Jodorowsky's Dune(2013 アメリカ)

監督:フランク・パヴィッチ

製作:フランク・パヴィッチ、スティーヴン・スカルラータ

製作総指揮:ドナルド・ローゼンフェルド

撮影:デヴィッド・カヴァーロ

出演:アレハンドロ・ホドロフスキー、ミシェル・セドゥー、H・R・ギーガー、クリス・フォス、ブロンティス・ホドロフスキー、クリスチャン・ヴァンデ、アマンダ・リア

①強烈なキャラクターの面白さ

ヴィルヌーヴのデューンリンチのデューンについていろいろと書いたので、せっかくなのでホドロフスキーのデューンについても書いておこうと思います。

と言っても、これは完成しなかったデューン

撮影開始すらされてない、構想だけでポシャったデューンです。

 

「エル・トポ」(1969)「ホーリー・マウンテン」(1973)で知られるカルト映画作家のアレハンドロ・ホドロフスキーが、1975年に構想しながらも実現しなかった「デューン」映画化。

本作はホドロフスキー本人や関係者へのインタビュー、当時の資料やシナリオ、絵コンテなどを駆使して、幻の「デューン」の姿に迫るドキュメンタリーです。

 

これが、面白い。存在しない映画について語るだけなのに、なぜかすこぶる面白いというね。

ひとえに、ホドロフスキーという人の強烈なキャラクター、そして誇大妄想的な映画の構想ならではと思うのですが。

 

たぶん、「デューン」が本当に完成してるよりも、ドキュメンタリーの方が面白いと言う。そんな稀有な作品になってます。

 

②原作を逸脱した変態トリップムービー

映画化の目的を問われて、「LSDと同じ幻覚をトリップせずに味わえるようにしたい」と堂々答えちゃうホドロフスキー。

予言書を作って世界の人々の意識を根本から変えたい

自我と知性を解き放ちたかった」

 

何というか、そもそも映画に向き合う考え方が極めて独特。

単なる娯楽作品を作ろうとは、始めから思っていない。

映画を通して、人々の意識を変えたいと本気で思ってる。お金とか評価とかはまるっきり二の次。

 

一緒に映画を作る仲間を「魂の戦士」と呼ぶホドロフスキーのこの姿勢によって、本作は単なる映画作りのドキュメンタリーじゃなくなっていきます。

もっと大それた、壮大な企て。

宗教的イベントとか、大掛かりなアートとか、革命にも似た様相を呈してくるんですよね。

 

この辺のスタンスからも、劇中で断片的に紹介されるシナリオからも、ホドロフスキーの「デューン」は相当に彼オリジナルのアレンジがなされたシロモノで、おそらく原作を忠実に映画化したものではない…ということが透けて見えます。

 

断片的に見えるだけでもかなり観念的・前衛的で。

ホドロフスキーは「私はハーバートの原作をレイプした」とか言ってて。

たぶん、完成していても原作「デューン」のファンが納得するものにはならなかった。

「エル・トポ」「ホーリー・マウンテン」に近い、アバンギャルドな変態トリップ作品になっていただろうと思われます。

 

ただ、一方で…原作「デューン」はそもそも救世主による全宇宙規模の革命を描く壮大な話であり、向精神薬であるスパイスで精神の扉を開いて超人になる、極めてドラッグカルチャー的な作品でもあります。

そのことを思うと、むしろホドロフスキーのアプローチこそが原作の真髄に近いのかも…という気も、してくるんですよね。

③目が効きすぎるスタッフの人選

バイタリティ溢れるホドロフスキーによって、「魂の戦士たち」はどんどん集められていきます。

宇宙船などのデザインに、スペースオペラ小説のカバー絵で知られた画家のクリス・フォス

脚本を絵コンテに起こすのは、フランスのバンドデシネ作家「メビウス」ことジャン・ジロー

「ダーク・スター」で脚本と出演をこなしたダン・オバノンはなぜか特殊効果で。(こいつは魂の戦士じゃない、とされたダグラス・トランブルの代わり)

ハルコンネンの城などのデザインに、スイスの異端の画家H・R・ギーガー

 

