセ予言者まがいのことまでしてみせて、ポールは預言者としての信用を得て、全フレメンをまとめることに成功します。
ここでポールはアラキスの昔の呼び名が「デューン」であると言ってますね。思わぬタイトル回収。
皆に「緑の楽園」を約束し、ポールは再び指輪をはめて、自身が「アラキス公爵」であることを宣言します。
これは、彼がずっと恐れていた「聖戦の未来」をもはや恐れない。数十億人が死ぬかもしれない未来さえも受け入れて進む運命を受け入れたことを意味します。
メッセージ・シリンダー
ポールは皇帝にメッセージを送り、自分が生きていることを知らせます。
ポールが生きているということは、皇帝がアトレイデス排除のためにハルコンネンにサーダーカーを貸したことが暴露され得るということで、皇帝にとってはアキレス腱と言える弱みになります。
もはや捨ておけず、皇帝はアラキスへと向かわされることになります。
皇帝がメッセージ・シリンダーを受け取るシーンはロケ撮影で、ブダペストのケレペシ墓地という場所で撮影されています。背後に見える意匠はソ連時代の慰霊碑だそうです。
モヒアムは「90世代アトレイデスを監視してきた。次第に傲慢になり危険だった。だから滅ぼした」と語ります。
モヒアムは皇帝を見切り、「家系が生き延びるためには我々に従わねばならない」とイルーランに告げます。
この時点でモヒアムが考えていたのは、イルーランにポールの子を産ませ、マーゴットが産んだフェイド=ラウサの子とつがわせて、血統を維持するということだったでしょうか。いずれにせよ、ベネ・ゲセリットが支配する立場にあり続けるという前提の話ですが。
皇帝の来訪
皇帝の巨大な球形の宇宙船がアラキーンに降下します。
皇帝の船は空中に浮いて、何層もの金属プレートを重ねて作られた巨大な天幕を支えます。これはインペリアル・テントと呼ばれ、皇帝のために移動先に豪華な居城を高速で築くシステムです。
インペリアル・テントの中で、ハルコンネン男爵が皇帝に謁見。
「ムアディブは狂人に過ぎず、死んだ」と考えていた男爵は皇帝に見限られ、肥満体を宙に浮かせていたサスペンダーを奪われることになります。
アラキーン攻略戦
アラキーンは、シールド・ウォールと呼ばれる巨大な山脈によって、砂嵐やワームから守られています。
アトレイデスの核ミサイルが発射され、このシールド・ウォールが破壊されます。
大領家の協約は戦争における核の使用を禁じていますが、敵に対してではなく、自然物に対して使っただけなので、協約には違反しない…というのがポールの理屈です。
フレメンを乗せた複数のワームが突入し、サーダーカーを薙ぎ倒す。
フレメンはサーダーカーを超える戦闘力を誇ります。
「デューン」の世界では兵士の強さは惑星の環境の過酷さに比例しています。厳しい環境のサルサ・セカンダスで鍛えられたサーダーカーに対抗できるのは、より厳しい環境であるアラキスのフレメンだけなのです。
リンチ版では、フレメンたちが「声で攻撃する新兵器」を持っていて、皇帝側のレーザー砲と銃撃戦を繰り広げる…というクラマックスになっていました。
本作では、そういうのはないですね。ラストバトル自体はあっさりと、冗長に引き延ばすことなく決着します。その辺りは原作通りです。
男爵の最後
ワーム軍団はインペリアル・テントを破壊し、ポールは皇帝の間へ。
ポールは男爵に「我が祖父」と呼びかけ、「獣のように死ね」の言葉とともに、ナイフでハルコンネン男爵を刺し殺します。
原作では、男爵を殺すのは幼女であるエイリアの役割です。
ハルコンネンの捕虜になったエイリアは皇帝を前にしてもびくともせず、隠し持っていたゴム・ジャバールを男爵の首に刺して、鮮やかに引導を渡します。ベネ・ゲセリット式の暗殺ですね。
リンチ版でも、この展開が描かれています。
今回の映画では年月が経過せず、ジェシカのお腹の子は産まれないままなので、この展開はまるまるポールに任されています。
幼女エイリアの活躍は大きな見せ場なので、それがないのはちょっと残念ではあります。
PART3でアニャ・テイラー=ジョイのエイリアが活躍すると思われるのでそのための改変…かな。
あるいは、現在のコード的に「子どもが殺人を犯す」シーンを避けたのかもしれません。
ポールの勝利
ラッバーンは逃げ出そうとしますが、ガーニイ・ハレックが討ち取り、復讐を果たします。