音楽は、善のアトレイデス側にプログレの大物ピンク・フロイド

悪のハルコンネン側にフランスの神秘主義的プログレバンド・マグマ

 

ホドロフスキーはぶっ飛んだ人物だけど、人を見る目は確かなんですよね。今の目で見ると、本当にすごいスタッフたち

チラチラと見えるデザイン画や絵コンテは本当にカッコよくて。とにかく、「なんかすごそう、面白そう」と思わせる力がやたらと高いのです。

 

ただ、あまり過剰な評価は違うと思っていて。

クリス・フォスの派手な宇宙船のデザインは今見ると新鮮だけどやっぱり昔風のスペースオペラの世界であって。

この感じで映像化されていたらおそらく、近いのは「フラッシュ・ゴードン」(1980)のチープでキッチュな世界だったんじゃないかな。それはそれで、ちょっと見てみたくはあるけれど。

④ぶっ飛んだ発想のキャストたち

そしてキャスト。次々出てくる意表をつく名前を見てるだけで非常に面白いんだけど、本気で実現させる気があったか?という気もしちゃいますね。

 

レト公爵にデヴィッド・キャラダイン。(「キル・ビル」のビル。ヴィルヌーヴ版ではオスカー・アイザック。)

フェイド・ラウサにミック・ジャガー。(言わずと知れたローリング・ストーンズ。ヴィルヌーヴ版には未登場。リンチ版ではスティング。)

ハルコンネン男爵にオーソン・ウェルズ。(太ってりゃいいのか…ヴィルヌーヴ版ではステラン・スカルスガルド。)

極め付けは、皇帝にサルバドール・ダリ

 

このキャストを集めていく過程もいちいち面白くて、デヴィッド・キャラダインは俺のビタミンEをひと瓶飲んじまった!とか。

ミック・ジャガーはバカみたいに巨大なパーティーで、ウド・キアはアンディ・ウォーホルのアトリエで出会った、とか。

オーソン・ウェルズは専用のコックを付けると言ったら受けたとか。

ダリは史上最高額のギャラを要求したので、登場時間を10分にしたとか。愛人のアマンダ・リアをイルーラン姫にすることで味方につけたとか。

 

全部ホラじゃねえのか、って気もしますが、アマンダ・リアがまじめにインタビューに答えたりしてるので本当なんでしょうね。

なんか集めれば集めるほど、映画会社の人とかは不安になりそうなキャスティング。

 

これだけ豪華キャストを集めながらも、主役のポールは自分の息子であるブロンティスにやらせるというのも凄いですね。

ブロンティス・ホドロフスキーは「エル・トポ」で終始ちんちん丸出しだった少年。

ホドロフスキーは「リアリティのダンス」などの近作でも、ブロンティスはじめ家族総出で撮ってます。ぶっ飛んだ作風ながら、家族愛の人なんですよね、本当に。

⑤「デューン」の功績とホドロフスキーの終わらない夢

上映時間12時間とか、20時間とか言ったあげく、企画は流れてホドロフスキーのデューンは幻となります。

 

しかし、ここで集結した「魂の戦士たち」の一部は、超傑作SF映画「エイリアン」(1979)を生み出すことになります。

「エイリアン」で原案・脚本を手がけたダン・オバノンは、ホドロフスキーのデューンで集まった才能あるメンバーを再び招集しました。

エイリアンのデザインにH・R・ギーガー

宇宙服のデザインにメビウス

クリス・フォスもノストロモ号の初期デザインを手掛けましたが、これは使われなかったそうです。

 

「私のデューンはこの世界では夢だった」と語るホドロフスキー。「しかし、夢は世界を変える

ホドロフスキーは本作と同じ2013年、85歳で「リアリティのダンス」を作って健在ぶりを見せつけました。

2016年の「エンドレス・ポエトリー」と言い、近年の作品は「エル・トポ」とかにあったきっついトゲがなくなっていて、とても見やすいです。それでいて同時に、往年とまるで変わらない強烈なアバンギャルドさと素っ頓狂な変態性は健在なんだから、ビックリさせられます。

 

ホドロフスキーは今、92歳ですか…。「リアリティのダンス」「エンドレス・ポエトリー」に続く自伝映画3部作の3作目が楽しみです。