皇帝たちは捕虜になり、サーダーカーを全員抹殺。男爵は砂漠に捨てられる。ポールは次々と、非情な命令を下していきます。
大領家の艦隊が到来し、ポールは捕虜を集めて、攻撃があればスパイス採掘場を核で破壊することを宣言します。
そして、イルーランを妻として娶り、自らが皇帝の地位につくことを。
これは、ポールがジェシカと砂漠へ逃げ延びた時点で既に思い描いていた「勝つための策」ですね。その時点では夢物語でしたが、実現してしまった。
皇帝はレトについて、「心で民を統治しようとした」「弱い男だった」と粛清の理由を述べます。
人心を掌握し、人気の高いレトに、皇帝は嫉妬していた。いずれ皇帝の座が脅かされることも予期していたのかもしれません。
決闘
皇帝の代理人であるフェイド=ラウサと、ポールとの間で決闘が行われます。
「そのナイフが砕けんことを」は、ポールとジャミスの決闘で交わされた言葉ですね。ポールはフレメンのしきたりに則って決闘に臨んでいる。
PART1のラストに置かれた決闘と呼応する形で、PART2も決闘が締めくくることになります。
PART1でポールは「ナイフに刺される予知夢」を見ていて、ジャミスに勝つことでそれを乗り越えていたのですが、ここに来て再び予知夢がリンクしています。この構成も上手いですね。
2つの決闘を軸として、PART1とPART2が対になり、壮大な物語が締め括られる。
正室イルーランと妾妃チャニ
フェイド=ラウサは倒れ、イルーランは父の助命と引き換えに結婚を受け入れて、ポールは銀河皇帝の地位につきます。
すべてのフレメンが跪き、立っているのはイルーランとチャニだけ。チャニは黙ってその場を立ち去ります。
映画でははっきりと言明されていませんが、イルーランとの婚姻関係は形だけのことで、イルーランがポールの後継ぎを産むことは許されず、チャニの血筋が世継ぎとなっていきます。
ポールの母ジェシカもレト公爵の正妻ではなく妾妃だったので、チャニはむしろ正しくふさわしい立場になったのだと言える訳です。
原作は妾妃である自分たちが勝つことを宣言するジェシカの言葉で終わります。
映画は、一人で砂漠を見つめるチャニの姿で終わっていますね。
不利な立場に置かれることを余儀なくされた女性たちへの視点は、原作にもヴィルヌーヴ版にも共通するものになっています。
聖戦の始まり
皇帝は退位しましたが、大領家連合は皇位継承を認めず、アラキス攻撃の構えを見せます。
それに対して、ポールは抗戦を宣言。新たな戦いの幕が開きます。
PART2はそのように、戦争が拡大して続いていくことを暗示して終わります。
おとぎ話のハッピーエンドのように「誰からも愛される王様になり、世界は平和になりました」とはならず、ポールはフレメンの軍事力によって権力を確立していくことになります。
これは原作通りの展開ではありますが、ヴィルヌーヴは、戦争が連鎖して泥沼化していく現実の状況を反映させたかったのではないかと思えます。
そしてPART3へ…?
「デューン 砂の惑星」の物語は原作でもここで終わりなのですが、原作はこの後シリーズ化されて続いていきます。
ハーバートのデューンシリーズは以下のようになっています。
砂の惑星(Dune)1965年
砂漠の救世主(Dune Messiah)1969年
砂丘の子供たち(Children of Dune)1976年
砂漠の神皇帝(God Emperor of Dune)1981年
砂漠の異端者(Heretics of Dune)1984年
砂丘の大聖堂(Chapterhouse :Dune)1985年
全6作。大まかに、それぞれ2作ずつで連作になっています。
ポールを主人公に描かれるのが1作目と2作目。
ポールの子供たちが中心になるのが3作目と4作目。
新たな砂の惑星を舞台に展開されるのが5作目と6作目。
ヴィルヌーヴは「砂漠の救世主」を元にしたPART3を制作して、3部作としてデューンを完結させることを考えているようです。
PART2が興行的にも成功したようなので、PART3が実現する可能性は高いんじゃないでしょうか。
PART3ではアニャ・テイラー=ジョイが成長したエイリアを演じ、ポール皇帝とチャニに対して、イルーランを中心とする陰謀が描かれることでしょう。楽しみです!